※五音七音で構成しているつもりです。
天へ逝け。
地に沈め。
白であれば左の示し。
黒あるなら右を差す。
この手一つで死を裁き。
この棒一つで罪を見抜いた。
私の元へ立つ人は、皆々怯えた顔をする。
私がその目で見据えてやると、彼らは2つに分れうる。
1つは凛と身を構え、1つはその身を震わせる。
いつもとなれば白は前、黒は後者と見えてくる。
さすれば私の思惑通り、力も白黒つけるのだ。
白なら天へと救われて。
黒なら地へと堕ちてゆく。
それが私の日々だった。
変わることなき日々だった。
ある日流れた一人の男。見ればずぶ濡れ泥鼠。
罪が重くば三途は長い。それほど悪の者だろう。
ほとほと歩いて私を見据え、彼は私にこう言った。
やぁやぁこれは閻魔様。私の罪を聞いてくだされ。
言われなくとも罪など分かる。私は彼を突き離す。
そんな言葉を聞いて聞かずか男は笑いてこう言った。
村を焼き、数多を盗み、人を食べ、友を裏切り、誰も救わず、無学のままに、神を吐き捨て生きてきた。
閻魔様、私は地獄へ落ちましょう。なれど心残りがございます。
なんとも外道な男なり、そう思いながら私は問うた。
お前は地獄に行くだろう。心残りはなんぞやと。
すると男は小さく笑い、右の門を指さして。
私は全ての悪事を成した。そう思いたり死んだのです。しかし私は尋ねたい。
私の成さぬ悪事とは。まことに地獄に至るのは何の罪かと尋ねたい。
私は呆れ棒を指す。無論右へと棒は向く。
地獄へ行きやと棒は言う。されど男は声をあげ、
何の罪かと問いかける。
私は男の方を向き、小さく口を震わせて。
彼に言葉を突き付けた。
次の日流れた一人の女。見れば一縷も濡れてはいない。
罪が軽くば三途の浅い。それほど善の者だろう。
すらすら歩いて私の見上げ、彼女は私にこう問うた。
閻魔様。懺悔を聞いてはくれまいか?
そなたに罪などないだろう。私は彼女に聞き返す。
そんな言葉を聞くや否や女は悲しみこう言った。
愛を知り、救いを与え、友を愛し、学びを惜しまず、神を愛して生きてきました。
閻魔様、私は天に召されたい。しかし心残りがございます。
善に生きたる人である、私は思いて女に問うた。
善たるお前は天へ行く。心残りはなんぞやと。
すると女は悲しく泣いて、左の門を指さした。
私は善を成したと思い、全てを賭して生き抜いた。されど善とは思えない。
閻魔様。私の成せぬ善とは何か?まことに天に至るは何か?
私は呆れて棒を指す、無論左へ棒は向く。
天へ行きやと棒は告げるども、女は未だ声をあげ、
善とは何かと問いかける。
私は振り向き昨日のように、小さく口を震わせて。
彼女に言葉を突き付けた。
全ての悪に、全ての善に。
かかりし言葉はひとつだけ。
男も女も理解せず。
地獄へ天へと歩いていった。
かけた言葉はただひとつ。
無知こそ罪で知らぬが仏。
善と悪とは表裏で同じ。
されど罪とは別にあり。
救いの向こうで人が死に。
盗んだ物で救われる。
されど裁くは罪ひとつ。
白と黒とはそこにあり。
真に悪しきもないならば。
真に善しもないだろう。
死した前には善もなく。
ただただ罪が見えるのみ。
だから私はいつものように、小さく罪を裁くのだ。
なぜなら今の私では、答えることなど無理だろう。
全てが善とし悪として。
白と黒に分けるなど。
こういう感じのお話は大好きです