" />あやさんちにて 作者: 喉飴
Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あやさんちにて

2010/08/06 23:48:22
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「へぇ、案外綺麗な部屋ね」
「勿論よ。これでも割と綺麗好きなの。あ、適当に座って。お茶でも入れるから」
「お茶菓子もー」
「はいはい、まったく」

 遠慮を知らないのか、と呆れたようにため息を吐き、ジトっと睨む文から、わざとらしく目線をそらす霊夢。
 霊夢と文。この二人が一緒に居ること自体は、さほど珍しいものではない。だが、今日は珍しいことだ。何故なら、二人が今居る場所が、博麗神社ではなく文の家だからだ。
 始まりは、霊夢の好奇心からだった。紅魔館や白玉楼、魔理沙の家やアリスの家などには行ったことあるが、文の家は訪れたことが無かった。しかも、妖怪の山に住んでいるということは分かっているが、誰も文の家を知らなかったのだ。
意外に秘密主義なのかもしれない、と少し興味を持った霊夢だったが、本人にダメ元で頼んでみたら、あっさりオーケーを貰い、今に至る。
 洋よりは和の方が好きな霊夢にとって、文の室内は結構気に入るものだった。畳の床に、木製の箪笥や卓袱台。そして何故か掛け軸に「幻想郷最速」と無駄に達筆で書かれている。そして一つだけ、大きな机がある。その上には、何やらたくさんの資料や写真、新聞が重ねて置いてあった。恐らく、普段はその机で記事を練っているのだろう。

「なんていうか、意外」
「何が? あ、これお茶と水羊羹ね」
「ん、あんがと」

 文からお茶と水羊羹を手渡された霊夢は、とりあえず卓袱台の上に置くことにした。そして、きょろきょろと珍しい物を見るような眼で、辺りを見渡す。

「そんなに珍しい? あなたの所と大して変わらないと思うけど」
「いや、新聞作ってるっていうから、やっぱりもっとごちゃごちゃしてるのかなって」
「印刷自体は別に自宅じゃなくて、印刷所でするからね。それに、ごちゃごちゃしていたら、何処になんの資料があるかとか分からなくて、逆に詰まっちゃうのよ。だから、記者にとっては、どんなに時間がなくても掃除だけはこまめにするのが基本ね」
「あ、この水羊羹美味しい」
「人の話聞いてないわよね……」

 文の言葉を軽く無視しながら、いつ間にか座って水羊羹を食べている霊夢。
 ため息を吐いて、文も座る。お茶を啜り、軽く一息。

「で? 今日はまたなんで突然、私の家に来たいなんて思ったの?」
「別に。ただの好奇心よ。あんたの家って行ったことなかったし。もしかして、何か秘密にしてるのかなーって」
「秘密にしてたわけじゃないけど。ただ、私の家に来たら部屋を汚して帰りそうなメンツが多いから、今まで誘わなかっただけで」

 霊夢はふと頭に、魔理沙と萃香が浮かんだ。文と親しい者だが、この二人も一度も文の家には行ったことがないと言っていた。そして、なるほどと納得出来る理由だった。確かに魔理沙も萃香も、掃除という言葉を知らないんじゃないかというような性格であることは、容易に推測できた。
 だが、ここで霊夢はふと思う。

「ねぇ、私は良いの?」
「あぁ、巫女は一見大雑把で面倒くさがり屋でまさにダメな子って感じですが、実は中々の綺麗好きって知ってるから。いや、綺麗好きと言うか、マメな性格なのかしらね。なんだかんだで境内はいつも綺麗だし、宴会の後の後片付けも文句言いつつちゃんとこなすし」
「前半で殴りたくなったけど、後半褒めてるから許してあげる」
「それは良かった」

 まったく動じない文を見て、霊夢はやっぱり殴ってやろうかという衝動に駆られたが、なんとか抑える。
 お茶を少し乱暴に啜り、文をジッと睨むだけに留めた。

「何? 私の分の水羊羹まで欲しいの?」
「な、違っ!?」
「でも、これもう口つけちゃったから。新しいの持ってくるわね。おとなしくしててね」
「おとなしく待ってまーす」

 最初は否定しようとしたが、予想外にもう一度水羊羹が食べられることになったので、一気に従順になる。チャンスは逃さないのが博麗だ。いや、霊夢だ。
 わくわくわくわく。まだかなまだかな。霊夢は今、そんな気持ちでいっぱいだ。今の霊夢に動物耳が生えていたら、ぴこぴこと動いていることだろう。尻尾も生えていたら、ふりふりと忙しく動かしているのが想像できる。二人の今の関係を表すなら、飼い主である文に、待てと命令されてるような状態だ。

「はい、お待たせ~」
「ありがと、文」

 霊夢は、新たな水羊羹をゲットした。
 一口食べると、とても幸せそうに頬を緩ませる。そんな霊夢を見て、文は穏やかな笑みを浮かべている。まるで、愛しい我が子を見つめる親のような、そんな感じだ。
 視線を感じた霊夢は、文の方へ向く。視線が交わる。言葉は、ない。
 にこにこ笑顔の文。だが、無言。霊夢からすれば、気持ち悪いことこの上なかった。

「何よ? 気持ち悪いわね」
「いやーこうして見ると、博麗の巫女とはいえただの少女だなぁと」
「褒めてるのかけなしてるのか」
「別にどっちでもないわ。ただ、こんなおやつ一つに良い笑顔を浮かべる目の前の少女が可愛らしいな、と」
「こんなとは何よ。羊羹が好きだった素晴らしい作家とか居るのよ。あんたは全世界の羊羹に謝罪しなさい」
「はいはい、ごめんごめん。で? この後どうするつもり? ただ私の家を見に来ただけなら、もう用事はないんじゃない?」

 文の言葉に、霊夢は水羊羹を一欠けら片手に、なにやら考えている様子だ。恐らく、家を見てみること以外には、何も考えていなかったのだろう。
 はむっと水羊羹を口に運び、んぐんぐと噛んでしっかりと味わう。そして、一言。

「どうしようかしら?」
「あのねぇ……訊いたのは私の方なんだけど」
「いやー帰ってもいいんだけどね、せっかくここまで来たんだし、すぐ帰るのも勿体ないかなって。文はどうして欲しいー?」
「別に、勝手に来たいって言ったのはあなただし、好きな時に帰れば良いんじゃない?」
「……なんか冷めてるわねぇ。もっと何かないの? 帰っちゃ寂しいから一緒にいてー、とか」
「私が本当にそんなこと言ったらどうするのよ?」
「全力で引く。うわっ、気持ち悪っ! みたいな感じで」
「……ま、私があなたにそんなことを言うなんて、一秒後に幻想郷が滅びるって可能性くらいにありえないから安心しなさい」
「それはそれで、なんか腹立つわね。私の存在なんかどうでもいいって言ってるみたいで」
「もう、じゃあ私にどうしろって言うのよ……」

 文は自分の額に手をついて、大きくため息を零す。
 霊夢は霊夢で、少し不機嫌そうな表情だ。それを見て、文はまたため息を一つ。わざとらしく、霊夢に困っていると言っているように。

「こう、なんていうかさ、うーん……」

 霊夢は何か言いたそうに言葉を紡ごうとするが、言いたいことを上手く表すことが出来ず、唸る。
 そして、しばらくして、言葉らしい言葉を発する。

「そう、なんかあんたって、人には近寄ってくるくせに、自分が近寄られることには慣れてないんじゃない?」
「は?」
「だって、素っ気無さすぎじゃない。もし私がさっき、今日は泊まっていくとか言いだしたら、どうするつもりだったのよ?」
「いや、普通に泊めるけど」
「普通、いきなりそんなこと言われたら、愚痴の一つでも零したりしない? もしかして、あんた慣れてないからどうしていいか分からなくて、そのまま流れに任せるだけって感じにしてるんじゃないの?」
「あはは、面白い説ね。でも仮にそうだとしても、誰にも迷惑かけてないし、良いと思うけど?」
「む……それは、そうかもしれないけど」
「それに、それが真実かどうかは分からないでしょ? はい、見事な推理御苦労さまでしたー」
「ちょ、こら! 頭撫でるなぁ!」

 目を細めて、良い子良い子と霊夢の頭を撫でる文。
 霊夢はやめろやめろと抵抗するが、文の手は止まらない。払いのけても、すぐまた撫でられる。なんだか子ども扱いをされているようで、霊夢はかちんときた。

「もうっ! やめないと、本当に泊まってくわよ! 超迷惑かけてやる!」
「だから私は、別にどうぞってさっきから言ってるわよ。あ、布団はちゃんと二つあるから安心して。下着とかは、貸すことになっちゃうかもだけど」
「っ!? 誰が泊まるって言ったのよ!」
「いや、巫女でしょう」

 冷静な文に対して、子どもみたいにムキになっている霊夢。見た目は割と二人とも、同年代くらいに見えるが、中身は違う。その差が今、現れているような感じだ。
 文からすれば、可愛らしい子どもがぎゃあぎゃあじたばた暴れているようにしか見えず、微笑ましいくらいの気持ちだ。

「はいはい、まぁそう熱くならないで」
「そのあんたの態度が――」
「お饅頭もあるけど、食べる?」
「食べるわよこんちくしょうっ!」

 熱くなっていても、欲望に忠実な霊夢だった。
 にやにやとした笑みを浮かべている文を、ジッと睨むだけしかできない。

「本当、あなたは面白いわ」
「うっさい!」

 霊夢は少し頬を赤く染めて、差し出されたお饅頭を美味しい美味しいと嬉しそうに食べる。
 なんとなく、和む文。

「これ食べたら、帰る」
「あやややや? 泊まっていかないので?」
「あら? やっぱり寂しいの?」
「いえ、まったくこれっぽっちも」
「やっぱ腹立つわね、あんた」
「……冗談よ。うん、ちょっとは寂しいかもね」
「へ?」

 突然、文の様子が変わったことにより、思わずぽかんとしてしまう。
 文は少しだけ、そう、ほんの少しだけ寂しさを漂わせる表情で、言った。けれども、表面は笑顔。おそらく、ほとんどの者が気付くことが出来ないくらいに、その笑顔は完璧に近かった。
 しかし、霊夢は気付いた。元から持っている勘の鋭さか、ほんの偶然かは分からない。だが、確かに気付けた。

「えっと、文」
「ううん、なんでもないわ。さ、早く帰りなさい。遅くならないうちに帰った方が安全よ。ここは物騒だからね。あなたがやられるとは思わないけど、日が沈めば沈むほど、知能の低い低級妖怪が群れをなすこともあるから」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「何? まだ何か用事? 言っておくけど、さすがにもうおやつはないわよ」
「おやつなんてどうでもいっ……や、よくないけど、よくないけど! 今はそれよりも、あんたのこと――」

 そこまで言って、霊夢は文の肩がぷるぷる震えていることに気付いた。今は俯いているせいで、表情をうかがうことは出来ないが、霊夢はそれを見て、文が泣いているのではないかと思った。
 だが、その予想は大きく外れる。

「く、あははっ! いやぁ、本当に可愛い! 普段はぐーたらしてそうな巫女は、実は他人を思いやれるとっても優しい女の子。うん、これは記事にしたいくらいね」
「なっ!? あ、あんたまさか、今までの全部演技!?」
「いやー私の演技力も捨てたもんじゃないわね。あなたを見事、欺けるなんて――って、そんな怖い顔しないでよ」
「よし、歯ぁ食いしばりなさい。あんたの長い人生、今日で終わらせてあげるから」
「おぉ、怖い怖い」

 意地悪い笑みを浮かべる文に、霊夢は怒りやら恥ずかしさやらで、右手をグーにしたままぷるぷると震えている。
 霊夢は、この天狗どうやって始末してやろうか、などと割と物騒なことを考える。

「けどね、霊夢」
「何よ!?」
「正直、結構嬉しかったわ。これは本当」
「へ?」

 いつの間にか、意地悪い笑みはふにゃっとした柔らかい笑みに変わっていた。
その笑みが、いつもよりもどこか幼く感じられて、霊夢は普段とのギャップに少し戸惑う。

「私を想っての行動、嬉しかったわよ」
「はっ!?」
「ありがと、霊夢」
「や、別にあんたのためとかじゃなくて、なんていうかーそのー」

 うーうー唸って言葉を探すが、何も上手い言葉が出てこない。
 結局、何も言えずに、ただ文から視線をそらした。

「あ、あんたは何が冗談で何が本当なのか、分からない」
「こういう性格だからね。とりあえず、巫女が可愛いことは分かったわ」
「っ!? き、今日はやっぱ帰るわ」
「あら、それは残念」

 その場から逃げるように去ろうとする霊夢。

「あ、霊夢」
「……何よ?」

 文の声に、ぴたりと足を止める。
 顔は見ないで、背を向けたまま。

「またいつでも、遊びに来ていいわよ。霊夢ならいつでも大歓迎。面白いし、可愛いしね」

 顔は見ていなくても、文が笑顔だということが良く分かった。
 どうせ何を言っても文を調子つかせるだけだと判断した霊夢は、そのまま何も言わずに家を出て行く。
 霊夢は言葉には出さなかったが、心の中で、またいつか来てやると呟いていた。
 そして今度来た時、絶対に今日の弄られまくった分の借りを返してやると、心に誓った。
 こういう負けず嫌いなところも、文になんだかんだで子どもっぽいと思わせている要因の一つだとは、気付いていない。
 
8月6日はあやれいむの日!
というわけで、どうもあやれいむ布教委員会会長の喉飴です。
いつもは霊夢さん優勢な感じで書いてますが、今回は逆にしてみました。
いろいろ言いたいことはありますが、長くなるので一言だけ。
あやれいむ!
それでは今回のお話、少しでも楽しんでもらえたなら、嬉しいです。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価奇声を発する程度の能力 削除
会長ー!!!!やっぱ会長が居ないと始まらない!
とても素晴らしいあやれいむでした!
2.無評価拡散ポンプ 削除
待ってました!

私としては文が優勢のほうが自然に感じます。年齢的に。
あやれいむ、ごちそうさまです。
3.無評価唯 削除
ヒャッハー!会長だぁ!!
やはり祭りは貴方が締めなければならない!
今回も最高でした!!!
4.無評価喇 削除
会長!あやれいむの日大トリとは、狙ってましたね?(ぇ

ともあれ、もどかしい感じがすごくいいです。
極上の砂糖菓子、ありがとうございます!
5.無評価名前が無い程度の能力 削除
うあぁこの霊夢すっごく可愛い!
おねぇさんな文もいいですねぇ。
絶対喉飴さんは来るって信じて待ってた甲斐がありました。
これでぐっすり寝られます。
6.無評価名前が無い程度の能力 削除
やっぱりあやれいむは喉飴さんじゃないとだめかー!
すごいなーあこがれちゃうなー!
7.無評価名前が無い程度の能力 削除
会長おおおおおおお!!
8/6ギリギリを狙ってくるとは…何となく予想してたけど!

これはいい姉妹な文と霊夢ですね。
人生経験の差がそのまま出てる感じ。
やはり会長のあやれいむは素晴らしいですわ…
8.無評価華彩神護 削除
甘い、甘いよ…。
GJ!!
9.無評価ケトゥアン 削除
合宿行く前、最後に読もうととっておいたのさ!
ありがとうございました!
これで、1週間、頑張れます。
…よし!
10.無評価オオガイ 削除
文さんに遊ばれる霊夢さんってのもなかなか良いですね。
この距離感大好物です!
11.無評価名前が無い程度の能力 削除
いろいろなあやれいむを楽しませてもらいました。会長に感謝です。
12.無評価名前が無い程度の能力 削除
あややのしたり顔にやにや顔は至高、それを一日独占できる霊夢はきっと特別な存在なのです
13.無評価なるるが 削除
こういう距離感もいいですなぁ…。
このSS、正にすばらしいの一言につきますとも!
14.無評価喉飴 削除
>>奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます!

>>拡散ポンプ様
ギリギリでしたーw
ありがとうございますっ。

>>唯様
最後ギリギリくらいを、ちょっぴり狙ってましたw
ありがとうございますー。

>>喇様
半分くらい狙ってましたw
糖分は多分10%くらいですよっ!

>>5様
いつもとは違った感じの二人でしたが、楽しんでもらえて良かったですっ。

>>6様
あやれいむの良さが伝われば嬉しいです。

>>7様
予想されちゃってましたかw
経験差が違うって感じですよねー。

>>華彩神護様
糖分はほとんどないですからー!

>>ケトゥアン様
こちらこそ、読んでくださってありがとうございます!
頑張ってくださいませ!

>>オオガイ様
微妙な距離感って最高ですよねっ!

>>11様
私も楽しい一日でしたっ!

>>12様
特別な存在って、なんか良いですよねー。

>>なるるが様
距離感は良いものです。
ありがとうございますっ!