Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夢の中は唐突に (上)

2010/08/11 09:45:58
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 人間は信用できない。もう嫌だ。吸血鬼だからなんだというのだ。襲わないって言ったのに、なのに……! あぁもう、早く館に帰ろう。ご飯冷めちゃうし。美鈴に八つ当たりキックでもしようかしら。

 私が苛立ちを周囲に振りまきながら、歩く。
 あぁ、飛べるんだった。飛ぼうかな。うん、飛ぼう。
 軽く翼をはためかせていると、一人の人間が暗がりから近づいてきた。銀髪の綺麗な娘だった。
 少女は問いを投げかけた。



 「どうして、泣いているの?」

 



 +++


 「ん……」

 私は図書館のソファーで目を覚ました。寝なれないところで寝たせいか、首がおかしな方向に曲がっている。捻ると、ゴリッ、っと骨の動く音がして、私の異常は解消された。
 僅かな疼きを感じたその衝撃で、私の夢は完全に覚めた。
 「どうして……、ねぇ……」
 かすかに残る夢の残像を目で追いながら、私は再び睡魔に襲われる。
 あぁ、眠い。もう一眠りしようか。
 私がゆっくり瞼を下ろそうとしたとき、誰かが近づいてきた。不愉快だ。眠りを妨げられるのは、人間に恐れられないのと同じくらいに不愉快だ。
 「レミィ。図書館で寝ないでね。小悪魔が怯えちゃう」
 まどろみの中の声は、直接脳に響いてくるから嫌いだ。現実に無理やり引き戻されたみたいだ。
 「あぁ、パチェね。うっかり不機嫌すぎて殺気出しそうになっちやった」
 「出てたわよ、十分にね。眠るときはいつも出てる」
 そうだったのか、気づかなかった。
 「どうでもいいけどね、私は眠いのよ。だから寝るわ」
 「あっそ」

 呆れた様子で踵を反し、向こうのほうに歩いてゆく魔女の後姿に私はふと思った。
 「……あのさ。パチェは寝ているときと、起きているとき、どっちが好き?」
 「はぁ、ずいぶん突飛なクエスチョンね。……まぁ、当然起きてる時でしょうね」
 「なんで?」
 「寝るのは、馬鹿がすることよ」
 「私はでも育ってないわ」 
 「胸とかね」
 「うるさい」

  
 その後も少々、私たちは戯言を続けた。先ほどまでは、不機嫌だったのに今は上機嫌だ。つくづく馴れ合いというものは恐ろしい。ついでに眠気も吹っ飛んだ。
 私は適当に選んだ本を腕に抱え自室に戻った。

 ……少しふかふかすぎるソファーにもたれる。
 「私は寝てるほうが好きだわ」
 誰に話しかけるでもなく、呟く。

 寝ている間は、何も考えなくていいから。
 血の色とか、悲鳴とか、攻撃とか、脳内を駆けずり回るいやな妄想が断ち切られる。
 イライラ、機嫌が悪かったとき、初めて寝てみた。起きて、感動した。
 その頃くらいから、私は私に引きこもるようになった。
  
 「……ん」
 なんとなく目線を泳がせていたら、借りてきた本が視界に入った。
 「読もうかなぁ」
 ぺらぺらと、ページをめくる。自分の心音と、息遣いと、紙をめくる音が支配する空間。
 「へぇ……」
 世界の名言集らしい。またつまらないものを借りてきてしまったと、ため息をつく。


 ぺら。
 どくっ。 どくっ。
 ぺら。
 はぁ。 どくっ。
 ぺら。
 どくっ。 どくっ。

 どくっ……。

 
 気になる文章が視線を掠める。


 『人生でもっとも苦痛なことは、夢から覚めて行くべき道のないことです。』
 
 
 「……さかな……じん?」
 日本語は、話せるし、少しは書けるけど、難しい漢字は苦手だ。あまり得意ではない。
 
 なんだろう。不思議な気分だ。心臓の奥のほうが、きゅって締まって、悲しくなる。
 なんだろうな、夢って何かな。道ってなんだろう。
 あぁ、やっぱり読書は性に合わないらしい。だめだ、やめよう。おわりだ。

 寝ることにした。
 


 おやすみ、わたし。



 
+++

 夕食。美鈴の作ったディナーを魔女と二人で食す。今日はフレンチらしい。

 「でさぁ、私は寝たわけよ」
 小前菜のサラダであるズッキーニやら、オニオンやらが盛り付けられた皿を、恨みがましく睨みつけているパチェに話しかける。
 「少しは考えなさいよね」
 ふぅむ。オニオンが特に減ってない。しかめっ面の彼女を私は見つめながら、半月切りにされたトマトを口に運ぶ。
 「……パチェ、野菜嫌いよねぇ。それ、オニオンとか特に」
 「はぁ……。私は要らないっていつも言ってるのに」
 「オニオンはね、血がサラサラになるらしいよ? 糖質も高いし、疲労気味なパチェにはぴったりだと思うけど」
 「あなた、悪魔の癖に健康的よね」 
 「他が悪すぎるだけ」

 他愛のない会話が続く。
 
 「あ、そういえば」
 パチェが思い出したように言った。
 「ペット探しはもうやめたの?」
 「ん……、いや、続行中だけど?」
 「猫にしてね、玩具」
 「あぁ、わかった犬にするわ」
 「それでいいのよ」

 ペット探し、私と彼女の間でそう呼ばれるもの。それは訳すと従者探し。
 あまりにも暇なので、パチェが私に玩具を頼んだのだ。
 本当はあまり外部と接したくない私なのだが、パチェの頼みでは仕方ない。

 コンコン。

 ドアがノックされた。
 「お話中、失礼いたします。コンソメスープでございます」
 小悪魔が配膳らしい。彼女はさっさと皿をテーブルに並べると、パチェに「お野菜食べてくださいね」と言い残し戻っていった。

 「嫁みたいね、あいつ」
 「まぁね。本契約って結婚みたいなものだし」
 「へぇ……」
 契約ってなんだろうなぁ、と考えつつ、銀のスプーンにスープをよそう。
 「おいしいね、これ」
 パチェがにっこり笑いながら、スプーンをすすめる。
 「コンソメってね、完成された、って意味なんだって」
 「完成されたスープってわけね」
 「そういうこと」

 
 私はスープを飲み終わり、スプーンをトレイに置く。パチェも飲み終わっているけれど、いまだにオニオンと格闘している。
 テーブルの端に置いてあるベルを鳴らす。

 「はい」
 小悪魔が、闇から溶け出したみたいに現れる。
 「今日、肉料理いらないわ。いい?」
 「はぁ……。もう少し早く言ってくださいませ」
 わざとらしく肩を上げ、ため息をつく小悪魔。これは、次のメニューあたりに何か混入してくるかもしれないなぁ。もちろん、美鈴が完全指揮を取って。サテュリオンとか。
 
 「ねぇ、何で肉料理いらないの?」
 「ちょっとね、今日はたくさん飛び回るから」
 「ふーん。ペット探しね」
 「えぇ。コンソメ犬探してくるわ」
 

 
 その後、サーモンのポアレが運ばれてきた。赤ワインを使ったソースが、甘酸っぱくて、少し私は苦手な味だった。デザートはシャルロットの四分の一ホール。ストロベリーとオレンジはいい感じの甘さで、パチェは喜んで食べていた。
 
 「ごちそうさま」
 食事を終え、立ち上がる。パチェも一緒に立って、部屋を出る。
 
 「私ね、嬉しいの」
 廊下を歩いていると、パチェがポツリと呟いた。
 「へ? なんで」
 間抜けな声を出す私。
 「レミィが自分から、外に行くって言ってくれて」
 「……、私が引き篭もりみたいね」
 「まあ、そんなものじゃないの。妹様もびっくりの篭り具合」
 「ひどい言われようね」
 やさしい表情のパチェを見て、心配してくれたんだなぁ、と嬉しくなる。心がふっ、と潤った気がする。
 
 「夢をね、見たのよ。……もしかしたら運命かもしれないけど」
 「いい夢?」
 「えぇ。従者、見つかるかもよ?」
 「良かったわね」

 




 パチェは結局、門の前までついてきてくれた。
 さっきからなんだかもじもじしているのは、きっと気のせい。媚薬とか、多分効いてない。


 「じゃ、行ってくるよ」 
 パチェに挨拶をして、翼を羽ばたかせる。
 「あ、そうだ」
 パチェを振り返る。そして問う。

 「道ってなんだろね」

 その言葉とともに、私は夜の闇に飛び立った。

 
 パチェは悲しそうに、目を伏せていた。
 はじめまして、はると申します。
ここまで拙い文章をお読みくださり、ありがとうございます。
タイトルは思い付かなかっただけなので、後から変えるかもしれません。
多分、後々物語りに関係してくると思うのですが……orz
はる
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
時間軸が気になる…
コンソメ犬っていいなあ
2.奇声を発する程度の能力削除
コンソメ犬ww
続きが楽しみです