何気ない日々はどうしてこうも退屈なのに、何よりも愛しく思うのだろう。
しん、と静まるような夜。茹だるような暑さの中、寝転びながら微かな風の音を聞く。
自室のベッドの上で魔理沙は惚けていた。
体は脱力し、溶けるようにベッドに埋まる。既に髪は解き、トレードマークというべき帽子は縁に掛け、着崩れた服はそのままにただぼーっと天井を見上げていた。
閉めていない窓から風が吹く。月明かりが差し込めば、ベッドの上で四方に散らばる魔理沙のブロンドの髪に良く映えた。本来、絹糸のような繊細な髪は少しくたびれている様子ではあったが、本人にはそれを気使う様子は無い。
要するに自分は少し疲れているのだ。
そう呆けた頭で自己分析をする。
月明かりの眩しさに少し目を細めた。
右手を天井に向けその手の甲を眺め見る。
何ら感慨も無い。強いて言うのなら、自分の手なのに随分と小さく見えたものだ。
飽くまで見ているつもりもなく、すぐに手を下ろす。すると筋肉の弛緩がたちまちに体を巡った。最早、体のどこか一部でも力を入れているのが辛く、目も開けているのも億劫。瞼が重く、魔理沙は本能的に目を閉じた。
知覚が遠く、感覚が鈍い。
明瞭としない混濁した意識。
体と心が切り離されたような浮遊感。
無性に泣きたくなるような衝動が胸を突く。
違う。そうではない。そう何万回も繰り返したやり取りが未練と後悔を背負って迫る。それでも涙が出ないのは心の中の虚しさゆえか。泣くに泣けない。
思考というものは単純に熱量を発生するものだ。外と中ではさして気温に差の無いようで、とうに体も頭も茹っていた。鈍り切った思考の生産性を問うそれこそが愚。しかし、だからといって考えるのを止めてしまうのは停滞でしかない。
「はぁ……」
空気が揺れた。無音の世界に混じるノイズは、ただの溜息。
仕様も無かった。現状を憂いる以上、思考も身体も調子が完全でない状況は。
暗い感情と情念が意識を狩ろうと攻め寄せる。何をしても、何をしなくても、何もかもがひたすら面倒で。
意識を手放すのもそれはそれで癪だったが、特に抵抗の意思もなく魔理沙はあっさりと深い暗闇に堕ちた。
明日彼女に謝らなければならないなあとか。
何であんなことをしてしまったんだろうなあとか。
そんなことを気にする自分は、何て弱くなってしまったのだろうかと。
暗い情念が凝り固まって出来たような深い闇に、ただ呆れたように笑う彼女の姿が映った。
何したんだ、魔理沙。
お茶
続編があるなら希望したいです。
それが魔理沙クオリティ。