Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ナズーリンの機嫌が悪いようです。

2010/08/08 14:37:25
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「今日のお昼ご飯は小さじ一杯の塩と茶碗に小盛りの粥、以上。水なりお茶なりは、ご自分で用意するんですね、ご主人様」
「え……え?」
「ちなみに、他の選択肢は残念ながらありません。今日はご主人様のせいでいつもより早くお腹が減ったので、私の方は残っていた一人前の冷麦で、もう済ませました。棚の中のおまんじゅうとおはぎ、それから今朝頂いたお中元の夏野菜とお漬物、他色々は子ネズミ達へ支給済です。ああ、お供え物も私達の方で片付けておきました。それでは」
「あ、ナズー……うぅ、どうしたっていうんですか……」





 ナズーリンの機嫌が悪いようです。ナズーリンがこうなってしまっているのは、おそらく今日の朝から。思い返せば、昨日はそのような素振りは見せていなかったのに、一緒に朝ご飯を食べた時には既に、いつもと違って不機嫌そうな顔をしていたのが見て取れました。ただ、その不満の矛先が私だったなんて、今のナズーリンの発言まで気付きませんでした。

 もしかして、気付かないうちにひどいことをしていたのかもしれません。反省です、猛省です、謝罪です。お詫びに、ナズーリンが好きな胡麻煎餅を調達してこなくてはいけません。いつものナズーリンに戻ってもらわなくては。そして、一汁三菜で果物付き食後のおやつありの、健全で健康的な晩ご飯を用意してもらわなければ。

 とは言え、原因が何か分からないことには、こちらとしても上手に謝ることが出来ません。今日の行動を振り返ってみるとしますか。

 まず、朝五時にナズーリンを起こした後、歯みがきと洗顔、着替えをしました。その後で本堂を軽く掃除してから、一時間ほど朝のお勤めです。ナズーリンはいつも通り、外の縁側で煎茶をすすっていました。

 ここまでは問題ないと思います。いつも通りの毎日でしたから。……と言いますか、そこから先も、いつもと変わらないはずなんですよね。食事を頂いて、本堂、祖師堂、位牌堂、客殿、台所、寝所、庭、便所、物置と掃除を分担して。あ、明日は一件法事が入っているのでその準備を少ししましたが、ナズーリンは関わっていないことなので、これも違うでしょう。休憩にお茶を一杯飲んだ後は……ナズーリンと外を散歩して、お経を読んで。ナズーリンの気に障ることは、何もしていないはずなんですけどね。となると……ああ、お昼ご飯が足りなくてお腹が空いて頭が働きません。何でもいいのでお腹に少し――





「机にうっつぶして悩んでおられる最中申し訳ないが、ご主人様」
「っはい! 何ですか!?」
「そこまで驚かれても困ります」
「す、すみません。少し考え事をしていまして」
「食器を洗いたいので、その辺りのものを取っていただけますか?」
「ええ、ありがとうございます」
「何か、言いたいことでも?」
「え、ええ、ちょっと……」

 いきなり声をかけられて驚きましたが、よく見ると、先ほどまでの突き放すような冷たさは感じません。とにかく謝るのが先か、それとなく原因を探るのが先か、もう気にしなくなったのか、そもそも私の思い過ごしだったり勘違いだったりしたのか、いずれにせよ話を聞くチャンスです。えーと、どう切り出したものでしょう。

「お、お腹、好きましたね。晩ご飯にはたくさんご飯を炊きましょうね」
「お昼を食べたばかりなのにもう夜の話題とは。少し卑しくないですか」
「え、ええ、その通りです、よね」
「ええ、まったく」

 言いたいのはこんなことではないんです! ああ、悪いのはこちらだと思うと、直球に訊きたい事を訊けなくて、どうにも難しいですね。下手なことをして、余計に怒らせてしまうことだけは避けたいですし。

 あれ、ナズーリンの胸元のペンデュラム、光ってますね。しかも、私の方を向いて。私の後ろには椅子と壁しかないので、おそらく私を指しているのでしょう。もしかして、ナズーリンの探し物を、知らないうちに邪魔してしまっていたのでしょうか。だからナズーリンは不機嫌だったんですね。上司として気付くのがあまりに遅かった、謝りましょう。そして、どんな罵詈雑言でも受け止めましょう。

「ナズーリン、本当に申し訳ありませんでした」
「さて、何のことでしょう」
「ナズーリンの探し物を、私が邪魔していて、それで怒ってるんですよね? 私に出来ることでしたら、何でも言って下さい。協力します」

 笑みをこぼしながら、何かを言いたそうにするナズーリン。多分このことだったんですね、よかった。ようやく機嫌が戻ってくれるかと思うと……ああ、またお腹が空いてきました。

「ご主人、朝に私の部屋に来た時、何かを持ち出さなかっただろうか?」
「ナズーリンの部屋、で、ですか?」
「まだ思い出せないかな、私の日記帳を懐にしまっていること。私のダウジングに間違いはあまりないのだが」
「え……、あ? あぁ、そうでした! 本当にすみませんでした! 机の脇に落ちていたのを戻そうと思ったのですが、戻す場所が分からなくて、ナズーリンを起こしてから訊こうとしたら、どういうわけか忘れてしまって」
「言い訳と謝罪は後でいいから、まずは返して欲しい」
「はい……本当にすみませんでした……」
「ところでご主人、見ましたか? 中身」
「い、いいえ! 盗み見はしていないと、毘沙門天様に誓って言います! 本当に、落ちていた日記帳を棚に戻そうとして、その場所をナズーリンに訊くのを忘れてしまって持ち歩いていただけです」
「まぁ、ご主人がそんな後ろめたいことをする人じゃないことも、記憶の一部分が抜け落ちやすいのも分かっています。それよりも、です」
「それより、も?」
「私が怒っているのは、実はそこではありません。そこにまだ気付かないでしょうか? こういうことを自分からバラさせるのは公開処刑としか思えないのですが。良い主人もいたものです」
「……すみません、教えて下さい」
「私がご主人のことをご主人様と呼ぶのは、どんな時になってから、という約束でしたっけ?」

 頭にずっとかかっていたもやが晴れていく爽快な感覚、ものすごく気持ちいいです。思い出しました。数年前だったか、数十年前だったか、そう遠くないけど近くもない昔に、ナズーリンとしていた約束がありました。確か、こう言ってました。ご主人には毘沙門天の弟子として、命蓮寺の代表として、妖怪らしさを表に出せない事情を差し引いても、あまりに威厳と畏怖が足りない。この足りない威厳と畏怖を備え、主人に足る振る舞いを確立した時こそ、ご主人様と呼ばせていただきます。それまでは……と、こんな感じのことを。





「勘違いしないで欲しい。約束が守られたと思ったから言ってみたのではなく、ご主人がこの約束を覚えているかどうか確かめるために言ってみただけだ」
「あ、いつの間にか呼び方戻してましたね」
「まあ私も、ご主人に日記を見られたと勘違いして焦って中身を振り返るまでは、そんなことを約束して日記に書き留めていたなんてすっかり忘れていたから、あんまりご主人のことは強く言えないのですが」
「本当に、人をからかうのが好きなんですね」
「寅をからかうのが好きなんです」
「私以外に同じ態度を取ろうものなら、間違いなくお陀仏ですよ。まあ、私で済むのならお好きにどうぞ。他の人に迷惑をかけない程度に」
「ご主人は迷惑と思っていない、と。こちらとしては光栄に思う」
「思い上がらないで下さい。良い迷惑です」
 
 
 
ナズ:スパイ
星 :大将
聖 :中将
村紗と一輪:少将
ぬえ:飛行機
小傘:地雷

途中で、星蓮船メンツでの軍人将棋のこんな力関係が思い浮かんだ、というのは前置き。


どこだか忘れたけどナズのご主人(様)呼称論議に参加したくて書きました。分かってる、分かってるけど脳内のナズは星ちゃんのことをニヒリスティックにご主人と呼ぶ姿しか浮かばない。もちろん、ご主人様と呼ぶナズも美味しく頂きますけど!
りゅう~
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
そんな素晴らしい論議があるのか!
2.ぺ・四潤削除
何その論議ww
昼はご主人。夜はご主人様と呼ぶのが俺の脳内設定。
3.拡散ポンプ削除
非常に実りのある議論だ。

「まったく、ご主人はこれだから…」
こんな口癖だけど実はこっそり慕っている。

私の中のナズーリンはこんな感じ。
4.名前が無い程度の能力削除
普段はご主人、信者の前ではご主人様、そして夜は呼び捨てだ!
5.けやっきー削除
>ナズは星ちゃんのことをニヒリスティックにご主人と呼ぶ姿
まさに自分の脳内通り…
6.名前が無い程度の能力削除
友人にクジャクヤママユを潰されたナズーリン
「つまり君はそういう奴だったんだな」