「「「いただきまーす」」」
ここはマヨイガ。幻想郷の最奥とも言うべき秘境。
その場所を探そうとしたところで何人たりともそこに向かうことはかなわず、ただ「神隠し」」という現象に巻き込まれし迷い人だけがそこを訪れることが出来る。
「らーん。そこの醤油とって」
「はいはい、どうぞ」
「うー……らんさまー…。」
「ダメだぞ橙。いくら嫌いでも、ちゃんと食べなくちゃ大きくなれないぞ」
「らーん、おかわりー」
「はいはい…っと、どうぞ」
「んー(モグモグ)」
「でも、納豆ってネバネバしてて……うー……」
「あ、納豆もおかわり」
「ゆかりさま、コレ食べますか!?」
「ダメだ」
「いいわよー」
「紫様っ!」
「わーーい」
そんな設定なんぞ何処吹く風よ。
今やこの場はスキマ妖怪に乗っ取られ、八雲一家の団欒の場と化している。
「あんまり橙を甘やかさないで下さいよ紫様……」
「(もぐもぐ)でもね、らん(もそもそ)あなただって(むしゃむしゃ)むかしは」
「口のものを処理してから喋ってください行儀悪い!」
「(ゴクンッ)藍、おかわり」
因みに会話だけでは分からないだろうが、都合三杯目のおかわりだ。
「はいはい……全く、本当に良く食べますね」
「藍のご飯が美味しいからね」
「…おだてたって何も出ませんよ」
口ではそう言うが、実はちょっと嬉しい藍。頬が少し赤かったり耳がピクリと動いたり。
「ところで紫様。今日のご予定は?」
「う~~ん、そうねー…久々に起きたから、博麗神社にでも遊びに行ってくるわ」
「久々にと言いますが、先月起きたときも博麗神社でしたよね…。」
「そうだったかしら? というか、今回は一ヶ月寝てたの?」
「はい、一ヶ月前にふらりと起きて、どこかに遊びに行ったと思ったら気づいたらまた寝てました」
「へぇ~~…」
まるで他人事の様に藍の言葉を聞いている紫。
実際、ここまで長生きしてしまった妖怪は自分事も他人事も大して変わらなくなっていくものかもしれない。
ましてやこの大妖怪、八雲紫。わが身より幻想郷のことこそが「自分事」に近い感覚すら持っているのやも。
「おかわり~」
「はいはい」
「納豆も」
「そろそろ太りますよ?」
「大丈夫、私だから」
なんだか無闇に説得力のあるセリフに二の句も告げない藍であった。
腹ごなしは終わった。
早速、霊夢のところに遊びにいこうとスキマを開ける紫。愛用の扇をひょいっと横一線。
空間に裂け目が入り、その先に見えるは博麗神社。真正面から行ったらダメだ。掃除をしている霊夢がいる。
少しだけ座標を移動して、境内の方に回る。
ここなら今の霊夢からは死角になってるはず。やっぱり急に遊びに行くときはヒョコッと後ろから現れて驚かすに限るのだ。
「まぁ、霊夢は驚いてんだか驚いてないんだかあんまり分からないんだけどね~。」
呟きながらスキマに身をくぐらせて、博麗神社の境内に顔を出した。念のために右左。
「霊夢の姿は確認せず……よっと。」
頭に続いて肩、腕と隙間から出そうとして
事件は 起きた
ミシッ
「………待て」
命令口調の紫様。しかしスキマに意思は無い。
状況確認。
肩は出ました。スキマなんてそんなに狭いものではないのですから。
つってもあまり目立たないようにしたので、緊急移動に使ったりするようなものとは少し小さめの通常スキマ。
もそもそとスキマから這い出ようとしていたところ、腰のあたりで何故かストップ。うごうごと蠢いていたスキマに見事にジャストフィット。蠢きもなぜかその瞬間に止まりました。
そもそもスキマってシャストフィットするものなのかよ! するものみたいです、してるから。
「……いやいやスキマ。」
どこぞの亡霊お嬢様と似たセリフを吐きながら、必死に冷静さを保とうとする紫様。
何故ハマったのか……いつもより小さめにスキマを作ったか…?
いや、そもそもこの能力を使ってえっと―――どんくらいかなんてのはもう忘れたけれど、とりあえずそんな些細な間違いなど侵すはずも無いぐらい自分の能力は扱いきれている。
と、いうことは間違ったのはスキマではないのだ。そして、間違ったものはナンなのか。
……………。
考えられる答えは一つしかありませんでした。ソレは恐怖するに値する、まさに悪夢。
今の状況はいただけません。理解したくない。受け止めたくない。
理解したら、何かに負ける。
直視できない現実をよそに、とりあえずこの状況からの解決策を練ってみよう。
「……そうよ、スキマを広げれば!」
解決策なんて練るまでも無かったです。そう、彼女はスキマ妖怪。この程度のスキマを自由自在に操ることなんて朝飯前。
早速いつものようにスキマを弄って横に広げようとします。この状況は非常にいただけない。
考えてはいけない。なんでハマったのかなんていうものは! 早く脱出を!
このけったいな腰周りの現実をスルーしないと私は――――――――!
「あんた、何やってんの?」
「はぅあっ!?」
霊夢に見られました。
数日後
「紫様、今回の睡眠前の食いだめはいつも通りの15杯でよろしいですか?」
「………いや、10杯でいいわ。」
その後、自分の料理が不味くなってしまったのかと悩みこみ終いには自室で泣き出しちゃった八雲藍と、ソレを必死で慰める紫と橙がいたとかなんとか。
家族ってイイですね。
終
ここはマヨイガ。幻想郷の最奥とも言うべき秘境。
その場所を探そうとしたところで何人たりともそこに向かうことはかなわず、ただ「神隠し」」という現象に巻き込まれし迷い人だけがそこを訪れることが出来る。
「らーん。そこの醤油とって」
「はいはい、どうぞ」
「うー……らんさまー…。」
「ダメだぞ橙。いくら嫌いでも、ちゃんと食べなくちゃ大きくなれないぞ」
「らーん、おかわりー」
「はいはい…っと、どうぞ」
「んー(モグモグ)」
「でも、納豆ってネバネバしてて……うー……」
「あ、納豆もおかわり」
「ゆかりさま、コレ食べますか!?」
「ダメだ」
「いいわよー」
「紫様っ!」
「わーーい」
そんな設定なんぞ何処吹く風よ。
今やこの場はスキマ妖怪に乗っ取られ、八雲一家の団欒の場と化している。
「あんまり橙を甘やかさないで下さいよ紫様……」
「(もぐもぐ)でもね、らん(もそもそ)あなただって(むしゃむしゃ)むかしは」
「口のものを処理してから喋ってください行儀悪い!」
「(ゴクンッ)藍、おかわり」
因みに会話だけでは分からないだろうが、都合三杯目のおかわりだ。
「はいはい……全く、本当に良く食べますね」
「藍のご飯が美味しいからね」
「…おだてたって何も出ませんよ」
口ではそう言うが、実はちょっと嬉しい藍。頬が少し赤かったり耳がピクリと動いたり。
「ところで紫様。今日のご予定は?」
「う~~ん、そうねー…久々に起きたから、博麗神社にでも遊びに行ってくるわ」
「久々にと言いますが、先月起きたときも博麗神社でしたよね…。」
「そうだったかしら? というか、今回は一ヶ月寝てたの?」
「はい、一ヶ月前にふらりと起きて、どこかに遊びに行ったと思ったら気づいたらまた寝てました」
「へぇ~~…」
まるで他人事の様に藍の言葉を聞いている紫。
実際、ここまで長生きしてしまった妖怪は自分事も他人事も大して変わらなくなっていくものかもしれない。
ましてやこの大妖怪、八雲紫。わが身より幻想郷のことこそが「自分事」に近い感覚すら持っているのやも。
「おかわり~」
「はいはい」
「納豆も」
「そろそろ太りますよ?」
「大丈夫、私だから」
なんだか無闇に説得力のあるセリフに二の句も告げない藍であった。
腹ごなしは終わった。
早速、霊夢のところに遊びにいこうとスキマを開ける紫。愛用の扇をひょいっと横一線。
空間に裂け目が入り、その先に見えるは博麗神社。真正面から行ったらダメだ。掃除をしている霊夢がいる。
少しだけ座標を移動して、境内の方に回る。
ここなら今の霊夢からは死角になってるはず。やっぱり急に遊びに行くときはヒョコッと後ろから現れて驚かすに限るのだ。
「まぁ、霊夢は驚いてんだか驚いてないんだかあんまり分からないんだけどね~。」
呟きながらスキマに身をくぐらせて、博麗神社の境内に顔を出した。念のために右左。
「霊夢の姿は確認せず……よっと。」
頭に続いて肩、腕と隙間から出そうとして
事件は 起きた
ミシッ
「………待て」
命令口調の紫様。しかしスキマに意思は無い。
状況確認。
肩は出ました。スキマなんてそんなに狭いものではないのですから。
つってもあまり目立たないようにしたので、緊急移動に使ったりするようなものとは少し小さめの通常スキマ。
もそもそとスキマから這い出ようとしていたところ、腰のあたりで何故かストップ。うごうごと蠢いていたスキマに見事にジャストフィット。蠢きもなぜかその瞬間に止まりました。
そもそもスキマってシャストフィットするものなのかよ! するものみたいです、してるから。
「……いやいやスキマ。」
どこぞの亡霊お嬢様と似たセリフを吐きながら、必死に冷静さを保とうとする紫様。
何故ハマったのか……いつもより小さめにスキマを作ったか…?
いや、そもそもこの能力を使ってえっと―――どんくらいかなんてのはもう忘れたけれど、とりあえずそんな些細な間違いなど侵すはずも無いぐらい自分の能力は扱いきれている。
と、いうことは間違ったのはスキマではないのだ。そして、間違ったものはナンなのか。
……………。
考えられる答えは一つしかありませんでした。ソレは恐怖するに値する、まさに悪夢。
今の状況はいただけません。理解したくない。受け止めたくない。
理解したら、何かに負ける。
直視できない現実をよそに、とりあえずこの状況からの解決策を練ってみよう。
「……そうよ、スキマを広げれば!」
解決策なんて練るまでも無かったです。そう、彼女はスキマ妖怪。この程度のスキマを自由自在に操ることなんて朝飯前。
早速いつものようにスキマを弄って横に広げようとします。この状況は非常にいただけない。
考えてはいけない。なんでハマったのかなんていうものは! 早く脱出を!
このけったいな腰周りの現実をスルーしないと私は――――――――!
「あんた、何やってんの?」
「はぅあっ!?」
霊夢に見られました。
数日後
「紫様、今回の睡眠前の食いだめはいつも通りの15杯でよろしいですか?」
「………いや、10杯でいいわ。」
その後、自分の料理が不味くなってしまったのかと悩みこみ終いには自室で泣き出しちゃった八雲藍と、ソレを必死で慰める紫と橙がいたとかなんとか。
家族ってイイですね。
終
ときに紫様。
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