「にゅおわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「にとり!?」
「はいな、呼んだかい雛」
「急に叫ぶから何事かと思ったわ」
「うーん……なんとなく叫びたくなった」
「それだけ?」
「それだけ」
<- 鼠が一匹いたら、千匹はいると思いなさいってね。ほらやっぱりまた出てきた……ってずいぶんと勇ましいネズミね。まるで寅じゃないの ->
目の前で宝船が寺に変わった。
「な・む・さ・ん♪」
「ひゃわっ!」
うん、なにもおかしいことはない。
大丈夫、今日も神社は平和そのものよ?
こんにちは、霊夢です。
私だって女の子だから、ちょっと可愛い悲鳴を上げても不思議ではないのよ?
「霊夢さん可愛い!!」
「うっさい! 耳元で叫ぶな!」
「きゃわんっ」
夏まっさかりの世界で、やっぱり今日も私は怒鳴っていた。
ほぼ条件反射的に。
寝ぼけ眼のまま怒鳴った相手は、柱の陰に隠れてしまった。
よほど怖かったのだろうか。
そんなビクビクされると、霊夢ちゃんちょっとショックよ?
あーだめだ。まだ頭が寝てて変なこと考えてる。
なんか夢の中で、宝船が変形してお寺になってたし。
……よし、もう一眠りしよう。
「だ、だめですよ。この太陽ぎらぎらの中寝たら死んでしまいますよ?」
「だったらあんたが団扇で仰いでくれたらいいじゃない」
「あ、なるほど! ではさっそく。あそげや~あおげ~♪」
「おーこれは涼しいわ。ついでに膝枕もお願いね」
「ふふふ。霊夢さんは甘えん坊さんだったのですね。はいどうぞ」
どこの誰か分からないけれど、これはいい感触ね。
全自動送風機かつ、どこまでも沈みそうな柔らかい枕。
これなら3秒で寝れる自信があ……zzz
「ぱたぱた~♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん……」
何か変な夢を見ていた気がする。
宝船がヒト型になったり、マハラジャになって団扇で仰がれていたり。
あと、楽園の素敵な膝枕で寝て……あーこれは現実だったか。
めきこーばんくらーあびゅーてぃるふるらー。
って現実!?
「……目の前に肉の壁がある」
これは所謂、サンドウィッチというやつだろうか。
黒と白のコントラストに彩られた、二つのミサイルが目の前というか、呼吸したら顔に当たってる。
この感触は、この薄い布一枚先は素肌ね。
さらにちょっと汗ばんだ首は、がっちり健康的だけどちょっと肉厚のふとももにガードされて動けないし。
「どうしてこうなったのかしら」
とりあえず言えることは、目の前の白黒は魔理沙じゃない。
だってあの子貧乳だし。
それでも私より大きいらしい。
なんかむかついてきた。
まぁそれはそれで置いといて、問題はこの"枕"ね。
やばいわ。少しずつ目が覚めてきて分かるこの危なさ。
これは……紫と美鈴の良さを足して2をかけたようなもの。
一言で言うと、そうね……むちむち?
「って、そんなこと冷静に判断してる場合じゃないわ」
こいつは確か聖 白蓮。この前の宝船騒ぎのボスじゃない?
やられ方が無駄にえっちかった南無三よね?
そうと分かればやることは一つ。
さらば幻想郷。こんにちは桃源郷。
「ぽふん。やーわーらーかーい♪」
「あっ……ん」
なまちちやばいなまちちやばいなまちちやばいなまちち(ry
少女堪能中……
「うがー! 私はエロおやじか!」
「きゃぁん!?」
完全に目が覚めた。いやー面目ない。
恥ずかしいところを見せてしまったわ。
でも、おかしいな。急に起きると首元が寒い。
なごり惜しいけれど、まずこの状況ができるまでの過程を問いたださないと。
「これは一体全体どういうこと?」
「びっくりしましたよー。あ、おはようございます霊夢さん♪」
「おはようございます霊夢さん♪ じゃないわよ。もう少しで桃源郷に行っちゃうところだったじゃない」
「桃源郷?」
「……今のは忘れて」
聖のマネをしたらなんだかすごい笑顔になってしまった。
しかもなんか変なこと口走ってるし。
こいつといると、なんだかペースが乱れてしまうわ……
「桃源郷、楽しそうな所ですね♪」
「うがー! もうこのぽやぽや娘が!」
「やだそんな、ぽやぽや美少女だなんて~」
「言ってないから!」
はぁはぁ……なんで、こんなに、疲れるの……
最近ずいぶんと息切れが激しくなってきたわ。
「あら、お疲れですか? でしたらもう少し膝枕してあげますよー?」
「いいの? じゃなくって、今そんなことされたら本当に抜け出せなくなr」
「ほら遠慮なくどうぞ~」
「いやーーー助けてゆかりん~~~~!!」
紫「ごめん無理」
なにか見えてはいけないものが見えた。
おいこら、鼻血出してる暇があったら助けなさいよ!
「むー暴れちゃーめっ!(肉体強化)」
「ほぶ!!」
く、くびが……おおぅ……
超ぱわーにより、私の首を太もも押し付けた聖は満足そうな顔をしていた。
あー、この技は整体に使えるかも……背骨の位置直したりふぉふぁー……zzz
「霊夢さんといると、なんだか娘ができたみたいで楽しいですね♪」
「むに……とーげんきぃーおー」
「ふふ、幸せそうです。なんだか私も……眠く……くー」
願わくば、これが、夢でありますように。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ということが三日ほど続きました。
「すっかり流されてるわねー?」
「……うっさい」
私にお酒を注ぐ紫の妖怪。
いつの間にか、信用してしまっている妖怪の賢者。
「私はこわぁい妖怪よ? 簡単に信用していいのかしら?」
「信用はしてるけど、信頼はしてないもの」
「あらあら」
「それに、あんたとは簡単な関係じゃないしね」
「……ぽっ」
「顔を赤らめるな!!」
怒鳴りながらお酒を飲む。
今日は宴会曜日。
ちなみに宴会、月、火、水、木、金、宴会という日付だ。
もうこの時点で察してほしい。
私流されすぎじゃない?
「気が付くのおそいわねー」
「うっさい。そもそもあんたがその原因じゃない」
「あら、そうだったかしら?」
「胡散臭い」
「誰がおばさん臭いよ!」
「言ってないから」
紫にお酒を注ぐ。
私に注がれる。
また紫に注ぐ。
そんなことをしている間も、宴会は続く。
今日の主賓は、聖だ。
聖が来てから、ちゃんとした宴会をまだ開いていなかったし。
でも、私は遠くから見ているだけ。
最近の慌ただしさも嫌いじゃないけれど、たまには心と体を休めたい。
紫や美鈴、魔理沙やアリスとゆっくりしたいのだ。
だから、今は紫の時間。
「ねぇ霊夢」
「あによ」
「肩叩いて?」
「は?」
よりにもよって肩を叩けと申したか。
最近整体師の仕事がない私に。
最近整体師の仕事が"できない"私に、子供がするような肩叩きを。
「嫌よ」
「はいこれ」
「……なにこれ」
「霊夢の子供のころに貰った肩叩き券」
そっと紫から受け取る一枚の紙きれ。
年代が立っているのが分かるそれには、ミミズがはったような字で書いてあった。
――かたたたきけん ゆうこうきげん ずーっと
「5分だけよ」
「ふふ……ありがと」
とんとんとん。
子供がするように、肩を叩く。
マッサージじゃなく、肩叩き。
こういう時間も、嫌いじゃない。
「ねぇ紫」
「なぁに?」
「なんでもない」
「そう?」
この見透かしたかのような顔。腹が立つ。
だから、もっと想いを込めて叩いてやることにした。
げしげし!
「痛い、痛いわ霊夢!?」
「うっさい、うっさい! あんたなんかこうしてやる!!」
「ちょっとおーもーいー。少しは落ちつきなさいな」
「胡散臭いくせに、おばさん臭いくせに、人一倍優しいくせに」
「……最後のは悪口になってないわよ?」
「うっさい……」
なんで、泣いてるのだろう。
流されて、自分を見失って。
自信があって、慣れて、離れて。
流したかったのかもしれない。
全て。
"美鈴を失ったことを"
――霊夢さんに、針を持つ資格はありません!!
「っ!」
「霊夢、痛いわ」
「あ、ごめん……」
いつの間にか、紫の肩を強くつかんでいた。
いけないな。いつもの私でいようって決めたのに。
あったばかりの聖にすら、気を遣わせて。
今度は紫にまで。
「"もう一度"聞くわね。霊夢にはどっちがいいのかしら。お祭りか。それとも平穏かしら?」
「私がほしいのは……」
暗い絶望だった。
毎日友人が来た。
紫。魔理沙。アリス。レミリア。咲夜。幽々子。永琳。早苗。文。さとり。聖……
でも、美鈴は来なかった。
"変わらない"私だったから。
でも、ちがう。
今は変わろうと思う。
だから、あの時とは違う言葉を、私は紡ごう。
「私がほしいのは、笑顔。みんなと、美鈴の笑顔がほしい」
「そう……なら、もう心配はいらないわね」
「ありがとう紫。私がんばるわ。たぶん一年以上かかるけど……絶対に取り戻してみせる」
私はすくっと立ち上がって叫んだ。
宴会での盛り上がり以上の声で。
どこかで聞いている、美鈴に聞こえるように。
わたしは
わたしは!
「絶対に痩せてみせる!!!」
あははー……落ち着きましょう。
貴方達が言いたいことは分かります。
でも見てください、あの霊夢さんを。
手足はまるで豚足。
顔をまるまるとして、お腹も服に入りきらない、あの姿を。
事の始まりは、宝船の異変のすぐ後でした。
霊夢さんはいつものように整体師として、バリバリ働いていたのです。
そして、そのお礼にといただいたのが……人里で大人気のスイーツ。いちご大福だったのです!
そのおいしさに感動したのか、霊夢さんはお礼にいちご大福をねだるようになりました。
結果、彼女はFATMANになってしまったのです。
そんな彼女に私はいいました。
――霊夢さんに、針を持つ資格はありません!!
さらに紫さんの質問に、あろうことか霊夢さんは……
――おさい銭箱いっぱいのいちご大福がほしい!
なんて……なんてひどい。
いちご大福がおいしいのはわかります。
私だって咲夜さんの縛りがなければ、きっと今の霊夢さんと同じ状態になっていてもおかしくはありませんでしたから。
でも、でも、でもーーー!
あんな霊夢さん見ていられません!!
だから私は、紫さんにお願いして、よりぷくぷくと太っていくように見せかけたんです!!
「へぇ。そうなんだ」
「そうなんですよ……あれ?」
「やっほぉ美鈴、お久しぶりね。会いたかったわ」
「あ、あははー霊夢さん、細くなられましたね?」
「紫の術式を解除してもらったらね、みごとに元に戻ったわ」
なんだか、危険な予感?
「たしかに、自堕落な生活を送っていたことは反省する。聖の膝枕の誘惑に勝てなかったことも私が悪いわ」
「ほえ? わたし?」
そこで、ほえ? じゃないですよ聖さん!
そんな天然キャラずるいです、かわいいです。
「ところで美鈴、本当のことを教えてもらえるかしら? 私、本当にそんなに太ってた?」
「えっと、少し……」
「本当に?」
「すいません、皆さんに嫉妬してただけです……」
「あら、嫉妬してくれるなんて嬉しいわ♪ でも……とりあえず一回殴らせなさい!!」
「いやぁぁぁごめんなさいいいいいいい!!」
「みんないちご大福もってこーい!」
「「「よっしゃぁまかせろー!」」」
宴会に出てた大勢の方々、どうしていちご大福もってるのカナー?
ってやっぱり突撃してきたー!?
「え、えぇ!? ちょ、ま、そんなにいっぱい入らないもがーーー!!」
「やっぱり甘いものには、あっつーーーーい日本茶よね?」
「んー! んー!!」
「遠慮せず、たーんとお飲みなさい?」
「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
こんなの……ひどい……です……よぉ……でもおいひくてしあわへー……がくり
「ふ……勝利!」
勝利のポーズで決めた霊夢の後ろを、そっと逃げていく隙間妖怪がいたが、後日哀れもない姿で見つかったらしい。
でもそれはまた、別の話。
おまけ
紫「だってだって、わたしだって膝枕したかったんっだもん! 羨ましかったんだもん!」
霊「それで、美鈴に協力した、と?」
紫「大正解♪」
霊「みんないちご大福もってこーい!」
「「「よっしゃぁまかせろー!」」」
紫「え、えぇ!? ちょ、ま、そんなにいっぱい入らないわ」
霊「上の口で入りきらないなら、下の口があるじゃない」
紫「舌の口って、もちろんいつもお尻に引いてる隙間のことよね!?」
霊「ごー とぅー へーる」
紫「はなしをきいて、きゃあスカートに手をいれないでええええええ!! ち、ちがうそこは出口なの~~~~~!!」
霊「出口も隙間のことよ?」
おまけ2
霊「私ね、紫って実は萌えキャラじゃないかと思うのよ」
魔「同意だぜ」
中「ですよねー」
聖「萌えきゃらって何ですか?」
霊魔中「……あんたみたいな人のことよ(だぜ)(です)」
聖「ほえ???」
「にとり!?」
「はいな、呼んだかい雛」
「急に叫ぶから何事かと思ったわ」
「うーん……なんとなく叫びたくなった」
「それだけ?」
「それだけ」
<- 鼠が一匹いたら、千匹はいると思いなさいってね。ほらやっぱりまた出てきた……ってずいぶんと勇ましいネズミね。まるで寅じゃないの ->
目の前で宝船が寺に変わった。
「な・む・さ・ん♪」
「ひゃわっ!」
うん、なにもおかしいことはない。
大丈夫、今日も神社は平和そのものよ?
こんにちは、霊夢です。
私だって女の子だから、ちょっと可愛い悲鳴を上げても不思議ではないのよ?
「霊夢さん可愛い!!」
「うっさい! 耳元で叫ぶな!」
「きゃわんっ」
夏まっさかりの世界で、やっぱり今日も私は怒鳴っていた。
ほぼ条件反射的に。
寝ぼけ眼のまま怒鳴った相手は、柱の陰に隠れてしまった。
よほど怖かったのだろうか。
そんなビクビクされると、霊夢ちゃんちょっとショックよ?
あーだめだ。まだ頭が寝てて変なこと考えてる。
なんか夢の中で、宝船が変形してお寺になってたし。
……よし、もう一眠りしよう。
「だ、だめですよ。この太陽ぎらぎらの中寝たら死んでしまいますよ?」
「だったらあんたが団扇で仰いでくれたらいいじゃない」
「あ、なるほど! ではさっそく。あそげや~あおげ~♪」
「おーこれは涼しいわ。ついでに膝枕もお願いね」
「ふふふ。霊夢さんは甘えん坊さんだったのですね。はいどうぞ」
どこの誰か分からないけれど、これはいい感触ね。
全自動送風機かつ、どこまでも沈みそうな柔らかい枕。
これなら3秒で寝れる自信があ……zzz
「ぱたぱた~♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん……」
何か変な夢を見ていた気がする。
宝船がヒト型になったり、マハラジャになって団扇で仰がれていたり。
あと、楽園の素敵な膝枕で寝て……あーこれは現実だったか。
めきこーばんくらーあびゅーてぃるふるらー。
って現実!?
「……目の前に肉の壁がある」
これは所謂、サンドウィッチというやつだろうか。
黒と白のコントラストに彩られた、二つのミサイルが目の前というか、呼吸したら顔に当たってる。
この感触は、この薄い布一枚先は素肌ね。
さらにちょっと汗ばんだ首は、がっちり健康的だけどちょっと肉厚のふとももにガードされて動けないし。
「どうしてこうなったのかしら」
とりあえず言えることは、目の前の白黒は魔理沙じゃない。
だってあの子貧乳だし。
それでも私より大きいらしい。
なんかむかついてきた。
まぁそれはそれで置いといて、問題はこの"枕"ね。
やばいわ。少しずつ目が覚めてきて分かるこの危なさ。
これは……紫と美鈴の良さを足して2をかけたようなもの。
一言で言うと、そうね……むちむち?
「って、そんなこと冷静に判断してる場合じゃないわ」
こいつは確か聖 白蓮。この前の宝船騒ぎのボスじゃない?
やられ方が無駄にえっちかった南無三よね?
そうと分かればやることは一つ。
さらば幻想郷。こんにちは桃源郷。
「ぽふん。やーわーらーかーい♪」
「あっ……ん」
なまちちやばいなまちちやばいなまちちやばいなまちち(ry
少女堪能中……
「うがー! 私はエロおやじか!」
「きゃぁん!?」
完全に目が覚めた。いやー面目ない。
恥ずかしいところを見せてしまったわ。
でも、おかしいな。急に起きると首元が寒い。
なごり惜しいけれど、まずこの状況ができるまでの過程を問いたださないと。
「これは一体全体どういうこと?」
「びっくりしましたよー。あ、おはようございます霊夢さん♪」
「おはようございます霊夢さん♪ じゃないわよ。もう少しで桃源郷に行っちゃうところだったじゃない」
「桃源郷?」
「……今のは忘れて」
聖のマネをしたらなんだかすごい笑顔になってしまった。
しかもなんか変なこと口走ってるし。
こいつといると、なんだかペースが乱れてしまうわ……
「桃源郷、楽しそうな所ですね♪」
「うがー! もうこのぽやぽや娘が!」
「やだそんな、ぽやぽや美少女だなんて~」
「言ってないから!」
はぁはぁ……なんで、こんなに、疲れるの……
最近ずいぶんと息切れが激しくなってきたわ。
「あら、お疲れですか? でしたらもう少し膝枕してあげますよー?」
「いいの? じゃなくって、今そんなことされたら本当に抜け出せなくなr」
「ほら遠慮なくどうぞ~」
「いやーーー助けてゆかりん~~~~!!」
紫「ごめん無理」
なにか見えてはいけないものが見えた。
おいこら、鼻血出してる暇があったら助けなさいよ!
「むー暴れちゃーめっ!(肉体強化)」
「ほぶ!!」
く、くびが……おおぅ……
超ぱわーにより、私の首を太もも押し付けた聖は満足そうな顔をしていた。
あー、この技は整体に使えるかも……背骨の位置直したりふぉふぁー……zzz
「霊夢さんといると、なんだか娘ができたみたいで楽しいですね♪」
「むに……とーげんきぃーおー」
「ふふ、幸せそうです。なんだか私も……眠く……くー」
願わくば、これが、夢でありますように。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ということが三日ほど続きました。
「すっかり流されてるわねー?」
「……うっさい」
私にお酒を注ぐ紫の妖怪。
いつの間にか、信用してしまっている妖怪の賢者。
「私はこわぁい妖怪よ? 簡単に信用していいのかしら?」
「信用はしてるけど、信頼はしてないもの」
「あらあら」
「それに、あんたとは簡単な関係じゃないしね」
「……ぽっ」
「顔を赤らめるな!!」
怒鳴りながらお酒を飲む。
今日は宴会曜日。
ちなみに宴会、月、火、水、木、金、宴会という日付だ。
もうこの時点で察してほしい。
私流されすぎじゃない?
「気が付くのおそいわねー」
「うっさい。そもそもあんたがその原因じゃない」
「あら、そうだったかしら?」
「胡散臭い」
「誰がおばさん臭いよ!」
「言ってないから」
紫にお酒を注ぐ。
私に注がれる。
また紫に注ぐ。
そんなことをしている間も、宴会は続く。
今日の主賓は、聖だ。
聖が来てから、ちゃんとした宴会をまだ開いていなかったし。
でも、私は遠くから見ているだけ。
最近の慌ただしさも嫌いじゃないけれど、たまには心と体を休めたい。
紫や美鈴、魔理沙やアリスとゆっくりしたいのだ。
だから、今は紫の時間。
「ねぇ霊夢」
「あによ」
「肩叩いて?」
「は?」
よりにもよって肩を叩けと申したか。
最近整体師の仕事がない私に。
最近整体師の仕事が"できない"私に、子供がするような肩叩きを。
「嫌よ」
「はいこれ」
「……なにこれ」
「霊夢の子供のころに貰った肩叩き券」
そっと紫から受け取る一枚の紙きれ。
年代が立っているのが分かるそれには、ミミズがはったような字で書いてあった。
――かたたたきけん ゆうこうきげん ずーっと
「5分だけよ」
「ふふ……ありがと」
とんとんとん。
子供がするように、肩を叩く。
マッサージじゃなく、肩叩き。
こういう時間も、嫌いじゃない。
「ねぇ紫」
「なぁに?」
「なんでもない」
「そう?」
この見透かしたかのような顔。腹が立つ。
だから、もっと想いを込めて叩いてやることにした。
げしげし!
「痛い、痛いわ霊夢!?」
「うっさい、うっさい! あんたなんかこうしてやる!!」
「ちょっとおーもーいー。少しは落ちつきなさいな」
「胡散臭いくせに、おばさん臭いくせに、人一倍優しいくせに」
「……最後のは悪口になってないわよ?」
「うっさい……」
なんで、泣いてるのだろう。
流されて、自分を見失って。
自信があって、慣れて、離れて。
流したかったのかもしれない。
全て。
"美鈴を失ったことを"
――霊夢さんに、針を持つ資格はありません!!
「っ!」
「霊夢、痛いわ」
「あ、ごめん……」
いつの間にか、紫の肩を強くつかんでいた。
いけないな。いつもの私でいようって決めたのに。
あったばかりの聖にすら、気を遣わせて。
今度は紫にまで。
「"もう一度"聞くわね。霊夢にはどっちがいいのかしら。お祭りか。それとも平穏かしら?」
「私がほしいのは……」
暗い絶望だった。
毎日友人が来た。
紫。魔理沙。アリス。レミリア。咲夜。幽々子。永琳。早苗。文。さとり。聖……
でも、美鈴は来なかった。
"変わらない"私だったから。
でも、ちがう。
今は変わろうと思う。
だから、あの時とは違う言葉を、私は紡ごう。
「私がほしいのは、笑顔。みんなと、美鈴の笑顔がほしい」
「そう……なら、もう心配はいらないわね」
「ありがとう紫。私がんばるわ。たぶん一年以上かかるけど……絶対に取り戻してみせる」
私はすくっと立ち上がって叫んだ。
宴会での盛り上がり以上の声で。
どこかで聞いている、美鈴に聞こえるように。
わたしは
わたしは!
「絶対に痩せてみせる!!!」
あははー……落ち着きましょう。
貴方達が言いたいことは分かります。
でも見てください、あの霊夢さんを。
手足はまるで豚足。
顔をまるまるとして、お腹も服に入りきらない、あの姿を。
事の始まりは、宝船の異変のすぐ後でした。
霊夢さんはいつものように整体師として、バリバリ働いていたのです。
そして、そのお礼にといただいたのが……人里で大人気のスイーツ。いちご大福だったのです!
そのおいしさに感動したのか、霊夢さんはお礼にいちご大福をねだるようになりました。
結果、彼女はFATMANになってしまったのです。
そんな彼女に私はいいました。
――霊夢さんに、針を持つ資格はありません!!
さらに紫さんの質問に、あろうことか霊夢さんは……
――おさい銭箱いっぱいのいちご大福がほしい!
なんて……なんてひどい。
いちご大福がおいしいのはわかります。
私だって咲夜さんの縛りがなければ、きっと今の霊夢さんと同じ状態になっていてもおかしくはありませんでしたから。
でも、でも、でもーーー!
あんな霊夢さん見ていられません!!
だから私は、紫さんにお願いして、よりぷくぷくと太っていくように見せかけたんです!!
「へぇ。そうなんだ」
「そうなんですよ……あれ?」
「やっほぉ美鈴、お久しぶりね。会いたかったわ」
「あ、あははー霊夢さん、細くなられましたね?」
「紫の術式を解除してもらったらね、みごとに元に戻ったわ」
なんだか、危険な予感?
「たしかに、自堕落な生活を送っていたことは反省する。聖の膝枕の誘惑に勝てなかったことも私が悪いわ」
「ほえ? わたし?」
そこで、ほえ? じゃないですよ聖さん!
そんな天然キャラずるいです、かわいいです。
「ところで美鈴、本当のことを教えてもらえるかしら? 私、本当にそんなに太ってた?」
「えっと、少し……」
「本当に?」
「すいません、皆さんに嫉妬してただけです……」
「あら、嫉妬してくれるなんて嬉しいわ♪ でも……とりあえず一回殴らせなさい!!」
「いやぁぁぁごめんなさいいいいいいい!!」
「みんないちご大福もってこーい!」
「「「よっしゃぁまかせろー!」」」
宴会に出てた大勢の方々、どうしていちご大福もってるのカナー?
ってやっぱり突撃してきたー!?
「え、えぇ!? ちょ、ま、そんなにいっぱい入らないもがーーー!!」
「やっぱり甘いものには、あっつーーーーい日本茶よね?」
「んー! んー!!」
「遠慮せず、たーんとお飲みなさい?」
「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
こんなの……ひどい……です……よぉ……でもおいひくてしあわへー……がくり
「ふ……勝利!」
勝利のポーズで決めた霊夢の後ろを、そっと逃げていく隙間妖怪がいたが、後日哀れもない姿で見つかったらしい。
でもそれはまた、別の話。
おまけ
紫「だってだって、わたしだって膝枕したかったんっだもん! 羨ましかったんだもん!」
霊「それで、美鈴に協力した、と?」
紫「大正解♪」
霊「みんないちご大福もってこーい!」
「「「よっしゃぁまかせろー!」」」
紫「え、えぇ!? ちょ、ま、そんなにいっぱい入らないわ」
霊「上の口で入りきらないなら、下の口があるじゃない」
紫「舌の口って、もちろんいつもお尻に引いてる隙間のことよね!?」
霊「ごー とぅー へーる」
紫「はなしをきいて、きゃあスカートに手をいれないでええええええ!! ち、ちがうそこは出口なの~~~~~!!」
霊「出口も隙間のことよ?」
おまけ2
霊「私ね、紫って実は萌えキャラじゃないかと思うのよ」
魔「同意だぜ」
中「ですよねー」
聖「萌えきゃらって何ですか?」
霊魔中「……あんたみたいな人のことよ(だぜ)(です)」
聖「ほえ???」
不意打ちに盛大に吹いたwwww
とっても素晴らしかったです!最後に鳥肌立った…(良い意味で
好きなモノの終わりっていうのはいつだって寂しいものです
白蓮さんぽやぽやしすぎですw
自分で書いていて、メタルスラッグのアレを思い出して一人笑っていたなんてイエナイ
>2様
ダブルスポイラーまで行こうか悩んだのですが。星が切りがいいように思えたので一区切りです。
もしかしたらまたお会いできるかも。
ほら、⑨のしんさk(げほげほぉ!