妖怪の山の山頂よりもずっとずっと上にある天界のある屋敷で、綺麗な青髪の少女が何やら顔を顰めている。少女の名前は比那名居天子、この天界の総領と呼ばれるほど偉い人の娘だ。
そのため産まれてから今までずっと、自分のやりたい事を好き勝手にやってきた彼女に悩み事なんて無縁のものだ。強いてあげるとすれば、知り合いの竜宮の使いが口煩い程度だろう。無論、聞き流しているので別にどうでもいいわけだが。
しかし今居る場所は自分の部屋であり、周りには誰もいない。彼女が顔を顰めているのは現在おかれている状況ではなく、これから来るであろう彼女の自称友人についてだ。
「はぁ、今日もまた来るわよねぇ……あいつ」
溜息を一つ吐くと、パタパタと蔵へとむかう。どうせまた酒をせびって来るのだ、今のうちに準備しておいた方が面倒じゃない。そう考えて、天子はしまってある酒樽を一つ二つと引っ張り出し、その足で台所にむかう。酒だけ用意しても、肴がないと文句を言われると考えたからだ。
台所で桃を一つ二つと盆に載せながら、ふと天子は思う――何で私こんな事してるんだろう?あいつが来て騒ぎだしても無視すればいいだけじゃないか、呼んだ客ではなく勝手に来ているだけなのだから。そもそも、何で私はあいつにもう来るなと言えない?毎日毎日何が楽しいのか知らないが、勝手に来て、勝手に酒を呑んで、勝手に騒いで、勝手に帰るだけだ。迷惑以外の何でもない。
そうこう考えているうちに、盆には桃の山が出来上がり天子は再び溜息を吐くと、部屋へとむかった。
天子が部屋に戻ってから、大分時間が経ち、今も眠っている者はおらず、皆何かしら行動を開始している。そんな中、天子は部屋から外を眺めていた――おかしい、いつもならこの時間帯には来ていたはずだ。何で来ない?
直後、首をフルフルと横に振る。いや、あいつが来なくても困ることなどない。桃を戻して、酒樽もしまえばいいだけだ。むしろ来なければ来ない方がいい……そう思いながらも、視線は窓の外から離れない。
もしかして何かあったのかも知れない。本来なら心配する義理など無いが、全く知らない仲と言うわけでもない。もし何かあったとするなら、それはそれで後味が悪い。居ても居なくても迷惑な奴だ。そう言えば……天界はつまらないだの退屈だの言ってたくせに、何で今もまだ来るんだろう?地上の方が楽しいことが沢山あるし、仲間だっているのに。どうしてこんな何もない所に来るんだろう?
前に同じ様な質問をした時、あいつは何て答えたっけ?
えっと、確か……「そんな解り切った事を訊くのかい?お前さんに会いたいからに決まってるじゃないか。アンタがどれだけ嫌がっても、私は会いに来るよ」――そうだ、そう答えられて何も言えなくなった私を見て、ケラケラ笑っていた。
あの時は何をバカなことを言ってるのかと思ったが、今はズキリと胸を刺すような痛みが襲ってきた。何が会いに来るだ、何が嘘は吐かないだ。
「何で今日は来ないのよ……バカ萃香」
そう呟くと、バタリとベットに倒れこみ、そのまま枕に顔をうずめる。解っている……あいつに帰れと強く言えないのは、態々酒や桃を用意したのは、私がこんなに不貞腐れてるのは――私があいつを好きだからだ。
初めは本当に迷惑なだけだった。気がつけば人の家に勝手に上がり込んで、酒を呑んではくだらない話をして帰って行く。しかし、そんな日が続くにつれて少しずつ彼女に興味を持つようになった。今は遊びに来た彼女との会話が何よりも楽しい時間になっていたのだ。
もし彼女がここに来るのが嫌になったのなら、私を嫌いになったのなら……その理由は明白だ。私がわがままで意地っ張りだから――それは彼女に非は無い。私だって私みたいな奴がいたら、好きになることなんて不可能だろう。しかしそれならそれで、初めから構って欲しくなかった。そうすれば彼女に好意を抱く事もなく、こんな辛い想いをする事も無かった。
ジワリと視界がぼやける。一人は嫌だ、寂しいのは嫌だ……嫌われるのは嫌だ。お願いだから、私の杞憂であって欲しい。何か事情があって来れないだけだと思いたい。でもそれでも……
「会いたい、会いたいよ……萃香」
「――お前さんの口からそんな言葉が出るとはね。私も愛されたもんだ」
その声と同時に、目の前に奇妙な霧が集まり瓢箪を片手に持った小さな少女が、ケラケラと笑いながら現れた。それはつい先程会いたいと願った相手――伊吹萃香だった。
天子は勢いよくベットから飛び起きると、萃香に背を向け目をゴシゴシと擦りながら声を絞り出す。
「い、いつからいたのよ!?」
「ん~?そうだねぇ、『何で今日は来ないのよ……バカ萃香』のあたりからかねぇ。いつもと同じじゃ芸が無いと思ってね、驚かせようかと思って隠れてたんだよ」
飄々とした口調でそう答える萃香はいつもと変わらず、天子は心の中で安堵の溜息を吐いた。よかった、嫌われてはいなかった……そのことに対する喜びの方が大きく、一瞬表情が緩みそうになったが直ぐに首を横に振る。
私はわがままで意地っ張りなのだ。今ここで私の気持ちに気づかれる訳にはいかない……萃香が私を好きになってくれるまで、私はこの気持ちを隠さなければならない。
だから、私の言う言葉は決まっている。
「この、馬鹿鬼!」
そのため産まれてから今までずっと、自分のやりたい事を好き勝手にやってきた彼女に悩み事なんて無縁のものだ。強いてあげるとすれば、知り合いの竜宮の使いが口煩い程度だろう。無論、聞き流しているので別にどうでもいいわけだが。
しかし今居る場所は自分の部屋であり、周りには誰もいない。彼女が顔を顰めているのは現在おかれている状況ではなく、これから来るであろう彼女の自称友人についてだ。
「はぁ、今日もまた来るわよねぇ……あいつ」
溜息を一つ吐くと、パタパタと蔵へとむかう。どうせまた酒をせびって来るのだ、今のうちに準備しておいた方が面倒じゃない。そう考えて、天子はしまってある酒樽を一つ二つと引っ張り出し、その足で台所にむかう。酒だけ用意しても、肴がないと文句を言われると考えたからだ。
台所で桃を一つ二つと盆に載せながら、ふと天子は思う――何で私こんな事してるんだろう?あいつが来て騒ぎだしても無視すればいいだけじゃないか、呼んだ客ではなく勝手に来ているだけなのだから。そもそも、何で私はあいつにもう来るなと言えない?毎日毎日何が楽しいのか知らないが、勝手に来て、勝手に酒を呑んで、勝手に騒いで、勝手に帰るだけだ。迷惑以外の何でもない。
そうこう考えているうちに、盆には桃の山が出来上がり天子は再び溜息を吐くと、部屋へとむかった。
天子が部屋に戻ってから、大分時間が経ち、今も眠っている者はおらず、皆何かしら行動を開始している。そんな中、天子は部屋から外を眺めていた――おかしい、いつもならこの時間帯には来ていたはずだ。何で来ない?
直後、首をフルフルと横に振る。いや、あいつが来なくても困ることなどない。桃を戻して、酒樽もしまえばいいだけだ。むしろ来なければ来ない方がいい……そう思いながらも、視線は窓の外から離れない。
もしかして何かあったのかも知れない。本来なら心配する義理など無いが、全く知らない仲と言うわけでもない。もし何かあったとするなら、それはそれで後味が悪い。居ても居なくても迷惑な奴だ。そう言えば……天界はつまらないだの退屈だの言ってたくせに、何で今もまだ来るんだろう?地上の方が楽しいことが沢山あるし、仲間だっているのに。どうしてこんな何もない所に来るんだろう?
前に同じ様な質問をした時、あいつは何て答えたっけ?
えっと、確か……「そんな解り切った事を訊くのかい?お前さんに会いたいからに決まってるじゃないか。アンタがどれだけ嫌がっても、私は会いに来るよ」――そうだ、そう答えられて何も言えなくなった私を見て、ケラケラ笑っていた。
あの時は何をバカなことを言ってるのかと思ったが、今はズキリと胸を刺すような痛みが襲ってきた。何が会いに来るだ、何が嘘は吐かないだ。
「何で今日は来ないのよ……バカ萃香」
そう呟くと、バタリとベットに倒れこみ、そのまま枕に顔をうずめる。解っている……あいつに帰れと強く言えないのは、態々酒や桃を用意したのは、私がこんなに不貞腐れてるのは――私があいつを好きだからだ。
初めは本当に迷惑なだけだった。気がつけば人の家に勝手に上がり込んで、酒を呑んではくだらない話をして帰って行く。しかし、そんな日が続くにつれて少しずつ彼女に興味を持つようになった。今は遊びに来た彼女との会話が何よりも楽しい時間になっていたのだ。
もし彼女がここに来るのが嫌になったのなら、私を嫌いになったのなら……その理由は明白だ。私がわがままで意地っ張りだから――それは彼女に非は無い。私だって私みたいな奴がいたら、好きになることなんて不可能だろう。しかしそれならそれで、初めから構って欲しくなかった。そうすれば彼女に好意を抱く事もなく、こんな辛い想いをする事も無かった。
ジワリと視界がぼやける。一人は嫌だ、寂しいのは嫌だ……嫌われるのは嫌だ。お願いだから、私の杞憂であって欲しい。何か事情があって来れないだけだと思いたい。でもそれでも……
「会いたい、会いたいよ……萃香」
「――お前さんの口からそんな言葉が出るとはね。私も愛されたもんだ」
その声と同時に、目の前に奇妙な霧が集まり瓢箪を片手に持った小さな少女が、ケラケラと笑いながら現れた。それはつい先程会いたいと願った相手――伊吹萃香だった。
天子は勢いよくベットから飛び起きると、萃香に背を向け目をゴシゴシと擦りながら声を絞り出す。
「い、いつからいたのよ!?」
「ん~?そうだねぇ、『何で今日は来ないのよ……バカ萃香』のあたりからかねぇ。いつもと同じじゃ芸が無いと思ってね、驚かせようかと思って隠れてたんだよ」
飄々とした口調でそう答える萃香はいつもと変わらず、天子は心の中で安堵の溜息を吐いた。よかった、嫌われてはいなかった……そのことに対する喜びの方が大きく、一瞬表情が緩みそうになったが直ぐに首を横に振る。
私はわがままで意地っ張りなのだ。今ここで私の気持ちに気づかれる訳にはいかない……萃香が私を好きになってくれるまで、私はこの気持ちを隠さなければならない。
だから、私の言う言葉は決まっている。
「この、馬鹿鬼!」
こういうの大好きです!
次は、是非とも天子とアリスの話を…
いやいや、魔理沙でも何でも期待して待ってます!
ニヤニヤが治まりませんでした!