Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

こーりん

2006/07/05 10:42:59
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あらすじ

 そうは言うがな大佐。







 幻想郷は魔法の森のすぐ近く。

 そこに一軒の古道具屋がありました。


 お店の名前は「香霖堂」。


 あまり人のやってこない、繁盛とは無縁のお店です。

 店主の青年はいつも、繁盛しないことに文句を言っていました。

 けれども、本当はあまり気にしていません。

 だって、もともとは趣味ではじめたお店でしたから。


 それに青年は静かに本を読むのが好きでした。

 お客さんがたくさん来ると、いそがしくなって本も読めません。

 口では文句を言いながらも、暇な時間に本が読めるので、青年は幸せでした。



 彼の名前は森近霖之助。

 少し変わり者の青年でした。




 それは夏も近づいた、ある雨の日のことです。

 その日は大粒の雨がぱらぱらと降っていました。

 お店は開いていましたが、こんな雨の日はいつも以上にお客さんが来ません。

 きっと誰も来ないだろうと思いながら、彼は本を読んでいました。

 壁掛け時計が刻むチクタクという針の音がお店の中に響きます。

 それ以外は雨が屋根を叩く音と、時折、彼が本のページをめくる音だけしかしません。

 
 ひっそりとした、静かな雨の日でした。

 あまり外に出ない霖之助は、こんな静かな雨の日も嫌いではありませんでした。



「――こんにちわ、こんにちわ」


 
 ぜんまい仕掛けの壁時計が、ボーンボーンとお昼を告げる頃。

 お店の入り口の方で、かわいらしい声がしました。

 最初は空耳かと思った彼でしたが、声はもう一度「こんにちわ」と2回くりかえします。

 読んでいた本を閉じて、彼はお店の入り口へとむかいます。



「――はい、どなたかごようですか?」



 お店の入り口には、愛らしい女の子がひとりで立っていました。

 女の子といっても、人間の女の子ではありません。

 女の子の背中からは透き通った綺麗な翅が生えているからです。

 翅はすこし雨にぬれて、きらきらと光っていました。


 緑色の髪を黄色いリボンで結んだ、青色のワンピースの女の子。

 手には傘の代わりでしょうか。大きな葉っぱを持っています。

 女の子は霖之助を見上げてたずねました。



「ここは香霖堂さんでしょうか?」

「ええ。ここは香霖堂です。なにかお求めですか?」



 どうやら、この女の子はお客さんのようです。

 霖之助はひざを曲げて、女の子と目の高さを合わせながら言いました。

 女の子は、ずいぶん真剣な目をしていました。

 

「私は、紅いお屋敷の傍にある湖の近くに住んでいる、名もない妖精です。

 実は、私の友達のチルノちゃんという妖精が、病気になってしまったのです」



 妖精の女の子は、いっしょうけんめいに話し始めました。



「熱が出て、せきやくしゃみが止まらないのです。

 鼻が詰まってくるしそうで、とても見ていられません。

 香霖堂さんにはいろいろな道具があると聞きました。

 どうか、どうかおねがいです。

 チルノちゃんの病気を治せる道具を私に売ってください」

 

 それは今にも泣き出しそうな顔でした。

 つぶらな瞳の端にはこんもりと、涙が盛り上がっていました。

 チルノという友達をどれだけ大切に思っているか。

 その必死な姿から、痛いほどにその気持ちが伝わってきます。


 
 霖之助はちいさく頷いて答えました。
 


「わかりました。なにかお役に立つものを探してみます。

 どうぞ、中に入って、すこしの間、待っていてください」



 妖精の女の子をお店の中に招いて、彼は店の奥へ。

 壁掛け時計の音と、お店の屋根を打つ雨の音だけが響きます。

 お店の古い道具からは、どこかなつかしさをおぼえる香りがしました。

 少し埃臭いそれが、妖精の女の子の鼻をくすぐります。

 不安でいっぱいだった妖精の女の子の気分が、すぅっと落ち着いてゆきます。



「―――不思議なお店」


「お待たせしました」



 妖精の女の子の呟きが、お店の中に溶ける頃。

 霖之助がお店の奥から戻ってきました。

 手にはゴムで出来た枕のようなものと、小瓶を持っています。



「それが、病気を治せる道具なのですか?」

「いえ、これは病気を治す道具ではないんです。

 ふたつとも、高い熱を出したときに使う道具なのです」



 戸惑う妖精の女の子に目の高さを合わせ、霖之助は言いました。



「僕のところには、病気を治せる道具や薬は置いていないんです。

 話の限りでは夏風邪のようなので、このふたつで大丈夫だと思います。

 大事をとって知り合いのお医者さんに連絡を入れておきましょう。

 お医者さんがつくまでの間、このふたつの道具をお友達に使ってあげてください」



 霖之助の話を聞き終えた妖精の女の子は、ほっと胸をなでおろしました。



「ありがとうございます。そんなところまで気をつかっていただいて」


 妖精の女の子の顔には、やわらかい笑みが浮かんでいました。

 やっと笑ってくれた女の子に、霖之助も小さく微笑みます。


「どういたしまして。大事なお客さんですからね。

 それじゃあ、今、このふたつの使い方を説明します」


 幾分弾んだ声で、霖之助は答えます。

 そして手に持ったゴムで出来た枕のようなものと、小瓶の使い方を説明しました。


 ゴムで出来た枕のようなものは、水枕。

 中身は空っぽで、片方の端に開いています。

 そこから水を入れて枕にし、開いているところを金具で閉じます。

 これに頭を乗せて寝れば、熱の出ている頭を冷やすことが出来ます。


 小瓶の中には塗り薬が入っていました。

 ヴェポラップという、胸やのど、背中に塗る薬です。

 血行をよくして体を温め、鼻づまりやくしゃみを和らげます。


 渡されたそのふたつを、女の子は大事そうにぎゅっと抱きしめました。

 お友達を助けてあげられると、うれしそうに微笑んだ妖精の女の子。

 けれど、どうしたことでしょう。その笑顔がまたくもってしまったのです。

 水枕とヴェポラップを手に持ったまま、うなだれてしまいました。


「どうかしましたか?」


 霖之助は、うつむいてしまった妖精の女の子にたずねます。


「――このふたつは貴重なものなのでしょうか?」

「ええ、珍しい品物で、うちにもそれしかありませ―――」


 そこまで口にして、霖之助は「しまった」と思いました。

 あわてて言葉を飲み込みましたが、どうやらおそかったようです。


 妖精の女の子の細い肩が震え、ぽつりぽつりと、お店の床を雨が濡らします。

 雨もり、ではありません。妖精の女の子の流す、涙の雨でした。



「――とても高価なものなんですね」



 きっと妖精の女の子は、そんなにお金を持っていないのでしょう。

 いえ、妖精ですから、お金ではなく物々交換のつもりだったのかもしれません。


 霖之助が渡したのは、高価な品物、ではありません。

 ですが、香霖堂に二つとない品物なので貴重ではあります。

 妖精の女の子なんかでは譲ってもらえないものだと思ってしまったのでしょう。

 ショックで泣き出してしまった妖精の女の子の声が、お店に響きます。



「ああ、いえ、その」



 霖之助は心底、困り果てていました。

 彼は、泣かれるのがたいへん苦手なのです。

 知り合いには元気に笑う、気ままな子ばかり。

 目の前で泣かれたことなど記憶にありません。

 泣き顔とは縁遠い生活なので、泣かれると滅法弱いのです。


 うちひしがれて泣く妖精の女の子に霖之助はうろたえました。

 自分の不注意で泣かせてしまったようなものなので、余計にうろたえました。

 声をかけようにも舌が回らず、しどろもどろになってしまいます。



「お、お願いです。泣かないで」

「でも―――」



 聞いているだけでかなしくなる声で泣かれ、霖之助まで泣きたくなってきました。

 ここで「タダでいいですから」と声をかけると、もっと泣かせてしまいそうです。

 泣いている妖精の女の子を見ていられず、霖之助はきょろきょろとお店の中を見回します。

 すると、なんの変哲もないガラスの小瓶が、彼の目に留まりました。




「ああ、そうだ!」

「ひゃっ!?」



 
 泣いていた妖精の女の子も思わずびっくりして。

 束の間、泣き止んでしまうほどの大きな声で霖之助は叫びました。

 その手にはガラスの小瓶が握られています。


 霖之助は咳払いをひとつした後、言いました。



「安心してください。あなたはその品物を手に入れられますよ」

「タダでゆずってくださるんですか? でも――」



 霖之助は、言葉を続けようとする妖精の女の子を手で制します。



「もちろん。タダではありません。僕は、ちゃんとお代をいただきます」



 きょとんとする妖精の女の子に、「失礼」と一声かけて。

 霖之助は人差し指を伸ばして、妖精の女の子の頬に流れる涙をひとしずく。

 すくって、ガラスの小瓶の中へと落としました。


 そんなことをしたことがないものですから、手はずいぶん震えていましたけれど。


 ガラスの小瓶に落ちた雫を満足そうに眺めた後。

 彼は自信たっぷりに言いました。



「古来より、妖精の涙は魔法の薬の材料などに使われてきました。

 あなたが今流した涙は、とても価値のあるものなのです。

 僕がお売りする、その二つの道具を買ってもおつりがくるほどに!

 古道具屋、香霖堂の店主である僕が言うのですから、間違いありませんとも」



 妖精の女の子も泣き止んでくれて、霖之助は一安心です。

 妖精の涙には価値があるので、ウソをついているわけでもありません。

 霖之助は「素晴らしい解決策だ」と何度も自分のアイディアに感心していました。



 ぽかん、としていた女の子の目から、ぽろりと。

 また大粒の涙がこぼれて、床を濡らします。



「ええ!?」


 
 また泣き出した妖精の女の子におどろく霖之助。

 どうしたものかとおろおろする彼の耳に、彼女の声が届きました。




「―――ありがとうございます。本当に、ありがとう」







 紅魔館の前にある湖にほどちかい洞窟の中。

 葉っぱのベッドで眠る青い髪の妖精が居ました。

 その傍には、あの妖精の女の子も居ます。

 青い髪の妖精の頭の下には水枕。

 妖精の女の子は、青い髪の妖精の胸に薬を塗ってあげているようです。

 手の平が胸に薬を塗っていくたび。

 青い髪の妖精の息が落ち着いていきます。



「どう、チルノちゃん?」


「―――とっても、楽になった。手の平、魔法みたい」



 さっきまで熱にうなされていた、青い髪の妖精、チルノ。

 今は水枕の冷たさとヴェポラップのおかげで、ずいぶん楽になったようです。

 にっこりと微笑むチルノを見て、妖精の女の子も、にっこりと笑いました。



「――ありがとね」

「早く、元気になってね、チルノちゃん」

「――うん」

「もうすぐ、香霖堂さん、お医者さん連れてきてくれるんだって」

「――うん」

「そしたら、お礼、たくさん言おうね」

「――――」

「チルノちゃん?」



 いつのまにか、チルノは眠っていました。

 とても、とても穏やかな寝息を立てて。


 薬を塗り終えた妖精の女の子は、チルノの服を整えた後。

 チルノが起きないように気をつけながら、頭を撫でてあげます。

 やさしいやさしい、おかあさんのような笑顔で。



 洞窟の外を見れば、もうすぐ、雨は止みそうでした。






 幻想郷は魔法の森のすぐ近く。

 そこに一軒の古道具屋がありました。


 お店の名前は「香霖堂」。


 あまり人のやってこない、繁盛とは無縁のお店です。

 店主の青年はいつも、繁盛しないことに文句を言っていました。

 けれども、今日は文句を言う暇もありません。



 お礼をしたい、と言う氷精にせがまれて始めたカキ氷。

 それが大繁盛をしてしまっていたからです。

 部屋にこもって本を読むのが好きな青年も、今は日差しの下。

 額に汗して、カキ氷を作っては売っています。

 ほがらかに呼びかけをする妖精の女の子の声が響きます。



 青年は静かに本を読むのが好きでした。

 お客さんがたくさん来ると、いそがしくなって本も読めません。

 口では文句を言いながらも暇な時間に本が読めるだけで、青年は幸せでした。

 でも、たまにはこういう日があっても悪くない、と。

 そう思ってもいました。



 彼の名前は森近霖之助。

 少し変わり者の、優しい青年でした。
めがねっこ モエス
じょにーず
コメント



1.名無し妖怪削除
こーりんにほれたよ
2.翔菜削除
おかしいな……(テキストファイルを見ながら)
大妖精ってこんなにも……(テキストファイルを見ながら)

あれ、僕の大妖精なんかおかしい?(他の作品も見ながら)
3.名無し妖怪削除
こーりん優しいよ
4.MIM.E削除
とても自然で暖かい物語ですね。
5.名無し妖怪削除
なに、このかっこいい霖の字
6.名無し妖怪削除
メガネっ男かっこいいよメガネっ男
7.名無し妖怪削除
チルノ水カキ氷、リグルも美味しく召し上がれます!
キャッチフレーズはこんな感じかな?

あ、なんかこめかみがキーンと…。
8.K-999削除
二人の優しさがあればチルノの風邪なんか簡単になおるよ!
9.名無し削除
そしてカキ氷屋さんになりましたとさ

あれ?
10.TNK.DS削除
あらすじで吹いて、こーりんと大妖精の優しさに惚れた。
そして、カキ氷が食べたくなってきた。ほのぼのとした良い話ですね。
11.つくし削除
心が洗われる、っていうのはこういうことを言うんですね……。
ありがとう、ほんとうにありがとう。
12.無銘削除
へんたいじゃないこーりんをひさびさにみたようn(フンドシ
13.74削除
そんなにかっこよくていいのか霖
14.はむすた削除
えぇ、大妖精どすなぁ……。
最後がとてもイイ感じ。
15.削除
響いたァッ!!
(ノд`)エエ男や……
16.名無し妖怪削除
うわぁ、すごく微笑ってしまう作品・・・
17.名無し妖怪削除
ヴェポラップ効きますよね~。っていうか瓶のなんてあったんですね。うちのはチューブなもので…。

…じゃなくてw
こーりんカコイイよカコイイよこーりん!
大妖精カワイイよカワイイよ大妖精!
18.ぼこちょ削除
霖之助…いい男ですねぇ…。
そして大妖精可愛すぎ。二人とも優しいなぁ…。
19.名無し妖怪削除
こ、こーりんこーりん
20.ぐい井戸・御簾田削除
ふっ…香霖、まこと好漢よ!お医者さんはやっぱり師匠かな?
チルノが風邪ひくのか、なんてツッコミは無粋ですね。大ちゃんはやっぱりチルノのお姉さんがしっくり来ます…

(テキストファイルを見ながら)あれ、僕の大妖精なんかおかしい?
21.氷乃削除
こーりん優しくてステキ。
大妖精の純真さ、誠実さが出ててステキ。
22.名無し妖怪削除
こーりんのおかげでチルノの風邪もなおるよ!
大妖精かわいいよ大妖精。
23.名無し妖怪削除
変態、エロじゃないこーりんはとても優しいのですね(*´∀`)
と言うか、これが本当のこーりんと信じたい
24.名無し妖怪削除
「とてもやさしいおはなし」に乾杯
薄汚れた俺の心には眩しすぎるぜ
25.紫苑削除
最近になってじょにーずさんの作品をしてから随分精神的に和んだ気がします。
こんなやさしいお話をありがとうございました。


ところで最初の「そうは言うがな大佐。」がツボに来たのは私だけ?w
26.名無し妖怪削除
こーりん、、、超カッコいい、
ていうか普通に感動した。良い作品だ。
27.名無し妖怪削除
あえてそのコメントに共感してみる。


てことで大ちゃんの眼鏡姿マダー?
28.名無し妖怪削除
やべー、いい話やなぁと思っていたがメッセージで撃沈
29.kk削除
ふんどしじゃないこーりんもいいなぁ
30.ABYSS削除
あれ、モニタが歪んで見えるんですけど。
本当、じょにーずさんのお話は心があったまるなあ…。
31.変身D削除
むう、とっさの機転、こーりんナイス。
32.名無し妖怪削除
ちょ・・・・・
ええ話や・・・・
33.削除
なんてナチュラルに優しいこーりんだ!



しかし、夏風邪は馬鹿がひく、とはよく言ったものだ・・・w
34.名無し妖怪削除
こーりんテラヤサシス(つД`)
35.Q-turn削除
ようせいのなみだはルビーのかがやき。
はかなくくずれさってかたちにならない、なによりもきちょうなおもいのあかし。

冷蔵庫直ったら我が家の幻想の文明機器とイチゴシロップを用意しましょう。
36.加勢旅人削除
夏のいい物語ですね
37.煌庫削除
何てカッコイイこーりんなんだ・・・
軽く惚れたぜ
38.真十郎削除
兄さん宇治金時ひとつ
39.名無し妖怪削除
本編でジーンと来ました
作者メッセージで台無しになりましたw
40.名前が無い程度の能力削除
ほんわか