Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

以津真天続く、八百万? ~Till When?~

2006/06/30 02:37:03
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【微妙にクロス物でございます。どうか、ご注意を】















「妖夢、以津真天って知ってるかしら?」
「以津真天ですか? 一応、一般的な知識としてなら知ってはいますけど……」
「じゃあ説明してみて~」



 広い広い、白玉楼の庭。
 取り立てる事も無い主従二人の会話は、今日も唐突に始まりを見せました。

「えっと、確か鳥……五メートルを超える程に巨大な、怪鳥と言われています」
「ふむふむ」
「頭部は人間、又は鬼に似ており、身体は竜か蛇。鳥の翼と鳥の足を持ち、その足には剣の様に鋭い鈎爪を持っている……」
「続けて」
「この以津真天、という特徴的な名前は、鳴き声の『いつまで、いつまで』に由来していると言われます。何故そう鳴くのかというと――」
「もう良いわ、概ね合格ね」

 朗らかに笑う、桜色の髪の少女。
 それより幾分か背の低い銀髪の少女は、はぁ、と気の無い溜め息を漏らします。

「にしても幽々子様。急に以津真天の事を聞いてくるなんて……それと、何が合格なんですか?」
「気紛れ。合格というのは、適当よ」
「……たった、それだけですか?」
「や~ね~妖夢ったら。それ以上は、揺さぶっても出て来やしないわよ~」
「…………」

 ふわふわふわふわ。
 言動も体躯もふわふわしてる主人に、従者は溜め息を禁じ得ません。

「――その以津真天だが、別の姿形をした奴も居るらしいな」

 ふわふわでも幼いでも無い、凛とした声。
 軽やかな音と一緒に、空から金色が降って来ました。ついでに、小さな猫耳も。

「あら、紫の所の……今日はどうしたのかしら?」
「実は、酒の肴に燻製を作ってみたのですが、いささか多く作り過ぎてしまったので……良かったら、どうですか?」
「あらあら、美味しそうね~」

 桜色の少女の言葉に、尻尾を振る猫耳の少女が、満面の笑みを浮かべます。
 式神としての主である、金色の少女が作った料理。それを美味しそうと言われるのが、純粋に嬉しいのでしょう。
 自分の事の様に、嬉しそうに笑みを浮かべていました。

「……ところで、先程の以津真天の事なんですけど……別の姿、とは?」
「ああ、それなんだがな」

 銀髪の少女に、金色の少女は説明を始めます。
 ちなみに燻製は、猫耳の少女に預けておきました。桜色の少女の注意も、自然とそちらへ向かいます。

「何でも、巨大な蛇の様相をしているらしい。表面を覆うのは、鱗では無く羽毛の様な物だとか。ちなみに翼は無いらしく、這いずって移動するとの事だ」
「へぇ~……随分と、違うんですね」
「おまけにこの以津真天は、自分の尻尾を加えて身体全体で輪を描くと、その状態のまま身体を動かして車輪の様に回り始めるんだと」
「? 何故、その様な事を?」
「そうして一定の時間を操って、同じ時を永遠に繰り返させる為さ……聞いた話ではこの類の以津真天、同じ行動を繰り返す生物が生み出す『何か』を、栄養とするらしいんだ」
「……『何か』、ですか?」
「そう、『何か』だ」

 銀色と金色。
 二人とも、難しい顔をしていますね。

「だから、その以津真天は時間を繰り返させ、これと定めた生物に同じ行為を繰り返させるらしい……自らの餌とする為にね」
「もしかしてそれ、『向こう側』の以津真天かしら?」

 何時の間にか話を聞いていた桜色の少女が、ふわふわしながら鋭く割り込んで来ました。

「話としては存在するのに、此処では未だに見た例が無い……はてさて、一体どうしてなのかしらね~」
「……さあ? 私としても、よく分からない事です」

 おどけた仕草で、金色の少女は肩をすくめます。
 不意に、その服が下から引っ張られました。

「藍さま~」

 見てみると、猫耳の小さな少女。
 普段は元気一杯なのに、今みたいにそんな困った顔をしなさんな。

 上目遣いなその視線に、金色さん、ちょっと胸キュンしちゃいますよ?

「ん? どうした、橙?」
「………………お腹、空きました」

 見計らった様に、何かが小さく轟く音。
 だけどそれは、猫耳の少女からではありません。

「ふふっ、妖夢もお腹が空いたのかしら?」
「あ、いえ、そういう訳、では、あり、いや、あるか、も…………みょん」

 音の原因は、顔を真っ赤にして俯いてしまいました。
 ふわふわと漂い、うふふと朗らかに笑う桜色の少女は、助け舟を与える様にそっと声を掛けてあげます。

「じゃあ妖夢、お昼の用意をお願いね……良かったら、貴方達も食べて行ったらどう? 燻製のお礼も、早目に済ませておきたいし」
「ふむ……それでは、お言葉に甘えて。橙、折角だから手伝って来なさい」
「へぇ~。寝ている紫を留守にしているのに、気楽に決めちゃうのね~」
「紫様が寝ている今だからこそ、気楽に出来ちゃうんですよ」
「でしょうね」

 示し合わせた様に、二人は笑い合いました。

 建物へと、横に並んで足を進める銀色と猫耳の二人は、何処か仲が良さそうに見えます。
 見方によっては、年の離れていない姉妹に見える……訳が無いですね。髪の色云々からして、流石に無理がありそうです。
 それでも仲が良さそうに見える事実に、何ら変化はありません。それこそ、微塵もありません。

「……妖夢も、妹が欲しい年頃なのかしらね~」
「橙こそ、そろそろ姉が欲しいと感じているのかもしれません……私や紫様では無くて、もっと気楽に付き合える、背丈の近い姉が」

 二つの後ろ姿を見送る、金色の少女と桜色の少女。
 少女とは言っても、見送られてる猫耳と銀色の少女達に比べると、やっぱり重ねてきた年月は多いです。
 だから二人の呟きは、何処か母親の様に穏やかで温か味に満ち溢れていました。

 広い広い庭に、颯爽と風が吹きます。
 冥界の空気はうそ寒いものですが、何故か心地良くも感じるから不思議です。

「それじゃあ、私は中で待つ事にするわね……貴方は、どうする?」
「もう少しだけ、此処で風に当たっておきます。少々、考えたい事もありますし……」
「あらそう、ではお先~」

 天真爛漫。
 そう呼ぶに相応しい笑顔で、桜色の少女は建物へとふよふよ歩いて行きます。
 金色の少女は、柔らかな微笑みでそれを見送り続けます。細められた金色の瞳には、静かで優しい光が瞬いていますね。

 やがて、桜色の少女が建物へと姿を消し。
 視線を移した金色の少女が、ゆっくりと天を仰ぎ見て。







































「『向こう側』の以津真天、か。あの連中、今はどうしているのやら」

 八雲藍は、頭を覆う特徴的な帽子を、やや乱雑に剥ぎ取る。
 その全身から満ち溢れるのは、血生臭くも誇り高い、野を駆ける獣の覇気。それが冥界の静けさを掻き毟り、完膚なきまでに掻き乱していた。

「八百万機関だったか――いや、確か今は、別の名前で通っている筈だな」

 名を口にする度に、狐の耳が疼き、九つの尾が微かに脈動する。
 かつては陰陽寮として存在し、この大和の国に蔓延る魑魅魍魎を駆逐してきた、決して表に出る事は無い裏の組織。

 不意に、藍の口の端が吊り上がる。

「ふふっ、何故だか懐かしい……あれ程まで戦火を交えたというのに、まだ私は物足りないか」

 くつくつと、乾いた声が漏れ出す。
 他ならぬ、八雲藍の口から。

 めきりめきりと、肉の裂ける不快な音が響く。
 他ならぬ、八雲藍の掌から。

 ゆらゆらと、蒼白い死者の炎が自然と灯る。
 他ならぬ、八雲藍の尾から。

「丁度良い。久方ぶりに、奴らを訪れてみるか……ふふっ」

 破顔一笑。
 九尾の狐は、此処では無い何処か遠くを見る眼差しで、天を仰ぐ。

 獣の様に獰猛な。
 妖の様に残虐な。
 或いは、その両方を兼ね備えた様な。

 そんな笑みで口の端をニィと吊り上げながら、八雲藍は哂った。







































「都市伝説なんて色々ありますよ。古くは神隠しとか、最近では半分がお酒で出来た桃源郷とか」

 青年は、歩きながら呟きました。
 そして注意が逸れてしまった為、一匹の肉っぽいバッタの様な昆虫を、遠慮無く踏ん付けてしまいました。

「カ……カマドウマ!!」



「藍様、何をしているんですか? 寒いですし、早く中に入ってください」
「あ、ああ。そうするよ」
 一瞬の間に、金色の少女は穏やかな雰囲気へと戻りました。
 そして、皆とお昼御飯を食べている内に。
「……やっぱり、今のままで良いか」
 この、優しいお姉さんみたいな、九尾の狐さん。
 結局、優しいお姉さんみたいな、九尾の狐さんのままで、しばらく暮らしましたとさ。
 めでたし、めでたし。

 六月三十日。
 注意書きを付け足しておきました。
 ご指摘の方、まことにありがとうございます。
爪影
[email protected]
http://yaplog.jp/garaku2002/
コメント



1.八百万機関代表削除
うん。まあ、このくらいなら元ネタしらなけりゃきっと、大丈夫でしょう。
でも、一応注意書きあった方がいいかも?
2.名無し妖怪削除
確かにウロボロスのようなアレも以津真天でしたね
3.削除
>『向こう側』の以津真天
元ネタは知らないんですが、魅魔スレの住人が餌なのかなぁと思いました。
4.米屋削除
鉄拳「火野ファンタズム」とか思い浮かんだ。