陽光に満ちた、うららかな午後であった。
白玉楼の縁側に、主人と庭師が並んで座っている。
「いい天気ですね、幽々子様」
庭師が口を開いた。
「そうね、妖夢」
主人も口を開いた。
「幽々子様、一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
「では――」
庭師は居住まいを正し、聞いた。
「何故、幽々子様は幽霊の身でありながら、健啖なのでしょうか――」
主人は顔に笑みを浮かべ、庭師から視線を外した。
「例えば、妖夢、あそこに松があるでしょう――」
主人が指し示した先には、一本の立派な松があった。
「あの松は、食事をするかしら? それともしないかしら?」
「――――」
ついに主人は呆けてしまったか。
そう思った庭師は、その不遜な考えを慌てて脳内から追い払った。
「しない、と思います。
食事をする植物は、もはや植物ではなく、物の怪でしょう――」
庭師の答えに、主人はまたも笑みを返した。
「では妖夢、あの松は生きているかしら? 死んでいるかしら?」
「生きています。あの松はまだまだ枯れないでしょうから」
松の面倒を見るのも、庭師の仕事の一つである。
ゆえに、庭師はよどみなく答えた。
「ならば妖夢、あの松はどうやって生きているのかしら?」
「水と、光と、土中の養分によって生きています」
その程度の知識はある、とばかりに庭師は答えた。
主人は、笑いながら言った。
「ならば妖夢。それらはあの松にとっての食事ではないかしら――」
「――――」
庭師は、否定出来なかった。
そして、主人は言葉を続けた。
「私が食事をするのは、幽霊として生きているからなのよ。
あの松が、植物として生きているのと同じように、ね――」
「――――」
庭師は、言葉を失った。
そして自ら、思考の迷路へと迷い込んでしまった。
一分であろうか、一秒であろうか、一時間であろうか。
悩み続けた庭師は、脇に置いてあったを手に取り、
「ひょうっ」
ひゅんと振り抜かれた刀は『白楼剣』。
人間の迷いを断ち切る刀である。
庭師は刀を鞘に納め、言った。
「幽々子様、私にはよく判りません。
ですが、判らぬままなら判らぬままで良い。そう思いました」
語る庭師の顔は、先ほどよりも晴れやかであった。
それを聞く主人の笑みも、先ほどよりも柔らかであった。
「ところで妖夢、そろそろおやつがたっぷり食べたいわ」
「駄目です」
迷いを断ち切った庭師は、主人の言葉をすぱりと切って捨ててのけた。
魂魄妖夢、たまらぬ庭師であった――