雨も全く降らないで、ずっと太陽が輝き続けている。
されど、心地よいほどに夏風が幻想郷を吹き抜けていく。
暖かいと暑いの曖昧なライン。
肌からじんわりと溢れ出る汗は、やがて大きな粒となり、肌を流れていく。
流れ流れて、地に落ち、シミを作り出した。
こんな暑い世界で、すこし頭がくらっとなりそうになる。
幻想郷の暑さは、なんというか逃げ場がない。
日陰に入ったって、空気までもが暑いから、吸い込む空気も暑い。
「あっつ~……」
緑の髪に手を乱暴にやると、熱を帯びた髪を掻いた。
日傘もささずに立ち尽くす彼女。
風に揺れる髪が大きく揺れ、彼女の見る世界を妨げる。
眼前には、向日葵畑。
モンシロチョウやミツバチがところどころに飛んでいる。
風にふらふらと揺れながらも、己の欲するものを求め飛んでいる。
なんというか、気持ち良さそうに見える彼らが、ちょっとばかり羨ましい。
そう思いながら、彼女はふと空を見上げる。
シアン色の空に、真っ白のもやもやが浮かんでいる。
ゆっくりと風に流れるそのもやもやは、おっとりといていて、柔らかそうだった。
あの雲の上で眠れたらと、彼女は何度思ったことだろうか。
しかし、今はこの暑さである。
必然的に、視線はその熱源へと向かう。
眩しい太陽を覆うように手のひらを太陽に。
広げた手のひらの隙間からこぼれる太陽の光が、彼女の目に入り込んでくる。
人間だろうと妖怪だろうと、当然のことながら太陽は眩しくて暑い。
そのままぎゅっと手を握った。
「まったく、暑いったらありゃしない」
そういう彼女は、それでも夏が好きだった。
暑いのは好きじゃない。
だけど、夏だけにしか味わえないこの雰囲気が好きなのだ。
暑くてやる気が起きない中で、ぼんやりと何かを考える。
それは何の意味もないことで、答えもないこと。
それでも、それが好きだったのだ。
さーっ……。
向日葵畑に、夏風が吹き抜けていく。
向日葵は風に揺れ、その黄金色の花びらを揺らす。
大雑把に咲き誇る向日葵達が、隣の向日葵とぶつかり、音を奏でる。
ざわざわとさざめくように。
太陽から目を離すと、畑の向かい側に立っている木の陰に座り込む。
ここからの眺めは、変わっていく。
それでもって、変わらない。
数時間ごとに花を大きくしたり小さくしたりする花がいる。
時間が経てば花も散るし、大きく実らせる。
また、季節ごとに花は変わる。
美しい花を咲かせ、散れば新しい花がそこに咲く。
それの繰り返し。
繰り返しだからこそ、毎年その日に見える景色は、変わらない。
風に乗ってくる花の香りも、変わる事はない。
だけどそれは花畑の話。
木陰から寝転がって見える空の景色はどうだろうか。
雲の大きさも形も、流れる速さも、いつもと違う。
見ていて楽しいというか、心地良さすら感じるようだった。
しかし、太陽だけはいつだって変わらずに輝いている。
まるで彼女の輝きを遮るように輝き続けて。
まるで彼女を見下すように。
高い高い空の上で、ずっと輝き続けている。
彼女は見下されるのが嫌いだった。
そして、誰かに力を借りるのも嫌いだった。
彼女自身の能力で、花ならいくらでも生やすことが出来るし、育てることもできる。
だけど、能力を使わないとなれば、日の光が必ず必要になってくる。
憎らしかった。
彼女ほど花を愛している者はいないだろう。
それゆえに憎かった。
花を愛することもない太陽が、彼女の愛する花に求められていることを。
そんな事を思っていたってどうにかなる問題じゃないのは解っている。
そう何度も言い聞かせて、生きてきた。
だけど、言い聞かせる度に湧き出る感情の波。
どうしようもない、何とも言い難い感情。
寝転がりながら、太陽に手をやる。
届きそうで、届かない。
届きそうなはずもないけど、なんだか届きそうな気持ちになる。
腕に力を込めて、太陽を捻り潰すように。
完全に拳が太陽を隠した。
「太陽なんていらないわ」
そっと彼女は呟いた。
長い間、太陽と花と生きた彼女が、呟く。
「私が花を咲かせる太陽になる。あなたは、邪魔よ」
そう言って、拳を太陽の位置からどける。
無くなっていればどれだけ幸せだろうと、彼女は何度も思った。
だけど、消えるはずはなかった。
ぎらぎらと照りつけるほど、太陽は輝いている。
思うだけ、無駄なことだった。
太陽が無くなってしまえば、花は彼女を欲してくれる。
だけど、それを花が望んでいるのか。
そう彼女は思う度に、太陽が憎かった。
いつか花が彼女を求める、そんな日が来るのを待ちわびながら、
「はぁ、憎たらしい」
一人小さく呟いた。
平和な向日葵畑に、一陣の風が吹き抜けていった。
されど、心地よいほどに夏風が幻想郷を吹き抜けていく。
暖かいと暑いの曖昧なライン。
肌からじんわりと溢れ出る汗は、やがて大きな粒となり、肌を流れていく。
流れ流れて、地に落ち、シミを作り出した。
こんな暑い世界で、すこし頭がくらっとなりそうになる。
幻想郷の暑さは、なんというか逃げ場がない。
日陰に入ったって、空気までもが暑いから、吸い込む空気も暑い。
「あっつ~……」
緑の髪に手を乱暴にやると、熱を帯びた髪を掻いた。
日傘もささずに立ち尽くす彼女。
風に揺れる髪が大きく揺れ、彼女の見る世界を妨げる。
眼前には、向日葵畑。
モンシロチョウやミツバチがところどころに飛んでいる。
風にふらふらと揺れながらも、己の欲するものを求め飛んでいる。
なんというか、気持ち良さそうに見える彼らが、ちょっとばかり羨ましい。
そう思いながら、彼女はふと空を見上げる。
シアン色の空に、真っ白のもやもやが浮かんでいる。
ゆっくりと風に流れるそのもやもやは、おっとりといていて、柔らかそうだった。
あの雲の上で眠れたらと、彼女は何度思ったことだろうか。
しかし、今はこの暑さである。
必然的に、視線はその熱源へと向かう。
眩しい太陽を覆うように手のひらを太陽に。
広げた手のひらの隙間からこぼれる太陽の光が、彼女の目に入り込んでくる。
人間だろうと妖怪だろうと、当然のことながら太陽は眩しくて暑い。
そのままぎゅっと手を握った。
「まったく、暑いったらありゃしない」
そういう彼女は、それでも夏が好きだった。
暑いのは好きじゃない。
だけど、夏だけにしか味わえないこの雰囲気が好きなのだ。
暑くてやる気が起きない中で、ぼんやりと何かを考える。
それは何の意味もないことで、答えもないこと。
それでも、それが好きだったのだ。
さーっ……。
向日葵畑に、夏風が吹き抜けていく。
向日葵は風に揺れ、その黄金色の花びらを揺らす。
大雑把に咲き誇る向日葵達が、隣の向日葵とぶつかり、音を奏でる。
ざわざわとさざめくように。
太陽から目を離すと、畑の向かい側に立っている木の陰に座り込む。
ここからの眺めは、変わっていく。
それでもって、変わらない。
数時間ごとに花を大きくしたり小さくしたりする花がいる。
時間が経てば花も散るし、大きく実らせる。
また、季節ごとに花は変わる。
美しい花を咲かせ、散れば新しい花がそこに咲く。
それの繰り返し。
繰り返しだからこそ、毎年その日に見える景色は、変わらない。
風に乗ってくる花の香りも、変わる事はない。
だけどそれは花畑の話。
木陰から寝転がって見える空の景色はどうだろうか。
雲の大きさも形も、流れる速さも、いつもと違う。
見ていて楽しいというか、心地良さすら感じるようだった。
しかし、太陽だけはいつだって変わらずに輝いている。
まるで彼女の輝きを遮るように輝き続けて。
まるで彼女を見下すように。
高い高い空の上で、ずっと輝き続けている。
彼女は見下されるのが嫌いだった。
そして、誰かに力を借りるのも嫌いだった。
彼女自身の能力で、花ならいくらでも生やすことが出来るし、育てることもできる。
だけど、能力を使わないとなれば、日の光が必ず必要になってくる。
憎らしかった。
彼女ほど花を愛している者はいないだろう。
それゆえに憎かった。
花を愛することもない太陽が、彼女の愛する花に求められていることを。
そんな事を思っていたってどうにかなる問題じゃないのは解っている。
そう何度も言い聞かせて、生きてきた。
だけど、言い聞かせる度に湧き出る感情の波。
どうしようもない、何とも言い難い感情。
寝転がりながら、太陽に手をやる。
届きそうで、届かない。
届きそうなはずもないけど、なんだか届きそうな気持ちになる。
腕に力を込めて、太陽を捻り潰すように。
完全に拳が太陽を隠した。
「太陽なんていらないわ」
そっと彼女は呟いた。
長い間、太陽と花と生きた彼女が、呟く。
「私が花を咲かせる太陽になる。あなたは、邪魔よ」
そう言って、拳を太陽の位置からどける。
無くなっていればどれだけ幸せだろうと、彼女は何度も思った。
だけど、消えるはずはなかった。
ぎらぎらと照りつけるほど、太陽は輝いている。
思うだけ、無駄なことだった。
太陽が無くなってしまえば、花は彼女を欲してくれる。
だけど、それを花が望んでいるのか。
そう彼女は思う度に、太陽が憎かった。
いつか花が彼女を求める、そんな日が来るのを待ちわびながら、
「はぁ、憎たらしい」
一人小さく呟いた。
平和な向日葵畑に、一陣の風が吹き抜けていった。
最強の妖怪の、それでも手の届かない存在への劣等感。私はそんなことを感じました。
太陽相手にも食ってかかるのが幽香クオリティ。
夏に、宿題に反抗してだらけた時にする妄想は、ものすごく心地いいものでした
「私が花を咲かせる太陽になる。あなたは、邪魔よ」っていう台詞が
ゆうかりんぽくて何となく好き