Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あやれいむの日があるのなら…

2010/08/08 23:57:44
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※前々作『うでまくら』・前作『ひざまくら』の続きとなっています。先にそちらを読んで頂いた方が内容が分かり易いかと思います。









太陽がじりじりと地面を焦がす。さわり、と時折木の葉が揺れる。今日は少し風がある。
暑そうな格好で、暑そうな様子もなく、八雲藍は歩いていた。手には何やら小さな袋を提げている。
ふと後ろに振り向くと、遠くの空には暗い雲。
そのうち雨が降りそうだな。そんなことを考える。
石の階段をのぼって鳥居をくぐり、賽銭箱は見て見ぬふり。右手にまわるとそこに居た。
人と妖怪と白くて四角い謎の箱。
箱の大きさは大人が二人入るには少し小さい程度だろうか。材質は金属のようだ。一面だけ小さな穴がたくさんあいていて、そこから風が出ている。
一体何だろう。まあいいか、頼まれた品を渡してしまおう。
箱のそばに居た妖怪、八雲紫に声をかける。

――紫様、お待たせしました

――あら、御苦労さま

そう言って紫は藍から袋を受け取った。



そんなやり取りには我関せず。白い箱の前で、博麗霊夢はご機嫌であった。

「あぁ、気持ちいい。あんたもたまには役に立つわね」
「あらひどい。いつだって、の間違いでしょう」
「年中寝てるだけくせに。それにしてもこの、『くぅらぁ』? どうなっているのかしら」
「それは企業秘密ですわ」
「あっそう。まあ涼しければなんだっていいや」

箱からは冷たい風が吹き出してくる。
ああ極楽、極楽。ちょっと不思議だがまあいいや。紫のすることだ、考えるのも面倒くさい。
今日一日しか貸してくれないとか言っていたが、けちなやつだ。

「ねえ、やっぱり今年の夏だけでいいから貸してよ」
「それは無理ですわ。それに、もうそろそろかしら」
「?」

何がそろそろなのだろうか、そう思った時

くちゅん!

箱の中から可愛らしいくしゃみの音がした。

「も、もう我慢できません!」

ぎぃ、と箱の側面が開き何故か文が飛び出してきた。何やらずいぶんと寒がっている。からだをふるわせて両腕と両翼で己を抱きしめている。
ちょっと可愛い。

「あんた、そんなところで何やってんのよ」

わけがわからない。そんな顔で霊夢は声をかける。一瞬びくっと震えたのは内緒だ。誰にも気付かれてはいない。

「れ、霊夢さん。こ、こ、これはですね…」

かたかたと歯がふるえていて、しゃべりにくそうだ。

「彼女にはちょっと協力してもらっていたのよ。もう一人も、出てきていいわよ」
「つかれたー! おい、すきま妖怪。約束どーり、ほーしゅーをよこしなさい!」

紫が言うと、続いて箱からチルノが飛び出してきた。むんっ、と平らな胸をはっている。こちらは十分元気そうだ。

――さすが紫様。わけの分からないことをなさる

――ちょっとした暇つぶしよ

なんだ。この『くぅらぁ』とやらは、機械でも何でもなかった。これじゃあ毎日は使えない。
紫と藍の会話を聞き流しつつ空に目を向ける。なんだか少し空が暗くなってきた。少し風も強くなってきたし、ひと雨降りそうだ。
おや、向こうから誰かがこっちに飛んでくる。

「あーっ、こんな所ににいた! おーい、チルノちゃーん!」
「あれ、大ちゃん。どうしたの?」
「どうしたの、って…今日はお昼からリグルちゃんの所に集まろう、って言ってたじゃない」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それに、知らないおばちゃんには付いて行っちゃだめ、って慧音先生が言ってたでしょ」
「大ちゃん、あたい『あるばいと』ってやつをしてたんだよ」
「はいはい。雨が降りそうだから早く行こう」

やってきた大妖精は少しチルノと話すとこちらを向いた。

「みなさんこんにちは。あの、私たち用事があるので、失礼します」

そう言ってぺこりと頭を下げる。幻想郷には珍しく礼儀正しい妖精だ。

「まちなさい。ほら、今日のお礼よ」
「おお、忘れるとこだった」

紫は飛び去ろうとする二人を呼び止め、手に持っていた袋の中から飴の袋を取り出してチルノに手渡す。

「チルノちゃん、それ何?」
「飴。『あるばいと』のほーしゅーなの。大ちゃんにも分けてあげるよ」
「? ありがとう」

そんな会話をしながら妖精達は今度こそ帰って行った。

「では紫様、私たちも帰りましょう。すぐに雨が降って来るでしょう」
「そうね。じゃあね、お二人さん」

続いて紫と藍も割とあっさり帰って行った。もちろん隙間で。
隙間があるから雨は関係ないじゃん。まあ、別にいなくてもいいんだけどね。
ところで、帰り際に紫が私たちを見てにやにやしていたのが気になる。なんだろうか。あと箱は持って帰れ。

と、その時。

ごろごろ、どしゃん! ざばざばざば…
どこかに落ちた雷を合図にじゃかじゃかと雨が降ってきた。

「チルノ達、濡れたわね。…ところで文、あんた大丈夫なの?」
「はい。今日は用事もありませんから」
「ちがうわよ。寒さのことよ」
「へ? ああ、もう大丈夫ですよ」

そうは言うけれど、まだ少しだけ寒そうだ。仕方ない…

「あったかいお茶を出してあげるから、ゆっくりしてきいなさい」
「あ、ありがとうございます。今日は珍しく親切ですね」

失礼な。でも今日の私は機嫌が良いのだ。お茶の一杯や二杯振舞ってやる。お煎餅は出さないけど。
太陽が隠れたおかげでさっきよりも少し涼しく感じる。でも暑い。
文には緑茶を、自分には麦茶を用意する。

「ところであんた、なんであんな箱に入ってたのよ?」
「そ、それはですねー。言わなくちゃいけませんか?」
「なによ、言いたくないことなの?」
「いえ、なんというか…その、話しづらいといいますか…」
「そう、お茶は私が飲んであげるわ」
「わ、分かりました。話しますって」

一体何があったのか。顔を赤くしてうつむいている。なにこれ可愛い。

「見られちゃったんですよ」
「は? 誰に何を?」
「その…先日の霊夢さんとの膝枕を紫さんに」

ぴしっ。そんな音がした。
えっ? 見られていた? あれを、紫に?

「それで一回だけ暇つぶしにつきあえ、って」
「ちょっ、ちょっと待って! あれ、見られてたの?」
「はい」
「うそ…」

あれを見られていたなんて。恥ずかしすぎる。あの後私たちも我に帰ってから、恥ずかしくて目を合わせられなかった。
文が帰ってからも一人悶えていたくらいだ。
自分でも「たかが膝枕で」と思うが、恥ずかしいものは仕方がない。

ああ、また思い出してしまった。文のふともも…気持ちよかったなあ、って…

「うがぁー!」
「ちょ、霊夢さん。どうしたんですか」
「うるさい。恥ずかしくて死にそうなのよ!」
「だからってそんな箱に籠らなくても…」
「うにゃー!」

まったく、霊夢さんは。確かに恥ずかしかったけれど、ちょっと大げさでしょう。でも、こういうところが可愛いいんですけどね。
今日は割と早く立ち直った文は、箱の中で悶える霊夢を想像してにやにやしていた。体はすっかり温かくなっている。

「雨、止まないといいなぁ…」

ふと呟いた言葉は、しかし雨音にかき消される。
ごろごろ、どしゃん! またどこかに雷が落ちた。まだしばらく、このひと時を楽しめそうだ。
8月9日は八雲の日。
え? 「も」はどこかって?
それは…君たちの心の中さ。


というわけで、八雲家を書こうと思いました。でもなぜか、あやれいむ。
…まあいいか


読んでいただきありがとうございました。
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コメント



1.削除
良かった。
だから約三分のフライングは気にしない。
2.けやっきー削除
それはもう可愛らしい霊夢でした!
これだけで済ませる紫じゃなさそうで…w
また何かふっかけそうw
3.名前が無い程度の能力削除
八月九日は「厄神様の日」もありだと思います!
4.万年削除
俺の隣で雛が「89いです」って涙目なんだけど
5.奇声を発する程度の能力削除
そうか…もは私達の心の中に有ったのか…(違

とても良かったです!