翌日、永遠亭 客室
「ん…ふわぁ~~~~っ、ふぅ」
今日も朝が来た、何もしていなくても来るいつもの朝が。
「くぅ…すぅ…」
私の横にはまだ寝ているチルノが居る、そっと手でチルノのさらさらとした髪をなでてみた。少し冷たい。
いや、自分が天人だから冷たいで済むがこれが普通の人間なら凍傷してしまうだろう。
「チルノ」
そっとチルノを抱き寄せる。やはりチルノは冷たいがトク…トクと鼓動が聞こえてくる、小さい寝息も聞こえる。
「チルノ…」
ぎゅっとチルノを抱きしめる。よりハッキリとチルノの存在と鼓動を感じられた。
この子は私よりずっとかわいそうだ。
先程も言った通り人間はチルノに不用意に触ると凍傷してしまう。
それに、人間から妖精に歩み寄るなんてほとんどない、あって子供が遊びで捕まえようとするぐらい。
チルノには、それすらも無い。
妖怪ならどうか、それもだめだ。
確かに凍傷したり寒さで震えたりはしないだろう。
しかし、チルノは力は強くとも結局はただの妖精、自由気ままに一人で生きる妖怪が一匹の妖精如きに構ったりなどは普通ない。
ならチルノの種族でもある妖精ならどうか、やはりこれもだめだ。
妖精は主に陽気と暖気を好む。冷気を軸とするチルノは妖精たちに爪弾きにされてしまうのだ。
『んー、何て言うか、ちょうど私も天子みたいな時があったんだよ。そんで天子を見た時そんな感じがしたから。今、私は大ちゃんとか友達が何人か居るから大丈夫だけど…、辛いよね』
チルノの言葉を思い出す、周りから嫌われて疎まれて居ただけの私と存在の根本から否定されたチルノ。
「ん…」
チルノが少し苦しそうにしたので抱く力を弱くする、そして天子はチルノの顔を覗き込む。
するとチルノは泣いていた。
「てんしぃ…」
「チルノ?」
「てんし…どこ…?」
「私はここよ?」
そう言ってチルノを再び抱きしめる、するとチルノは必死に天子にしがみついた。
「チルノ…大丈夫、大丈夫だから…」
「てんしぃ…」
―――もう、一人は…やだ…。
チルノの目からまた一筋の涙が流れる。
ああ、ホントにこの子は可哀想だ。夢の中くらい楽しい夢を見たっていいのに、この子の心がそれを拒絶する。この子の傷がこの子を傷付けていく。
舌でチルノの涙を拭ってあげる、何度も何度も愛しさを込めて。
『大丈夫、私は此処に居る』
するとチルノは次第に安心した顔になった。
それを確認した私はチルノを起こさないように布団から出た。
永遠亭、廊下
「おはよう」
「あ、おはよう、永琳」
「ええ、おはよう。体の調子はどう?」
「んー…まあまあ、かな」
「嘘おっしゃい」
永琳はクスリと笑って天子の脇腹を軽く小突いた。
「~~~~~~~~っ!!!」
「ほんとはまだ痛いんでしょう?応急処置してあげるから来なさい」
「…うん。あ、そうだ。永琳、この後出掛けたいんだけど…」
「だから応急処理なのよ」
どうやら永琳に見抜かれていたらしい。何故解ったかを聞いてみると、
「昔に小さい子を二人もずっと見てたから…かしらね」
私は子供じゃない、と永琳に言うと「私から見たら子供よ」と言われた。そりゃそうだ。
永遠亭、治療室
「はい、これで終わりよ」
「あ、ホントに楽になった」
「当たり前よ、何年医者やってると思ってるのよ、それとハイ」
永琳が渡したのは筆とインク、それと数枚の紙。
「…永琳?」
「昔に小さい子を二人もずっと見てたから、貴女がすることなんてお見通しよ」
やはり見抜かれていた、多分永琳を抜く事は一生誰にも出来ないのではないか。
「ありがとう」
「どういたしまして、行ってらっしゃい」
「うん」
三十分後、天子は永遠亭を後にした。
昼、マヨヒガ
「此処…かしらね、何か見た事がない物も色々置いてあるわね」
あの後霊夢に紫の住んでいる場所を教えてもらいマヨヒガまでやって来た。
「天子ですーー!誰か居ますかーー?」
何回かドアをコンコンと二回ノックしたが出ないので呼びかけてみる。
「うーん、いなのかなぁ…」
そう言って一度帰ろうとしようとすると隙間が開いて私は落下した。
「うわぁ!!」
「いらっしゃい」
落ちた先は居間の様な部屋でそこには机を挟んで寝巻のままの紫が居た。
「あ、おはよう」
「こんな朝早くから何の用?地震を止める自信が無くなったとか言わないわよね?」
「それは大丈夫、多分上手くいく方法が見つかった」
「…聞いておくけどその方法は?」
「人柱」
その言葉を聞いて紫は眼を見開く。
「…本気?」
「本気」
「チルノはどうするの?」
「チルノやチルノの友達が死なない事が第一条件だから無責任になっちゃうけど仕方ないかも」
「あの子の事が…好きなんじゃないの?」
「…死んでほしくない、チルノは死んだら今度こそ一人ぼっちになっちゃうから。それが私が居なくなるだけ済むなら…」
「バカね…あの子よりよっぽどバカよ」
「うん…」
「天子」
そう言って紫に抱きしめられる。
「…本当に良いの?」
「…もう決めた」
「…ごめんなさいね」
「ううん、紫は悪くない。誰も悪くない」
「そう…。それで相談事は?」
「私に結界を教えて」
「簡単じゃないわよ?」
「それでもやる」
「決定ね、藍!!」
紫は私を解放し帯に挿していた扇子を取りだし一振り、隙間を形成する。
「そうそう、コレ。はい」
そこから取り出したモノを私に投げる。
「これは…お守り?」
「そ、お守り、大事にしなさい?」
「うん。あ、そうだ。もう一つお願いがあるんだけど」
「ん?」
「髪、切ってくれない?」
「…長さは?」
「ショート」
それを聞いた紫はまた扇子を振る、すると私の髪は指定通りショートヘア―になった。
「これでいい?」
「うん、ありがとう」
「…似合ってるわよ?」
「…ありがとう」
襖が開く。
「お呼びですか?紫様」
「今から天子に一日で結界術を叩き込むわよ!準備しなさい!!」
「はい!!」
「天子、頑張るのよ?」
「うん!!」
その頃、永遠亭
「あれ、朝?」
「起きた?チルノ」
「ん?ん~、あ、えりーん」
「おはよう、チルノ」
「おはよー、あれ?天子は?」
「出掛けてるわ。あと、起きたらこれを渡してくれって」
「?」
永琳に渡された手紙を読んだチルノは手紙を落とした。落ちた手紙を永琳が拾い読む。すると―――
『ゴメン、ありがとう。さようなら』
「あの子…バカ…」
そこには呆れる薬師と意味を理解する事を拒否した氷精が居た。
をの方が違和感が無いような…私だけ?(違ってたらすいません…orz
続きキター!!この続きがマジで楽しみです。