Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

よっぱらいゆかりさま

2010/08/09 16:40:43
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「らーんのらーはーラー油のらー♪」
「どこからどうつっこむべきか分からないんですが。紫様」

いや、そりゃ私のらはラー油のらであることに違いはないが。
訳の分からない歌を歌う紫様を見て、私は『これはまずい』と途方に暮れる。

本日、家飲みをしていた所、紫様がものの見事に酔っ払った。
見目麗しい顔は今や真っ赤に染まっており、表情はご機嫌そのものといった感じだ。
泥酔というレベルではないものの、今は却ってそれが事態を厄介なものにしている。

というのも。

「らーんのんーはーンジャメナのんー♪」
「そんなアフリカ中央にあるチャドの首都を言った所で、誰が分かるんですか。紫様」

非常にめんどくさいからである。

誰でも、酔うと様々な『上戸』が垣間見れるようになる、とはよく言うが、紫様の場合は典型的な笑い上戸だ。
そこにあるのは、普段の胡散臭いと言われるものとは全く違う、正真正銘心からのにっこり笑顔である。
宴会などでは「素面と酔いの境界」を弄ることでまったく酔わない紫様だが、どうも家で飲むときだけは素直に酔いたいらしい。
おそらく、外でこんな姿を曝け出すのは嫌だが、酒に酔うことそのものは決して嫌いではないのだろう。
正直、私としては、家で酔われるのもかなり迷惑なのでやめてほしいのだが。

「ふふ。やっぱりお酒はいいわね~。酒の上に酒は無く、弾幕ごっこに避けはない」
「ものの数秒で被弾しますね。もう、いくらなんでも飲み過ぎですよ」

ふと見れば、日本酒の瓶が既に5本も開いている。
境界を弄らない状況であれだけ飲めば、酔わないほうがおかしいだろう。
勿論、私だって紫様が飲みすぎないようにと見張っていたのだが、ちょっと料理のために目を離したと思ったらこれだ。まったく、油断ならない。

「さて、紫様もかなり酔われているようですし、今夜はもう寝ませんか?布団も敷いてありますよ?」
「やー」
「そんなこと仰らずに」
「寝ないー。だって、ちゃんぽん」
「食べたいんですか?」
「飲みたいの」
「これ以上は駄目ですって」

現状、一番いい手段は、紫様に寝てもらうよう仕組む事。
そう思って、試しに言ってみたものの、やはりまったく効果はない。
ということは、紫様が酔いに負けて勝手に寝てしまうまでの間、私はしっかりその相手をしなければいけないということだ。
あーあ、また何かおかしなことするんだろうなあ、と私は頭を抱える。

(この前も、九本の尾をタコ足配線にされたばかりなのに)
いい具合に酔っ払い、私の尻尾で寝ていた紫様によって、いつの間にか私の尾はどうしようもないくらいに絡まっていた。
おまけに、その後謝りもせず「九本の尾でも『タコ足』とはこれいかに?」などとのたまわれた時には、一瞬とはいえ軽く殺意が湧いた程だ。
おかげで、その次の日は尻尾を解く事に丸一日費やしてしまった。あれは中々にひどい経験だった。

「藍、藍」

そんなことを振り返っていると、予想通り、赤ら顔に笑みを浮かべた紫様が、私の名を呼んだ。
嫌な予感はバリバリとするが、だからといって無視するわけにもいかない。
仕方なく、私は一つ大きなため息をつきつつも答える。

「何でしょうか、紫様」
「蘭、LAN、卵ってば」
「段々別物になってきてるんですが。だから何ですか?紫様」
「ああ、藍。そこにいたの」
「いいえ紫様。それは私じゃないです。茶碗蒸しです」

さて。もうお分かりだと思うが、この方は、酔っ払うとこうしてボケに回る。
しかも、受けようがスベろうが、そんなことは一切関係なく、酔っている間は際限なくボケ続ける。
実はそれこそが素の姿なのか、はたまた酔うことでタガが外れ、普段では言えないことを言いたくなるのか、それは分からない。
ただ、どちらにしても、正直言って対応するのがすっごく大変なのだ。

「えー、だってどっちも黄色いし」
「それを言い出すと、バナナも月もヘルメットも、全て私ということになりますが」
「そういうことになるのかしらね。って、あれ?何よこれ!茶碗蒸じゃないの!おのれ、藍に化けて私を騙すとは卑怯な!」

突然そう言ったかと思うと、ものすごい勢いで茶碗蒸しをかきこむ紫様。
その瞳は、本気の怒りに燃え上がっている。何に怒っているのだかよく分からないが。
ところであの茶碗蒸し、ついさっき蒸し上がったばかりのものなのだが、平気なのだろうか。

「ぅぐッ!?熱ッ!熱ぅい!熱いったら!で、でも、私負けないッ!」
ですよねー。

当然の如く、舌と口内を火傷して涙目になる紫様。
だが、それでも尚、紫様は茶碗蒸しをフーフーもせずに食べ続ける。
そんな紫様の姿を見て、私は再びため息をついた。

(普段は格好良いし聡明だし、素直に私の憧れなんだけどなあ)
いや、憧れというかむしろ好きだ。LOVEだ。最早LIKEなどという生易しいものではない。
なのだけど、何度見ても、この姿だけは未だに慣れることができない。
私の中の紫様像が、ガラガラと音を立てて崩れる気がするからだ。

(あーあー、普段だったら、あんなにがっつかないのに)
ピシッとした姿勢で、一口一口きちんと味わって、時たまにこっと笑いながら「美味しいわ」と言ってくれる紫様の姿は、今は見られない。
あるのは、幽々子様もビックリの早食いを見せ付ける、一匹の飢えた妖怪の姿だけだ。
これで人でも食らっていればまだ格好がつくのだろうが、食べているのはあくまで茶碗蒸しというのが哀愁を誘う所である。
(何だかなあ……まあ、あれはあれで美味しそうだから、いいか)
ポジティブにそう捉えることにして、私はガツガツと夢中で茶碗蒸しを貪る紫様を見やる。

「美味しい美味しい」
「それは良かった」
「このプリンは上出来ね、藍」
「ボケがベタすぎてつっこむ気も起きないんですが。ところで、もう寝ていいですか?」
「ダメ」

むう。流れに乗ってこの場を離れられないかと思っていたが、やはり酔ってても紫様。
手ごわい。

「さっき呼んだのわね、藍。うふ、面白いジョークを思いついたからなのよ」
「ジョークですか?」
「ええ。堅物の四季映姫様が鼻で笑うくらい、面白いジョーク」
「馬鹿にされてないですか?それ」
「そんなことないわよ」

ありますって。
というかこの前突然「ちょっと地獄行ってくる」とか言って出かけたのは、それが目的だったんですか。
向こうはきっと忙しかったでしょうに。逆に、よく相手にしてくれたなって言いたいくらいですが。
そりゃあ、余程神懸かったレベルのジョークでも言わない限り、馬鹿にされますよ。

「そんなジョークよりも、今の紫様の方がよっぽど面白いと思うんですが」
「もう、藍ったら。お世辞が上手になっちゃって」
「で、どんなジョークなんですか?」

一々ツッコミきれないので、お世辞云々のところは華麗にスルー。
ついでに明日の夕飯はカレーにするー。
……空しいな。やっぱり私にボケは似合わないようだ。

「聞いてくれる?」
「ええ、勿論」
「じゃあ言うわね。チルノがいる所は、どんな所でも、常に建物の入り口になっちゃうんだって」
「? どういう意味ですか?」
「玄関。厳寒だけにね。ププッ」
「……ハッ」
「わーい。藍も鼻で笑ってくれた」

何故か、無邪気に喜ぶ紫様。

ふふ、私も閻魔様と同じで馬鹿にしてるんだよ。
それなのに「わーい」じゃねえよ。
少しは空気ってのを読んでくれよ。

おっと、あまりに紫様の笑顔が眩しすぎて、思わずイラッとして口調が荒れてしまった。
いけないいけない。

「それだけですか?だったら本当にもう行きますが」
「待って。実はもう一つあるのよ」
「まだあるんですか……」

さっさと片付けて寝たいんだけどなあ。
夜も更けてきたことだし。
でもまあ、主の戯言を聞くのも従者の大事な仕事か。

「で、何ですか?」
「この前結婚式に参加したのよ。冬と春の境目くらいに。そのとき思ったんだけど、やっぱり結婚式をするなら、あの時期が最高ね」
「普通に考えたら六月だと思うのですが、何故ですか?」
「だって、結婚式には歓談(寒暖)が必要じゃないの」
「……ほう。これはお上手ですね。流石紫様です」
「えへへ」

まあそれこそお世辞なんだが。
流石に2回も立て続けに鼻で笑おうものなら、あとで紫様が万一覚えていたとき、何言われるか分かんないし。

「……ぐすっ。ううっ」
「な!?」

そんな事を思っていたら、突然紫様が泣き出してしまった。

「ひっく、うえーん!うわーん!」
「ちょ、ちょっと!いきなり何だと言うんですか!?」

長いこと紫様の面倒を見てきたが、こんなことは初めてだ。
想定外すぎて、どうするべきなのか見当をつけることさえ難しい。
当然私は、訳も分からず紫様を問い質す位しか出来ない。

「どうしたんですか紫様!」
「うぅ、ひっく……あのね、藍……」
「もしかして、何かお気に触ることでも言ってしまいましたか?」

失言は無かったと思うのだが。
あるいは、そうではなく、以前何か結婚にまつわる辛い話でもあったのかもしれない。
場の雰囲気からそんなことを感じ取った私は、固唾を飲んで、紫様の次の言葉を待つ。










「……私も、結婚式したいよぅ」
「泣くくらいなら、あんなジョーク言わないで下さいよ!」

しばらく間があったから、何か本気で心配しちゃったじゃないですか!
というか貴女は結婚式なんて最初から行っていませんよ!
大体冬と春の境目には、貴女はまだグースカ寝てましたし!
あくまでジョークでしょうさっきのは!

「うえーん」
「ああもう!」

いい加減泣き止んでくださいって!
泣き顔だって可愛いけれど、貴女には笑顔の方が似合う!
……じゃなくて、酔うと本当タチ悪いなこの人!

真っ赤になった顔を見られないように隠しつつ、私は紫様を宥めにかかる。

「ほら、紫様。結婚なんて、人生の墓場と言うじゃないですか」
「でも『結婚してもしなくても、どの道あなたは後悔する』という言葉もあるわ」
「だったら、しないで後悔する方を選びましょうよ」
「嫌よ!たとえ後悔することになっても、一回位してみたっていいじゃないの!」
「絶対に駄目です!(私以外の者とは!)」

多分、そんなことになったら、私はそいつを呪う。
死ぬまで呪う。
紫様と私以外の誰かが始終いちゃついているのなんて、私にはとても耐えられない。

だがそんな本音は口には出さず、私は別の質問で紫様の気を逸らせる。

「大体、もしそうなったら、誰と結婚するおつもりですか!?」
「……ほえ?誰と?」

(あ、しまった)と言ってから後悔する私。
だからといって時間を戻せるわけでもなく、何気なく聞いてしまった私の問いに、紫様は「そうねえ」と真剣な顔になって考える。
どうやら泣くのはやめてくれたようなので、その点はほっとした。
でも、何だろうか。焦ってたからとはいえ、すごく聞いちゃいけないこと聞いちゃった気がするんだけど。

「あ、あの、紫様?」

黙り込んでしまった紫様にそう声をかけるも、反応は無い。
どうやら、本気で「嫁にするなら誰か」という事を考え続けているらしい。
お互いすっかり沈黙してしまった中、段々と私の心に悪い予感が広がってくる。

そんな、永遠とも思えるような時間の後、紫様は静かにこう切り出した。

「難しい質問ね。まあ、私に相応しい相手といったらそうは多くないけれど」
「……例えば、誰でしょうか」
「霊夢か幽々子か、あ、レミリアも可愛いわね。一応地位も高いし」
「……」
「あとは、可愛さだけで言ったら天子も相当ね。それと幽香。もし相手が居なくて泣いてたら引き取ってあげようかしら……」
「……」

ぐさり、と。
何かが、胸に刺さったような気がした。

まあ、予感的中、と言ったところか。
紫様の言葉に対し、徐々にムカムカとした気持ちが芽生えてくる私。
大体予想はついていたものの、紫様の挙げた名前の中に、私のものはあるはずもなく。



へー。ほー。ふーん。
そうですか。
人の気も知らないで、随分勝手な事を言ってくれるじゃないですか。
従者はあくまで従者ですか。眼中にはありませんか。
分かりましたよ。紫様の気持ちは、よく。



気付けば、私の拳は、硬く硬く握られていた。



「ねえ藍。朝起きたら顔中ボッコボコに腫れ上がってたんだけど。これって一体どういうことかしら」
「……ふん。知りませんっ」
他の話が書き終わらない間に、気付けばこの話が出来ていました。
アレー?

どうも。これが30本目の投稿になりました、ワレモノ中尉です。
何となく、紫様が酔っ払ったところを見たくなって、こんな話を書いてみました。
今回は笑い上戸にしましたが、泣き上戸な紫様も面白そうですね。
「幻想郷を管理するのも、楽じゃないのよ……アクの強いのばっかりいて……」
みたいな。こういうのも、いつか書いてみたいなあ。

少しでも楽しんで頂ければ是幸いです。それでは。
ワレモノ中尉
[email protected]
http://yonnkoma.blog50.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
嫉妬藍さま可愛いなぁ。
ラー油のら
↑嘘だと言ってくれwww


30作目おめでとうです。
2.奇声を発する程度の能力削除
酔った紫様も素晴らしい!
30作目おめでとう御座います。
3.名前が無い程度の能力削除
二人とも可愛すぎる。
4.拡散ポンプ削除
30作目おめでとうございます。

紫様が大好きな藍様、最高です。