宝の在り処を突き止めるため、とりあえず霊夢におむすびを振舞った藍。
しかし中はいたずらで仕込まれた超激辛明太子だった。
怒り狂う霊夢から逃げる藍。彼女の行く末やいかに。
ゆかりの挑戦状
「そう、それは災難だったわね、でももう安心よ」
家の主、アリス・マーガトロイドはそう言って藍の苦労をねぎらった。霊夢の『こらー、どこ行ったー』という叫びとともに、霊力の気配が高速で通り過ぎていく。ここには気付かなかったようだ。
人形がたくさん棚やテーブルに並んでいる。彼女は噂によると魔界の住人だったらしい。旧東方兵とは彼女のことだろう。彼女の周りで人形のうちの何体かが生き物のように動いている。
「ああ、これは私の作った自動人形。不気味・・・かな?」
「とんでもない、よく出来た人形ですね」
社交辞令ではない。
小さな人形たちがぱたぱたと走りながら家事をこなしている光景は、見ていてほほえましい。
キッチンに目を移すと、宙に浮かんだ二体の人形が、一本の泡だて器を持って何かをいっしょうけんめいにかき回している。
人形の一体が藍に興味を示している。足元に駆け寄り、服のすそを引っ張る。
「あら、この子、あなたとお友達になりたいそうよ、遊んであげてくれない」
そっけない表情で言うアリスだが、友達になりたいのは彼女自身かもしれない。
紅茶とクッキーを振舞われ、ひとしきり人形と遊んだあと、人形がいくつかの小さな小包を持ってきた。
藍の前にそれを並べ終えると、ぺこりとお辞儀をする。
「あなたに贈り物がしたいそうよ」
『シャンハーイ?』
→シャンハーイ
シャンハーイ
シャンハーイ
シャンハーイ
シャンハーイ
シャンハーイ
人形語はさっぱり知らない。適当にひとつを選び、包みを開けると、小さな本が出てきた。人形が持つのにふさわしい大きさだった。
「ありがとう、頂いておくよ」
「シャンハイ!」 ぺこりとお辞儀
居心地のいい空間。でもそろそろ発たなければ、霊夢がここに来たらアリスにも迷惑がかかる。
藍がそろそろ旅を再開したいと告げると、赤らめた顔でアリスが何事かつぶやいた。
「あの・・・」
「ん、何か?」
「えーっと、独り言なんだけど、その・・・、神社の屋根で・・・・・・ンコ・・・したら、気持ち・・・よかったなあ」
「?」
あらかじめ紫から伝えてくれと頼まれたメッセージを言い終える。
「じゃあ、これで失礼するよ。世話になった」
「どうもいたしまして」
(まったく、うら若き乙女になんてセリフ言わせるのよ)
これが今回の謎解きの最重要ヒントであることを、藍はまだ知らない。
ゆかりの挑戦状
「まじょにしょもつ」 魔法使いで書物といえば魔理沙だろう、彼女は好奇心旺盛で、魔法に関する学習意欲も高く、加えて自分勝手な性格のため、よく書物の多くある場所が彼女の餌食にされている。
アリスの人形から土産にもらった小さな本、これを渡せば宝のヒントを教えてくれるだろう。
霧雨邸に着くころにはすっかり日も暮れ、魔法の森特有の不思議な気配があたりを満たしていた。
「魔理沙の家だな、まだ開けてくれるかな」
ドアをノックしようとしたところ、突然藍の足元に魔方陣が光り輝き、見えない力で身体を拘束される。時間にしてわずか数秒。
「きゅう~」 また気絶。
気がつくと、自分が大きな鍋の中に入れられているのを発見した。まだ体が動かない。
魔理沙が鼻歌を歌いながら、なにやら準備をしている。
「きっつねなべ~ きっつねなべ~ 今夜のご飯はきつね鍋~」
「マジっすか」
「はっはっは、思い知ったか、死ぬ前に何か芸をしてみろ」
体の拘束が解かれる、しかし今の力では逃げてもまた捕まるだろう。
なんとかしなければ!
→たてぶえをふく
しゃみせんをならす
しゃくはちをふく
しっぽをまわす
いのちごいをする
だんまくをはる
おとなしくくわれる
いちかばちか、たて笛を取り出し、吹いてみる。こうみえても外界に居たころ、権力者をとりこにするためにいろいろ楽器や詩歌を学んだものだ。演奏には騒霊3姉妹ほどではなくても自身はある。
藍は気を取り直して、縦笛を構えた。
ぽぴゅい~ ぴーひょろろ~
だめでした。
「ううう、素晴らしい旋律、あんたを歓迎するぜ」
何でだよ。
何故だか開放してもらう。
「紫から話は聞いてたぜ、お前、宝捜しをしてるんだってな」
「紫様が?、まあ、いまさら驚きはしないけどね」
「どんな宝なんだ?」 意外にも、あまり好奇心が刺激された顔ではない。
「分からない、でも私がそれを探すのは、単にやることが無いからさ。なんなら宝は全部魔理沙にあげてもいいぞ」
「いや、どうせ金銀宝石とかだろ、魔法の力が込められてるんならともかく、世間一般が宝だと認識するような宝に興味は無いね」
「違いない、魔理沙らしいな」
「ところで私としてはむしろ・・・」
そう言って、魔理沙は藍の懐に手を突っ込んだ。
「ちょ、何を!?」
「これ、お近づきのしるしに頂いとくぜ」
アリスから貰った豆本を取られた。
「あーっ、なにさらしとんねん!」
「・・・きつね鍋~♪」
「すいません」
「代価として、私が生成しようとして失敗した不完全賢者の石をやろう」
なんだかわらしべ長者みたいだな。
(紫に与えられた力が無くなって弱くなったと思い込んでいるようだが、本当はお前さん、今でも十分強いんだぜ)
魔理沙はそう言いたいと一瞬思ったが、面白そうなので黙っていることにした。
ゆかりの挑戦状
『みこにめし』 『まじょにしょもつ』 はやりとげた。あとは 『ぱちゅにつぶて』 だ。
これからは いしで こうげきします
未完成ながら、かなりの力を秘めた賢者の石。これで襲い掛かる妖怪を撲殺しながら夜の森を進む。
途中で頭にひとつのたんこぶが付いた氷精と宵闇と蛍の報復に遭ったので、もういちど頭をカチ割ってやった。藍の通ったあと、たんこぶが二つに増えた妖怪たちが倒れていた。武器に使われた賢者の石はすっかり犠牲者の血で染まっている。
湖に出る。しっぽコプターで赤い館を目指す。もう防衛システムなどは見切った。みすちーもUFOも軽く避けて目的地にたどり着く。
パチュリーに赤く染まった賢者の石を手渡す。彼女はそれを見つめて、言った。
「これは、多くの血と怨念を吸収した結果、不完全さを補って余りあるほどのパワーを持つに至ったようね。魔法実験の素材に使えるわ、ああ、勿論ただとは言わないわ。いいこと、あの不死の連中が隠した宝ってのは、博麗神社の特殊な結界にあるの」
「特殊な結界?」
「そう、その結界に入るには、自らの精神を開放しなければいけないらしいわ」
藍はいままでにきた聞いてきたメッセージを思い出す。総合して考えられることは・・・。
「ありがとう、宝の手がかりがわかったよ、あなた方にも分け前を差し上げたい」
「いいの、こんな稀少なアイテムが手に入ったんですもの」
「それは良かった・・・。ところで、あのおむすびの礼をしたい」
「!」
藍はパチュリーの首を掴み、あらかじめ紅魔館の食堂でくすねておいた超激辛明太子をそのちいさな口に容赦なく詰め込んだ。
「んーーーーーっ」
「お返し完了♪」
「ごほっ、あなたなんて・・・うっ、辛っ」
パチュリーが辛さのあまり口から火を噴いた。たとえではなく、本当に。
「ひぃ、図書館が燃える」 騒ぎを聞きつけて駆け込んできたメイドや小悪魔が叫びを上げる。
「ほ、本当に火を噴くなー」
「だってこれ、錬金術の実験で生まれたマジック明太子なんだもの、水、水」
「錬金術でどうやったらそんなものが創れるんだ」
「だって仕方ないじゃない、小悪魔! 水頂戴!」
パチュリーが口から10メートルの火柱を吹きながら走り回る。小悪魔から水を貰ってようやく落ち着くと、そのまま気を失って倒れてしまった。小悪魔やメイドたちは消火やらパチュリーの手当てやらで大騒ぎになっている。
「あわわわ、ちょっと仕返ししただけだったのに」 こりゃ宝物は全てあげたほうがいいかも知れない。
幸い咲夜とレミリアは出かけていた、その隙に脱出する。
ゆかりの挑戦状
神社に戻る。屋根に登り、藍は一糸まとわぬ姿になる。月光が彼女を妖しく照らす。
呼吸を整えて、宙に舞う。しっぽを回す必要は無かった。
軽くなった心と共に、自然に体が浮かび上がる。
「わたしは天狐」
空中で身体を丸め、激しく回転させる。それがダイナモになったかのように、精神が高揚する。
「テンコー」
叫んだ。あらゆる過去の記憶も、しがらみも、多くの国を滅ぼしてきた宿業も捨て、ただひたすらに裸で漆黒の夜空を舞う。
やがて藍を白い光が包み、光が消えるとそこに彼女の姿は無かった。
藍はどこかの蔵の内部に居た。神社の宝物殿のような場所だった。博麗神社にそんな大層なものは無い。きっと宝を隠してある結界の内部に違いない。
「よく来たね、ここに来たのは宝を隠した奴以外、あんたが初めてさ」
声をかけられた。振り向くと、一人の女性が強気な視線を藍にむけて立っていた。つやのある緑色の髪を腰まで伸ばし、青で統一された服を着て、形容しがたい個性的な帽子を被っている。
「私は魅魔、この神社の祟り神、で、祟り神兼、この宝の番人も頼まれちまってねぇ。ああ、べつにあんたを取って食おうってわけじゃないんだよ。そりゃあ、この宝は誰にあげてもいいわけじゃないんだけど、ここまであんたがたどり着けたという事実だけで、受け取る資格あり、という寸法よ」
「それじゃあ」
「そう、さっさと持っていきな」
藍は宝を見つけて最初に言おうと考えていたせりふを口にした。
「ついにたからをみつけたぞー」
「こらーやっぱりお前か!!」
「霊夢、どうしてここが?」
「真夜中に人んちの屋根でテンコーテンコー叫んで気がつかないほうがどうかしてるわ、罰として宝は私が没収、くたばりやがれ」
霊夢が拳を握り締める。藍も反射的に拳を構え・・・。
ぼかっ
クロスカウンターのような格好で両者相打ち。身体能力は妖怪であり、道中素手で戦ってきた藍が勝っていたが、霊夢は拳にビー玉サイズに縮小した陰陽玉を握りこんでおり、また物理的な力に加えて霊力を拳に込めていたので威力は互角だった。
「おーい、二人とものびちまったよ」
魅魔が宝箱としておいてあったつづらのほうを向いて呼びかけた。
「まあ、それは想定外ね」
つづらが開き、出てきたのは紫本人だった。さまざまな苦難を乗り越えてようやくたどり着いた宝は、袂を分かったはずの近しいひとだった、という筋書きだったようだ。
「で、こいつら、どうするんだい?」
「藍は私が連れて行くわ、あなたは霊夢をお願い」
そういって藍を抱きかかえ、例によってどこかの隙間空間に消えていった。
魅魔も霊夢を肩に担ぎ、結界空間を後にする。
「まったく、祟り神が人助けなんてねえ」 言葉に反して、まんざらでもない表情の魅魔だった。
ゆかりの挑戦状
気絶している藍を寝巻きに着替えさせ、布団に寝かせ、毛布をかけてやる。
藍はもう私の力を与えなくてもやっていける。紫はそう確信した。
これからは主従関係ではなく、よき妖怪仲間として暮らしたい。
「紫様~、最近体形が変わったみたいですね」 寝室に入ってきた橙が言う。
「ええ、藍に与えていた力を戻したからね、太ってしまったわ」
「いえ、多少ふっくらしていたほうが女性らしくて綺麗に見えます、以前の紫様、たくさん食べているのにやせる一方で、見てて辛かったんですよ」
「藍のような大妖怪を式神として持つと、主も多大な霊力を消耗するのよ」
「じゃあなんで、もっと早く式神契約を解かなかったんですか」
「そう、なんでかしらね」
式神契約を解けば、藍とのつながりが消えてしまうような気がしたのだ。しかしこのままでは自分の力が弱まり、死ぬとまでは行かないとしても、結界修復が出来なくなって幻想郷を滅ぼしかねない。でも紫は式神契約を解除することで藍や橙との関係が変わってしまう事が怖かった。どっちつかずの状態を続けていた、あの時までは。
(藍の暴走、思えばあれに私は救われたのかも)
そう思いながら、藍にどつかれた後頭部をさする。
「橙、これからは寝てばかりいないであなたの遊び相手も出来そうよ」
「じゃあ、今度三人でかくれんぼしましょ、藍様も戻ってきたし、紫様も元気になって、私、嬉しい」
「ありがとう、童心に帰るのもいいかもね」
藍が寝言を言った。その顔には一筋の涙が。
「ゆかりさま・・・会いたいです・・・」
なんだかんだいって、この子もわたしを必要としてくれてたわけか。
自分が課した試練を終えて帰ってきた藍は、どこか頼もしく見えた。
「えらいっ」
額を優しくなでてやる。藍が安心したような顔つきで寝返りを打った。
後日、マヨイガは夢の中でこの試練を体験できる秘法を編み出し、従者を訓練するためとして売り出したが・・・。
「お嬢様、申し訳ありません。この試練、私には荷が重過ぎます」
「咲夜が音を上げるなんて、どんな試練なのかしら、興味あるわね」
レミリア挑戦中
「ちょっと、このシューティング面、絶対サギよ」
「幽々子さまぁ、これ難しすぎます、勘弁してくださいよ~」
「まったく、最近の半幽霊は頼りないわねえ」
幽々子挑戦中
「ふにゃ~ 謎解きがわからない」
「永琳、このゲームどうしても攻略できないから捨ててきて」
「せっかく外の世界をリアルに体験できるというから買って差し上げたのに、わたしに貸して下さい」
永琳挑戦中
「ムズい、 なんで宝の直前でいつも殺されるのよ」
難しすぎる、開発責任者を出せとの抗議がマヨイガに殺到し、対応に困った藍が苦し紛れに、
「紫様は死にました」
とごまかしたたのは有名なエピソードである。
おわり
そしてこれをネタに持って来たとらねこさんにも敬意を表す。
自信では?