拙作『4人でお茶会』の設定を引っ張ってます。
レミリアの私室。
「ねぇ、こいしちゃん」
「なぁに?レミリアさん」
「面白い運命が視えたわ」
「へぇ、どんなの?」
「さとりとフランがタッグを組んで、私達を驚かそうと画策する運命」
「随分、具体的な運命だね。というか、ネタバレだねー。お姉ちゃんとフランドール、可哀想に」
「ま、いいんじゃない?」
「良くはない、と思うけどねー。『鴉天狗、博麗の巫女にドッキリカメラ決行!!なのに本番前に霊夢と打ち合わせ』みたいな残念な感じになっちゃってるよ」
「そう?私は推理小説を後ろから読むのが好きよ?」
「つくづくレミリアさんは変人なんだなぁ…と思うよ」
「あら、失礼ね。まぁ、そう冷めないで頂戴。…そうね、考え方を変えればいいのよ」
「へぇ?どんな風に」
「これから、さとりとフランはあの手この手で私達を驚かそうとするでしょう」
「まぁ、レミリアさんが言うなら、そうだろうね」
「それで、私達は驚いた振りをして、逆に2人を観察して楽しむ」
「それ…いいねぇ!」
「私達は微塵にも驚いていないのに、あの2人はしてやったり顔をするのよ」
「やばい。やばいよ、それ。笑いを堪えられるかなぁ。ぷぷっ!……で、お姉ちゃんはどうするの?私は大丈夫だけど、レミリアさんは心読まれちゃうんじゃない?」
「私の心は、血液を循環させる為だけに存在しているの。考える機能など持ち合わせてないわ」
「うわぁ、すごい、へ理屈」
「まぁ、さとり曰わく、実際これで心読めなかった時があるそうよ」
「へえ~。そんなもんかなぁ」
「そんなもんよ」
バタン!!
扉が開く。
「さ、始まるわよ。頬を引き締めなさい」
「ほ~い」
□ □ □
地下室。
「フランドールさん、いつもレミリアに、してやられて悔しくはありませんか?」
「え?どうしたの急に」
「ですから、いつもパートナーに辱められて悔しくはありませんか、と訊いているのです」
「私は別に…」
「あなたの場合、相手が姉だから、そうかもしれません。だけど私の場合は妹ですよ!?姉妹の立場が逆転してしまっているのですよ!?」
「は、はぁ…」
「という訳で一度ぎゃふんと言わせたいのです!」
「ぎゃふん?」
「ジェネレーションギャップが…!」
「?」
「まぁ、あまり乗り気ではないようですね。心を読めばわかります。では、考え方を変えましょう」
「どんな風に?」
「フランドールさん、レミリアの驚いた顔や、涙を流している顔を見たくありませんか?」
「…!」
「興味を持ってもらえたようですね」
「う、うん。見たい」
「では、協力してあの2人を驚かしましょう」
「うん!」
「そうと決まれば善は急げです。こいしとレミリアの所へ向かいましょう」
「はい」
2人は程なくしてレミリアの部屋のドアを叩く。
□ □ □
場所は紅魔館から離れた洞窟。
時刻は丑三つ時。
辺りはすでに真っ暗闇で5m先も見えない。風もなく、完全な無音。
4人は洞窟の入り口に集結していた。
企画の主催者、さとりが薄ら笑いを浮かべて、話し始める。
「今回は私達、いつもの4人で肝試しを開催したいと思います。強大な力を持っていても、こういった恐怖には打ち勝てるのでしょうか?今夜はそれを検証したいと思います」
雰囲気たっぷりに喋るさとり。周りの景色と併せて、いつ何が『でても』おかしくない。
「今回のルールは単純です。2人1組で洞窟の奥にある、フラッグを取ってきてください。明かりはこの蝋燭1つ。以上です」
4人は無言で頷く。
「ルールは把握しましたね。ではペアを発表します。先発、レミリア、こいし。後発は私とフランドールさん」
「あら、その組み合わせは誰が決めたの?」
既に決まっている順番とペアにレミリアは疑問を持つ。
「いえ、今回の趣旨は親交を深める、ですので私とこいし、私とレミリアでは意味ないのです。既に仲がいいので」
「ふうん」
ここで、さとりはレミリアの心を読み取ろうと試みた。
レミリアに悟られないように、第3の瞳をレミリアに向ける。
(むぅ…相変わらず、この方の心は読みづらい。まるで、空気を両手で掬っているような手応えの無さ。しかも、やっと読めた、と思えば数秒後には全く正反対の事を考えていたりする。レミリアの心は、まるで雲のようですね)
あまり、芳しい結果が得られなかったようだ。
次にさとりは、こいしの様子を見る。
こいしはすでに怯えているようだ。肩をプルプルと震わせ、まるで小動物である。
(ふふふ。こいしったら、あんなに怖がって。可愛い所もあるじゃないですか)
演技である。
「では、始めましょうか。レミリア、蝋燭です」
「ん」
レミリアはさとりから蝋燭を受け取る。
レミリアはその時のさとりの微笑を見逃さなかった。
(さとり…何か蝋燭に仕掛けたのか…?)
しかし、見た限り、赤い蝋燭に何か仕掛けは見られない。
(いや、何か書いてある!)
『こいし』
蝋燭には可愛らしい字で、そう書いてある。
(この蝋燭はこいしの私物?しかし、用意したのはさとりだ。妹から拝借したのか)
一体、こいしは蝋燭など何に使うのか?
そして、レミリアは気づく。この蝋燭、普段使い用としては、大きく太い。赤い艶めかしい色も、落ち着かない。
(さとりはドジっ子属性も身につけたか…)
やたら溶けやすい蝋燭を持って、レミリアは憐れみの目を向ける。
つまり、さとりはこいしの部屋にあった蝋燭を『用途』を知らずに、丁度良いですね、と持ってきてしまったのだ。
「こいし、行くわよ」
「ま、待って、レミリアさん。置いていかないで~」
「(あなたのその演技、やりすぎじゃない?)」
「(え~?でもお姉ちゃん、かなり騙されてるよ。見てよ、あの顔)」
ニヤニヤ。顔の緩みきった、さとりが居る。
「(傑作ね)」
「(だよね~。ホントの事知った時が楽しみだよ)」
レミリアとこいしは洞窟の入り口で立ち止まりながら、小声でひそひそと内緒話に花を咲かせる。
さとりがそれに気づく様子は無い。
「さーて、2人は入り口で躊躇っているようですよ。フランドールさん、レミリアも案外、臆病なのですね」
返事がない。
さとりは慌てて、周りを見渡す。だが、真っ暗い闇の中には、何も見えない。
さとりは闇の中に呼びかける。
「フランドールさん!」
「……ここ」
さとりは足元で声がしたので、驚く。下に目を向けると、うずくまっているフランドールが目にはいる。
「…つかぬ事をお聞きしますが、もしかして……怖い、ですか?」
「そ、そんな事ないよ。私はお姉様の妹だもん。吸血鬼だもん。暗闇なんて怖くない」
フランドールは自分に言い聞かせるように、呟く。
身体は小刻みに震え、7色の羽はいつもに比べ、輝きがない。
さとりは心を読む。
(ああ、フランドールさん…。吸血鬼なのに暗いところが怖いとは…。しかも、過去のトラウマとかではなく、純粋に『お化けが怖い』という理由で)
さとりはフランドールを落ち着かせる。
「フランドールさん。レミリアの驚く顔を見るためにここまで来たのでしょう。こんな所で立ち止まってはいけませんよ」
「う、うん」
さとりに励まされながら、フランドールは立ち上がる。
気も、落ち着いてきたようだ。
「ところで、フランドールさんは外に出てもよろしいのですか?」
「んー、お姉様も許可してくれたし、能力が暴発する事はもう無いと思う。それに、念のためって、お姉様とパチュリーが協力してこんなの作ってくれた」
フランドールはくるりと背中を見せる。背中側の両腕には紅い鎖が雁字搦めに、結び付けられていた。
「あの…見ていて痛々しいのですが…。身動きとれるのですか?」
「転ぶと顔から地面に突っ込むね。でも、軽いし、なにより『目』がみえない。一晩だけって言ってたけど」
「はぁ…」
「私はもう大丈夫だから、行こう?さとりさん」
「…そうですね」
後ろ手に縛る意味はあるのか?と、さとりは思ったが、レミリア達が中へ入っていくのを確認すると、後を追う。
だが、2人は洞窟の入り口で立ち止まってしまった。
「く、暗いですね…」
「うん…」
奈落が寝そべっている。まさにそう表現されてもおかしくない。
狭く、暗く、なにより、おどろおどろしい。
「ここに暗視スコープがあります。これで行きましょう」
「よくそんなもの用意したね」
「背に腹はかえられません」
「だね…」
2人は縮こまりながら、のたのたと進んでいった。
□ □ □
レミリアとこいし。こちらの2人は蝋燭の心許ない灯りを頼りにして、スタスタと歩いている。
ここでは、狭くて飛べないので歩いているわけだが、足音が反響して実に怖い。…はずだが2人には関係ないようだ。
「私は種族上、夜目は利くのに、あの2人は何を考えてるのかしら」
「私は逆に、地上を出歩いてばっかりだから光に慣れちゃった。私は光属性だー」
「なんだか頭悪いセリフね」
「闇の魔獣、レミリアよ!光の戦士こいしがお前を倒す!」
「ぎゃおー…。別に、のらなくていいのか」
レミリアは割とノリが良かった。
□ □ □
足音を立てないように、さとりとフランドールは洞窟の奥へと進んでいく。
フランドールが蝋燭の灯りを見つける。
「あっ!さとりさん。お姉様達居たよ」
「待ってください。そろそろです」
「なにが?」
「まぁ、見ててください」
さとりは余裕たっぷりに笑う。
何か策があるようだ。
□ □ □
レミリアの持っていた蝋燭の火が消えた。
全ての光が消える。
「ぎゃおー。これでお前は光の力を使えなくなったー。どうする?光の戦士こいしよー」
「くっ!卑怯なり!闇の魔獣レミリアめ!だが、私は決して負けない!私の心にはまだ光がある!」
視覚が0になったというのに、2人は余裕しゃくしゃくであった。
「で、何で火消えたの?レミリアさん」
「さとりの仕業ね。おそらく、蝋燭の芯を短くする工作を施したのね」
蝋燭の要である、芯。本来は糸などでできており、それは蝋燭の上から下まで、串焼きの串のように、通っている。
さとりはそれを短く切り取り、再び元に戻した。結果、蝋はまだあるのに火は数分足らずで消えてしまうのである。
「じゃあ、お姉ちゃんの仕掛けなんだね。驚かなきゃ駄目じゃん」
「ああ、そう言えばそうね」
レミリアは目的を失していた。
取り繕うように驚く振りをする。
「『きゃー暗いわー怖いわー』」
「……演技最低だね、レミリアさん」
「あら、そう?」
「うん。もうちょっと抑揚つけるとかしないと。私がやるね」
「むぅ…ポーカーフェイスは得意なのに」
レミリアは演技が酷いと言われたのが納得いかないようだ。首を傾け、どこが悪かったのか唸る。
今度はこいしの番。
「『うわーん!暗いよぉー!お姉ちゃーん、早く来てー!!』」
「うむぅ…」
レミリアはこいしの演技が完璧過ぎて、ぐぅの音もでない。
「とまぁ、こんな感じかな」
「努力するわ」
□ □ □
「駄目だって!さとりさん!行っちゃ駄目だってば!」
「しかし、こいしが私を呼んだのです!私は行かなければなりません!」
「目的が違っちゃってるよ…」
こいしの『お姉ちゃん早く来て』発言で我を失ったさとりを、フランドールは必死に抑える。
両腕は使えないので、羽を広げ、通せんぼ。
「通してください!フランドールさん!こいしが私を求めています!」
「だから、こいしの驚く顔を見るためにやってるんでしょ?ここで出て行ったら、お姉様達に私達の仕業だって、ばれちゃうじゃない」
「……あっ」
さとりは目的を失していた。
「そうでした、いやはや、私とした事が」
「しっかりしてよ…」
改めて、さとりとフランドールは暗視スコープ越しに観察する。
「しかし、レミリアとこいしはかなり、怯えているようですね」
「えっ?こいしはそうかもだけど、お姉様はそうは見えないけど」
「何を言っているのです。レミリアがあんな『きゃー!』なんて声をあげたりし
ますか?」
「いや、それはないけども…でも…なんか…」
「わかりました。そこまで言うのなら、次の手はレミリアを標的にしましょう」
「はぁ…」
張り切るさとりを複雑な気持ちで見つめるフランドール。
実は、ここに来てフランドールの気持ちは心変わりしていた。
(やっぱり、情けないお姉様の姿は見たくないな…)と。
フランドールにとってレミリアとは、尊敬すべき存在であり、目標としている人物である。
暗闇に怯えるレミリアなど見たくはない、と考えるのは当然かもしれない。
(お姉様、こんな事でいつもの威厳をなくさないで!)
□ □ □
「これでトドメだ!魔獣レミリア!聖剣エクスカリヴァー!」
「ぎゃおー…」
「やったぞ!魔獣レミリアを倒したぞ!」
「はぁ。やっと終わったわね」
「何!身体が再生していくぞ!攻撃が効いていなかったのか!?」
「……」
「くっ!ならば、再び倒すまでだ!」
「こいし」
「なん…だと…!?私が魔王さとりの妹だと…?でたらめを言うなっ!魔獣レミリア!」
「こいし」
「…はい」
「いい加減になさい」
「ごめんなさい…」
レミリアは、ヒートアップしていくこいしを制する。
「こんな事をしに来た訳ではないのよ」
「そうだったね。でも、こうも真っ暗じゃ進みようがないよ。レミリアさんは見えないの?」
「残念だけど、見えないわ。ほんの些細な光でもあれば見えるけど、完全な闇は吸血鬼にも無理ね」
「うーん、引き返す?」
「壁づたいに進んでいけば大丈夫よ。一本道みたいだし」
「そうかな」
「そうよ。さ、はぐれずについてきなさい」
ゾワリ。
その時、レミリアの首筋に何かが這う。
「冷やっこい」
「え?なになに?どうしたの?」
「いえ、今私の首に何かが…」
レミリアはおもむろに、首に這う何かを掴む。
うにゅり。
予想とは違う手応えにレミリアは、眉をひそめる。
(軟体生物か…?冷たい体に、この臭い…。いや、これは…)
「こん…にゃく?」
「え?蒟蒻(コンニャク)がどうしたの?何があったの?」
「あー私の首に蒟蒻が惹かれてきた?」
「何言ってんのかわかんないよ…」
「だから、私の首筋に蒟蒻が這っていたのよ」
「…ああ。お姉ちゃんか…」
暗闇の中にこいしの溜め息が聞こえる。
「多分、お姉ちゃんがレミリアさんを驚かそうとしたんだよ」
「まさか。今時こんな方法で驚く奴が居るものか」
レミリアが蒟蒻を弄びながら鼻で笑う。
「…お姉ちゃん、あんな成りだけど、私達の中では最年長なんだよ?」
「つまり、考え方が古臭いのね。はぁ…納得」
「ところでレミリアさん、驚かなきゃ駄目だよ」
「…はぁぁ…」
レミリアは更に深い溜め息をつく。
「ん、んー。よし。『冷たいわー怖いわー』」
「さっきと何も変わってないよレミリアさん…」
「あら、さっきと比べれば格段に上達しているでしょう?」
「え、あ、はい、そうだね…」
こいしは色々と諦めた。
□ □ □
「見てください!あのレミリアが!あのレミリアが柄にもない叫声を上げていますよ!」
釣り竿を手に誇らしげに胸を張るさとり。
フランドールはそんなレミリアを見て、ガックシと膝を折る。
「そんな…お姉様…」
よほどショックを受けたのか、涙を浮かべるフランドール。
「フランドールさん、レミリアに幻想を抱きすぎですよ。彼女だって何もかも完璧な訳ではありません。こんな肝試しくらいで、情けない姿を晒すくらい臆病者だったんですよ!完璧な姉など存在しないのです!」
「…さとりさんはお姉様にコンプレックスを持ってるの?」
「さぁ、次のステップにまいりましょう!」
「露骨…」
実を言うと、さとりはレミリアが羨ましかった。いつも、姉として妹の先に立ち、手を引いて歩く姿に憧れていたのだ。
さとりにとって、レミリアは親友であり、ライバルでもある。
「次は、いよいよネタばらしですよ!」
「うんうん」
「フランドールさんはレミリアにキスをした事ありますか?」
「え!?」
「レミリアから、ではなくあなたから、という意味ですよ?」
「な、ないよ!」
(寝ているお姉様にした事はあるけど…)
フランドールは思わず、顔を赤らめる。
「おや、寝ている所をですか。積極的ですねぇ」
「うわああぁぁっ!!心読まないでよっ!!」
「恥ずかしがる事はありません。では、起きているレミリアに自らキスをした事は?」
「…ないよ」
「そうですよね、私もありません。いや、違いますね。今まで幾度となく挑戦して来ました。ただ、その度にいつもいつも!こいしにリードされてしまうのです!」
「はぁ…」
さとりは、悔しさに涙を浮かべる。
「ですから!この暗闇に乗じて、こいしにキスします!怯えている今のこいしなら、簡単に私がリードできるでしょう!」
「驚かすのが目的だったんじゃ…」
さとりはすでに、自らの欲望を満たすために精一杯だった。
「いいですか、フランドールさん。キスする時はちゃんと暗視スコープを外すのですよ。そうでないと、唇より先に目がぶつかりますから」
「わ、私もやるの?」
「もちろんじゃないですか。一緒に下剋上しましょう」
「いや、私は…」
「まず、私が後ろを歩いている、こいしを止めます。その間にフランドールさんはレミリアに迫ってくださいね」
「……はい」
抗議を上げるように、紅い鎖が音を鳴らす。だが、フランドールは、さとりに押し切られてしまうのだった。
「では、お先に失礼します」
「あ、ちょっと」
さとりは颯爽と去っていった。早く妹に会いたいのかもしれない。笑みを浮かべながら、背中を見せ、駆けていった。
ぽつん、と1人残されたフランドール。今まで気づかなかったが、1人だと心細い。
暗く、飲み込まれてしまいそうな黒。
カラン、と洞窟の壁から、石が落ちて音をたてる。
「ひっ!!」
小さな音にも、過剰に反応してしまうフランドール。
両腕を拘束されているので、今のフランドールは無防備だ。
慌てて、フランドールはレミリアを求め、涙ぐみながら、走る。
□ □ □
「こう真っ暗だと、あの2人が見えないね」
「そうね。火が消えるまでは、岩陰に隠れてるのが丸見えだったのにねぇ」
「うんうん。お姉ちゃんのあの満足げな顔。面白すぎて写真に残したいくらいだよ」
「まったくね。あんなんじゃいつまで経っても、貴女の尻に敷かれっぱなしね」
「む、そんな事ないよ。お姉ちゃんはやる時はやるよ、きっと」
「あらあら、こんなに妹に想われて。さとりは幸せ者ね」
レミリアを先頭に、2人は壁づたいに、慎重に進んでいく。
視界が0なので無茶はできない。
湿った壁を手に感じながら、レミリアは思う。
(…そういえばフランは今にも泣き出しそうな顔してたわね。お化けが怖いのは、相変わらずね)
そこが可愛いんだけど。と、頷きながらレミリアは歩を進めていく。
そこで、ふと気付く。
「…こいし?」
後ろからついて来ていた、足音が消えていた。
□ □ □
「む、そんな事ないよ。お姉ちゃんはやる時はやるよ、きっと」
「あらあら、こんなに妹に想われて。さとりは幸せ者ね」
こいしはレミリアの声を頼りに、壁に沿って歩いていた。
(そうそう、お姉ちゃんは幸せなんだよ。そして、私も幸せ。ハッピーだね)
こいしは、以前に比べて、地上に出歩く事が少なくなっていた。
(結局、どこを巡り巡っても、辿り着く先は、お姉ちゃんなんだよなぁ…)
こいしは1人納得しながら、レミリアの後を追う。
その時だった。
こいしは突如として、後ろから羽交い締めされた。口を塞がれる。
「んむぅううう!!」
「落ち着きなさい、こいし。私ですよ」
聞き慣れた、甘い声がこいしの耳を震わせる。
「お姉ちゃん…?」
「はい。もう大丈夫ですよ、こいし。私が側に居ますからね、もう怖くありませんよ」
「お姉ちゃん…」
『別にまったく怖くないけどね』。こいしはその言葉を胸の奥にそっと、しまった。
こいしは一度、腕を振り解き、改めてさとりに抱きつく。
「後ろから抱っこされるのは嫌、って前に言ったじゃない。ちゃんと真正面からにして」
「ああ、そうでしたね」
さとりは、こいしの背中を愛しげに撫でる。
「お姉ちゃん、よくこんな暗闇の中で私を見つける事ができたね?」
「うっ。…あなたが私を必要とすれば、私はすぐに駆けつけますよ」
「お姉ちゃん…」
『それ、誤魔化したつもり?』。こいしはその言葉を胸の奥にそっと、しまった。
暗闇の中にさとりの声が反響する。
「こいし」
「ん?」
油断したこいしに、さとりは口付けを交わす。
唇と唇が触れ合うだけの優しいキス。
「ふふっ。どうですか?初めて私の方からキスをするというのは。悔しいですか?恥ずかしいですか?私だってやる時はやるのですよ」
「お姉ちゃん…」
「まぁ、これからは私があなたをリードしますね。私の方が一枚、上手ですし、姉ですから」
「足りない」
「へ!?」
「全然足りないよ、もっとキスしてよ」
「い、いいでしょう」
さとりは再び、こいしに口付けを交わす。
チュッ、っと優しい音がする。
「さ、満足しましたか?」
「んー、違うよ。フレンチキスじゃなくて、私が言ってるのはもっと、ディープなの。激しいやつ」
「はい!?」
「舌入れていいから。もう一回」
「な、な、な…」
さとりの脳裏に浮かぶのは、以前のお茶会。
「してくれないの?私からしちゃうよ?」
「な、何を言っているのです!そ、そんな恥ずかしい事できません!」
「またまたぁ~。そんな事言っちゃって~。ホントは嬉しいの知ってるよ?」
「えっ、やめっ、ん、んんんんん!?」
洞窟内にさとりの嬌声が響いた。
□ □ □
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
洞窟を奥へ奥へと進んでいくフランドール。
途中、さとりとこいしが抱き合っているのを目撃したが、目的はその先。
暗く、恐々しい洞窟が何より、怖かった。
さとりから貰った暗視スコープも、走っている途中で落としてしまった。
何も見えないまま、フランドールはレミリアを求めて、ジャラジャラと紅い鎖を鳴らしながら走る。走る。走る。
やがて、隠しきれない妖力を洞窟の奥に感じる。
(お姉様だ!!)
それで安心したのが良くなかった。
今まで気をつけていたのに、フランドールは隆起した地面に足を取られる。
(しまった!)
両腕が不自由な状態では受け身がとれない。
慌てて羽を広げるが、狭い洞窟の壁にぶつかり、開ききらない。
やがて、訪れる衝撃に対し、目を固く閉じる事しか、もう、できることはなかった。
重力に従い、倒れるフランドールの身体。
…だが、いつまで経っても地に伏せる事はなかった。
「お姉様…」
「まったく。転ばないように気をつけなさいと言ったじゃない」
「私が来たって、わかったの?」
「あんな大きな音をたててれば、誰でもわかるわよ」
きつい言い方だが、レミリアの声は優しい。
フランドールの身体はレミリアに支えられていた。
そのままフランドールは定位置であるレミリアの腕の中に収まる。
何も見えないが、姉が側にいる。
それだけで、先ほどまでの不安が嘘のように、フランドールの中から消え去ってしまった。
レミリアの匂いを感じながら、フランドールは感謝を告げる。
「ありがとう、お姉様」
「礼は要らないわ。お姉ちゃんは、愛しいフランが地面にキスするなんて、絶対に許せないだけ。キスしたいならお姉ちゃんにしなさい」
「な、何言ってるのさ!?」
「…言い換えるわ。お礼の代わりにキスにしなさい」
「ええ!?」
「ほらほら、私の唇はここよ」
「ふわぁっ!?」
そう言って、レミリアは唇でフランドールの頬を啄む。
「わかったから!わかったからストップ!くすぐったいよ!」
「はいはい」
少しでも明るければ、フランドールの恥ずかしがる顔が、レミリアには見えていただろう。
「い、1回だけだよ?」
「はいはい」
フランドールは、先ほどまで頬に触れていたレミリアの唇にキスを落とす。
彼女らしい控え目なキスだった。
「ん~~~」
「どうしたの?お姉様」
「辛抱たまらん!!」
レミリアは一旦、フランドールから距離をとると、右手を掲げる。
すると、見る見るうちにレミリアの神槍グングニルが形成されていく。
グングニルから放たれる紅い光が、辺り一帯を照らし出す。
視覚がまた、戻ってきた。
フランドールは、地面にグングニルを突き立てるレミリアに呼びかける。
「お姉様!何をするつもりなの!?」
「私の神槍を照明替わりにしたくはなかったけど、もう、そんな場合じゃないわ!」
どうやら、グングニルはただの照明代わりのようだった。
そして、レミリアはいつもの可逆的な笑みを見せる。
「フラン、その鎖の意味を知っているかしら?」
「え!?私の力を抑えるためでしょ?」
「では、後ろ手に縛った理由はわかるかしら?」
「え、えと…」
この手のマジックアイテムは、身体に結びつけておけば効果を発揮するはずだ。
特に力の発現となる、両腕に結びつけておくのは効果的だ。
ここまでは、フランドールにもわかる。
(じゃあなんで、後ろ手に、しかもまったく動かせないほどに縛ったんだろう?)
レミリアに紅い鎖をつけてもらっている時は、姉に見惚れていて気づかなかったフランドール。今になって疑問に思えてきた。
(だったら、2本使ってそれぞれの腕につけておけば、こんなに苦労しなかったんじゃ…)
そこで、フランドールは、はっとする。
(お姉様の性格を考えれば……!)
考えがまとまった、と同時にレミリアが口を開く。
「はい、時間切れ~。正解は……」
レミリアはスタスタと、フランドールに歩み寄る。
そして、人差し指でフランドールの顎を持ち上げると、キスを交わす。
「抵抗できなくするためよ」
□ □ □
次の日、4人は客間に集い、いつものお茶会をしていた。
「レミリアは人が悪いです。知ってて、わざと驚く振りをするなんて。こいしもどうして黙っているのですか」
紅茶を一気に飲み干し、さとりが言う。
「悪かったわ」
「ごめんなさ~い」
さとりは、改めてレミリアの心を覗く。
顔には出ていないが、謝罪の気持ちが読み取れる。
(ま、許してあげましょう。元は私が原因ですしね…)
クッキーをパクリ。再びさとりが口を開く。
「フランドールさんには本当に悪い事をしました。まさか、腰が抜けるほど、お化けが苦手だとは…」
「え!?あ、うん。気にしないで、さとりさん」
「そうよ。別にフランはお化けに腰を抜かしたのではなくて、私との……」
「うわあああああああぁぁぁ!!!」
レミリアの言葉を遮り、フランドールが絶叫する。
「お、お姉様?ちょっと、ついて来てくれる?」
「フランの頼みとなれば、何処へでもついて行くわ」
フランドールはレミリアを引き連れ、部屋を後にする。
パタンとドアが閉まった途端にレミリアの絶叫が響く。
「ストップ!ストップ!何を怒ってるの!?あんなに喜んでたじゃない!?」
「うううるさいっ!!」
「お、お外が嫌だったの!?それとも緊縛!?」
「緊縛言うなぁぁぁ!!!」
「わわわっ、何で今更怒るのよ!!」
「他人に言いふらそうとするからさっ!!」
「わかった!わかったから!もう、誰にも言わないから!あ、『レーヴァテイン』は止めて!?」
爆発するような音の後、静寂が訪れる。
「まったく、レミリアは情けないですね。そう思いませんか?こいし」
「ノーコメント」
さとりは、こいしの膝の上で、子猫のように丸くなり、頭をなでなでしてもらっていた。
妹様を抱きしめたお嬢様が何をしたのか詳しくお伺いしたいところです。
>>実を言うと、はさとりはレミリアが羨ましかった
はが余計では?
もっとやれ!
この姉妹組は良い!
ただ気になったことが一つ、フレンチキス=ディープキスですよ。
ちゅっちゅちゅっちゅ