橙は走っていた、愛する主人、八雲藍に会うため、マヨヒガの自宅から猫なのに脱兎の如しとはこれいかに
「藍様、藍様」
それはまるで無二の親友、セリヌンティウスを思いひた走るメロスを見ているようだったと比那名居天子は後に語る
「藍様、今行きます、待ってて下さい」
橙は走る、流れゆく汗もそのままに、何度転んだろうか、しかし足を止めてはいけない
途中何度気を失いかけたか、何度あきらめそうになったか
だが諦めない、諦めてはいけない、自分はこの行脚を止めるわけにはいかない
かすれ行く視界に、敬愛する主の姿を見た、凛とした表情、まっすぐにのびた背筋、いつかたどり着きたい境地が、そこにあった
橙は残った力を振り絞り、藍へと近づく、一歩一歩、確かに、そして力強く
「ら、藍様」
「橙ではないか、どうした?ひどく疲れているようだが」
「あ、あの藍様」
「橙!」
「は、はい」
藍の厳しさの中にも暖かさが含まれた言葉、橙は思わず直利不動の姿勢で聞いた
「何度も言おうと思ったんだが、私たちは家族同然だ、他の誰かが居るならともかく、こうして二人きりの時は『様』なんて付けなくて良い」
藍の優しい言葉に橙は涙ぐんだ、やはり我が主は聡明な方だ、私の目的を、無意識にも察してくれたのだ
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
私は目から流れゆく涙を必死に堪え主に思いを打ち明けた
「らんねーちゃん」
「バーローwwwww」
バーローwww