「なにこれ……」
「なにって、抱きしめろってお前がうるさく言うからしてやってるんだろう」
「確かに言ったけど、なんかおかしくない?」
「別におかしくはない」
「いやいや、よく見てよ。すごくおざなりと言うか。私の肩に片腕乗せてるだけだよね? しかも本読みながら」
「読書中にお前が来たからだろ」
「それはそうだけど、これはないんじゃない。せめて、もうちょっと姉から妹への愛を見せてほしい」
「はぁ。わかったよ。ほら、両腕。」
「何そのやっつけ仕事! 抱きつき方だっておかしいよ! これじゃあ単に子供にじゃれつかれてるだけみたい。」
「子供なのはお前だろ。私より5歳も下のくせに。だいたい、この前の朝だって一人で寝るのが怖いとか言って私の所に来たのは――」
「私。でも、『この前』って言うけどさ、数百年前の話だよね、それ。それに、今はお姉さまの抱きつき方についての話でしょ。わかってるくせに誤魔化そうとしないでよ」
「……どうしろと」
「もっとさ、あるんじゃないかな。こう、ただギュッとするんじゃなくて、ぎゅうっていう抱きしめ方が」
「お前は何を言ってるんだ」
「そういうお姉さまを見てみたいって言ってるの」
「ふふ」
「えへ」
「死んでも断る!!」
「なんで!? 死ぬほど嫌なことなの!? 別にちゅーしろとかおやつ寄こせとかって言ってるわけじゃないじゃん! なんで駄目なの!?」
「なんとなく」
「なんとなく!? もういいよ! お姉さまの馬鹿! してくれないなら、私が勝手にぎゅうっするから!」
(ぎりぎりぎり)
「だだだだだ! ちょっ、わかったから離れろ! 愛が痛いわ!!」
「本当? してくれるの?」
「ああ、まだ死にたくないからな。でもフラン、こういうのはむやみやたらとするもんじゃない。いきなりそれじゃあ趣がないと思わないか。結果ではなくそこに至る気持ちを私は大切にしたいんだよ。心が伴わない行為なんて虚しいだけ。そんなものはする価値もないと思っているくらい」
「うわぁ。いろいろもっともらしいこと言ってるけど、要はしたくないだけなんだよね?」
「お、お前。いつからそんな歪んだ眼で姉を見るように……」
「え? もしかして本気だったの? それもどうかと思うけど。500年も生きてるといろいろめんどくさいこと考えるようになるもんなんだね」
「お前と私は5歳しか違わないだろ!」
「……前から思ってたけど、お姉さまってほんと勝手だよね」
「いいから。騙されたと思ってお前もそう心掛けてみろ。そうした方がこれから先、ずっと楽しく生きられるから。だから、今度……そう、いつかフランが泣いた時にでもしてあげる――って、言ってる傍から泣くな――!」
「えぐっえぐっ」
「急になんなんだお前は。しかも、本気泣きって」
「えぅぐ。だって、そんなこと言ったらいつになるかわかんないじゃん。こうして誰も傷付けないで外に出られている訳だし、お姉さまの傍にもいられるんだし。今の私は泣くほど悲しいことなんてないんだよ」
「……前のフランは、泣いていた?」
「えへ。それはもう昔の話。あぁ、でも、今でも泣きたくなる時はあるか。幸せすぎて、だけれど」
「――っ」
「わわっ。お、お姉さま? むやみにするのは嫌なんじゃなかったの?」
「いいんだよ。さっきお前が泣いたんだから」
「あは。そう。……なんかお姉さまの方が泣きそうだけれどね」
「うるさいな。お前は私の妹なんだから、おとなしく私に慰められて甘えていればいいんだよ」
それが可愛い子だとなお良し。
この二人だからさらに良し!
ちっちゃいこと議論してるとなんか微笑ましいですよね
すごく良かった。