最近咲夜さんの様子がおかしい。
上手く言い表せないけれど絶対おかしい。
何を根拠に私がこんな事を言うのか?それは二日前の事でした。
美鈴、美鈴。いっつも門番大変ね
……………
美鈴、美鈴?
………ハッ。いや、私寝てへんですよ!?
そう、寝てたの(ニッコリ)
アワ、アワワワワ…
疲れが溜まってるのかもしれないわね、たまには休暇でも取ってお休みなさいな
お仕置きは勘弁……ってはい?
今回は見逃してあげるから、しゃんとなさい
は、はぁ
ぶっちゃけあり得ない。つい一週間前までは居眠りしていようものなら殺人ドールでナイフドールにさせられたのに。
まぁナイフは誇張した私の冗談だとして、お説教タイムが一時間ほどあったのは確かだった。
それは私に限った事ではなく、紅魔館全体に優しい……と言うか優しすぎる咲夜さんの目撃情報があった。
曰く、手作りのお菓子をメイドに配ってまわったり。
曰く、ちょっとサボっていたのを見逃してもらったり。
曰く、難しい仕事を変わってもらったり。
以前の咲夜さんであれば
必要数以上のお菓子は絶対作らず、
サボっていれば厳重注意の後罰当番(主に雑草抜きや倉庫の整理)を命じられ、
難しい仕事も助言だけ与え、手助け自体はしなかったはずだ。
そこで私、紅美鈴は咲夜さんに対して24時間密着を試みる事にした。
ちなみに天狗が「助力しに来ました!」と言って来たけど丁重にお断りしておいた。拳で。
AM11:00
咲夜さんの朝は遅い。と言うか基本的にレミリアお嬢様の行動時間に合わせているため一人だけサイクルが違う。
睡眠時間もまちまちで、朝方に寝ることもあれば昼に三時間ほどしか寝れない時もある。
種族の違いと言う物はかくも大変なのだ。
咲夜さんがベットから上半身のみを起こす。
……10分経過 変化無し。
……20分経過 変化無し。
……30分経過 ベットから降りる。
咲夜さん、低血圧だったんですね。まだ目が開ききってません、パチュリー様もビックリするほどの半目です。
寝間着からいつものメイド服に着替え、朝の身支度をします。行動開始の様です。
PM0:00
私にとっては昼食なのですが、咲夜さんにとっては朝食です。
目もしっかり覚めており、朝の気だるさは窺えません。
本日の食堂のメニューは熱々の煮込みうどんです。
さっき門番隊の皆が厨房に殴り込みをかけに行ったのは見て見ぬ振りです。6月にもなってそれはちょっと辛すぎます。
さて、肝心の咲夜さんですが。
……5分経過 変化無し。
……10分経過 変化無し。
……15分経過 食事開始。
いや、猫舌なのは知ってますよ?何だかんだで何回か一緒に食事も取ってますし。
でも流石に15分は麺が延びじゃないじゃないですか。ええい、厨房の料理人に謝りなさい!
その厨房の料理人ですが、門番隊を一人残らず料理してくれたようです。今度の配属変更でスカウト確定ですね。
PM1:00
食事を終え、食休みをしていた咲夜さんですがついに動き始めました。
手に持っているのはモップにはたきに雑巾。どうやら掃除に入るようです。
普通に掃除をしていたので割合しますが一つ感想を述べるならば。
何処か怪訝な顔をしつつも、終始にんまりと嬉しそうに掃除をしていました。
ぁゃιぃ
PM4:00
三時間ほぼぶっ続けで掃除をしていた咲夜さんにちょっと尊敬の念を抱いてみたり。
そんな事思っていると唐突に銅鑼の音が鳴り響きました。
ジャーン!ジャーン!ジャーン!
ゲエッ!魔理沙!
どうやらイニシャルGが進入してきた模様です。ちなみに本日私は別に休暇を取っているわけではありません。不味いです。
咲夜さんの事は気がかりですが、門番隊隊長として勤めは果たさなくてはなりません。イニシャルGの場所まで向かいます。
「やーやー、いつも熱烈な歓迎ご苦労な事だぜ」
そんな戯言をほざいてやがります。
偶には撃破したい所ですが、裏でパチュリー様に「適度に梃子摺らせてから通してあげて頂戴」と根回しされています。
咲夜さんもその事を黙認しているので、基本的にイニシャルGは門番隊の実地訓練の様なものなのです。
伊達に紅魔三本槍の一角を名乗ってませんよ?おお、即興で付けたにしては良い名前です。紅魔三本槍。
「そこのイニシャルG、止まりな「恋符 マスタースパーク」ぼあじゃぁーっ!」
いくら適度に加減していても、熱いものは熱いですし痛いものは痛いのです。
と言いますかこのイニシャルGは来るたび実力がグンと上がっているのですが。私もそろそろ手加減する必要が無くなるかもしれません。
私を撃破してイニシャルGが向かう先には咲夜さんが立ちはだかります。
……あれ?咲夜さんは?
立ちはだかるはずの咲夜さんが何処にも居ません。
ちょっと下に視点を変えて見ます。居ました。既に黒コゲです。
いや、待ってください。近距離に居た私が避けれなかったのはともかく、咲夜さん結構遠くに居ましたよね!?
急いで黒コゲの咲夜さんの元に駆け寄ります。
「大丈夫ですか咲夜さん!」
「……美鈴?ふふふ、私も衰えたわね」
咲夜さんの体を抱き上げ……
フニッ
あれ、なんですか今の音は。フニッて言いましたよフニッて。
フニッフニッ
何でしょう、この手に少々余るような柔らかい塊……。
「美鈴、貴女は一体何時まで触れば気が済むのかしら?」
自分の触っている物に目を向けます。
「さ、咲夜さん。これは……」
「ふふふ、凄いでしょ?」
Oh、神よ!小悪魔や子悪魔ちゃんの故郷に居そうなアホ毛の神じゃない別の神よ!
私の手には今まさに随分とまぁふっくらと大きく膨らんだ至高の宝が……ああもう素直に言っちゃいましょう。
咲夜さんの胸がデカイ。それはもう私とタメ張れるんじゃないかってくらい。
おそらくずっと感じてた違和感はそれでしょう。
咲夜さんの胸が大きいのです。巷で『ペッタン同盟の長』だとか『至高の貧乳』とか噂されていた胸が大きくなっているのです。
「流石は天才薬師ね、凄い効き目だったわ」
「まさか咲夜さん、それで!」
「身体能力の低下、時を操る程度の能力の使用制限、けれど私は幸せになれたわ」
「咲夜さん……」
「でももういいのよ。夢は覚めるもの、幸せは長くは続かないわ。それに、偽った自分をずっと好きで居られるほど私は偉くは無い」
そう言うと咲夜さんは胸の谷間から一つのビンを取り出しました。おそらくそれが例の薬なのでしょう。
「さようなら、夢の中の私。ただいま、本当の私」
そう言うと咲夜さんはビンを遠くへと投げ捨てました。
美鈴です。紅魔館は相変わらずレミリアお嬢様の我侭に奔走しつつ平和です。
咲夜さんの胸は既に何時もの慎んだ大きさに戻っています。
それと同時に、咲夜さんもいつもの性格に戻ったみたいです。
何だかんだで基本的に厳しい人ですが、やっぱり咲夜さんはこうでなくてはいけないと思うのです。
「めーいりーん、私の前で居眠りしているなんて随分良い身分ねぇ?」
「す、すいませんっ!久々に良い陽気だったのでついっ!」
「ええい、言い訳無用!そこに正座なさい!」
これから咲夜さんのお説教が始まります。もしかしたら閻魔様ともタメを張れるのではないでしょうか?
そんな咲夜さんのお説教を、内心笑顔で聞けるのはきっと私だけの特権だと思います。
薬で大きくしたら、それは単なる巨乳でしかない。自分の持たないものが良いものに見えるという宿業を、咲夜さんほどの人でも逃れることはできなかったと言う深いお話でした(多分違う)。