Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

それは、海をわたった少女のものがたり ?日目

2010/07/16 22:31:05
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@ノ¨<さて、最終話です。以下の作品の続きとなってます。
〇日目
一日目
二日目午前
二日目午後
三日目
四日目
四日目深夜
五日目


 旅行に帰ってからしばらくして、テストがやってきた。英語はアメリカに行ったおかげか勉強が楽しくなって、ついついがんばりすぎた。
 テストはかんたんで、スイスイ進んでいった。さぞ結果はいいんだろうと思って、返されるのが楽しみだった。

 そのときはまだ、ギリギリマスター継続だなんて、思ってもみなかった。
 おかしい。傾向を掴んだはずだったのに、まるで作る人が変わったかのような感触だった。しかも、リスニングでは鍛えられない綴りでぼこぼこに。


 そんなイヤなことは忘れよう。
 そうだ、ハーン家のみなさんの話にしよう。ハーン家のみなさん、特にメリーとは今でも手紙のやりとりがある。一週間に一度は手紙を送りあっている。
 ずっと英語でのやりとりだったけど、あるときメリーの手紙の最後に、日本語でメッセージが書いてあることに気づいた。

『にほんごの べんきょうお はじめましに』

 向こうに行ったときさんざん英語のスペルミスでからかわれたんだ、今度はこっちから仕返しだ。
 バカにして手紙を送り返すと、つぎの手紙がすぐに来た。

『散々馬鹿にしてくれたわね。今度日本に行ったときには、私の流暢な日本語を聞かせてあげる、舌を巻くがいいわ』

 どこの駅前留学だ。
 近いうちにわたしを超えそうな気がしてきた。はやめに謝ったほうがよさげだ。


 高校三年生になってからも、彼女との交流は続いた。もちろん勉強はかかせなから、回数は減ったけれど。

 勉強、そう受験だ。大学を決めなくてはいけない。

 じつは京都へ行きたいという、希望のようなものがあった。
 強いけど弱いという、よくわからない気持ちだけど、なんとなく行きたかった。
 でも実家をはなれるという不安もあった。

 だから第一志望として京都の大学を選んだものの、あとは実家から通える大学を滑り止めとして選んだ。

 大学受験は努力が実り、なんとか現役で第一志望の京都の某大学に合格。ところがここでまた、変なことが起きた。

 さっきも言ったとおり、第一志望は京都の某大学。
 第二志望、第三志望、第四志望、第五志望は全部実家から通えるところだ。
 第一と第二はほとんど同じレベル。すこし落として第三。
 2年のときからA判定をもらっていたすべり止めの第四、第五。

 なんと、第一志望以外全部落ちた。
 うしろから崩れる床が追いかけてくるようであせる。
 というわけで、わたしは京都へ行かざるをえなくなったのだ。
 ちなみに、このせいでギリギリマスターの称号は卒業してもはがれなくなった。


 不安を抱えながらも京都へと引っ越して、大学生としての日々を過ごしていた。
 メリーと再会したのは、大学に少しずつ慣れてきたころだった。

 金髪の人がいるなー、と思っていたけど、まさかそれがメリーだとは思わなかった。
 さすがにびっくりしたけど、彼女が最近の若者よりもきれいな日本語で話してきたときはもっとびっくりした。
 『薔薇』と『檸檬』を目の前で書いてくれたときには、泡を吹いて倒れた。

「勉強大変だったよ」
「オツカレー」
「ずっと、蓮子を見返してやりたかった」
「オツカレー」
「わたし、がんばったよ……!」
「オツカレー、ホントに、オツカレー」

 わたしは反射的に土下座をしたくなった。ギリギリのところで踏みとどまったが。
 その代わり、人間をやめた。
 わたしは「オツカレー」だけをひたすら繰り返す機械になっていた。


 わたしのおごりで喫茶店に誘った。
 雑談をしていると、メリーはカバンから紙を取り出した。
 そこには、妖怪らしきモノの絵が描かれていた。
 はっ、と記憶がよみがえった気がする。しかし、浮かんだ光はすぐに沈んでしまう。

 その絵をもう一度見る。
 猿の顔、狸の胴、虎の足、蛇の尾――。

「なぜかこんな化けものが記憶に残っていたの。この化けもの、調べたらヌエっていう妖怪らしい。もっと調べたら、京都に出没するらしいじゃないの。
 これは京都に来ないわけにはいかないわ」

 ふふん、と得意げに笑う彼女。わたしはただ、呆然としていた。



「ふああぁ……」
「眠たそうね」
「そりゃそうよ。誰よ昨日夜遅くまで調査に付き合わせたのは」

 いつの間にか倒置法を使えるようになっていたメリーが、ギロリとわたしをにらむ。それをよけて、「だって、」と続けた。

「あの日の夜のこと、ちゃんと知りたいでしょ?」
「むう……」

 やっとメリーを打ち負かすことができた。あの朝、起きたわたしは慌てずにはいられなかった。
 最初のほう生きていた記憶が、どんどん沈んでいったのだ。メモを取ろうとしたのだが、間にあわなかった。

 空白の夢は、まだ埋められずにいる。

「そうだ蓮子、その日のことなんだけど」
「なに?」
「不気味な話があるの」

 メリーがまわりを見て、それから顔を近づけてくる。

「あの日、わたしの家にピストルを持った強盗が侵入したの」
「は?」

 どんな作り話だ、と笑いたくなった。しかしメリーの表情は、それを許さない。

「犯人は逮捕された。でも、こう証言しているらしいの。『女を2人、人質にしようと思った。だが、その2人は消えてしまった』って。
 警察は彼が麻薬常用者じゃないか調べたらしいけれど、違った。結局、極度に緊張した犯人の妄想、ってことで片付けられたみたい。
 彼、相当臆病だったみたいだから」

 メリーは、「わたしはそうは思わないけどね」と付け加えた。どこに対して、「そうは思わない」のだろう。
 わかるようで、やっぱりわからなかった。

「じゃあ、あの日わたしたちはいったい……」
「移動していた、ことになるんじゃないかな」

 やっぱりそうだよね。2人で納得する。でもこれで解決だとみなすのは、納得できない。

 話を切るのが嫌で、なにかを言おうとした。そのとき、女性の声に話を切られた。

「あ、二人ともここにいたのね!」

 突然食堂の向こうから、金髪の女性が現れた。

「あれ、教授」
「いいもの見つけたわ、今度の二人活動場所、ここになさいな」
「遠野……ですか?」
「ええ、ぴったりじゃない」

 この人は、民俗学の教授だ。
 興味本位で民俗学の授業を履修してみたら、なぜかこの教授に気に入られてしまったのだ。
 わたし自身、初対面のときからこの人が、知らない人だとは思えなかった。
 会ったことはないのに、なぜか知っている。
 そのふしぎな感覚は、わたしとこの人の関係をつなぐ架け橋になっていた。

 民俗学の深い知識を提供してくれるから、彼女には感謝している。

 でも、どうしても気に入らないことがあった。

「帰ったら報告書書いてね」

 これはどうにかならないものだろうか。いつも調査が終わったあとは、報告書の地獄に苦しめられるのだ。
 原稿用紙200枚ね、って。卒論か。

 しかもこの報告書とやら、この人の趣味らしい。
 忙しくて出かけられないから、と彼女は言う。

「『行った。見た。なにかいた』でいいですか?」
「宇佐見さん、あなたのことをこれからシーザーと呼ばせてくださいな」

 教授は笑い、頼んだわよーとだけ言って立ち去ってしまった。
 たぶんこれは、レポート免除ならなかったのだろう。

「まったく。あのメリー似の教授、性格まで似てるなんてね」
「わたしはあんなのじゃないわ」
「まあいいや。じゃ、メリー。はやいうちに旅行の準備しましょ」

 メリーがぽかんとした顔になる。

「え、行くの?」
「当たり前じゃない。あの教授が行けって言ったところに行って、はずれたことあった?」
「はずれたことしかなかったと思う」

「メリーは能力を拡張できたじゃない」そう言い返した。

「ま、諦めてよ」
「はいはい」

 メリーはため息をつく。でも、口元が笑っている。

 期待しているな。そう思わずにはいられなかった。

 わたしはかつて、海をわたってメリーのもとへと行った。
 あそこでつむいだ物語は、いいことばかりじゃなかったけれど、とても大切な思い出だ。

 メリーにも、その思いをさせてあげたい。
 陳腐な表現だけれど、わたしたちの物語はまだおわっていない。

 海をわたったわたしの物語は確かにおわった。だけど、メリーの物語はまだだ。だからこそ今、それがはじまろうとしている。

 そこで得たすべての経験が、彼女の物語に直結する。

 そう、

「それは、海をわたった少女のものがたり」

 ――もう1つの、だけれどね。

 メリーが首をかしげて、「くくく」と笑うわたしを見つめる。
 主人公と書かれたバトンを渡されたことに、きっと気づいていないのだろう。

 しっかりしてよねメリー、これからの主人公はあなたなんだから。

 なんちゃって。
 メリーに握らせた主人公バトンを、もう1度掴む。
 わたしたち2人で、バトンを1つ握っている。

 そのまま、1歩。もう1歩。

 秘封倶楽部――わたしたちの旅がおわるその瞬間まで、このバトンを一緒に握っていよう。

 ね、メリー。



 <おわり>
 おつかれさまでした。
 遅くなってごめんなさい。しかし約束を遂げることができました。

 この1作は、わたしにとって大切な1作でした。
 この1作で、いろいろなことを学びました。
 たとえば、連載はむずかしいことだとか、遅れてはいけないことだとか! 当然ようで、実感してみないとわからないことばかりでした。

 しかし学んだ中で1番大切なことは、これ!

「長い作品は、やりがいがある」

 このことを学んだことで、わたしの選択肢に長編が追加されました。
 その選択肢が消えないうちに、もう1つ、長いのに挑戦しております。

 その際には、またよろしくおねがいします。
 もちろん、短いほたるゆきも。

 それでは、またお会いしましょう。
 お読みいただいてありがとうございました!

◎7月23日 誤字修正。
ほたるゆき
http://htryk.blog103.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
Cogratulation!
Cogratulation!
おめでとう……! おめでとう……!
完結おめでとう……!

秘封の作品って色々ありますが、「普通」の蓮子やメリーってあんまり見ないんですよね。
二人とも特殊な力や頭を持ってるから、そりゃそうなんでしょうが。
秘封倶楽部が出来るまで、二人が「普通」から離れるまでを上手く書けたと思います。
新鮮で斬新、面白いお話でした。
2.奇声を発する程度の能力削除
とっても面白かったです
3.名前が無い程度の能力削除
正確まで似てるなんてね→性格まで似てるなんてね

メリーさんの上達速度が半端無いっすね
『にほんごの べんきょうお はじめましに』
の次の手紙が
『散々馬鹿にしてくれたわね。今度日本に行ったときには、私の流暢な日本語を聞かせてあげる、舌を巻くがいいわ』
って凄すぎその言語能力が羨ましい

完結おめでとうございます、お疲れ様でした
4.名前が無い程度の能力削除
ほたさんかわいい
5.ほたるゆき@ノ¨削除
さて、遅れてごめんなさいね。
返信、いっきまーす。

>>1さま
あっ、Congratulationの綴り間違えてますよ。冗談ですよ!
能力を持っていない2人を書きたいな、と思ったのがきっかけでした。
普通の少女たちのように、過ごしてくれたらいいなーと思いまして。
ごめん普通じゃなくなった、としか言えないんですけどねー。

>>奇声を発する程度の能力さま
ありがとうございます!
今回はお静かですね!

>>3さま
なんということ……!
誤字報告ありがとうございます、ちゃんと直せました!

メリーさんは、受験とかで最後以上に追い込むタイプだと思います。
勝手に妄想して勝手にうらやましくなりました。

>>4さま
もう、人がいるところでその名前を呼んじゃダメって言ってるじゃない!
それは2人のときに耳元で囁いてくださいよー。
なに言わすのよ。


お読みいただいてありがとうございました!
なんか最後変なのありましたけど、うれしい感想どうもです!