稗田阿求は、とある用事を終えて人里に帰る為に、人気のない道を歩いていた。
とある用事といっても、幻想郷縁起編纂の為に里の近くの命蓮寺まで取材に行っていただけなのだが、ついつい(命蓮寺の連中の妙な服装や、オヤジ顔の入道のことについて)話しこんでいる内に遅くなってしまったのだ。
もう日が暮れかかり、帰路を急いでいた阿求であったが、そんな彼女を不幸が襲う。
「あぶべぇっ」
なんと、道の真ん中に何者かが作ったのであろう落とし穴に、顔面から鮮やかに落ちてしまったのだ。
その時の間の抜けた悲鳴も相まって、阿求の羞恥心を駆り立てる。
「こんな所に落とし穴を作ってまで私を嘲笑いたいんですか!?」
恨み事を口に出しながら落とし穴から這い出してくる阿求。
しかし彼女は見てしまった。
悪戯大好き三妖精が自分の姿を見て大笑いしているのを。
「ま、待ちなさい!」
顔中に憤怒の青筋を浮かび上がらせ、3バカ妖精を追跡しようとする阿求。
そんな阿求の姿を見て本気で怯えて逃げていく3バカトリオ。
阿求は復讐を誓った。
「あの日からかな、阿求が変わったのは―――」
「回想みたいに言わないでください」
「ジョークだ」
「貴方がジョークを言っても本気なのかどうか解りかねるのです」
ここは上白沢慧音の家。
この間の借りを返そうとして悶々と夜も寝られない日々を過ごす阿求は、とりあえず慧音に力を借りようとしたのだ。
「それにしてもお前は昔から妖精が嫌いなんだな」
「ええ、1000年以上前から嫌いですね」
「転生前まで遡るのか!?」
「じゃあ、先代達が編纂した資料でも見てみます?」
阿求は『漫愚痴集ミレニアムシリーズ(そぞろぐちしゅうみれにあむしりーず)』という青い表紙の冊子を差し出した。
ご丁寧にルビまで振ってあるが、その胡散臭いタイトルに慧音は戦慄すら覚えた。
「なんだこれは・・・」
「暇だったので、先代達の資料の中で愚痴が書いてある部分を引用して集めて冊子に纏めました。面白いですよ」
「そうか・・・ちなみに、この『ミレニアム』とはなんだ?」
「1000年という意味です。ホラ、なんだかんだで1000年以上の歴史が詰まっているんですよ、ソレ」
阿求は『そんなことも知らないんですかぁ?』と言いたげな表情で慧音を見る。
慧音は今にも頭突きを喰らわそうとしたが、大人げないので堪えた。
「この冊子の『妖精地獄編』というページを呼んでください。転生前の私の恨み事がつらつらと述べられています」
「タイトルが一々嫌だな・・・」
そう言いながら冊子を開く慧音。
そこには驚くべき内容が綴られていた。
阿礼:『太安万侶ヲ妖精ト見違ヘテ棒ユイミジク打チヌ』
(訳)『太安万侶を妖精と見間違えて棒で散々打ってしまった』
阿一:『妖精バカリ浅マシキ存在ハ非ズ」
(訳)『妖精ほど呆れた存在はないぜ!』
阿爾:『此方妖精ニナラバヤ』
(訳)『私は妖精になりたい』
阿未:『我武士ナラバ、妖精ヲ討タマシ』
(訳)『私がサムライだったら、妖精を叩きのめしている所だ』
阿余:『ウツシ世カクモ無下ナルカナ』
(訳)『現実って辛いよね』
阿悟:『我妖精ナリ』
(訳)『私は妖精だ!』
阿夢:『カケテ許サザラム』
(訳)『絶対に~許さないよっ☆』
阿七:『妖精ヨリ人コソ怖クテ候』
(訳)『妖精よりも人間の方が怖いのです』
阿弥:『偉い御方々は何が有つても動ずるなとのたまふが、妖精にだけは我慢がならぬに』
(訳)『偉い人にはそれがわからんのです』
阿求:『妖精を捕まえたら、日ごろの鬱憤を晴らすと良い』←New!!
慧音は溜息をついて冊子を閉じた。
その横では、阿求が期待の籠った瞳で見つめていた。
「どうでしたか?」
「色々と言いたいことはあるが、とりあえず時代の流れっていうものを感じた」
「どこで感じられるんですか・・・」
阿求は残念そうな顔をした。
慧音は内心『イラッ』ときたが、大人げないので(ry
「それにしても凄い意訳だな」
「ユーモラスでしょ」
「もういい、寝る」
「まままま待ってください!」
寝室に行こうとする慧音にしがみつく阿求。
「これじゃ、変な冊子見ただけみたいなものじゃないですか!」
「自分で『変な冊子』って言ってるじゃないか!」
「逃げるんですか!目の前の現実から逃げるんですか!それでは阿爾と阿悟の時の私と同じですよ!」
「やめろ!私だって現実から目を背けたくなる時もないことはない!」
結局、強烈な頭突きを阿求にお見舞いする慧音。
「死ぬほど痛いです」
「・・・明日また此処で会おう。そうすれば三妖精退治を手伝ってやる」
「ホントですか!」
「ああ」
慧音は喜ぶ阿求を見て、頭を恥ずかしそうに掻いた。
翌日。
阿求と慧音は件の落とし穴のあった道を歩いていた。
「ふぅ・・・あの時落とし穴に嵌ったのはここら辺でしたね」
記憶力抜群の阿求には落とし穴のあった場所を忘れるはずもなかった。
「さあ、出てくるまで待ちましょうか」
「そうだな・・・しかしそう簡単に出てくるだろうか」
「そうですね・・・貴方がいると怖がって出てこないでしょうし、どこかに隠れていてください。私が囮となって奴らを引きつけます」
「私は怖いのか・・・」
トボトボと草むらの中に入っていく慧音。
漂う哀愁は教師特有のソレだ。
(さあ出てきなさい3バカ妖精・・・見つけたら完膚無きまでに叩きのめしてあげます)
心の中で物騒な妄想を繰り広げながら阿求はただ待ち続けていた。
一時間後。
「ねぇ、あの人間がまたいるよ」
「本当だ。学習能力に欠けているんだね」
「フフッ」
思った通り、のこのこと現れた三妖精。
阿求のことを完璧にカモだと思っているようだ。
「じゃあ小傘さんお願いします」
「あの人間なら絶対に驚くんだってね?」
「ええ、そりゃもう」
三妖精の後ろから現れたのは九十九神の多々良小傘であった。
どうやら、驚かせそうな人間がいると聞いて手を組んだらしい。
(それにしてもサニーったら凄いじゃない。妖怪を味方につけるなんて)
(でしょ?)
(でもあの妖怪さんって、どう見ても怖くないよね)
(スターは現実的だなぁ・・・現実ばっかり見据えてるからそうなるんだよ)
(黙りなさいよ)
三妖精がヒソヒソと話している間に、小傘は阿求の後ろにそーっと近づく。
阿求はまだ気づいていない。
「ばぁ。おどろけー」
「・・・・・・・」
間の抜けた声に、間の抜けた格好。
阿求を驚かすには全く足りなかった。
(あ。失敗してる)
(ねぇ、凄く残念そうな顔してるんだけど)
(可哀そうに)
「ああ、自己紹介ですね。私は阿求です」
「え・・・あ、小傘です」
心底残念そうな顔をしていた小傘であったが、自己紹介と聞いて慌てて笑顔を取り繕った。
健気である。
「小傘・・・あ、『小傘の傘を焦がさないと』! 」
その時の阿求の得意そうな顔は大変うざかったと小傘は述懐する。
「え・・・?」
「ギャグです」
「あ・・・あ・・・寒い、寒いよー」
阿求の放ったギャグに悶絶して地面に倒れる小傘。
最早、可哀そうな彼女になす術はなかった。
「上手いこと言ったつもりだったのに・・・」
「寒い・・・寒い・・・」
(あの人間のギャグの寒さに私達まで・・・)
(それにしても本当につまらないギャグね)
(ええ、本当に)
その時、阿求はヒソヒソ喋っている三妖精を発見した。
「見つけましたよ!」
「ヤバイ!逃げないと!」
「ひいいいいいいいいい」
「ああっ!ルナがこけた!」
またも逃げようとする三妖精だったが、後ろの方に隠れていた慧音に突進されて三人とも悶絶し、結局阿求に連れて行かれてしまった。
「いやぁ、良い光景ですね」
「放してください・・・」
「許して・・・」
「なんでもしますからぁ・・・」
稗田家の軒先に吊るされた三妖精。
阿求は嫌な笑顔でその様をただ見ていた。
「1000年分の憎しみをここで晴らせるんですから、こんなに嬉しいことはないです」
「「「せ、1000年!?」」」
「ええ」
慧音は、その様子をただ遠目から気の毒そうに見つめることしかできなかったのであった。
楽しませていただきました。
阿求とけーね先生が話してた場所は上白沢邸なのにどうしてけーね先生が帰ろうとするの?
あと、地の文がなんだか淡々としていて物語に入り込めなかった。
会話が面白いだけにそこいらが残念。
可愛い…!
鬱憤晴らしきる前に転生しそうだな。