※本作は、プチ集その7の拙作「華人小娘。」と時間が繋がっています。
レミリアは自室に飛び込むなり、ベッドに倒れこんだ。
「うぅ……れいむぅ……」
口から出てくるのはか弱い消え入りそうな声。
この状況を生み出したのは、今日の昼のことだった。昼間に目を覚ましたレミリアは、もう一眠りしようかと思ったところで、外から聞こえる歓声に気づいた。興味がわいたレミリアは眠気を我慢して体を起こし、着替えて外に出て首をかしげた。
誰もいない。とりあえず誰かを捕まえて事情を聞こうと思っていたレミリアの思惑は外れた。主人の都合に合わせられないとは、と傍からすれば理不尽な怒りを覚え、歓声の聞こえる中庭を見下ろせる窓を覗き込む。
「…………」
唖然とした。そこにいたのは、やたら装飾華美な中華服を着て、可愛らしい踊りと笑顔を振りまいて歌っている紅美鈴。彼女の前では、無数の幽霊(半幽霊含む)が大音量で彼女の名前を叫んでいる。
しばし立ち尽くしていたレミリアは、気を取り直して美鈴の元へと向かうことにした。
そうしてステージに上がったレミリアを、美鈴は「お、お嬢様」としどろもどろに出迎えた。
「随分楽しそうだけれど、何をやっているのかしら?」
「これはですね、その、あの」
「貴女の仕事は、こういう奴らを館に入れないことじゃなかったの?」
「ひぇっ、すいませんすいません」
立場が上の者に、明らかな叱責の場面でことさら優雅に対応されるというのは、当事者にとって最も恐ろしいことの一つである。いつ怒りへと変わるのかが分からないからだ。
「謝るくらいなら――」
怯える子羊のごとき有様の美鈴をたっぷりと眺めてから、レミリアはきっと視線を鋭くした。それを見た美鈴の顔が一層強張る。
「最初からきちんとしごとうぉぅっ!」
いざ叱らんとしたレミリアは、顔を横殴りにされ吹っ飛んだ。そのままステージ背景の板へと激突して体を半ばまでつっこみ、衝撃で背景全体がゆっくりと倒れ始める。どうすることもできずにレミリアは頭から地面に激突し、それを見て我に返った美鈴があわててレミリアを引っこ抜いた。怪我もなく助け出されたレミリアは、自身に攻撃をしてきた奴を睨みつけ――凍った。
「れ、れいむ?」
レミリアの目の先には、SS席(通称”親衛隊専用席”、お値段13500円)に座り、『華人小娘。』印のグッズの数々に身を包み、陰陽球を構える霊夢の姿。霊夢はレミリアの戸惑いなど気にもせずに、静かに、静かに声を放った。
「レミリア、貴女は、してはいけないことをしたわ」
「え?」
「我らがかじ娘。のライブを台無しにしただけでは飽き足らず! 我らがめいりんに対する暴言・侮辱の数々! 聞きなさい! 私達の怒りの叫びを!!」
ばっ! と霊夢が腕を振って後方を示す。それに合わせたように湧き上がる「かーえーれ! かーえーれ!」のシュプレヒコール。さらにレミリアを追い込むように霊夢までもが加わりコールは一段と大きくなる。
「うぅ……」
声に押されるように後ずさるレミリア。しかし、下がれば下がった分だけコールは威力と大きさを増していく。
「う……うわぁぁぁぁん!」
最後に耐え切れなくなったレミリアは、泣きながら会場を飛び去った。
部屋に戻ってひとしきり泣いて、やがて泣き止んだレミリアは、涙を拭いて毅然とした顔で立ち上がった。
「――そうよ、霊夢は今悪い夢を見ているだけ。なら、私がその夢から霊夢を覚ましてあげればいいだけじゃない!」
決意したレミリアは部屋を飛び出し、咲夜の姿をさがすことにした。
無料招待券と書かれたチケットを手に、魔理沙は紅魔館へやってきていた。
いつもは立ちふさがる門番も、今日はチケットを見せただけで中へ通された。開催場所には紅魔館ロビーと記載されている。レミリア主催ということを考えれば、この昼間に外でやることはないだろうと魔理沙は納得。
ロビーには、すでに大勢の毛玉がひしめき合っていた。咲夜の手によりかなり広く作られているロビーである。一体どれだけいるのか、魔理沙は少し考えてからすぐに辟易して考えるのを止めた。
対応にやって来たメイドにチケットを渡すと、最前列に案内された。
「あら、魔理沙も来たの」
「なんだ霊夢じゃないか」
案内を終えたメイドが去っていくのを見送りながら、霊夢の隣に腰掛ける。
「で、一体何が始まるんだ?」
「ライブでしょ」
その言葉を待っていたかのように、ステージ全体が煙に包まれる。ざわめく観客へと、声が響いた。
「Ladies and Gentlemen! Welcome! Welcome to the live!」
徐々に煙が晴れていき、そこにいたのは、二人の吸血鬼。
二人はともにぴっちりとした黒のボディスーツを着ていて、可愛らしい外見に大人の魅力をそこはかとなく感じさせている。
「Today is our -DESTINY'S SISTER- first live!」
マイク片手に喋るのは、周囲を蠱惑的に挑発する笑みを浮かべるレミリア。その姿に、多くの毛玉が嬌声をあげている。レミリアの背後では、姉を真似ようと四苦八苦した笑みを浮かべるフラン。その姿に、これまた多くの毛玉が悶えている。
「ねえ、魔理沙。あいつら、何喋ってるの?」
「多分英語だな。ただ、私も余り聞く機会がないから多くは分からない」
そう、と頷いている間に、曲が始まったらしく、ステージの裏から音楽が聞こえてくる。
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
かなりアップテンポな曲調に合わせて、毛玉が叫ぶ。少ししてサビに入ったのか、一段と声量を増す毛玉。ところどころから指笛や「デスシスー!」といった叫びが聞こえてくる。
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
ノリにノル毛玉についていけない霊夢と魔理沙。魔理沙にいたってはなぜか顔を引きつらせ、冷や汗らしきものまで見えている。
「魔理沙、これ何言ってるかわかるの?」
「ん? そうだな、半々ってところだ」
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
何を言っているのかさっぱりなので、霊夢は素直に聞いてみることにした。
「時々”ふぁっきん かじ娘。”って聞こえるんだけど、どういう意味?」
「さあな、あいつの出身地独特の俗語じゃないか」
そう言う魔理沙の顔の引きつりが増したのを、霊夢は見逃さない。
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
「あと、しょっちゅう”らぶらぶ れいむ”って聞こえるんだけど」
「さあな、私の知る限り”れいむ”なんて単語はないぜ」
そう言う魔理沙の冷や汗が増したのを、霊夢は見逃さない。
「♪――♪――REIMUuuuuuuu COME BAaaaaaaaCK!!!!!!!!!」
レー ミー リアー! レー ミー リアー!
フー ラー ンー! フー ラー ンー!
曲が終わった。
「最後のは」
「さあな! 実はこれ英語じゃないんじゃないかな!」
そう言って魔理沙は首を傾げる霊夢を連れて、そうそうにその場を立ち去った。
「それで?」
「はい、収益は上々、まず成功と言ってよろしいかと」
「違うわ、霊夢よ。霊夢はどうだったの?」
「それが、曲が終わると同時に帰ってしまいまして」
「なっ! ……くぅっ、私の力では霊夢を取り戻せなかったというの……!?」
「いえ、やはり純和の霊夢には洋楽の素晴らしさが分からなかったのではないかと」
「――諦めない。私は諦めないわよ。待ってなさい霊夢! 今に私の素晴らしさに骨抜きにしてみせるわ!」
レミリアは自室に飛び込むなり、ベッドに倒れこんだ。
「うぅ……れいむぅ……」
口から出てくるのはか弱い消え入りそうな声。
この状況を生み出したのは、今日の昼のことだった。昼間に目を覚ましたレミリアは、もう一眠りしようかと思ったところで、外から聞こえる歓声に気づいた。興味がわいたレミリアは眠気を我慢して体を起こし、着替えて外に出て首をかしげた。
誰もいない。とりあえず誰かを捕まえて事情を聞こうと思っていたレミリアの思惑は外れた。主人の都合に合わせられないとは、と傍からすれば理不尽な怒りを覚え、歓声の聞こえる中庭を見下ろせる窓を覗き込む。
「…………」
唖然とした。そこにいたのは、やたら装飾華美な中華服を着て、可愛らしい踊りと笑顔を振りまいて歌っている紅美鈴。彼女の前では、無数の幽霊(半幽霊含む)が大音量で彼女の名前を叫んでいる。
しばし立ち尽くしていたレミリアは、気を取り直して美鈴の元へと向かうことにした。
そうしてステージに上がったレミリアを、美鈴は「お、お嬢様」としどろもどろに出迎えた。
「随分楽しそうだけれど、何をやっているのかしら?」
「これはですね、その、あの」
「貴女の仕事は、こういう奴らを館に入れないことじゃなかったの?」
「ひぇっ、すいませんすいません」
立場が上の者に、明らかな叱責の場面でことさら優雅に対応されるというのは、当事者にとって最も恐ろしいことの一つである。いつ怒りへと変わるのかが分からないからだ。
「謝るくらいなら――」
怯える子羊のごとき有様の美鈴をたっぷりと眺めてから、レミリアはきっと視線を鋭くした。それを見た美鈴の顔が一層強張る。
「最初からきちんとしごとうぉぅっ!」
いざ叱らんとしたレミリアは、顔を横殴りにされ吹っ飛んだ。そのままステージ背景の板へと激突して体を半ばまでつっこみ、衝撃で背景全体がゆっくりと倒れ始める。どうすることもできずにレミリアは頭から地面に激突し、それを見て我に返った美鈴があわててレミリアを引っこ抜いた。怪我もなく助け出されたレミリアは、自身に攻撃をしてきた奴を睨みつけ――凍った。
「れ、れいむ?」
レミリアの目の先には、SS席(通称”親衛隊専用席”、お値段13500円)に座り、『華人小娘。』印のグッズの数々に身を包み、陰陽球を構える霊夢の姿。霊夢はレミリアの戸惑いなど気にもせずに、静かに、静かに声を放った。
「レミリア、貴女は、してはいけないことをしたわ」
「え?」
「我らがかじ娘。のライブを台無しにしただけでは飽き足らず! 我らがめいりんに対する暴言・侮辱の数々! 聞きなさい! 私達の怒りの叫びを!!」
ばっ! と霊夢が腕を振って後方を示す。それに合わせたように湧き上がる「かーえーれ! かーえーれ!」のシュプレヒコール。さらにレミリアを追い込むように霊夢までもが加わりコールは一段と大きくなる。
「うぅ……」
声に押されるように後ずさるレミリア。しかし、下がれば下がった分だけコールは威力と大きさを増していく。
「う……うわぁぁぁぁん!」
最後に耐え切れなくなったレミリアは、泣きながら会場を飛び去った。
部屋に戻ってひとしきり泣いて、やがて泣き止んだレミリアは、涙を拭いて毅然とした顔で立ち上がった。
「――そうよ、霊夢は今悪い夢を見ているだけ。なら、私がその夢から霊夢を覚ましてあげればいいだけじゃない!」
決意したレミリアは部屋を飛び出し、咲夜の姿をさがすことにした。
無料招待券と書かれたチケットを手に、魔理沙は紅魔館へやってきていた。
いつもは立ちふさがる門番も、今日はチケットを見せただけで中へ通された。開催場所には紅魔館ロビーと記載されている。レミリア主催ということを考えれば、この昼間に外でやることはないだろうと魔理沙は納得。
ロビーには、すでに大勢の毛玉がひしめき合っていた。咲夜の手によりかなり広く作られているロビーである。一体どれだけいるのか、魔理沙は少し考えてからすぐに辟易して考えるのを止めた。
対応にやって来たメイドにチケットを渡すと、最前列に案内された。
「あら、魔理沙も来たの」
「なんだ霊夢じゃないか」
案内を終えたメイドが去っていくのを見送りながら、霊夢の隣に腰掛ける。
「で、一体何が始まるんだ?」
「ライブでしょ」
その言葉を待っていたかのように、ステージ全体が煙に包まれる。ざわめく観客へと、声が響いた。
「Ladies and Gentlemen! Welcome! Welcome to the live!」
徐々に煙が晴れていき、そこにいたのは、二人の吸血鬼。
二人はともにぴっちりとした黒のボディスーツを着ていて、可愛らしい外見に大人の魅力をそこはかとなく感じさせている。
「Today is our -DESTINY'S SISTER- first live!」
マイク片手に喋るのは、周囲を蠱惑的に挑発する笑みを浮かべるレミリア。その姿に、多くの毛玉が嬌声をあげている。レミリアの背後では、姉を真似ようと四苦八苦した笑みを浮かべるフラン。その姿に、これまた多くの毛玉が悶えている。
「ねえ、魔理沙。あいつら、何喋ってるの?」
「多分英語だな。ただ、私も余り聞く機会がないから多くは分からない」
そう、と頷いている間に、曲が始まったらしく、ステージの裏から音楽が聞こえてくる。
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
かなりアップテンポな曲調に合わせて、毛玉が叫ぶ。少ししてサビに入ったのか、一段と声量を増す毛玉。ところどころから指笛や「デスシスー!」といった叫びが聞こえてくる。
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
ノリにノル毛玉についていけない霊夢と魔理沙。魔理沙にいたってはなぜか顔を引きつらせ、冷や汗らしきものまで見えている。
「魔理沙、これ何言ってるかわかるの?」
「ん? そうだな、半々ってところだ」
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
何を言っているのかさっぱりなので、霊夢は素直に聞いてみることにした。
「時々”ふぁっきん かじ娘。”って聞こえるんだけど、どういう意味?」
「さあな、あいつの出身地独特の俗語じゃないか」
そう言う魔理沙の顔の引きつりが増したのを、霊夢は見逃さない。
「♪――♪――♪」
レ ミ リア! レ ミ リア!
フ ラ ン! フ ラ ン!
「あと、しょっちゅう”らぶらぶ れいむ”って聞こえるんだけど」
「さあな、私の知る限り”れいむ”なんて単語はないぜ」
そう言う魔理沙の冷や汗が増したのを、霊夢は見逃さない。
「♪――♪――REIMUuuuuuuu COME BAaaaaaaaCK!!!!!!!!!」
レー ミー リアー! レー ミー リアー!
フー ラー ンー! フー ラー ンー!
曲が終わった。
「最後のは」
「さあな! 実はこれ英語じゃないんじゃないかな!」
そう言って魔理沙は首を傾げる霊夢を連れて、そうそうにその場を立ち去った。
「それで?」
「はい、収益は上々、まず成功と言ってよろしいかと」
「違うわ、霊夢よ。霊夢はどうだったの?」
「それが、曲が終わると同時に帰ってしまいまして」
「なっ! ……くぅっ、私の力では霊夢を取り戻せなかったというの……!?」
「いえ、やはり純和の霊夢には洋楽の素晴らしさが分からなかったのではないかと」
「――諦めない。私は諦めないわよ。待ってなさい霊夢! 今に私の素晴らしさに骨抜きにしてみせるわ!」
英吉利じゃなくて露西亜?
月の住人からすれば敵はやはり米露ではないかと。英はとくに宇宙事業は盛んでなかったと思うのですが。