木っ端微塵だった。木の端の微妙な塵と書いて木っ端微塵。いや、そんなことはどうでも良かった。兎に角、そう、木っ端微塵。西行妖が、木っ端微塵だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」であるからして、幽々子はご自慢の胡蝶の扇子を足元に取り落として呆然とするばかりである。誰がこんなことを、いや、誰がこんなことを・・・・いや・・・・誰がこんなことを・・・と幽々子は混乱した頭で思う。昨日までドッシリと確かにその大地に根を下ろしていた西行妖がもう今は見るも無残に木っ端微塵である。
「わわわ・・・・私の西行妖は・・・・どこに・・・・」と幽々子が呟いて、西行妖があった場所・・・いまは爆発跡地のような巨大なクレーターへとよろよろと近づく。
『ごめんなのぜ』
そう書かれた看板が立っていた。
木っ端微塵だった。もう何もかもが木っ端微塵。賽銭箱も、鳥居も、毎日掃除した境内も、本堂も私の住んでいた家も、何もかも。ブスブスと燻る黒煙の中に塵と消滅していた。
「あんぎゃー・・・」霊夢が呟く。別に行脚ではない。彼女は巫女であり、宗派は神道だ。彼女の口から飛び出したのは、意味のある言葉ではなく、ただ現状に対して述べる感想が思いつかなかった故に飛び出した意味の無い鳴き声である。
「なんじゃこりゃぁ・・・・」と霊夢がようやく人間に解読できる言葉を搾り出して焼け落ちた鳥居の間に座り込む。腰が抜けたと言うよりも、どうして良いか分からずにとりあえず座ると言う行為を選択したという感じである。座ったところでどうにかなるわけではないが、とにかくなんだか疲れてしまった。今見ている光景がもうどうしようもなく霊夢と言う少女には受け止めがたい事実で気付けば、空を見上げていた。瞳に光は無く、ただ濁った死んだ魚のような瞳で千切れ雲を追いかける。
そんな彼女の片手には、小さな紙片が握られていた。
『すまんのぜ』
そんな風に走り書かれた紙片が。
木っ端微塵だった。何がって、私のカメラが。うわあああああどうしてこんなことにうわあああああ、お金をためてようやく買った念願の望遠一眼レフうわあああああああああ!もう、元がなんだったのか判別も不可能なほどに壊れてしまったそのカメラの亡骸に文はボロボロと涙を零す。
「ぅっ・・・・ひっく、ぐずっ・・・」まだ何も望遠してなかった。というか望遠レンズを使っていなかった。接写ばかりしていた。ようやく望遠レンズを使う気になった。そして木っ端微塵だ。酷い、あまりにも酷いじゃないか。と文は神様を呪う。グッと歯を食いしばって、わずかばかり地面に四散した一眼レフカメラのカケラを拾い集めて、どうしても留まらない涙で地面にシミを作りながら、彼女は歯軋りする。
そんな彼女の一眼レフカメラが最後に写したのは、白と黒のコントラストであった。
「だから、あのキノコは止めておけって言ったんだぜ・・・」と能天気の上に一抹の不安を抱いた表情で魔理沙が横たわる3人を見下ろす。場所は永遠亭。
何が起きたかと説明すれば、鍋パーティーに際して幽々子、霊夢、文の三人が魔理沙の制止も聞かずに名前も分からないキノコを食べた、というだけの話である。
「それにしても『木っ端微塵ダケ』とはね」と永淋が唸る。
「幻想郷もまだまだ変なモンがゴロゴロしてるわね」
「だから私は止めたんだぜ・・・」
「それにしても、彼女たちは何をうなされているのかしら・・・・。自分の着ていた服が木っ端微塵になるだけじゃ気がすまないのかしらね?」と永淋がボロ布とかした衣類の端切れを見つめて言う。
永淋は知らない。『木っ端微塵ダケ』の本当の恐ろしさを。
後日談ではあるが、霧雨亭が数人のテロリストに襲われ、木っ端微塵になったのを真っ先に速報したのは文々。新聞であった。恨み嫉みたっぷりとしか形容しようが無い記事を読んだ被害者、霧雨魔理沙は、数日間、骨折と人間不振で永遠亭の集中治療室から一歩たりとも出なかったそうだ。