Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

大災の始まり

2006/06/18 10:52:45
最終更新
サイズ
6.18KB
ページ数
1


 走る―――走る―――走る――――――。

 止まってはいけない。もしも一瞬でも速度を落としてしまえば、直ぐにでもつかまってしまう。いや、私と私を追いかけているアイツとのスピードの差は歴然、もしかするともう直ぐ後ろにでも居るのかもしれない。私をあざけ笑うようについて飛んでいるかもしれない。
 ……絶望に身をやるな。何も考えてはいけない。ただ、私は為すべきことをやらねば―――。

「あっ!?」

 暗い夜道を必死で駆け抜ける私を朝笑うかのように、偶然ソコに出来ていた小さなくぼみに足を引っ掛ける。そして、転んだ。
 なんという不運。なんという、最悪……。

「………どうやら、コレで詰みだな。なぁ? ウドンゲ。」
「っ…私を、ウドンゲと呼ぶな……!」
「あぁ、悪い悪い。そう読んでいいのは師匠だけなんだっけかな、レイセン?」

 後ろからヤツが近づいてきた。黒い、まるで今の私には悪魔のように黒い………霧雨、魔理沙。

「救援は来ないぜ? アッチの方も、色々と大変なコトになってるだろうしな。まぁ、だからこそ私が一人で抜け駆けできるチャンスを手に入れられたんだけどな。」

 ジリジリと迫る黒い悪魔。
 今の私は満身創痍。戦ったところで勝てる見込みは無い。かといって逃げ出そうにも、体力も気力も最早風前の灯。

「くっ…おまえは、コレを幻想郷に解き放ったらどうなると思ってるんだ!?」
「どうも思わないぜ? ただ、私はソレが欲しいんだ。他の連中もきっと同じさ。」
「だからっ! コレがそういう災いを呼ぶと知っているから、私と師匠は!」

 空しい。
 最早無駄な足掻きと分かっている。この者に、こんな説得は無駄だと分かっているのだ。ソレは勿論、今は永遠亭で「コレ」を求めて暴れている彼の者たちもそうなのだろう。
 不意に、師匠が私に「コレ」を託したときの事を思い出す。



 ウドンゲ、貴女に命令を与えます。
 今現在、永遠亭で暴れている不届きものたちは私たちが全力で引き受ける。
 貴女はコレを持って、この永遠亭秘密地下通路から脱出。何処か遠くに……誰か、助けを求められそうな人を探して逃げなさい。
 勿論、コレを欲する人とそうでない人の違いは貴女なら分かるはず。というか、一目瞭然か……ふふっ。

 ―――永琳様! 第三防衛ライン、紅魔館メイド隊が突破しました!

 …これまでね。私も直ぐに出るわ。
 ウドンゲ。生きて、また会いましょう。
 きっと、約束…よ………?



 そうだ。今になってやっと分かった。
 あの時、最後の言葉を吐く直前に顔を背けた師匠。アレは、泣いていたんだろう。
 もう会えないかもしれない私に対し、涙を流してくれたかけがえもなく愛しい人。しかし、そんな人の願いも、果たせそうの無い自分が不甲斐なく、涙が出そうになる。

「適当なところで諦めとけって。どうせ、そんなもの持ってる限りは逃げ切れるわけ無いんだ。」

 魔理沙が、私に向けて手を伸ばしてきた。
 最後の抵抗に噛み付いてでもやろうか。何もしないままコレを渡すことだけは出来ない。私のため、幻想郷のため、なにより師匠のために……!



「あら? 弱いもの虐めは感心しないわねぇ。」



 そこに、八雲紫が、いた。

「ちっ……。」

 明らかに苦い顔をして、私から距離を離す魔理沙。この大妖を前に下手な手を打てばどうなるかは、よく分かっている様子である。
 私と彼女に距離を置き、すぐさま臨戦態勢。懐に手をやってる辺り、魔砲を放つ気かもしれない。

「全く、みんなナニが悲しくてこんな大騒ぎしてるんだか。私だってこんな無茶苦茶に掻き乱した事は無いわ。」
「さぁねぇ。文句があるなら、原因を創っちまったソコの兎の師匠に言ったらどうだ?」
「ふふっ。確かに皆が騒いでる原因はソコの兎娘の懐にあるレシピでしょうけど、それでも実際に騒いでるのは貴方達。宴会の参加者が酔って騒いで、酒を作った人に文句を言うのは間違いだと思わない?」
「……お前には、私たちの気持ちは分からんよ。」

 言いながら、八卦炉を取り出す魔理沙。
 私は事態についていけず、混乱気味のまま地に伏している。いや、コレは見ようによってはチャンスなのかもしれない。この二人の実力はイヤというほど知っている。そんな二人のぶつかり合いの隙ならば、何とか体勢を直して逃げ去ることも可能では―――

「よっと。む、軽いな…ちゃんと食べてるか?」
「へ?」
「なっ!?」
「ふふっ。」

 突然、宙に浮いたような感覚。いや、誰かに持ち上げられている。顔を上げると、そこには八雲の式である妖狐の姿が―――!

「それでは紫様。御武運を。」
「そんな心配は必要ないけど、オヤツの用意はヨロシクね~?」
「ちょっと待て、こらぁ!」
「ふぇ!? あの、ちょっと、え、なに!?」

 怒声を上げながら星の様な形の魔力を放射してくる魔理沙を見たが、直ぐに私の視界は闇に閉ざされた。




「ちっ…藍を隙間から逃がしたか……。」
「あなたを倒すのじゃなくて、目的はあくまでもアレの確保。マヨイガに安置しておけば、下手な場所よりずっと安全だしね。」

 悪態をつきながら、紫を睨む魔理沙。
 その突き刺さるような視線を流して、優雅な仕草のままで話を続ける紫。

「アレをこの幻想郷から消滅させるのが一番手っ取り早いんでしょうけどね、でもね、私はソレをしない。あの娘の師匠がソレをしないのは、ただ単に薬師として作り上げた成果を残したいとかそういう所かもしれないけど―――ねぇ? 貴女は、私がアレを捨てないで取っておこうとする理由が分かる?」
「分かるもんか。持てる者に、持てない者の気持ちは分からないだろ。」
「そんなツンケンしないでいいでしょう~? 私の目的は、この争い。幻想郷を全て掻き乱すようなこの争いの果てに、皆が何を見るのか、何を見てくれるのか…ソレを、私は知りたいわ……。」
「戯言だ!」

 紫の抗弁が終わると同時に、問答無用の魔砲を放った。しかしそんなものが紫に当たる筈も無く、隙間を利用して背後に回られる。
 
「いつもの余裕が無いわよ、魔理沙? そんなに、欲しい?」
「っ……! あぁ、欲しいさ! アイツラだって皆一緒だ! 霊夢も! レミリアも! 妖夢も!  萃香も! ブン屋も! 閻魔も! 欲しくて、欲しくて堪らなくて、でも手に入らなくて! それが得られるというこの喜び、お前になんか分かるもんかーーー!」

 半ばヤケになった魔理沙を見て、紫は驚いている。
 あの、気が強く、何時も余裕を見せていて、気丈で逞しいと思っていた娘がこうまで取り乱すとは………!

「…やはり、アレは危険だわ。あなた達には、絶対に渡せない。」

 幻想郷のために。そして、皆のためにも。

「かかってきなさい魔理沙。貴女達の過ちを、その胸に教えてあげる…!」
「もうかかっているぜって、嫌味かこの年増ーーー!!」

 半泣き状態の魔理沙が放ったマスタースパークが、森を焔いた。




 永遠亭は同時多発的に襲ってきた多数勢力によりほぼ壊滅。
 妖怪兎部隊は全員捕縛。主力陣は行方不明。
 しかし、襲撃犯らが目的としたブツは発見ならず。情報提供者の兎も行方不明。
 そして事件は幻想郷全体にまで飛び火していく。
 後に「例大災」と言われ恐れられる幻想郷史最大の災厄は、始まったばかりである……。



「私は紫様からはお前をマヨイガで保護してやれとまでしか言われていないのだが、一体何を隠し守っているのだ?」
「はぁ…その……万能豊胸薬の製造法とサンプルを……。」



終わって
始めまして。初投稿です。廿四(はたよん)と申します。
お見苦しい点がいくつかございましたかもしれませんが、ここまで読んでくれた皆様に感謝です。本当に、ありがとうございました。
内容についてはー…まぁ、書きたくなったから書いてしまったと言うか、魔理沙が切羽詰りすぎと言うかコレはコレで可愛いと思ってますが何か非難の声が届きそうで戦々恐々…。
ちなみに万能豊胸薬とは「自分の思い通りに胸の大きさを操作できる」という、正に天才的大発明です。
でも永琳の胸は天然です。ばいんばいん。


オマケ

「橙はナイムネがいい」とは藍のセリフ。
なのでマヨイガは今日も平和です。

ぱりーんっ

霊夢「やっと結界を壊せたわ…。さぁ、ウドンゲを出しなさい!


終わって~……。
廿四
コメント



1.名無し妖怪削除
情報提供者の兎は、間違いなくてゐだろwwwwwwwww
2.てきさすまっく参拾弐型削除
レシピの段階でネタが読めてしまったのがちょっと残念でした。
3.名無し妖怪削除
文はそこまで小っさくない!

ってけーねが言ってた。
4.どっかの牛っぽいの削除
これシリーズにしてくれ