Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

無防備な寝姿

2010/08/11 16:34:19
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 紅を基調とした内装の部屋がある。
 紅の名を冠する館の一室だ。
 部屋の中央に置かれた天幕付きのベッドの上に人影がある。
 背中に黒の二翼を持つ鴉天狗の少女だ。


 彼女は今、ベッドの上で寝息を立てている。


 横向きに寝そべり。


 胎児のように丸くなって。





*



 

 壁に掛けられた時計の長い針と短い針が揃って上を指した頃。 


 無防備な姿を晒す鴉天狗を最初に見つけたのは銀髪のメイドだった。
 彼女は半ばまで開いた扉に手を添えて、口を半開きに呆然としている。
 彼女の視線の先には規則正しく肩と翼を上下させる鴉天狗がいる。
 メイドは頭痛を堪えるように片手を眉間に添えながら、視線を自らが開けた扉へと移す。
 そこには備え付けられたフックに掛けられたボードが一つ。
 ボードには『咲夜の部屋』と印字されており、小さく『私の』と幾つか書き込まれている。

「私の部屋よね……」

 銀髪のメイド、咲夜は確認するように呟いた。
 そして再度、鴉天狗が横たわるベッドに視線を戻した後、流れる動きで部屋に備えられた窓に視線をやる。
 窓は開け放たれていて、吹き込む風がカーテンを揺らしていた。
 その光景を見て、咲夜はため息と共に肩を落とし、

「換気の為に窓を開けておいたら、とんだ闖入者が潜り込んだものね」

 状況は理解した、と立ち止まっていた足を動かし始めた。
 向かう先は鴉天狗が身を沈めるベッド。
 咲夜はベッドの脇に立つと、身を丸めて眠る鴉天狗の顔を覗き込む。

「文さん……よね。まあ、他にこんなことをする鴉天狗の知り合いはいないけれど」

 知己の鴉天狗の名を呼んで口端を僅かにあげた。
 覗き見た文と言う名の鴉天狗の顔は、目元には微かに隈が浮かび、肌は汗ばみ、疲労の色を濃く見せていた。
 彼女の表情を見て、咲夜は逡巡。
 その後に体を起こすと、ふむ、と咳払いを一つ。

「まあ、私の仕事の邪魔にならないなら、別にいいわ」

 眠る彼女へと言葉を掛けて、会釈を一つ。
 その場でくるりと回り、彼女へと背を向けると扉の外へと歩んでいった。


 扉が閉まる乾いた音が響く。 


 部屋の中には寝息が一つ立っていた。





*





 壁に掛けられた時計の長い針がくるりと廻った頃。


 扉のノブがゆっくりと周り、扉が静かに開かれた。
 開かれた隙間から咲夜が顔を覗かせる。
 彼女の視線の先にはベッドがあり、いまだ寝息を立てる文がいる。

「…………」

 咲夜は噤んでいた口から、堪えきれずにため息を付いた後、扉の隙間から滑り込むように部屋へと入って扉を閉めた。
 そして努めて足音を立てないようにベッドの傍へ歩み寄る。
 ベッドの中央には先刻と変わらず、身を丸めて眠る文がいる。
 その表情は先刻よりは幾分か疲労の色が抜けて和らいでいるように見えた。
 規則正しい彼女の寝息を聞きながら、咲夜はため息を一つ。
 ベッド脇の床に膝をつき、ベッドの端で腕を組んで、その上にアゴを乗せた。

「何しに来たのかしら、この鴉天狗さんは……」

 彼女にも家があり、自分の寝所があるはずで。
 わざわざ他人の部屋に忍び込んで眠る必要はないだろう。
 この不可解な状況に咲夜は首を傾げた。
 部屋の主の疑問に対し、疑問の現況は変わらず寝息を立て続けている。
 その穏やかな寝顔に、咲夜は目を弓なりに細めて、

「赤ちゃんみたいに寝ちゃって。そんなにお昼寝……気持ちがいいのかしら」

 こぼす様に呟きながら、眠る文の頬を立てた人差し指でつつく。
 滑らかな肌は柔らかな弾力を返すが、彼女はそれ以外の反応を示さない。
 ふむ、と寂しげに漏らし、咲夜は手を引くと腕を組んで、それを枕にするように頭を添えた。

「お嬢様が起きられるまで、まだ時間があるし……ね」

 誰かに対しての言い訳を漏らしつつ、ゆっくりと瞼を伏せた。


 風が吹き込んで、カーテンを靡かせる。


 部屋の中では寝息が二つに増えていた。





*





 壁に掛けられた時計の長い針がくるりくるりと廻った頃。


 先に起き出したのは鴉天狗のほうだった。
 文は折りたたんでいた腕をベッドについて、腕を伸ばす動きで体を起こす。
 そして猫科の動きで背筋を伸ばすと、折り畳まれていた翼を大きく広げた。
 暫くして大きく息をつき、翼を折り畳んだところで、瞼を重そうに開いた。

「ん~~っ……。と、あややや……?」

 そして眼下で寝息を立てるメイドの姿に気づいた。
 彼女は自分の両腕を重ねて組んで枕とし、ベッドに突っ伏すようにして眠っている。
 何度か瞼を瞬かせてから、文は彼女の寝顔を覗き込む。

「なーんで咲夜さんが眠っているんでしょうね……こんな無防備に」

 はて、とアゴに手を添えて文は首を傾げる。
 開いていた窓から入り込み、柔らかそうで魅力的なベッドに飛び込んだ辺りからの記憶が文にはなかった。
 思案の後に、思案することが無意味という結論に達して、文は腰に下げた袋へと手を伸ばす。

「そんなことよりも、珍しいこの光景をカメラに収めない術は無いでしょう!」

 鼻息を荒げて、文はカメラを取り出すとファインダーを覗き込む。
 四角く縁取られた視界で、眠る咲夜の姿を捉え、寝顔を良く見る為に顔を寄せる。
 シャッターを切ろうとその時。
 ゆっくりと開かれた瞼、その下に隠れていた咲夜の瞳と視線が合った。

「「…………」」

 ファインダー越しに視線を交わす二人は無言のままの硬直する。
 最初、焦点が合わない瞳でぼんやりとカメラのレンズを見つめていた咲夜は、幾度か瞼を瞬かせつつ口を開く。

「……何をしてるのかしら?」

「あやややや、えっと……その問いかけに答える前に」

「……答える前に?」

「寝起きでまだ眠そうな表情の咲夜さんの顔だけでも写真に――って、時を止めましたね!?」

 発言の半ばで文の手に収まっていたはずのカメラは、何故か咲夜の手の内に収まっていた。
 かーえーしーてー、と手をバタつかせる文から逃れつつ、咲夜は肩を落とすと共にため息を付く。

「人の部屋に忍び込んで寝てたかと思えば、人の寝顔を写真に収めようなんて趣味が悪いんじゃない?」

「ちゃんと断ってから入りましたよ? 誰も居ませんでしたが。それにあんな可愛くて無防備な寝顔見せられたら、誰だって写真に収めようとしますよ!」
  
 身勝手な理屈を拳を振るって力説する文に対して、咲夜は力なく笑みを浮かべる。
 あのね、と前置きをしてから言う。

「私は別に写真に収めようなんて、思わなかったけど?」

 その言葉を耳にして、きょとんとした文は首を傾げて、

「何のこと……でしょうか?」

 不思議そうに呟かれた声に、はて? と咲夜は拍子抜けした様子で言葉を続け、

「何のことって……貴女のことだけど」

「私の事って……私、普通に寝てただけだと思うんですが」

「いや、ほら……こうして、丸くなって、横向きに……赤ちゃんみたいで可愛かったわよ?」

 と、咲夜は腕を畳んで胸に寄せて、文が眠っていた時にしていたような体勢を体現してみる。
 釈然としない様子の文も、咲夜の例に倣って体勢を作るが、尚釈然としない様子の口調で言う。

「あの、別に普通に寝てるだけじゃないですか」

「えっ、でも赤ちゃんみたい――」

「だってこの体勢以外で、どうやって寝るって言うんです?」

 切り返しに対して、咲夜が漏らした声は、予想だにしていなかった問いかけで遮られる。
 問いかけを理解できずに押し黙る咲夜に対して、文は背にある翼を撫でながら語りだす。

「いいですか咲夜さん。私達鴉天狗にこの立派な翼があります」

 立派かどうか、判断はつかなかったが、咲夜は頷きを返して、話の続きを促す。

「背にこんな立派な翼があるというのに、どうやって仰向けに寝るんですか?」

「あ……」

「仰向けに寝たりなんてした日には翼の付け根を傷めちゃいますよ」

 と、身に覚えがあるのか文は大事そうに翼を撫でながら言う。
 彼女の言に対し、でも、と話を区切ってから、

「うつ伏せに寝るとか……」

「布団掛けられなくて冬場寒いし、息苦しいじゃないですか」

 反論を頭から潰されて咲夜は肩を縮こまらせてしまう。
 それに気づかずに文は言葉を続けて、

「必然的に横向きに寝ることになりますが、寝返りをすると致命傷になりかねないので、安定性を求めて丸まって寝るわけです。これは常識ですよ?」

「初めて聞く常識ね……」

「咲夜さん達にはわからないかもしれませんが、翼を持つ者達にとっては死活問題なんです。だから皆、丸まって寝ているんです」

 言いくるめられてる気がして、釈然としない表情だった咲夜は文の最後の言葉に顔を上げる。

「……皆?」

「ええ、そうです! 翼を持ってて横向きに丸くなって寝ない人なんて居ません!」

 咲夜の問いかけに対して、文は自信満々に言い放った。 
 




 鴉天狗の証言は幻想郷中を走り回る。





 翼持つ者達が親しき者達に寝所を襲われ、寝姿を暴かれる事件が多発。





 社会問題へと発展した。
尻尾生えてる人も同じ理由で横向きに丸まって寝てると思うんだ。

特に八雲藍さん。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
はちよん
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
しっとり甘いお話になるのかと思ったら……思ったら……!
2.名前が無い程度の能力削除
なんとなくだけど
チルノは大の字になって寝てそうな気がする。
3.拡散ポンプ削除
>>ボードには『咲夜の部屋』と印字されており、小さく『私の』と幾つか書き込まれている。
咲夜さん、人気者ですね。どれ、私も……わ・た・し・の……っと、これでよし。
4.奇声を発する程度の能力削除
>ボードには『咲夜の部屋』と印字されており、小さく『私の』と幾つか書き込まれている
どれ、私も……これで良し!
5.名前が無い程度の能力削除
蝙蝠に近い人たちは、足の指で梁からぶら下がって寝てるウサ。