Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

隠れた世界

2010/07/24 01:56:38
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ザア・・・・と風が吹き抜けて行く。なだらかな丘陵を埋め尽くす平原からは大きな湖とその中央にポツンとある孤島が見える。周りを山々に囲まれ、聞こえる音といったら、風の音と、木の葉がそよぐ音、鳥の鳴き声。それだけのものだ。

「へぇ・・・・これはまた居心地の良いところね」と蓮子が言って空を見上げる。
「どう?場所は分かる?」とメリーが問うと、蓮子は親指を立てる。
「空への遮蔽物は無し、自分たちがどこに立っているのか、1mm単位でも分かるわよ」と蓮子は自慢げに言って大きく伸びをする。
「あちこちに結界の残滓があるわね・・・・」とメリーが目を細める。
「私には見えないな」
「貴方に見えてしまったら私の立つ瀬が無いわ」とメリーが笑って近場の空間に手を伸ばす。が、すぐにその手を引っ込めてしまう。
「・・・・・どうしたの?」蓮子が問うと、メリーは少し複雑な表情をする。
「触れたら壊れてしまったわ・・・・とても古い結界みたい」と彼女は言う。
「もしかして、それが゛世界から隠れた世界゛の結界なの?」と蓮子が問うが、メリーは首を振る。
「これは、きっとこの土地の影響で偶発的にできてしまった結界の出来損ない見たいなモノだと思う」
「そんなものもあるのか」と蓮子が感心したように頷くと、メリーが微笑む。
「この程度のものは、結構あっちこっちにあるのよ・・・ただ・・・」とメリーがぐるりとあたりを見回す。
「その数が尋常じゃなく多いわね」『へぇ』と蓮子がため息のように言って自分の目の前に手を伸ばしてみる。
「蓮子。そこには何も無いわよ」
「見えてないんだ、ここに何も無いことも分からないわ」蓮子が良いながら手を広げてグルリとその場で一回転する。そしてそのまま後ろに倒れ込んだ。
「それにしても、気持ちが良いところね」
「えぇ、京都とは大違いね・・・・」
「あそこはモノも人も多すぎる。満ち足りているのが幸せとは思えないよ」蓮子が言いながら上半身を起こす。
「そうね、物足りない幸せなんてものも世の中にはあるのにね」とメリーが言って蓮子に習ってその場に倒れ込む。背の低い芝に倒れ込むと、無数に生えた芝がクッションとなって心地が良かった。少し湿った土の匂いと、草の青い匂い。
「メリー・・・・寝たらだめよ」と蓮子に言われてメリーは慌てて体を起こす。
「だ、大丈夫よ」
「少し危なかっただろう?」
「・・・・えぇ・・・まぁ・・・」少し俯いて答えると、蓮子が苦笑しているのが視界の隅に映った。













長く続く山道を歩きながら、蓮子は疑問に思う。
「ねぇ、メリー。獣道にしては随分と整った道だと思わない?」
「そうね、きちんと手入れされた道よね」とメリーも賛同する。きっと誰か、この土地の所有者か誰かが手入れしているのだろうと考えるのが妥当なところだろう。
「それにしても、随分と結界が不安定ね」とメリーが呟いて傍らの木を撫でる。
「そこにも結界が?」と蓮子が問うと、メリーが頷く。
「この山道の結界はしっかりしているわ・・・・ただ、結界としての役割を果たしていないけど・・・」メリーが思案するように眉根を寄せながら言う。
「結界としての役割・・・と言うと、世界の区分のことね・・・?」蓮子の問いにメリーが頷く。
「この結果は区分しているわけではなくて、何か力の流れの上に点在しているような感じ・・。うーん・・・・考えられるとしたら龍脈か何かの上に発生しているのかもしれないわ」
「じゃあその影響なのかもしれないな」と蓮子が頷く。
「その影響・・・?」メリーが問うと、蓮子が少し困ったような表情で自分の腕時計を示す。
「念のために持ってきておいて良かったわ・・・・ズレるのよね」言って空を見上げる。
「何が・・・?」
「私の能力で知れる時間と、この腕時計が示す時間が」
「それは奇妙ね・・・・時計の方がズレてるんじゃないかしら?」メリーの楽観的な言葉に、蓮子は眉根を寄せる。
「そう・・・かもしれない」そういえば、数年前に買ってもらったきり、一度しかつけたことが無い時計だった。なんと言っても、星の位置で時間を知れてしまうのだから時計など必要ない。再びザアと風が吹きぬける。
「―・・・・!」
「?」
「メリー・・・・?」不意に立ち止まったメリーに蓮子が呼びかける。
「・・・・蓮子?今の」
「今のって・・・?」
「・・・・ううん、なんでもない、気のせいだと思うわ」
「どうしたの?」と怪訝な顔で問う蓮子に、メリーは不可解な表情で小首をかしげる。
「声がね・・・」
「声?」
「そう、声が聞こえたのよ」メリーが言って目をつぶる。
「なんて言ってたの?」
「良く分からなかったわ。でも楽しそうな声・・・」そう言ってメリーは空を見上げる。
「そうか・・・・空耳、では無いかもしれないわね」蓮子が言ってイタズラっぽく微笑む。
「そうね、きっと空耳じゃ無いわ」メリーも微笑んで更に歩を進めるのであった。















山道は唐突に石造りの階段へと変わった。随分と長い階段らしく、頂上には小さく赤色の鳥居が見える。風化した階段は苔むし、時にボロボロと階段を構成する小石が崩れる。
「随分、危なげな階段ね」と半分ほど上ったところでようやくメリーが口を開いた。随分と疲れているようで、額には玉のような汗が浮かんでいる。しかし、それは蓮子も同じ。
「そうね・・・。上まで行ったら休憩ね」と額の汗を拭って階段をグングンと昇って行く。
「貴方は、文学系なのに随分とタフね」とメリーが小さく零すが、蓮子は小さく笑って答える。
「文学家は実は体力を使うんだ」
「初耳よ、それは」メリーの反論に蓮子は肩をすくませる。さて、もうすぐ頂上だ・・・。とメリーは気合いを入れてどうにか少し先を上る蓮子に追いつく。







唐突に、視界は開けた。





朱丹が幾分剥がれた鳥居はそれでも、どこか凛としてそこに佇んでいる。その向こうの神社の本堂の屋根は崩れ落ち、石畳からは雑草が不規則的に飛び出している。一目見てここには暫く人が現れていないことを伺わせる荒れ寺であった。

「メリー・・・どう?ここは」と蓮子が問うとメリーが小さく頷く。
「確かにここは今までとは比べ物にならないくらい結界の跡が色濃いわ・・・でも、やっぱり何か重要な結界では無さそう・・・」と彼女が行って鳥居に触れる。
「それに、この鳥居も鳥居から向こう側とこちら側を区分しているというよりは、この鳥居自体が大きな布石の一つのよう・・・・」とメリーが考察する。
「なるほど、ということはその鳥居の他にも幾つかの布石が点在していることになりそうね」と蓮子が言うがメリーは小首をかしげる。
「そうなのかしら・・・」
「布石ってそう言うものでしょう?」
「うーん・・・」と釈然としないようにメリーが唸る。メリーの目には鳥居に結界の痕跡が見当たらなかった。ただ、何か計り知れない力が働いているような、そんな感覚を覚えただけである。





「メリー!」と本堂の方へとフラフラと歩いて行っていた蓮子が声を上げる。
「何?」と振り返ると蓮子が満面の笑顔で手を振っていた。彼女の目の前には一つの賽銭箱が置いてある。近づいてみて、彼女が私を呼んだ理由が分かった。
「この賽銭箱は、あまり風化していないわね・・・」
「神社の本堂や、境内と比較すると随分と新しいもののように感じるわ」と蓮子が言ってポケットから財布を取り出す。
「・・・・・?」とメリーが小首をかしげる前で、蓮子は数枚の硬化を賽銭箱へと投げ入れた。そして二拍、一礼。
「こんな神社にご利益なんてあるのかしら・・・」とメリーが言うと蓮子が笑う。
「こんな神社だからこそ、ご利益があるかもしれないじゃない。ほら、モノや場所には長い時間を掛けて神様や精霊が宿るって言うでしょう」神道における八百万の神様の原理と一緒ね。と蓮子が続ける。確かに、形あるものには神様が宿り、それは時とともに大きな存在へとカタチを変える。もしかしたら、こんな神社にこそ本当にご利益があるのかもしれないと、メリーは頷いて財布を取り出す。
「あ・・・・」とメリーが小さく零す。
「どうしたの?」
「小銭が500円しかないわ」ふむぅ・・・・と唸ってメリーは500円硬貨を暫く見つめる。
「メリー、500円でご利益が変えるとするなら安いものだと私は思うわよ?」
「まぁ、そうでしょうけどね」とメリーが良いながら500円硬貨を放り込む。
「まるで、博打にお金をつぎ込んだ気分だわ」
「まぁそう言わないで、信じることが大切なのよ」と蓮子がメリーの肩を叩く。









カタッ・・・。





それは小さな音だった。どこから聞こえたのかといえば、賽銭箱から少し離れた、崩れた本堂の縁側。先ほどまで無かったものが・・・・・この崩れた荒れ寺には大よそ似つかわしくないものがそこに置かれていた。

漆塗りの盆に乗せられた冷えた二つの蕎麦茶と、二本の団子。
「・・・・・!?」とメリーが驚いている横で、蓮子は笑う。
「ほら、もうご利益の効果がでてきたじゃない」楽観的過ぎるとメリーは蓮子を見る。
「ところで、誰があれを持ってきてくれたんだと思う?」と続けて蓮子が問う。
「し、知らないわよ・・・・おかしいわ、あんな不思議なことがあったのに私の目には何も映らない・・・」とメリーが言いながら本堂の縁側の蕎麦茶が満たされた湯飲みを手に取る。
「何、メリーの目も万能じゃ無いということよ。私の時と場所を知る能力が万能じゃないようにね」と蓮子が言って団子を頬張る。
「うん、美味い」
「・・・・・そう言うものかしらね」とメリーも団子を一つ頬張る。
「少し自分の能力を過大評価しすぎていたかしら・・・うん、美味しい」
「なんにせよ、ここはやっぱり妙なところね」と蓮子が言って空を見上げる。
「私の能力がここでは通用しないように、メリーの能力もやはり通用していないのかもしれないな」と蓮子が時計と空を見比べて笑う。
「ほら、またズレた」メリーが小さく微笑んで、境内の彼方此方にある結界や境界の跡を眺める。ここには私達では想像もつかないような大きな力が働いていて、私達ではその摂理の一部も理解できないのだろうと、彼女は思う。

なるほど、楽しいじゃないか。メリーは微笑む。

「随分と、楽しそうな顔ね」と蓮子が言うが、彼女の顔もまた楽しそうにほころんでいた。



「帰ったら調べなきゃいけないことが山ほどあるわね」とメリーが言うと蓮子が頷く。
「まず、メリーが見ている結界の跡がどう言う物かっていうのと、途中聞いた声、それから・・・・このお茶」と蓮子が指折り数える。
「暫くは暇にはなりそうに無いわね」とメリーが言えば、蓮子は声を上げて笑った。
「それはそうよ!今度こそ、゛隠れた世界゛を見つけられるようにしっかりと対策しなきゃ」と蓮子が興奮した様子で言うものだから、メリーも思わず立ち上がる。
「そうと決まれば、今日の出来事を早速調べないとね!」メリーが言って蓮子の手を取る。はしゃぎながら境内から去っていく二人の背後で、彼女は微笑んだ。



















「風が気持ちが良いわね」 ザアと境内を吹き抜けて行く風を感じて霊夢は呟いた。彼女の手には蕎麦茶が持たれている。鳥居の向こう側に、二人の少女の楽しそうな姿を垣間見て、霊夢は微笑んだ。丁寧に掃除された境内に、瓦を張り替えたばかりの本堂、昔馴染みの賽銭箱。違うものといえばそう・・・・・賽銭箱の中には数枚の硬貨が転がっていることだけ。

「またいらっしゃい、今度はもう少し、気の利いたもてなしをするわよ」霊夢が呟くと、階段を下りかけていた少女二人が鳥居の方を振り返るのだった。
いつに無くグダグダでした。


初めてSSを書いていて難しいと感じたかもしれません。

秘封倶楽部に対してもう少し深い考えや認識を自分の中でハッキリさせないと、良いものは書けないかもしれません。


これはそんな教訓になりました。

いや、まぁ、単なる言い訳ですけれども・・・・。
brownkan
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
こういう感じは大好きです!
2.削除
良い物だ。えぇ。
3.けやっきー削除
へぇ、何か不思議な感じです。
個人的にはよかったと思いますよ!
4.S.T.削除
よきものです。