「たまには散歩も気持ちが良いもんじゃ」
サンサンと気持ちよく降り注ぐ太陽の下
わしにしては珍しく一人で歩いておった
何時もなら門番の嬢ちゃんの御守兼暇つぶしをするのじゃが
今日は屋敷の主が嬢ちゃんの部屋の中で秘密裏に漫画を読む事になったので
わしはこっそりと抜け出したのじゃ
(まあ、わしだってたまにはプライベートな時間は欲しいからの)
と言う訳で先程まで人里で
馴染みの果物店である店長のオレンジ(通称)との舌戦の末に
林檎一山を通常の半額等を筆頭に顔見知りの御店で
色々と安い食材を手に入れることに成功してきたのだ
「ふっふっふ……わしの値切り交渉術にかかればこの位、ぴゅぴゅぴゅのぴゅ~じゃ」
と言う訳で、意気揚々と里の中を歩いておった訳じゃが……
「あっ!?ちょっとちょっと橙あれ!」
「ナマズだ!」
……うむ、可愛らしい御嬢ちゃん達がわしを見つめてきおった
そして、それと同時に背筋にゾワリとした感覚がした
(こ、このパターンは……)
「捕まえてさとり様の御土産とから揚げに♪」
「捕まえて藍様と紫様に御土産にして蒲焼だよ♪」
そうじゃないかと思っておったわい!
こんな小娘達二人ぐらいなら、わしが本気出せば簡単なんじゃが
そんなことしたら、里に迷惑がかかる……
(つまり、わしに出来る戦略は一つ!)
「うむ、三十六計逃げるが勝ちじゃ」
わしはそう言って、その場から一気に駆け出した
「うにゃ!?逃げた」
「あ~!?待て!藍様と紫様への御土産~」
えーい、これだから猫科の奴らは嫌いなんじゃ
わし食べたら、腹の中で地震起こすぞ?
(橙、見つけた?)
(う~、ごめん見失っちゃった)
(しかたがない、あたい達もそろそろ里に戻ろう)
(……うにゃぁ~)
そんな声が聞こえてからすぐ
(ふう、年寄りをもっと労われと言いたいところじゃな)
わしは息を潜めていた木の上から地面に飛び降りた
「全く、人里であんなに激しく競争する事なるとは思わんかったわ」
何とかあの猫娘二人を撒いた頃には
既に里から随分と遠ざかってしまっておった
「じゃ、じゃが……流石に……荷物を持っての全力疾走は……堪える」
ふぃ~……出来れば何処かで一休みを入れたいとわしが思って居た時じゃった
自分が居た所のすぐ傍に、赤い鳥居が見えたのは
「……神社じゃな」
ふむ、此処で見つけたのも何かの縁
(少しだけ、休ませて貰うかの)
頭の上の荷物を担いで神社の境内に向かう事にした
・・・
「これはまた……」
鳥居の先に見えたのは思って居るよりも立派な神社の姿
なにやら不思議な雰囲気も感じるし……
……何か名のある神社かもしれんな
まあ、今のわしには休む場所であればそれで関係ないんじゃけどな
「よっこいせっ……と」
座り込むのに丁度良い場所を見つけたのでその場に腰を下ろす
ふむ、改めて不思議な雰囲気を持った神社じゃわい
妖怪が居ると思われるような気配が感じられるし
それで居て人がいる気配も感じられる
いや、この幻想郷にはそんなところがあっても可笑しくは無い
ただ、それは人が多い里ならの話であり
(こんな人里を離れた場所に人と妖怪の気配がするとは……むっ?)
わしの髭がピリピリと震えておる?
つまり、此処には大妖怪クラスの化け物……
「ってなに!?」
急いでその場を振りかえるとそこに居たのは
「……境内に誰か居る気配がして、参拝客かと思ったけど」
(なんじゃ、ただの小娘か……)
なにやら赤い巫女服を着た……
「……今日は久しぶりにご馳走にありつけるわね(じゅる♪)」
「ぜ、前言撤回!」
目が本気でわしを狩る目をした少女の姿があった
・・・
「ぜぇ、ぜぇ……ぜ、前言撤回……ほ、本気で消されるかと思った」
「きゅ~」
そして、今全身擦り傷だらけのわしの姿と
賽銭箱の傍で倒れている巫女服の嬢ちゃんの姿があった
戦いなんてもんじゃなかった
全力の殺気を込めた者の怒涛の攻撃を
わしは地面に潜ったり、放電したりして逃げに徹しただけ
結果として、巫女の嬢ちゃんが倒れてくれた
「……(ぐぅ~)」
どうやら、御腹が空きすぎて戦いを維持できなくなったみたいじゃった
ふぅ……ほんの少し休憩しようと神社に寄っただけじゃったのじゃが
(わ、わし……何とか生き残れたみたいじゃな)
やれやれ、まさか生きるか食われるかの大勝負をする事になるとは思わんかった
……急いでこの場から離れたほうが良いかもしれんな
もう、これ以上の連戦をするのは無理じゃしな
さて、そうと決まれば……
「ほれ、嬢ちゃん気をしっかり持て」
本当なら、無視しておいても構わないのじゃが
流石にこのまま倒れたままじゃと危険じゃからな
他の妖怪が現れたら食べられてしまうかもしれんし
わしの髭で倒れておる巫女の嬢ちゃんの頬を軽くペチペチと叩く
すると、それに答えるかのようにわしの髭を手で掴もうとしてきたので
「うぅ……ナマズの丸焼き」
……急いで髭を離した
(本能だけは動いておるみたいじゃな)
なんだか、このまま放置しても良い様な気がしてきた……
じゃが、このまま放置するのも心が痛むし……
「そうじゃ……良い方法があるではないか」
困っていたわしの頭の中に良い考えが浮かんだので
手の代わりに手を(髭)ポンと叩いて
「勝手に神社に入るが……まあ許せよ?」
気絶している巫女を髭で運んで神社の中に入れると準備を始めた
・・・
「はぐはぐはぐはぐ!」
「お、おいおい巫女の嬢ちゃん……少し落ち着かんか?」
巫女の嬢ちゃんがテーブルの上に置いてある御握り
凄まじい剣幕で頬張る
「んぐんぐんぐんぐ!」
「そんなにがっつかんでも食い物は逃げんぞ?」
頬っぺたについた御米粒の事など気にせずに
その傍に置いてあった御味噌汁を一気に飲み干すと
「はむはむはむはむ!」
「やれやれ……」
わしの言う事など一切聞こえてない様子で
用意した干物を一心不乱に口に運びこんでいた
(里で食材買っておいてよかったわい)
とりあえず、手持ちの材料と
電気があればすぐ使える、便利グッズの携帯用コンロがあってよかったわい
大急ぎで作ったからあんまり大したもの作れんかったけど
飯が出来ると同時に意識が朦朧としていた巫女の嬢ちゃんが
猛然と起き上がり、出来た料理を物凄い勢いで口にし始めた
のは良いのじゃが……
「じゃが……そんなにがっつくと」
「もぐもぐも……んむ!?」
「ほれ、言わんこっちゃ無い……ほれ」
「んぐんぐ!?ぷはぁ~……はぁ~死ぬかと思ったわ」
お約束通りに喉に食べ物を詰まらたので
わしが大急ぎで御茶を手渡すと
巫女の嬢ちゃんは御茶を飲んでホッと一息つき
「うぅ……三日間ぶりに御腹一杯……もう死んでも良いわ」
満足そうに後ろに倒れこんだ
そんな巫女の嬢ちゃんを尻目にわしはテーブルの上を見ていた
(……また随分と綺麗に食べたもんじゃな)
門番の皆の夜食にでもと思っておった御握りも米粒一つ残らず平らげて
小さいとは言え、鍋一つ作った味噌汁も無くなり
少々多いかと思っていた山女の干物も綺麗に平らげてあった
「それにしても、骨すら残らんとはな……」
「当たり前じゃない、骨も貴重な食料だもの」
わしの呟き声に、満足そうに倒れていた巫女が起き上がる
「はあ助かった……もう少しで餓死する所だったわ」
「それはそれは……」
……あのまま放置しないで本当によかったわい
しかし、幾ら寂れているとはいえ
こんな力を持っている巫女の嬢ちゃんが……
「なんでまた食料危機なんかに?あれだけの力があるのなら妖怪退治でもすればそれなりにお礼が……」
「最近は平和だし、妖怪退治の依頼も少ないから食べていくのも大変よ」
「そう言う事か……」
「そう!それだけじゃなくて最近は魔理沙とか早苗とか勝手に……」
納得したわしに対して、巫女の嬢ちゃんが愚痴を零し始める
仕事の需要と供給のバランスは難しいからのう
依頼が減っておると言う事は襲われる者が少ないという事でよいのじゃが
それで食ってきた者達は仕事が無くなる訳じゃからな……
じゃがちょっと待てよ?
「なあ、巫女の嬢ちゃん」
「あいつ等、私の仕事を取ってなにが楽しい…………なに?」
愚痴を延々零しておった巫女の嬢ちゃんが
此方の方を向いたのを見てから疑問を問いかける
「此処は神社じゃろ?」
「そうよ?」
『だったら御賽銭も収入源のはずでは?』
わしが疑問に思った言葉を口に出した瞬間じゃった
目の前の巫女の嬢ちゃんが口を真一文字につぐんだのは
「………」
「ん?どうした嬢ちゃん」
不思議に思ってわしが巫女の嬢ちゃんを見ると
「わ、私だって……御賽銭が収入源だと……思ってるけど」
小刻みに肩を震わせて涙目でわしの方を見つめてきた
「……参拝客……ぐずっ……来ないもん」
「な、なにも泣く事はないじゃろ?ほ、ほれ、少しは入っているんじゃろ?」
その言葉に巫女が肩の震えが止まって
(お?少しは落ち着いてくれたか……)
小さく呟いた
「……御賽銭箱、此処何年も入った事……見た事無い」
(ああ……ど、どうやらわし大型地雷をふんでしまったようじゃな)
「さ、里の人だって……胸が大きい早苗の方が良いって思ってるもん!……うわ~~ん!」
「ほ、ほれほれ、泣く泣くな?なっ?なっ?」
暫くの間、わしは泣き出した巫女の嬢ちゃんが話す愚痴に
延々と相槌を打つことになった
・・・
「……う~……御賽銭」
「ふぃ……やっと寝てくれたか」
ふぅやれやれ……赤子と泣く子には勝てん
(全く、泣くだけ泣いて眠りおって)
里で御酒買っておいてよかったわい
なかったら、一日中宥めねばならぬところであった
(それに、気が付けばもう夜ではないか)
巫女の嬢ちゃんを宥めるのに時間がかかってしまったわい
「…………すぅ…すぅ」
「はぁ……全く、わしの一日を綺麗に潰してくれおって」
……寝ている巫女の嬢ちゃんをこのままにしておく訳にはいくまい
とりあえず、此処に出ている炬燵の上布団を外して……っと
「巫女の嬢ちゃんの上に布団をかぶせって……これでよしじゃな」
まあ、これで風邪をひくこともあるまい
……はあ、疲れたわい
さて、今からゆっくりと帰るとするかの……
わしが帰る為に部屋の外に出ようとしていたが
少しだけ考え込むと、頭の上に残っていた食材全部を
寝ている巫女の嬢ちゃんの傍に置き声をかけた
「ほれ、奉納品じゃ……これで暫くはまともに食えるじゃろう」
気持ち良さそうに寝ている巫女の嬢ちゃんの頭を髭で優しく撫でると
わしはそのまま部屋の中から出て行った
(さあ、急いで紅魔館に戻らんとな)
神社の階段を下りながら、わしはふと忘れていた事を思い出した
「……そういえば、あの巫女の嬢ちゃんの名前、聞きそびれたのう」
まあ、良いか……別に知らんでも
次に給料が入ったときでも御賽銭を入れに行ってやれば良いのじゃからな
なにやら疲れたが、暇な一日ではなかったわい
それに今夜は綺麗な三日月……
それをみながら、わしは門の前でむくれているであろう
門番の嬢ちゃんの居る紅い屋敷へと道を飛び跳ねるのであった
サンサンと気持ちよく降り注ぐ太陽の下
わしにしては珍しく一人で歩いておった
何時もなら門番の嬢ちゃんの御守兼暇つぶしをするのじゃが
今日は屋敷の主が嬢ちゃんの部屋の中で秘密裏に漫画を読む事になったので
わしはこっそりと抜け出したのじゃ
(まあ、わしだってたまにはプライベートな時間は欲しいからの)
と言う訳で先程まで人里で
馴染みの果物店である店長のオレンジ(通称)との舌戦の末に
林檎一山を通常の半額等を筆頭に顔見知りの御店で
色々と安い食材を手に入れることに成功してきたのだ
「ふっふっふ……わしの値切り交渉術にかかればこの位、ぴゅぴゅぴゅのぴゅ~じゃ」
と言う訳で、意気揚々と里の中を歩いておった訳じゃが……
「あっ!?ちょっとちょっと橙あれ!」
「ナマズだ!」
……うむ、可愛らしい御嬢ちゃん達がわしを見つめてきおった
そして、それと同時に背筋にゾワリとした感覚がした
(こ、このパターンは……)
「捕まえてさとり様の御土産とから揚げに♪」
「捕まえて藍様と紫様に御土産にして蒲焼だよ♪」
そうじゃないかと思っておったわい!
こんな小娘達二人ぐらいなら、わしが本気出せば簡単なんじゃが
そんなことしたら、里に迷惑がかかる……
(つまり、わしに出来る戦略は一つ!)
「うむ、三十六計逃げるが勝ちじゃ」
わしはそう言って、その場から一気に駆け出した
「うにゃ!?逃げた」
「あ~!?待て!藍様と紫様への御土産~」
えーい、これだから猫科の奴らは嫌いなんじゃ
わし食べたら、腹の中で地震起こすぞ?
(橙、見つけた?)
(う~、ごめん見失っちゃった)
(しかたがない、あたい達もそろそろ里に戻ろう)
(……うにゃぁ~)
そんな声が聞こえてからすぐ
(ふう、年寄りをもっと労われと言いたいところじゃな)
わしは息を潜めていた木の上から地面に飛び降りた
「全く、人里であんなに激しく競争する事なるとは思わんかったわ」
何とかあの猫娘二人を撒いた頃には
既に里から随分と遠ざかってしまっておった
「じゃ、じゃが……流石に……荷物を持っての全力疾走は……堪える」
ふぃ~……出来れば何処かで一休みを入れたいとわしが思って居た時じゃった
自分が居た所のすぐ傍に、赤い鳥居が見えたのは
「……神社じゃな」
ふむ、此処で見つけたのも何かの縁
(少しだけ、休ませて貰うかの)
頭の上の荷物を担いで神社の境内に向かう事にした
・・・
「これはまた……」
鳥居の先に見えたのは思って居るよりも立派な神社の姿
なにやら不思議な雰囲気も感じるし……
……何か名のある神社かもしれんな
まあ、今のわしには休む場所であればそれで関係ないんじゃけどな
「よっこいせっ……と」
座り込むのに丁度良い場所を見つけたのでその場に腰を下ろす
ふむ、改めて不思議な雰囲気を持った神社じゃわい
妖怪が居ると思われるような気配が感じられるし
それで居て人がいる気配も感じられる
いや、この幻想郷にはそんなところがあっても可笑しくは無い
ただ、それは人が多い里ならの話であり
(こんな人里を離れた場所に人と妖怪の気配がするとは……むっ?)
わしの髭がピリピリと震えておる?
つまり、此処には大妖怪クラスの化け物……
「ってなに!?」
急いでその場を振りかえるとそこに居たのは
「……境内に誰か居る気配がして、参拝客かと思ったけど」
(なんじゃ、ただの小娘か……)
なにやら赤い巫女服を着た……
「……今日は久しぶりにご馳走にありつけるわね(じゅる♪)」
「ぜ、前言撤回!」
目が本気でわしを狩る目をした少女の姿があった
・・・
「ぜぇ、ぜぇ……ぜ、前言撤回……ほ、本気で消されるかと思った」
「きゅ~」
そして、今全身擦り傷だらけのわしの姿と
賽銭箱の傍で倒れている巫女服の嬢ちゃんの姿があった
戦いなんてもんじゃなかった
全力の殺気を込めた者の怒涛の攻撃を
わしは地面に潜ったり、放電したりして逃げに徹しただけ
結果として、巫女の嬢ちゃんが倒れてくれた
「……(ぐぅ~)」
どうやら、御腹が空きすぎて戦いを維持できなくなったみたいじゃった
ふぅ……ほんの少し休憩しようと神社に寄っただけじゃったのじゃが
(わ、わし……何とか生き残れたみたいじゃな)
やれやれ、まさか生きるか食われるかの大勝負をする事になるとは思わんかった
……急いでこの場から離れたほうが良いかもしれんな
もう、これ以上の連戦をするのは無理じゃしな
さて、そうと決まれば……
「ほれ、嬢ちゃん気をしっかり持て」
本当なら、無視しておいても構わないのじゃが
流石にこのまま倒れたままじゃと危険じゃからな
他の妖怪が現れたら食べられてしまうかもしれんし
わしの髭で倒れておる巫女の嬢ちゃんの頬を軽くペチペチと叩く
すると、それに答えるかのようにわしの髭を手で掴もうとしてきたので
「うぅ……ナマズの丸焼き」
……急いで髭を離した
(本能だけは動いておるみたいじゃな)
なんだか、このまま放置しても良い様な気がしてきた……
じゃが、このまま放置するのも心が痛むし……
「そうじゃ……良い方法があるではないか」
困っていたわしの頭の中に良い考えが浮かんだので
手の代わりに手を(髭)ポンと叩いて
「勝手に神社に入るが……まあ許せよ?」
気絶している巫女を髭で運んで神社の中に入れると準備を始めた
・・・
「はぐはぐはぐはぐ!」
「お、おいおい巫女の嬢ちゃん……少し落ち着かんか?」
巫女の嬢ちゃんがテーブルの上に置いてある御握り
凄まじい剣幕で頬張る
「んぐんぐんぐんぐ!」
「そんなにがっつかんでも食い物は逃げんぞ?」
頬っぺたについた御米粒の事など気にせずに
その傍に置いてあった御味噌汁を一気に飲み干すと
「はむはむはむはむ!」
「やれやれ……」
わしの言う事など一切聞こえてない様子で
用意した干物を一心不乱に口に運びこんでいた
(里で食材買っておいてよかったわい)
とりあえず、手持ちの材料と
電気があればすぐ使える、便利グッズの携帯用コンロがあってよかったわい
大急ぎで作ったからあんまり大したもの作れんかったけど
飯が出来ると同時に意識が朦朧としていた巫女の嬢ちゃんが
猛然と起き上がり、出来た料理を物凄い勢いで口にし始めた
のは良いのじゃが……
「じゃが……そんなにがっつくと」
「もぐもぐも……んむ!?」
「ほれ、言わんこっちゃ無い……ほれ」
「んぐんぐ!?ぷはぁ~……はぁ~死ぬかと思ったわ」
お約束通りに喉に食べ物を詰まらたので
わしが大急ぎで御茶を手渡すと
巫女の嬢ちゃんは御茶を飲んでホッと一息つき
「うぅ……三日間ぶりに御腹一杯……もう死んでも良いわ」
満足そうに後ろに倒れこんだ
そんな巫女の嬢ちゃんを尻目にわしはテーブルの上を見ていた
(……また随分と綺麗に食べたもんじゃな)
門番の皆の夜食にでもと思っておった御握りも米粒一つ残らず平らげて
小さいとは言え、鍋一つ作った味噌汁も無くなり
少々多いかと思っていた山女の干物も綺麗に平らげてあった
「それにしても、骨すら残らんとはな……」
「当たり前じゃない、骨も貴重な食料だもの」
わしの呟き声に、満足そうに倒れていた巫女が起き上がる
「はあ助かった……もう少しで餓死する所だったわ」
「それはそれは……」
……あのまま放置しないで本当によかったわい
しかし、幾ら寂れているとはいえ
こんな力を持っている巫女の嬢ちゃんが……
「なんでまた食料危機なんかに?あれだけの力があるのなら妖怪退治でもすればそれなりにお礼が……」
「最近は平和だし、妖怪退治の依頼も少ないから食べていくのも大変よ」
「そう言う事か……」
「そう!それだけじゃなくて最近は魔理沙とか早苗とか勝手に……」
納得したわしに対して、巫女の嬢ちゃんが愚痴を零し始める
仕事の需要と供給のバランスは難しいからのう
依頼が減っておると言う事は襲われる者が少ないという事でよいのじゃが
それで食ってきた者達は仕事が無くなる訳じゃからな……
じゃがちょっと待てよ?
「なあ、巫女の嬢ちゃん」
「あいつ等、私の仕事を取ってなにが楽しい…………なに?」
愚痴を延々零しておった巫女の嬢ちゃんが
此方の方を向いたのを見てから疑問を問いかける
「此処は神社じゃろ?」
「そうよ?」
『だったら御賽銭も収入源のはずでは?』
わしが疑問に思った言葉を口に出した瞬間じゃった
目の前の巫女の嬢ちゃんが口を真一文字につぐんだのは
「………」
「ん?どうした嬢ちゃん」
不思議に思ってわしが巫女の嬢ちゃんを見ると
「わ、私だって……御賽銭が収入源だと……思ってるけど」
小刻みに肩を震わせて涙目でわしの方を見つめてきた
「……参拝客……ぐずっ……来ないもん」
「な、なにも泣く事はないじゃろ?ほ、ほれ、少しは入っているんじゃろ?」
その言葉に巫女が肩の震えが止まって
(お?少しは落ち着いてくれたか……)
小さく呟いた
「……御賽銭箱、此処何年も入った事……見た事無い」
(ああ……ど、どうやらわし大型地雷をふんでしまったようじゃな)
「さ、里の人だって……胸が大きい早苗の方が良いって思ってるもん!……うわ~~ん!」
「ほ、ほれほれ、泣く泣くな?なっ?なっ?」
暫くの間、わしは泣き出した巫女の嬢ちゃんが話す愚痴に
延々と相槌を打つことになった
・・・
「……う~……御賽銭」
「ふぃ……やっと寝てくれたか」
ふぅやれやれ……赤子と泣く子には勝てん
(全く、泣くだけ泣いて眠りおって)
里で御酒買っておいてよかったわい
なかったら、一日中宥めねばならぬところであった
(それに、気が付けばもう夜ではないか)
巫女の嬢ちゃんを宥めるのに時間がかかってしまったわい
「…………すぅ…すぅ」
「はぁ……全く、わしの一日を綺麗に潰してくれおって」
……寝ている巫女の嬢ちゃんをこのままにしておく訳にはいくまい
とりあえず、此処に出ている炬燵の上布団を外して……っと
「巫女の嬢ちゃんの上に布団をかぶせって……これでよしじゃな」
まあ、これで風邪をひくこともあるまい
……はあ、疲れたわい
さて、今からゆっくりと帰るとするかの……
わしが帰る為に部屋の外に出ようとしていたが
少しだけ考え込むと、頭の上に残っていた食材全部を
寝ている巫女の嬢ちゃんの傍に置き声をかけた
「ほれ、奉納品じゃ……これで暫くはまともに食えるじゃろう」
気持ち良さそうに寝ている巫女の嬢ちゃんの頭を髭で優しく撫でると
わしはそのまま部屋の中から出て行った
(さあ、急いで紅魔館に戻らんとな)
神社の階段を下りながら、わしはふと忘れていた事を思い出した
「……そういえば、あの巫女の嬢ちゃんの名前、聞きそびれたのう」
まあ、良いか……別に知らんでも
次に給料が入ったときでも御賽銭を入れに行ってやれば良いのじゃからな
なにやら疲れたが、暇な一日ではなかったわい
それに今夜は綺麗な三日月……
それをみながら、わしは門の前でむくれているであろう
門番の嬢ちゃんの居る紅い屋敷へと道を飛び跳ねるのであった
やっぱナマズ先生は優しいな!
何かこれ、凄い好きです。
作品自体もすごく面白かったです!
う~ん、ssって書いてみたいけど自信が・・・
これは可愛いですね。
ナマズ大先生、もっとそのお姿をお見せください!