前回の『ぬえの散歩』の続きです。
読んでいなくても、あらすじ読めば全て上手くいきます。
あらすじ
いつものように、村紗船長にいたずらをする封獣ぬえ。
今回は野良犬に正体不明の種を植え付け、村紗船長に押しつけてみました。
すると、村紗船長はその犬を封獣ぬえとして認識してしまったのです。(ここ重要)
犬が封獣ぬえに見えているとは、気づかない村紗船長。急に喋れなくなり、服を着なくなった、封獣ぬえを疑問に思いながら、いつものように溺愛しました。
村紗船長は天然船長だったのです。
予想外の結果に封獣ぬえは、困惑しました。
ぬえには村紗船長が犬を何に見ているのか、わかりません。(ここも重要)
(私よりも犬のほうが良いのか!?)
犬に嫉妬した封獣ぬえは犬耳と尻尾を装着しました。
前章 『問題提議』
犬耳と尻尾を着けた封獣ぬえが村紗船長の部屋に荒々しく入室しました。
しかし、村紗船長は、いぬえを夢中でマッサージ中のようです。封獣ぬえの存在に全く気づきません。
「おーよしよし。可愛いねぇ」
封獣ぬえには、村紗船長が犬をマッサージしているだけに見えます。
村紗船長は、愛しい封獣ぬえを可愛がっているつもりです。
封獣ぬえが村紗船長を後ろから呼び掛けます。
「おい、水蜜」
「ああ!ぬえが喋った!良かったね!また、喋れるようになったんだね!」
村紗船長の視線は相変わらず、いぬえに向けられたまま。全く気づいてもらえない封獣ぬえは軽くイラッとしました。
(いい加減、気づいてよ!)
わざわざ、村紗船長の為に恥ずかしい気持ちをこらえて、犬耳を装着した封獣ぬえ。
我慢の限界です。
封獣ぬえは、村紗船長を小突いた上に、犬に植え付けていた、正体不明の種を引っ剥がしました。
「あ痛っ!……もう、誰?…って、ぬえ?」
「やっと気づいたわね」
「え?いつの間に私の背後にいたの?私の膝の上でマッサージをしていたのに…あれ?なにこの、わんちゃん」
「??何言ってんの??」
封獣ぬえには、村紗船長が犬を封獣ぬえと勘違いしていた事を知りません。
会話に不協和音が生じます。
「あ、ぬえ、服着てる」
「何、人がいつも素っ裸でいるみたいに言ってるの!」
「いや、最近、服着てなかったから心配してたんだよ。風邪ひいちゃうじゃないかって」
「だから何言ってるの!?」
封獣ぬえは軽々と素っ裸になるような子ではありません。シャワーの時と生涯を共にすると決めた人の前だけです。
会話が成り立っていなくても、封獣ぬえは久しぶりに村紗船長と話せた事が嬉しいようです。羽がパタパタとはためいています。
村紗船長がちらりと時計を見ました。
「あ、ぬえ。時間も丁度良いし、散歩行こっか」
「あっ、うん!」
久々のお散歩デートに封獣ぬえの胸は高鳴りました。
「って、おい水蜜。それは何だ?」
「えっ?首輪だけど…」
「どうするつもり?」
「最近のぬえはこれ着けないと、すぐにどっか行っちゃうから…」
「私は犬じゃないぞ!?」
「言われてみればそうだね。でもさ、最近、ぬえ、周りから犬みたいって言われない?私から見ても行動が犬そのものに見えるんだけど…。犬耳、生えてるし」
「さっきから何言ってんの!?というか、この犬耳は違っ!」
「ほら、抵抗しないで」
「するよ!抵抗!」
封獣ぬえは腕と羽を振り回して抵抗しました。
しかし、結局はやたら手馴れた村紗船長に赤い色の首輪を着けられてしまいました。
「よしよし、いい子いい子」
「むぅ…」
封獣ぬえは頭をなでられて、溜飲が下がってしまいます。
(まぁ…久々のデートだし、これくらいは我慢してやるか)
封獣ぬえには赤いリードが、運命の赤い糸に見えたのでした。
ここで、村紗船長は自身の膝の上でくつろいでいる犬に目を向けます。
「ついでに、このわんちゃんも一緒に連れて行こう」
こうして、二人と一匹の楽しい散歩が始まりました。
後章 『解答』
封獣ぬえは村紗船長とドギマギしながら肩を並べます。
村紗は右手のリードに犬を、左手のリードに封獣ぬえを携えています。
封獣ぬえは、村紗船長に寄り添い、思いました。
(端から見たら恋人に見えるのかな…なんて。キャーキャー!)
封獣ぬえは、照れながら羽をはためかします。
確かに首に紐が繋がれていなければ、恋人同士で犬の散歩をしているように見えるでしょう。
実際、端から見ると、犬と一緒の首輪をしている事と相まって、さしずめ『お散歩プレイ』でしょうか。…恋人以上でした。
言わぬが花。黙っていれば、滞りなく散歩デートは進んだのでしょう。
しかし、天然船長は絶望的なまでに空気が読めません。
村紗船長が水を向けます。
「ぬえ。今日は四つん這いじゃないんだね」
「はいぃ!?」
思いしない言葉に封獣ぬえは素っ頓狂な声を上げる。
(私がいつ、四つん這いで散歩したと!?それともあれか?水蜜は私に四つん這いして欲しいのか!?そんな犬みたいな真似できる訳ないじゃない!私は天下の鵺よ!偉大な大妖怪よ!!)
そう言いつつ、封獣ぬえは膝を地面につけ、四つん這いのポーズをとります。
(まぁ…水蜜がどうしてもって言うのなら…仕方ない)
「いや、あの…、わざわざ四つん這いにならなくてもいいんだよ?ぬえの好きな歩き方で…」
「えっ!あ、そ、そう!?」
(そうだった、水蜜は他人を虐げて快楽を得るような奴じゃない)
早とちりしてしまった封獣ぬえ。赤面しながら、立ち上がります。
(しかし、今日の水蜜はおかしい…。私を犬扱いしていないか?)
封獣ぬえは吊り目気味な目を閉じて、考えます。
(犬といえば、この野良犬。私が正体不明の種を植え付けてから、水蜜を独り占めしやがって…)
(水蜜も水蜜だよ。こんな、間抜け面した犬なんか手厚く扱っちゃって…)
(ん?犬には正体不明の種を植え付けたから、水蜜には犬に見えてないんだったな)
(じゃあ、何に見えたんだ?)
(水蜜があんなに夢中になるような存在か…。カレーとか?)
(いや、さすがにそれはないな。カレーに語りかけたりしないもん)
封獣ぬえの思考は、後一歩の所まできました。
その時、村沙船長が大声をあげます。
「あっ、こら!そっちは散歩コースじゃないよ!」
「わんわん!」
「リードを引っ張るな~」
「わん!」
「ああ、もう。この子、昨日のぬえそっくりだ。それに比べて、今日のぬえは大人しくて、いい子だね~」
封獣ぬえは頭をなでられて、顔を綻ばせます。
(えへへ。今日の私はいい子)
(…昨日の私は犬?)
封獣ぬえは閃きました。
(あっ!水蜜は犬が私に見えたのか!)
いよいよ、封獣ぬえは答えを導き出しました。
(だから、服着てるだの、四つん這いだの言っていたのか)
(ああ、ああ。だから私と勘違いしてあんなに犬に夢中になってたのか。も、もう水蜜ったらしょうがないんだからぁ~。しょうがないから私を放置した事は許してやろう)
封獣ぬえは村紗船長を許してあげる事にしました。自分と間違えて犬に夢中になっていたのなら仕方ないと考えたのです。
つまりそれは、村紗船長が封獣ぬえを深く愛している証。
封獣ぬえは満更でもなく、頷いています。
だけど、封獣ぬえはもう一つの大事なポイントを思い出しました。
(ん?服着てる?…それって私が素っ裸に見えたって事…?)
つまり、その通りです。
村沙船長は、全裸のぬえと散歩し、全裸のぬえをマッサージしているのでした。
改めて言いますが、そのぬえは封獣ぬえ、その者ではありません。犬です。
「おい、水蜜」
「ん?なぁに、ぬえ」
村沙船長は愛しい人を呼ぶ声で返事します。
「死ねぇえええっっ!!」
「え!?う、うわぁあああっっ!!」
エピローグ 『いつもの二人』
「ねぇ、ぬえ、許して。この通り!まさか、わんちゃんに正体不明の種が植え付けられてたなんて気づかなかったんだよ~」
「う、うるさい。馬鹿」
村紗船長は、正座をして、許しを請うています。
封獣ぬえも、心の中では村紗船長は悪くない事はわかっていました。ただ、やり場のない恥ずかしさをぶつけてしまったのです。
「ずっと、ぬえに気づかなかった事はもう反省してるから。次は、絶対、気づくから!」
「次なんかないよ…」
封獣ぬえ自身、こんな事はこりごりなのでした。
「あ、これで許してくれる?私愛用の柄杓」
「そんなの、どう使えばいいのよ!?」
「え?顔洗う時とか、料理の時とか、雨量を調べたい時とか、他にも、極めれば楽器にもなるし…」
「なんで、そんなに使い道があるのよ…。と、とにかくいらない」
「ブランド物なのに…」
村紗船長はしょんぼりと肩を落とす。
「おい、水蜜」
「え?なあに」
「私の事をどう思う」
「え?好きだけど?」
まるで、『目玉焼きは醤油です』みたいな軽さで、答える村紗船長。これが、船長の天然たる所以です。
封獣ぬえは、何度も聞いてきた、このセリフを聞いて、溜め息をつきます。
「だからなんで、いつもそんなに軽々しく言えるのよ。『好き』はもっと気持ちを込めて言うものでしょ」
「でも、ぬえ」
「なによ」
「顔が…笑ってる…」
「!!」
村紗船長は純粋な眼差しで、封獣ぬえを見つめています。
「ううううるさいっ!!この馬鹿っ!!」
「わぁっ!ごめんなさい、ごめんなさい!」
「もうっ!余計な事ばっかり言うんだから!」
そう言って、封獣ぬえは。ぷい、と顔を背けました。
「ねぇ、ぬえ」
「なによ」
「羽が…動いてる…」
「!!」
パタパタ。
村紗船長は純粋な眼差しで、封獣ぬえを見つめています。
「うがあああああぁぁぁっっ!!!!」
「ひゃああぁっっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「水蜜は私を怒らせるのが好きみたいだねっ!!!」
「ち、違います」
「もう水蜜とは口利かない!」
そう言って、封獣ぬえは完全に後ろを向いてしまいました。
「ねぇ、ぬえ。ほんとに怒ってる?」
「怒ってるわよ」
「じゃあ、何で首輪外さないの?」
「……」
赤い紐は運命の赤い糸。二人を結ぶ、赤い糸。
ぬえぬえ可愛い……
全裸のぬえを膝に乗せてマッサージ……それって愛b(規制)
全裸のぬえに首輪で四つん這い……でも内心いつかされてもいいなって思ってたりして。
実に良いムラぬえでした。
この雰囲気、いいですねぇ。
ぬえといつまでも可愛いバカップルでいてください