Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

おなかが冷える

2010/07/18 19:47:25
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 命蓮寺の夕げの後のひととき。
 何時ものように、聖手ずから煎れたお茶で一息をつく、命蓮寺の面々の中、食事中も俯いたままだった一輪がおもむろに切り出した。


 「姐さん。イメージチェンジをしましょう」
 「いめーじちぇんじ、ですか?」


 聖は一輪の言葉に小首を傾げてみせた。


 「そうです。イメージチェンジです」
 「ちょっと待ちなさい、一輪。藪から棒に、どうしたって言うんですか?」


 星のなだめるような、ゆっくりとした声音に、まくし立てるように喋っていたせいで浮き上がっていた一輪の腰が、すとん、とい草で編まれた座布団の上に落ちた。


「大体、どういう了見で聖に対してイメージチェンジを薦めているんですか?」


 やや、憮然とした声音を滲ませて星が一輪へと問う。


 「ちょっと、そこのネズミにも手伝ってもらってね。姐さんについての世論調査を」
 「……ちょっと待ちなさい。最近ナズーリンが見かけないと思ったら、そんなことを貴女は頼んでいたんですか?!」
 「まぁまぁ、ちょっとは落ちつきなよ星も。嫌だったら、ナズだって星に言ってるはずでしょ? で、一輪は何でそんなことをしたってのさ?」


 村紗が星を宥めるようにして一輪に先を促した。村紗の苦笑に、一輪はやや拗ねた口ぶりで、


 「みんなはあんまり意識してないみたいだけど、姐さんの里での評判って知ってるの?」


 一輪の言葉に星と村紗は顔を見合わせる。


 「少なくとも博麗の巫女よりは頼りになりそうと、そういった話ですか? 一輪」
 「いや、星。イメージチェンジ、なんて言ってるんだから、美人で評判とかそういった話なんじゃないの?」


 村紗の指摘にウチの聖はやりませんよ、などと反応している星に対して冷たい言葉が浴びせられる。


 「なにを阿呆なことを言っているんだい、ご主人様」


 まったく口を開いていなかったナズーリンがぼそり、と昂ぶっていた星に告げる。


 「……では、どんな評判だっていうんですかナズーリン」


 ばっさりと斬って捨てられた星は、やや涙目になってナズーリンに先を促す。


 「一輪に頼まれてちょっと里やらなんやらでの聖の評判を集めてみたんだが」


 そこで一旦ナズーリンは言葉を句切ると、聖をちらりと見、聖が許可の頷きを返すのに黙礼で答えると、


 「里での評判なんだが、概ね好意的なんだが、その……」


 歯に物が詰まったような表情をするナズーリンに対して、答えを知っている一輪は、ナズーリン、とだけ声を掛ける。
 その言葉に溜息を一つ吐くと、


 「やさしいおばあちゃんみたいだ、という表現が、そのね」
 「……おばあ」


 ぐらり、と重心が後ろに倒れかけた聖を慌てて支えながら村紗が驚いた視線をナズーリンに向けるが、


 「いくらなんでも、と里から足を方々に伸ばしてみたんだが、博麗の巫女は『なんか、紫とは違った意味で安心するというか』、森の魔女は『聖か? そりゃぁ、ばあちゃんだろ』、紅魔館のメイドは『お嬢様の幼さとそちらがお持ちの年相応の分別というものを交換して頂けませんか』、守矢の風祝は『勉強はしておいたんですが、やっぱりおばあちゃんの知恵袋には敵いません』といった感じ……、いや、そんな涙目になられても、私はそう聞いただけだから」


 うっすらと涙目になる相手など星で十分に見飽きているナズーリンをして、聖の涙目は罪悪感にかられるものだった。


 「……まぁ、そういった訳で、今、姐さんは岐路に立たされているんです」
 「それで、イメージチェンジっていうこと?」
 「そう」


 村紗の確認に対して、一輪は溜息混じりに答えた。


 「しかし、その、年齢相応といえば、相応の評価なワケで」


 遠慮がちに声を上げる星に対し、一輪は言い聞かせるように、


 「星。ここではね、容姿が幾ら若くたって、年寄り扱いされたらそれだけで胡散臭がられるのよ」 
 「そ、そうでしょうか?」
 「妖怪の賢者、八雲の大妖なんか、良い例でしょう。他にも、白玉楼の主とか、聞くところによると永遠亭の医者も相当な歳らしいし」
 「あぁ、確かに胡散臭、い」
 「そんな中に今、姐さんは括られようとしているのよ?!」


 一輪の言葉にこれは一大事だ、と星と村紗は顔を見合わせた。


 「それでイメージチェンジ、ですか」
 「そうなのよ」
 「で、その紙袋、なのね」


 村紗が一輪が雲山に持たせていた紙袋を目聡く見つけていた。


 「村紗は話が早くて助かるわ」
 「で、何をどうしようって言うのよ」


 新しい服と聞いて胸をときめかせる村紗に対して、服で若く見えるのでしょうかと星がヒトリ首を捻る。


 「まあ、ご主人様はまずは女心から知らないとね」
 「……ナズーリン、ちょっと馬鹿にしていますね、今」
 「……ちょっとで済ませる時点で重傷なんだけどね、ご主人様」


 星とナズーリンのやり取りの間に紙袋から出された衣装を見て、涙目だった聖は完全に絶句した。


 「博麗んところの服?」
 「をモデルに、姐さんに合うように人形使いにアレンジして貰ったのよ」
 「このライン。やっぱり博麗の巫女って凄いの着てるわよね」
 「八雲はおろか、紅魔館の魔女も着ることが出来なかった一品を姐さんが着れば」
 「いかに聖が若いか、という訳ね」


 イヤな笑いを口に滲ませてじりじりと近寄る二人に対して、聖は


 「ちょ、ちょっと、待って二人とも」
 「なんですか姐さん?」
 「着てからではダメでしょうか聖?」
 「そういった、ね。ちょっとお腹が冷えちゃうような造りのものは」
 「なにを言っているんですか姐さん。姐さんは、あ、の、八雲の大妖と同列視されてもいいって言うんですか?! 私はイヤですよ、あんな、何はともあれ胡散臭い、それにつけても胡散臭い、なんといっても胡散臭いなど、胡散臭さの代名詞と姐さんが同列視されるなんて」
 「そうですよ聖。一輪の言う通りです」


 一輪と村紗の詰め寄りに腰が引けた状態で星へと救いを求めるが、


 「聖が、聖が、あんな、丈の短いスカートを」
 「ふむ。あの巫女なら大して問題無いだろうが、あの腋からのラインは相当に暴力的だろうね」


 淡々と服を着た聖を想像している二人に聖はいよいよもって窮地に立たされ、そしてそのまま、ずるずると別室へと引き摺られていった。


 
 「こ、これが安請け合いした結果か。誠に自業自得である」



 その言葉にぼそり、とナズーリンは呟く。




 「基本的に、聖は『言動が』年寄り臭いんだけどね」



 生活全般を見直す必要があるということに一輪と村紗が気がつくのは何時の事やら、と溜息を一つ吐くと、ナズーリンは熱いほうじ茶をすすったのだった。






――淑女着替中――
とある読み手のご要望により、一気に書き上げた次第。

短い作品ですが、忌憚のないご意見を頂戴出来れば、と思います。
ではでは。
天井桟敷
コメント



1.けやっきー削除
いやぁ…どんなのになるんでしょうか。
露出度すごいんでしょうねぇ…

>何はともあれ胡散臭い
 それにつけても胡散臭い
 なんといっても胡散臭い
ここ、気に入っちゃいました。
2.名前が無い程度の能力削除
大丈夫だよ聖、里の人間の中にはそれでも結婚してほしい紳士たちがいるはずだから。というわけで結婚してくれ。
3.ぺ・四潤削除
ああ、俺可愛いおばあちゃんも大好きなんだ。
恥ずかしがりながら若作りな服を着るひじりん可愛いよ!
ていうかいつもの服も十分に若作りな気がするが……
4.名前が無い程度の能力削除
巫女と比べるのは無茶だよひじりん。
巫女は結界守ったり、異変解決したり、妖怪ド突いたり、宗教者以外の方向で実績盛りだくさんだから……。
イノシシ退治の猟師に対する信頼感に近いかも。

色々な意味での包容力で勝負するべき。
5.奇声を発する程度の能力削除
ここにも紳士がいますよ、というわけで結k(ry
6.名前が無い程度の能力削除
お腹を冷やすから、なんてとんと聞かなくなりました。
言われていた頃は気づきませんでしたが、実に温かみのある言葉だったなと。
自分は今の姐さんが好きですよ。

でも聖の巫女姿はすごく見たい。
7.名前が無い程度の能力削除
聖の巫女姿は見てみたいけれど
年相応の包容力こそが聖の魅力。
しかし妖怪の賢者とは何者だったのだろうか…。