じりじりと焼けるように暑い太陽の日が降り注ぐ幻想郷。
団扇片手に、畳の上で寝転がる人々も良く見られる季節である。
妖怪の山の登山口には、天狗が数人立っており、山を流れる川へと一緒に行くことが出来る。
夏の期間は、川は特別に人間たちにも開放され、河童や天狗たちも一緒に涼しんでいる。
そこ以外にも、紅魔館近くの湖にも人たちが集まっていた。
そんな暑い幻想郷も、夜を迎えた。
カランッ、カランッ……。
蜩も鳴くのをやめた頃だった。
暗い夜の闇の中に乾いた音が響き渡った。
神社へと続く階段の最中、奇妙なリュックを下げている男が一人。
尋常じゃない大きさのそのリュックからは、カランカランと乾いた音が響く。
歩くたびに聞こえるその音は、不気味でしかなかった。
その者は、不気味なほどに笑顔だった。
目を開けているかどうかもわからないほど、ずっと笑顔のまま。
また、耳はとがっており、どこか妖精を思わせる耳だった。
階段の上からは、騒がしい声が聞こえる。
故にこの男はそちらの方へ足が勝手に動いたのかもしれない。
やがて階段を上った頃には、数名の女の子たちがそこにはいた。
「あら、見ない顔。誰かしら?」
そこには、霊夢や魔理沙、さとりなどの人間と妖怪がいた。
今日は小さな吞み会を開いていた為、彼女らは神社に集まっていた。
当然の事ながら、見たことのない男が巨大なリュックを担いでいれば、不審に思うものである。
疑いの目線をかけるも、男はにっこりと笑った。
「そんなに疑わないでください。私はここに迷い込んだだけの者ですから」
「ふ~ん……」
さとりがじーっとその男を見つめる。
心を読むことができるさとりだが、この男の言っている事はどうやら本当だと確認して、その疑いを解いた。
ふと、魔理沙がリュックを見ると、ところどころにお面がかかっている。
どれも違ったお面で、不思議なお面ばかりである。
「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。お前の名前は何って言うんだ?」
「魔法使い、ですか。私はただのお面屋ですよ」
「お面屋……か。そんな職業もあるのか~」
「私は趣味で集めているだけです。お面で幸せを届けられるなら、私は喜んでお譲りします」
そういって、お面屋は笑った。
不気味な程の笑みは、辺りのたいまつの灯りで尚更不気味に見えた。
しかし、こんな不気味な奴なんて幻想郷に山ほどいるのだ。
魔理沙は気にせず、仮面屋に話しかける。
「どんなお面があるか見せてくれないか?」
「いいですよ。私のお面をお見せしましょう」
そういって、リュックの隣についた小さなポッケから風呂敷を取り出すと、そこへお面を並べ始めた。
様々なお面がみるみる内に並べられていった。
人間の顔のようなお面や、髑髏のマークが書かれたお面、動物のお面などなど。
見ているだけでも楽しくなるようなお面達が並べられていく。
「わぁ~、おもしろ~い」
そう言いつつ、無邪気に笑いながらお面を手にするこいし。
霊夢や魔理沙達もそのお面を手にして、角度を変えては眺めている。
そんな彼女らを、お面屋は何も言わず、ただただ微笑みながら見ている。
「このお面はどういうものなのかしら」
さとりが手に取ったそのお面。
真っ白なお面に、中央に大きな目が付いており、にっこりと笑っているような口がついている。
「それは、まことのお面と言います。かぶると動物の心が読める、便利のようで恐ろしいお面です」
「そう、これは私の気持ちが他の人にも分かってもらえるお面なのね」
「と、いいますと……。あなたは、人の心が読めるということですか?」
「そう、私はさとりという妖怪。心が読めるのですよ」
そう言って、さとりは微笑んだ。
さとりは、二つ名にもある通り、怨霊にも恐れ怯えられた存在。
それほど、心を読む能力は恐れられ、嫌われてきたのだ。
その気持ちをわかるようになるお面。
さとりは、少し物悲しげな瞳で、そのお面と向き合った。
◆
「このお面はどういうものなんだ?」
魔理沙が手にしたのは、真っ黒のお面に、真っ赤な瞳が二つついたお面。
ぱっちりと開かれた瞳は、妙に不気味である。
「こちらのお面は、夜更かしのお面と言います。どれだけ眠たくても眠れなくなるお面です」
「ほぉ。ってことは、寝ないように研究するのにはちょうどいいかもしれないな」
にやっと微笑む魔理沙を見て、お面屋は続ける。
「これは元々拷問道具に使われておりました。故に、拷問を受けた者の感情もそのお面には封じ込められています。なので、普段の生活で使うことはお勧めできませんよ」
「そ、そうなのか……。それを聞いて使う気が失せたぜ」
コトンとお面を静かに戻した。
「お面には、作った者だけでなく、被った者など、手にした者全ての感情が込められています」
そう言って、一つのお面を手に取った。
ハートのような形をしたお面だが、凄まじい形相のお面だった。
とげのようなものも生えており、いかにも怪しいお面である。
「このように、お面自体はとても軽い。しかし、そのお面にはとても大きく、そして重い気持ちが込められているのです。時にはそのお面が人を変えてしまうことだってあるのです」
「そうか。なんか、すまんな」
「いえいえ、いいのです。本当に分かってくれたようなので」
そういって、お面屋は微笑んだ。
◆
「それじゃ、このお面は?」
こいしが手にしたお面は、灰色でどこか間の抜けた顔をしたお面だった。
「それは、石コロのお面と言います。被ると存在感が薄くなるお面です」
「私が被ったら尚更気付かれなくなるね~」
そう言って無邪気に笑うこいし。
そんな無邪気に笑うこいしを見て、お面屋は言った。
「あなたの本当の顔は、どんな顔ですか?」
「え?」
「そのお面の下の本当の顔は、どんな顔ですか?」
「何を言ってるの?」
困ったように首をかしげるこいしに、お面屋は失礼と頭を下げた。
「すみません。私は、お面屋ということもあり、たくさんの人の顔を見てきました。だから、その人の表情で、なんとなくわかってしまうのです。例えば……あなた」
そういって、霊夢を指さす。
突然の指名に、思わず間の抜けた声をあげてしまう。
「あなたは、今誰かに恋をしていますね?」
「え!? なっ、何言ってんのよあんた」
「どうなんでしょうか、さとりさん」
「見る限り、本当ね」
「ちょ、ちょっとさとり!!」
すると、お面屋は更ににっこりと笑って、一つのお面を手に持った。
真っ白なお面で、銀色の曲線が数本走っていた。
「こちらを、あなたへプレゼントしましょう」
「へ? いいの?」
お面屋が差し出したお面を、霊夢は素直に受け取った。
そのお面はとても軽くて、そして優しい温もりがあった。
「これは、めおとのお面と言います。人の心を和ませる力がある、幸せなお面です。ぜひこれをあなたに」
「な、なんか悪いわね……。でも、ありがたくもらっておくわ」
すると、お面屋はお面を片付け始めた。
「お、もう終わりか?」
「すみません。私も世界を旅してお面を集めているものでね。少しの時間も私は惜しいのです」
そう丁寧に答えると、風呂敷にそのまま包んで、リュックの中へと放り込んだ。
そして、ポッケから一つの紙を取り出し、霊夢に手渡した。
中を広げると、簡単な音符が書かれていた。
「癒されたいと思った時、その音楽を奏でてみて下さい。きっと、あなたに良いことが起こるでしょう」
「は、はぁ……」
霊夢の表情を見て笑うと、お面屋は背を向けた。
霊夢達が見送る中、お面屋は最後に一言、
「あなた方の被るお面が、誰が作ったものか。それがもし自分自身ならば、本当の不幸と呼ぶにはまだ早い」
と、意味深な言葉を残して、去っていった。
団扇片手に、畳の上で寝転がる人々も良く見られる季節である。
妖怪の山の登山口には、天狗が数人立っており、山を流れる川へと一緒に行くことが出来る。
夏の期間は、川は特別に人間たちにも開放され、河童や天狗たちも一緒に涼しんでいる。
そこ以外にも、紅魔館近くの湖にも人たちが集まっていた。
そんな暑い幻想郷も、夜を迎えた。
カランッ、カランッ……。
蜩も鳴くのをやめた頃だった。
暗い夜の闇の中に乾いた音が響き渡った。
神社へと続く階段の最中、奇妙なリュックを下げている男が一人。
尋常じゃない大きさのそのリュックからは、カランカランと乾いた音が響く。
歩くたびに聞こえるその音は、不気味でしかなかった。
その者は、不気味なほどに笑顔だった。
目を開けているかどうかもわからないほど、ずっと笑顔のまま。
また、耳はとがっており、どこか妖精を思わせる耳だった。
階段の上からは、騒がしい声が聞こえる。
故にこの男はそちらの方へ足が勝手に動いたのかもしれない。
やがて階段を上った頃には、数名の女の子たちがそこにはいた。
「あら、見ない顔。誰かしら?」
そこには、霊夢や魔理沙、さとりなどの人間と妖怪がいた。
今日は小さな吞み会を開いていた為、彼女らは神社に集まっていた。
当然の事ながら、見たことのない男が巨大なリュックを担いでいれば、不審に思うものである。
疑いの目線をかけるも、男はにっこりと笑った。
「そんなに疑わないでください。私はここに迷い込んだだけの者ですから」
「ふ~ん……」
さとりがじーっとその男を見つめる。
心を読むことができるさとりだが、この男の言っている事はどうやら本当だと確認して、その疑いを解いた。
ふと、魔理沙がリュックを見ると、ところどころにお面がかかっている。
どれも違ったお面で、不思議なお面ばかりである。
「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。お前の名前は何って言うんだ?」
「魔法使い、ですか。私はただのお面屋ですよ」
「お面屋……か。そんな職業もあるのか~」
「私は趣味で集めているだけです。お面で幸せを届けられるなら、私は喜んでお譲りします」
そういって、お面屋は笑った。
不気味な程の笑みは、辺りのたいまつの灯りで尚更不気味に見えた。
しかし、こんな不気味な奴なんて幻想郷に山ほどいるのだ。
魔理沙は気にせず、仮面屋に話しかける。
「どんなお面があるか見せてくれないか?」
「いいですよ。私のお面をお見せしましょう」
そういって、リュックの隣についた小さなポッケから風呂敷を取り出すと、そこへお面を並べ始めた。
様々なお面がみるみる内に並べられていった。
人間の顔のようなお面や、髑髏のマークが書かれたお面、動物のお面などなど。
見ているだけでも楽しくなるようなお面達が並べられていく。
「わぁ~、おもしろ~い」
そう言いつつ、無邪気に笑いながらお面を手にするこいし。
霊夢や魔理沙達もそのお面を手にして、角度を変えては眺めている。
そんな彼女らを、お面屋は何も言わず、ただただ微笑みながら見ている。
「このお面はどういうものなのかしら」
さとりが手に取ったそのお面。
真っ白なお面に、中央に大きな目が付いており、にっこりと笑っているような口がついている。
「それは、まことのお面と言います。かぶると動物の心が読める、便利のようで恐ろしいお面です」
「そう、これは私の気持ちが他の人にも分かってもらえるお面なのね」
「と、いいますと……。あなたは、人の心が読めるということですか?」
「そう、私はさとりという妖怪。心が読めるのですよ」
そう言って、さとりは微笑んだ。
さとりは、二つ名にもある通り、怨霊にも恐れ怯えられた存在。
それほど、心を読む能力は恐れられ、嫌われてきたのだ。
その気持ちをわかるようになるお面。
さとりは、少し物悲しげな瞳で、そのお面と向き合った。
◆
「このお面はどういうものなんだ?」
魔理沙が手にしたのは、真っ黒のお面に、真っ赤な瞳が二つついたお面。
ぱっちりと開かれた瞳は、妙に不気味である。
「こちらのお面は、夜更かしのお面と言います。どれだけ眠たくても眠れなくなるお面です」
「ほぉ。ってことは、寝ないように研究するのにはちょうどいいかもしれないな」
にやっと微笑む魔理沙を見て、お面屋は続ける。
「これは元々拷問道具に使われておりました。故に、拷問を受けた者の感情もそのお面には封じ込められています。なので、普段の生活で使うことはお勧めできませんよ」
「そ、そうなのか……。それを聞いて使う気が失せたぜ」
コトンとお面を静かに戻した。
「お面には、作った者だけでなく、被った者など、手にした者全ての感情が込められています」
そう言って、一つのお面を手に取った。
ハートのような形をしたお面だが、凄まじい形相のお面だった。
とげのようなものも生えており、いかにも怪しいお面である。
「このように、お面自体はとても軽い。しかし、そのお面にはとても大きく、そして重い気持ちが込められているのです。時にはそのお面が人を変えてしまうことだってあるのです」
「そうか。なんか、すまんな」
「いえいえ、いいのです。本当に分かってくれたようなので」
そういって、お面屋は微笑んだ。
◆
「それじゃ、このお面は?」
こいしが手にしたお面は、灰色でどこか間の抜けた顔をしたお面だった。
「それは、石コロのお面と言います。被ると存在感が薄くなるお面です」
「私が被ったら尚更気付かれなくなるね~」
そう言って無邪気に笑うこいし。
そんな無邪気に笑うこいしを見て、お面屋は言った。
「あなたの本当の顔は、どんな顔ですか?」
「え?」
「そのお面の下の本当の顔は、どんな顔ですか?」
「何を言ってるの?」
困ったように首をかしげるこいしに、お面屋は失礼と頭を下げた。
「すみません。私は、お面屋ということもあり、たくさんの人の顔を見てきました。だから、その人の表情で、なんとなくわかってしまうのです。例えば……あなた」
そういって、霊夢を指さす。
突然の指名に、思わず間の抜けた声をあげてしまう。
「あなたは、今誰かに恋をしていますね?」
「え!? なっ、何言ってんのよあんた」
「どうなんでしょうか、さとりさん」
「見る限り、本当ね」
「ちょ、ちょっとさとり!!」
すると、お面屋は更ににっこりと笑って、一つのお面を手に持った。
真っ白なお面で、銀色の曲線が数本走っていた。
「こちらを、あなたへプレゼントしましょう」
「へ? いいの?」
お面屋が差し出したお面を、霊夢は素直に受け取った。
そのお面はとても軽くて、そして優しい温もりがあった。
「これは、めおとのお面と言います。人の心を和ませる力がある、幸せなお面です。ぜひこれをあなたに」
「な、なんか悪いわね……。でも、ありがたくもらっておくわ」
すると、お面屋はお面を片付け始めた。
「お、もう終わりか?」
「すみません。私も世界を旅してお面を集めているものでね。少しの時間も私は惜しいのです」
そう丁寧に答えると、風呂敷にそのまま包んで、リュックの中へと放り込んだ。
そして、ポッケから一つの紙を取り出し、霊夢に手渡した。
中を広げると、簡単な音符が書かれていた。
「癒されたいと思った時、その音楽を奏でてみて下さい。きっと、あなたに良いことが起こるでしょう」
「は、はぁ……」
霊夢の表情を見て笑うと、お面屋は背を向けた。
霊夢達が見送る中、お面屋は最後に一言、
「あなた方の被るお面が、誰が作ったものか。それがもし自分自身ならば、本当の不幸と呼ぶにはまだ早い」
と、意味深な言葉を残して、去っていった。
めおとのお面を貰った霊夢は幸せになれるのだろうか。
幽々子にいやしの唄を聞かせるとどんな仮面ができるのだろうか。
いや、ほら霊だしさ。
ムジュラの仮面を取られんようにしなよ、アレはヤバいから。
じゃあ次はメルランあたりに時のオカリナでも渡してください
ちょっと怖い雰囲気だ
お面やは最後まで謎の存在だったなあ。
凄く面白かったです。ありがとうございました。