この頃、藍に叱られました。
曰く、「いい加減、覗き見するのはやめてください」だって。う~ん……そんなに悪い事かしら? 別に、それをネタに揺さぶったり脅したりしているわけじゃないのに。
え? ぷらいばしぃ? 何それ、藍。
いいじゃない、別に。
私はねぇ、藍。言うなれば、この幻想郷のお母さんなの。お母さんが、そこに住んでいる子供達の様子に、逐一目を配るのは当たり前の事じゃない。だから、これは覗きじゃないのよ? 言うなれば、高尚な趣味よ、趣味。
……趣味の時点で覗きじゃないですか、って?
……ちっ。ああ言えばこういう……。
そういうわけで、今日も元気にスキマウォッチング。
この頃は、お昼寝の代わりにこれをやっていても飽きないわね。何というか……誰を見ても愉しいというか? ああ、字が違うわね。楽しいよ、楽しい。うん、これ。
……上のだとちょっとやばいわ。
さて、と。
それじゃ……ん?
「ふぅ~……」
お、あの特徴的なもんぺ姿はどこぞの不死鳥娘。
こんな竹林の奥で何を……って、あの子はここに隠れ住んでいるんだったわね。でも、何してるのかしら。今夜の晩ご飯のために薪を集めに来た……というわけではなさそうね。と言うか、薪として竹を使うのは危ないからやめた方がいいわよ。
「長年に亘る、てるよとの決着をつけるために!」
……ほほう。
「いっくぞぉぉぉぉぉ!」
おおっ! 背中に炎が燃えている! 目が真っ赤に燃えている! まさに逆境!!
……って、違うか。
「ひっさぁぁぁぁぁぁつっ!」
何と!
これぞまさに、『もこたんの手が真っ赤に燃える! てるよを倒せと轟き叫ぶ!』ね!
そのまま、もこたん、真っ赤に燃え上がる右手を目の前の竹林に向かってどーん! おお~……これは壮観だわねぇ……。
「ふ……ふふふ……。完成……完成したっ! これぞ、私の新たなスペルカードっ!! その名も……!」
……あ~。
えっとね、もこちゃん。自分に浸っているのもいいけれど、もう少し、周りの様子は見た方がいいわよ?
ほら、何か焦げ臭いし……。
「……ん? あれ? 何か、ぱちぱち、って……」
きょろきょろし始めたもこちゃん。何かかわいいわね。
だけど、この期に及んでもそれに気づかないのはちょっとおバカさんだぞ♪
これが俗に言う、ドジっ娘属性! ……え? 違う? あ、これ、辞書? ありがと、藍。なでなで。
「ああーっ! 竹林が燃えてるー、ってあつっ! あつぅっ!」
そりゃ、森の中で炎使ったら火が出るに決まってるじゃない。
火遊びは危険なのよ。
「きゃーっ! きゃーっ! 火が、火がーっ!!
やぁーっ! ちょっと、それ以上燃えないでー! わ、私のおうちがー!!」
しかも、自分の家のそばでやるから……。
う~ん……だけど、このところ、幻想郷は晴天続きだったから、面白いくらいによく燃えること。森も乾いていたのね。
「あちっ! あちぃってばぁっ! うわーん、誰か助けてー! けーねー! けーねたすけてけーねー!」
人は言いました。
本気で燃えさかる炎を前に、人間に出来ることなど何もない、と。いくらあの子が蓬莱人で不死鳥娘だとしても、それはきっと同じ事なのね。
っていうか、これ、見てるだけってやばくない?
ああ、ちょっと、藍! 怒らないでよ! わかったわよ、今、火を消すから!
「熱いっ! あつぅっ! わーん、家なき子になっちゃうー!
ど、どうしよう、どうすればいい、藤原妹紅。考えろ、考えるんだ。この最悪の事態を回避できる最善の方法を考えるんだ。そう、クールになれ……どんなときでもBe cool!」
考えている間にめらめらと火が燃え移ってるもこたん萌え。
「ふぎゃーっ! あっちーっ!!」
当たり前です。
ついにもこたん、服が燃えて、全力で駆け出しました。後に残るのは、めらめらぼうぼうと燃え上がる竹林ともこたんのおうちだけ。
はぁ……全く。手がかかるわね。
よいしょ、っと。
「……これはまた、よくもまぁ……」
「あ……ああ……私の……私のおうち……」
帰ってきましたもこたんのそばには、慧音がついていました。ちなみにもこたん、慧音に服を借りたのか、ちょっぴりすすけた格好のままで呆然としています。
「……妹紅。私はお前に言ったな? 火気厳禁、と」
「うぅ……」
「ったく……。竹林が丸ごと燃えなかっただけ、まだマシという所か……」
帰ってきてみれば、相当な範囲の竹林が燃えていたんだものねぇ。そりゃ、頭を悩ますはずだわ。
まぁ、それを消し止めてあげたゆかりんさいこー、ってことなんだけど☆
「……ね、ねぇ、慧音。このさ、私の家とか……」
「私は知らん」
「ええーっ!?」
「私の言いつけを守らなかったお前が悪い。自分で何とかしろ」
「そ、そんな! ちょっと冷たくない!?
こういう時は『やれやれ、妹紅は手がかかるな』って、私に散々説教した後に直してくれるってのがパターンでしょ!?」
「うるさい。説教もしない。その代わり、直しもしない。
第一、竹林は生長が早いからな。空の様子を見る限りでは、一両日中にも雨が降るだろう。あとは森の再生力に任せておけば、数ヶ月で元に戻る」
「そんな!? んじゃ、雨が降ったら私はどうしたら……!」
「知るか。雨に濡れて反省しろ」
う~ん……さすがは慧音ちゃん。なかなか、怒らせると怖いわねぇ。
私も気をつけるようにしないと。
え? 肝試しの時、散々、それを教えられたんじゃないですか、って? そうでもないわよ。あの時はあの時、今は今。事情が違うもの。
「うぅ~……私が風邪引いたら慧音のせいだ~……」
「そうやって責任転嫁が出来ているうちは、まだまだ余裕がある。大丈夫だ」
「……う~」
「……ったく」
ぺたんとへたりこんだもこたんは、普段の態度の悪さなんてどこへやら。なかなかに乙女チックでかわいいわね。
ほんと、霊夢や魔理沙も、あれくらいのかわいげがあればいいのに。ひょっとして、幻想郷の少女達って、どこかに少女じゃなくて『ファイヤー』のノリがこめられているのかしら。
ファイヤーって誰ですか、って? それは自分で調べなさい。
「……仕方ない。家を建て直すのはお前の責任だ、私はそれについては何もしない。
だが、野ざらしにしておくのもかわいそうだからな」
「えっ?」
「ついてこい」
「やったぁ! も~、慧音は意地悪だなぁ! 最初からそう言ってくれればいいじゃん!」
また調子がいいことで。
何か、心なしか、髪の毛がひょこひょこ踊っているような。あれ、しっぽ?
「ここに世話になれ」
「………………………」
もこたん、思わず沈黙。
そりゃそうでしょう。やってきたのは。
「……永遠亭?」
「事情を話せば、ここなら部屋など腐るほどあるだろうから、一つくらいは貸してくれるだろう。元から、お前を連れて人里になんて、そうそう出られるものではないからな。紅魔館や白玉楼とはつきあいが薄いし、考え得る限り、頼れるところと言えばここ程度のものだろう」
「み、巫女とか……」
「一日一食、しかも米粒生活がしたいのか、お前は」
「ま、魔法使いとか……!」
「あの夢の島でどうやって生活するつもりだ」
「に、人形遣い!」
「人形に囲まれたホラーな生活したいのか?」
「え……えっと……」
「どうした、意見は受け付けるぞ」
……意外に慧音ちゃんって、本当に厳しいのね。
自他を厳しく律することの出来る子はいいわねぇ。私にも見習え、って目をしてるわね、藍。いい度胸だこと。
「……はぅ」
「ついてこい。交渉はしてやる」
そうして、大股に近づいていく慧音さんでありましたとさ。
さてさて、ついていくわよ~。にょろにょろ~、と。
「いきなりの訪問ですまないのだが、永琳殿はいらっしゃらないだろうか」
「え、永琳様……ですか? し、少々、お待ちを……」
うさぎちゃん達も、突然の来訪者に大層驚いているご様子。それはそうよね。ここの主ともこたんは、そりゃーもう仲が悪いったら。
「あらあら、まあまあ。どうなさったの?」
「久しぶりだな、永琳殿。いや、実は……」
ねぇ、藍。
この頃さ、永琳の様子、変わってない? 何というか……おっとりしているというか、お姉ちゃんっぽいというか。お姉ちゃんって誰ですか、と言われても……何というか、幻聴?
「あらあら、そうなの。大変ね」
「ああ。それで、ここの屋敷の部屋を一つ、こいつに間借りさせて欲しい。もちろん、無理なら諦めるが……」
「私は構わないわ。姫に見つからなければ、そうそう問題が起きるものでもないでしょうし。もこたんのことを知ってる子は、それなりに多いけれど。
ひどい目に遭わされているのはウドンゲくらいでしょ」
「……もこたん言うなちくしょう」
「かたじけない。妹紅に手伝えることがあれば、何でも遠慮せずに言ってやってくれ。小間使いと思ってこき使ってくれて構わない」
「ちょっと、慧音! マジ!?」
「うるさい黙れ」
「……はい」
おー、こわ。
「うふふ、それは嬉しいわ。うちはいつも人手不足だから。
それじゃ、もこちゃん。入ってちょうだい」
「だから、もこちゃんとか言うな!」
「部屋へはウドンゲに案内させるわ」
おや、いつの間に。
愛する師匠の陰に隠れて、おどおどびくびくしてる子ウサギちゃん発見。……う~ん、かわいい。嗜虐心をそそられるわぁ。
「じゃあな、妹紅。家が直ったら連絡をよこせ」
「……恨むからね、慧音」
「それじゃ、永琳殿。私はこれで。無理難題を押し付けてすまなかった」
「あらあら、うふふ」
何か、どこぞでゴンドラこいでいてもおかしくないわね。月の海でそう言う仕事やってたのかしら、永琳って。
何の話かわからない、ですって? ……藍、あなたは癒しというものを知らないようね。
「さて、と。
それじゃ、ウドンゲ。彼女を部屋に案内したら私の所に連れてきて。助手として、色々やってもらうから。後、服は都合してあげて」
「……はい。
あの……じゃ、こっちに」
「……ちっ。何で私が……」
「あらあら、もこちゃん。そう言う態度を取ると、先生、怒っちゃうわよ?」
さりげに絶対峡谷から取り出すスペルカード。妹紅も、永琳の強さはわかっているのか、顔を引きつらせて黙るだけ。う~む、笑顔の脅迫。強いわねぇ。
ねぇ、藍。私もにっこり笑って攻撃しかけてみたら強いかしら? 卑怯です、って? ……それもそうね。
さてさて、もこたんの『永遠亭での滅私奉公』が始まったわよ、藍。晩ご飯の用意は後にして、ちょっと見に来てみなさいな。ん~……いい匂い。今日の煮物は鶏肉かしら。
「……何でこんな格好を」
「我慢してください。師匠の趣味だから」
あら、かわいい白衣の天使ちゃん♪
……でも、あそこには嫌な思い出しかないのよね。八意永琳の医療相談所。私にとって、あそこは鬼門だわ……。
でも、外から見ている分にはいいのよね。短いスカートがかわいいわぁ。
「新しい看護士さんですね」
「うわ、かわいい~」
「すいません、先日から熱が下がらなくて……」
「私が知るか誰がかわいいんだっていうかそんなこと私に相談されても困る! ウドンゲでも誰でもいいから助けてー!!」
……意外に繁盛してるのね、あそこ。
まぁ、腕はいいみたいだし……それから行くと、お客さんは集まるんだろうけど。私としては、幻想郷のみんなには健康でいてもらいたいから……でも、病院が繁盛するのってどうなのかしらねぇ。
「あらあら、大変ね」
「……あんたな」
「今日の診療は終わりです。お疲れ様でした」
「……はぁ」
これがしばらく続くのね、って顔しちゃってまぁ。
確かに、慣れないことをするのは疲れるわよね。私も、久しぶりに、お昼寝せずに起きているのに挑戦してみたんだけど、全くダメだったし。次の日は一日中寝ていたら、藍に『買い物に行くんだから手伝ってください』って怒られたっけ?
……何よ、その目は。
「妹紅さんの食事は、他の兎たちと一緒に摂ってもらいます。着替えが終わったら広間の方に。
てゐ、連れて行ってあげてね」
「え~? 何で私が……」
「あらあら」
「……わかりました」
う~む、強いな、永琳……さすがは、私が終生のライバルと認めただけはある……!
え? どこが終生のライバルなのですか、って?
そりゃ、胸の大きさとかカリスマとかお姉ちゃん具合とか! あ、何よ、その目! その『全面的に負けてるんだから諦めてください』的なオーラは何!?
「言っておくけど、暴れないでね」
「暴れるか。っていうか、暴れる気力すらない」
「それは安心」
「……はぁ。壊れた家の修理に加えて、ここにいる間はあんな格好せにゃいかんとは……。……反省しよう」
「う~さぎうさぎ、なにみてはねる~」
世の中、『反省しよう』と口にする人に限って反省しないものとは言うけれど、さすがのもこちゃんも、あれはねぇ……。
「……食事って、疲れているとうまいものなんだなぁ」
「まぁ、永琳様お手製だし。美味しくないわけなし」
……ふと思った。
ねぇ、藍。私って、きちんとあなた達に食事を作ってあげた方がいいかしら? 普段から、あなたに任せっきりだけど。
何でそんなことを言うのかと言われても……ただ、何となく。
「……ん? 何だ、お前ら」
「あ~、ダメだよ。このお姉ちゃんは凶暴だから。かみつかれるよ~」
普段は見ないお客さんに、ちびっこのうさちゃん達が興味津々ね。てゐちゃん、そんな風に脅かしちゃダメでしょ。
……あら、もこたん、何するの?
「人のイメージを勝手に決めるな」
ぽっ、と指先に炎をともして? それで何を……って……あら。
「わぁ……」
「すごーい」
「……おお。お見事」
炎を操る娘だけあって、炎の加工も思いのままなのね。あんなに小さな不死鳥を作り出せるなんて大したものだわ。あっという間にちびっ子達の人気者じゃない。
う~む……なかなか学ばされるところがあるわね。
「意外だね~」
「何がだ」
「ん? あんたって、近寄る相手にはかみつく狂犬みたいな奴かと思ってたけど」
「……あのな」
「意外に優しいところあるのね」
「……ふん」
おー、照れてる照れてる。かーわいいー。
昔の藍もね? ツンデレ要素があったのよ。それが今じゃ、がみがみ口うるさい姑属性に変わっちゃって。ゆかりん、ショック。
だからにらまないでよ、事実じゃない。ねぇ?
「……はぁ、疲れた」
「あら、お疲れ?」
「……何だ、あんたか」
ん~、鶏肉がほどよく柔らかくなってて美味しいわぁ。藍、そっちのおつけものちょうだい。
え? 食べる時はスキマを閉じてください、って? だって、こっちも見ていて面白いんだもの。あ、何よ、その態度。橙は真似しちゃダメだよ、って! 人を悪いものの見本みたいに言わないでちょうだい!
「我慢してちょうだいね。うちの方針は、働かざる者食うべからずなの」
「輝夜は働いてないのに食ってるぞ」
「あらあら」
さすがは八意永琳! その一言できれいにかわしたな!
「……まぁ、感謝してるよ。家なしで雨風に打たれるよりは、苦労していても屋根のあるところにいられる方が幸せだし。それに、こっちは温泉あるわ、うまい飯は黙っていても出てくるわ、おまけに布団が柔らかいと来れば」
「うふふ。ありがとう」
「……なぁ、あんた。一つ聞いていいか?」
「何かしら」
「何で、輝夜なんかに仕えてるんだ?」
「……あらあら」
お? 何々? 何やら不穏な空気?
ダメよ、ケンカしちゃ! ゆかりん怒っちゃうわよ!
あっ、こら、藍! 私のおみそ汁持って行かないでー!
「だって、おかしいだろ。どう考えても。
あんたの方が、輝夜よりも、はっきりと言えばずっとここの連中に慕われている。実質、あんたがトップみたいなもんじゃないか。それなのに、輝夜の奴にはへこへこ頭下げてるんだろ? 何で……」
「従者と主人というのは、いつだってそういうものなの。私は献身的な従者でありたいわ。同時に、優しい主人でいたいから」
「あいつが優しい……ねぇ。何勘違いしてるんだよ、あんた」
「優しいわよ」
あの引きこもり娘がねぇ……。
永遠だか何だか知らないけど、私から見れば、あの子はちょっと永琳とかに任せすぎな感じがするわよ?
……人のこと言えないでしょ、って? 何よ、私だって真面目なのよ! ぷんぷん。
「……まぁ、いいよ。
あー……そうだ」
「あらあら?」
「……礼を言ってなかったっけ。
泊めてくれてありがとう。あんた達には感謝するよ」
「あらあら」
「それなら、感謝ついでに一勝負しない?」
「げっ、輝夜!」
おお! 犬猿の仲であると同時に終生のライバルが出現よ!
BGM流して、BGM! えーっとね……どっちがいいかしら? 個人的には『えーりんえーりん』のが好きだけど。俗称で言わないでくださいと言われても、今じゃそっちの方が有名じゃない。
「何だよ、殺るか?」
「ああ、嫌だ嫌だ。俗物的な人はすぐにこれだから」
「んだと?」
「私が勝負しようと言ったのは、これよ」
「……酒? 飲み比べか?」
「そういうこと。因幡がどこかからもらってきたらしくてね。今夜は永遠亭で宴会をするはずだったのに、あなたという珍客が来てしまったから予定が狂ったの。私の楽しみを奪ったあなたをとっちめてやろうと思ってね」
「……ふん、面白い。私は強いぞ?」
「それはこちらも同じ事。
永琳、場所を変えるわ。ぐい飲みの用意を」
「はい、姫様」
そうそう、これこれ。えーりん、えーりん、たすけてえーりーん、って。
いいノリよねぇ……と、思ったら、おやぁ? いないわよ?
えーっと、どこ行った、あいつら。探せ探せ~、ゆかりんのスキマ窓~。
「……なんだよ、ここ」
「見ての通り、お月見よ」
「お前、何が……」
「ほーら、イナバー。お酒を楽しいものにするには『こんぱにおん』が必須よー」
「あらあら、ウドンゲ。かわいいわよー」
「……う~……やっぱりやらないとダメですか?」
永遠亭の中庭で……お月見?
ああ、確かに今夜はきれいな満月が出ているわね。
藍、私たちもお月見しましょ。お酒とおつまみ持ってきて。ほらほら、橙もいらっしゃい。
「何やってるんだよ、ウドンゲ」
「う~……そ、それじゃ……やります!」
「やんややんや~」
「ム、ムーンラビットパワー、メイクアーップ!」
ぶーっ!!
「つ、月のうさぎ、鈴仙・優曇華院・イナバ! 師匠に代わってお仕置きよっ!」
あっははははははは! 何あれ、何あれっ!
あーっはっはははは!
わ、笑いすぎですよって言われても! 藍、あなただって顔がにやけてるじゃないの!
「あははははは、似合う似合う!」
「ウドンゲ、いい間抜けっぷりだ!」
「うぅ~! だからやだって言ったのにー!」
「あらあらあらあら、まあまあまあまあ」
あ~、笑った笑った。
ナイスよ、うどんげちゃん! あなたの月の戦士っぷり、たっぷりと見せてもらったわ! 魔法の吸血鬼といい勝負ね、あれは!
どうかしら、藍。うちの橙も……って、本気でにらまないでくださいマジ怖いからごめんなさい。
「どうかしら? こういう余興もいいものでしょう?」
「……ふん。まぁ、不本意だけど、同意してやる」
「それならよろしい。はい、どうぞ」
「はぁ……しゃーない。いいよ、付き合ってやる。その代わり、先に潰れた奴は……そうだな、永遠亭を裸で一周ってどうだ」
「面白いわね。もこたんのストリーキング具合を天狗に撮影させてあげるわ」
「てるよのストリップショーは、見ていて愉しそうじゃないか」
「あらあら」
ああ、楽しい。
う~ん、いいお酒の肴じゃない。この風景。月を見て、一緒に面白い関係を見せてもらって。
これだから、ゆかりん、この趣味がやめられないわ~。
悪い趣味ですって? そうでもないけれど。少なくとも、私はそう思っているわ。
「永琳、あなたもどう?」
「あんたも飲め。一緒に勝負だ」
「あらあら、いいんですか?」
「ええ。あなたも裸で一周させてあげるわ」
「うふふ。それはそれは。
では、失礼して」
永遠の関係、というやつかしら。これは。
今夜の月見酒は、また格別だわ。
ちなみにこれは次の日の映像ね。
「……輝夜、お前のせいだぞ」
「……あなたが早々と潰れるのが悪いんじゃない」
「ほぼ同時だったじゃないか!」
「何ですって!?」
「あらあら、二人とも。まだ半周もしてませんよ」
飲み比べ勝負。
勝者、八意永琳。人生の負け犬、蓬莱山輝夜&藤原妹紅。
「あらあら」
……やるな、八意永琳。やはり貴様は、この八雲紫の終生のライバルよ!!
曰く、「いい加減、覗き見するのはやめてください」だって。う~ん……そんなに悪い事かしら? 別に、それをネタに揺さぶったり脅したりしているわけじゃないのに。
え? ぷらいばしぃ? 何それ、藍。
いいじゃない、別に。
私はねぇ、藍。言うなれば、この幻想郷のお母さんなの。お母さんが、そこに住んでいる子供達の様子に、逐一目を配るのは当たり前の事じゃない。だから、これは覗きじゃないのよ? 言うなれば、高尚な趣味よ、趣味。
……趣味の時点で覗きじゃないですか、って?
……ちっ。ああ言えばこういう……。
そういうわけで、今日も元気にスキマウォッチング。
この頃は、お昼寝の代わりにこれをやっていても飽きないわね。何というか……誰を見ても愉しいというか? ああ、字が違うわね。楽しいよ、楽しい。うん、これ。
……上のだとちょっとやばいわ。
さて、と。
それじゃ……ん?
「ふぅ~……」
お、あの特徴的なもんぺ姿はどこぞの不死鳥娘。
こんな竹林の奥で何を……って、あの子はここに隠れ住んでいるんだったわね。でも、何してるのかしら。今夜の晩ご飯のために薪を集めに来た……というわけではなさそうね。と言うか、薪として竹を使うのは危ないからやめた方がいいわよ。
「長年に亘る、てるよとの決着をつけるために!」
……ほほう。
「いっくぞぉぉぉぉぉ!」
おおっ! 背中に炎が燃えている! 目が真っ赤に燃えている! まさに逆境!!
……って、違うか。
「ひっさぁぁぁぁぁぁつっ!」
何と!
これぞまさに、『もこたんの手が真っ赤に燃える! てるよを倒せと轟き叫ぶ!』ね!
そのまま、もこたん、真っ赤に燃え上がる右手を目の前の竹林に向かってどーん! おお~……これは壮観だわねぇ……。
「ふ……ふふふ……。完成……完成したっ! これぞ、私の新たなスペルカードっ!! その名も……!」
……あ~。
えっとね、もこちゃん。自分に浸っているのもいいけれど、もう少し、周りの様子は見た方がいいわよ?
ほら、何か焦げ臭いし……。
「……ん? あれ? 何か、ぱちぱち、って……」
きょろきょろし始めたもこちゃん。何かかわいいわね。
だけど、この期に及んでもそれに気づかないのはちょっとおバカさんだぞ♪
これが俗に言う、ドジっ娘属性! ……え? 違う? あ、これ、辞書? ありがと、藍。なでなで。
「ああーっ! 竹林が燃えてるー、ってあつっ! あつぅっ!」
そりゃ、森の中で炎使ったら火が出るに決まってるじゃない。
火遊びは危険なのよ。
「きゃーっ! きゃーっ! 火が、火がーっ!!
やぁーっ! ちょっと、それ以上燃えないでー! わ、私のおうちがー!!」
しかも、自分の家のそばでやるから……。
う~ん……だけど、このところ、幻想郷は晴天続きだったから、面白いくらいによく燃えること。森も乾いていたのね。
「あちっ! あちぃってばぁっ! うわーん、誰か助けてー! けーねー! けーねたすけてけーねー!」
人は言いました。
本気で燃えさかる炎を前に、人間に出来ることなど何もない、と。いくらあの子が蓬莱人で不死鳥娘だとしても、それはきっと同じ事なのね。
っていうか、これ、見てるだけってやばくない?
ああ、ちょっと、藍! 怒らないでよ! わかったわよ、今、火を消すから!
「熱いっ! あつぅっ! わーん、家なき子になっちゃうー!
ど、どうしよう、どうすればいい、藤原妹紅。考えろ、考えるんだ。この最悪の事態を回避できる最善の方法を考えるんだ。そう、クールになれ……どんなときでもBe cool!」
考えている間にめらめらと火が燃え移ってるもこたん萌え。
「ふぎゃーっ! あっちーっ!!」
当たり前です。
ついにもこたん、服が燃えて、全力で駆け出しました。後に残るのは、めらめらぼうぼうと燃え上がる竹林ともこたんのおうちだけ。
はぁ……全く。手がかかるわね。
よいしょ、っと。
「……これはまた、よくもまぁ……」
「あ……ああ……私の……私のおうち……」
帰ってきましたもこたんのそばには、慧音がついていました。ちなみにもこたん、慧音に服を借りたのか、ちょっぴりすすけた格好のままで呆然としています。
「……妹紅。私はお前に言ったな? 火気厳禁、と」
「うぅ……」
「ったく……。竹林が丸ごと燃えなかっただけ、まだマシという所か……」
帰ってきてみれば、相当な範囲の竹林が燃えていたんだものねぇ。そりゃ、頭を悩ますはずだわ。
まぁ、それを消し止めてあげたゆかりんさいこー、ってことなんだけど☆
「……ね、ねぇ、慧音。このさ、私の家とか……」
「私は知らん」
「ええーっ!?」
「私の言いつけを守らなかったお前が悪い。自分で何とかしろ」
「そ、そんな! ちょっと冷たくない!?
こういう時は『やれやれ、妹紅は手がかかるな』って、私に散々説教した後に直してくれるってのがパターンでしょ!?」
「うるさい。説教もしない。その代わり、直しもしない。
第一、竹林は生長が早いからな。空の様子を見る限りでは、一両日中にも雨が降るだろう。あとは森の再生力に任せておけば、数ヶ月で元に戻る」
「そんな!? んじゃ、雨が降ったら私はどうしたら……!」
「知るか。雨に濡れて反省しろ」
う~ん……さすがは慧音ちゃん。なかなか、怒らせると怖いわねぇ。
私も気をつけるようにしないと。
え? 肝試しの時、散々、それを教えられたんじゃないですか、って? そうでもないわよ。あの時はあの時、今は今。事情が違うもの。
「うぅ~……私が風邪引いたら慧音のせいだ~……」
「そうやって責任転嫁が出来ているうちは、まだまだ余裕がある。大丈夫だ」
「……う~」
「……ったく」
ぺたんとへたりこんだもこたんは、普段の態度の悪さなんてどこへやら。なかなかに乙女チックでかわいいわね。
ほんと、霊夢や魔理沙も、あれくらいのかわいげがあればいいのに。ひょっとして、幻想郷の少女達って、どこかに少女じゃなくて『ファイヤー』のノリがこめられているのかしら。
ファイヤーって誰ですか、って? それは自分で調べなさい。
「……仕方ない。家を建て直すのはお前の責任だ、私はそれについては何もしない。
だが、野ざらしにしておくのもかわいそうだからな」
「えっ?」
「ついてこい」
「やったぁ! も~、慧音は意地悪だなぁ! 最初からそう言ってくれればいいじゃん!」
また調子がいいことで。
何か、心なしか、髪の毛がひょこひょこ踊っているような。あれ、しっぽ?
「ここに世話になれ」
「………………………」
もこたん、思わず沈黙。
そりゃそうでしょう。やってきたのは。
「……永遠亭?」
「事情を話せば、ここなら部屋など腐るほどあるだろうから、一つくらいは貸してくれるだろう。元から、お前を連れて人里になんて、そうそう出られるものではないからな。紅魔館や白玉楼とはつきあいが薄いし、考え得る限り、頼れるところと言えばここ程度のものだろう」
「み、巫女とか……」
「一日一食、しかも米粒生活がしたいのか、お前は」
「ま、魔法使いとか……!」
「あの夢の島でどうやって生活するつもりだ」
「に、人形遣い!」
「人形に囲まれたホラーな生活したいのか?」
「え……えっと……」
「どうした、意見は受け付けるぞ」
……意外に慧音ちゃんって、本当に厳しいのね。
自他を厳しく律することの出来る子はいいわねぇ。私にも見習え、って目をしてるわね、藍。いい度胸だこと。
「……はぅ」
「ついてこい。交渉はしてやる」
そうして、大股に近づいていく慧音さんでありましたとさ。
さてさて、ついていくわよ~。にょろにょろ~、と。
「いきなりの訪問ですまないのだが、永琳殿はいらっしゃらないだろうか」
「え、永琳様……ですか? し、少々、お待ちを……」
うさぎちゃん達も、突然の来訪者に大層驚いているご様子。それはそうよね。ここの主ともこたんは、そりゃーもう仲が悪いったら。
「あらあら、まあまあ。どうなさったの?」
「久しぶりだな、永琳殿。いや、実は……」
ねぇ、藍。
この頃さ、永琳の様子、変わってない? 何というか……おっとりしているというか、お姉ちゃんっぽいというか。お姉ちゃんって誰ですか、と言われても……何というか、幻聴?
「あらあら、そうなの。大変ね」
「ああ。それで、ここの屋敷の部屋を一つ、こいつに間借りさせて欲しい。もちろん、無理なら諦めるが……」
「私は構わないわ。姫に見つからなければ、そうそう問題が起きるものでもないでしょうし。もこたんのことを知ってる子は、それなりに多いけれど。
ひどい目に遭わされているのはウドンゲくらいでしょ」
「……もこたん言うなちくしょう」
「かたじけない。妹紅に手伝えることがあれば、何でも遠慮せずに言ってやってくれ。小間使いと思ってこき使ってくれて構わない」
「ちょっと、慧音! マジ!?」
「うるさい黙れ」
「……はい」
おー、こわ。
「うふふ、それは嬉しいわ。うちはいつも人手不足だから。
それじゃ、もこちゃん。入ってちょうだい」
「だから、もこちゃんとか言うな!」
「部屋へはウドンゲに案内させるわ」
おや、いつの間に。
愛する師匠の陰に隠れて、おどおどびくびくしてる子ウサギちゃん発見。……う~ん、かわいい。嗜虐心をそそられるわぁ。
「じゃあな、妹紅。家が直ったら連絡をよこせ」
「……恨むからね、慧音」
「それじゃ、永琳殿。私はこれで。無理難題を押し付けてすまなかった」
「あらあら、うふふ」
何か、どこぞでゴンドラこいでいてもおかしくないわね。月の海でそう言う仕事やってたのかしら、永琳って。
何の話かわからない、ですって? ……藍、あなたは癒しというものを知らないようね。
「さて、と。
それじゃ、ウドンゲ。彼女を部屋に案内したら私の所に連れてきて。助手として、色々やってもらうから。後、服は都合してあげて」
「……はい。
あの……じゃ、こっちに」
「……ちっ。何で私が……」
「あらあら、もこちゃん。そう言う態度を取ると、先生、怒っちゃうわよ?」
さりげに絶対峡谷から取り出すスペルカード。妹紅も、永琳の強さはわかっているのか、顔を引きつらせて黙るだけ。う~む、笑顔の脅迫。強いわねぇ。
ねぇ、藍。私もにっこり笑って攻撃しかけてみたら強いかしら? 卑怯です、って? ……それもそうね。
さてさて、もこたんの『永遠亭での滅私奉公』が始まったわよ、藍。晩ご飯の用意は後にして、ちょっと見に来てみなさいな。ん~……いい匂い。今日の煮物は鶏肉かしら。
「……何でこんな格好を」
「我慢してください。師匠の趣味だから」
あら、かわいい白衣の天使ちゃん♪
……でも、あそこには嫌な思い出しかないのよね。八意永琳の医療相談所。私にとって、あそこは鬼門だわ……。
でも、外から見ている分にはいいのよね。短いスカートがかわいいわぁ。
「新しい看護士さんですね」
「うわ、かわいい~」
「すいません、先日から熱が下がらなくて……」
「私が知るか誰がかわいいんだっていうかそんなこと私に相談されても困る! ウドンゲでも誰でもいいから助けてー!!」
……意外に繁盛してるのね、あそこ。
まぁ、腕はいいみたいだし……それから行くと、お客さんは集まるんだろうけど。私としては、幻想郷のみんなには健康でいてもらいたいから……でも、病院が繁盛するのってどうなのかしらねぇ。
「あらあら、大変ね」
「……あんたな」
「今日の診療は終わりです。お疲れ様でした」
「……はぁ」
これがしばらく続くのね、って顔しちゃってまぁ。
確かに、慣れないことをするのは疲れるわよね。私も、久しぶりに、お昼寝せずに起きているのに挑戦してみたんだけど、全くダメだったし。次の日は一日中寝ていたら、藍に『買い物に行くんだから手伝ってください』って怒られたっけ?
……何よ、その目は。
「妹紅さんの食事は、他の兎たちと一緒に摂ってもらいます。着替えが終わったら広間の方に。
てゐ、連れて行ってあげてね」
「え~? 何で私が……」
「あらあら」
「……わかりました」
う~む、強いな、永琳……さすがは、私が終生のライバルと認めただけはある……!
え? どこが終生のライバルなのですか、って?
そりゃ、胸の大きさとかカリスマとかお姉ちゃん具合とか! あ、何よ、その目! その『全面的に負けてるんだから諦めてください』的なオーラは何!?
「言っておくけど、暴れないでね」
「暴れるか。っていうか、暴れる気力すらない」
「それは安心」
「……はぁ。壊れた家の修理に加えて、ここにいる間はあんな格好せにゃいかんとは……。……反省しよう」
「う~さぎうさぎ、なにみてはねる~」
世の中、『反省しよう』と口にする人に限って反省しないものとは言うけれど、さすがのもこちゃんも、あれはねぇ……。
「……食事って、疲れているとうまいものなんだなぁ」
「まぁ、永琳様お手製だし。美味しくないわけなし」
……ふと思った。
ねぇ、藍。私って、きちんとあなた達に食事を作ってあげた方がいいかしら? 普段から、あなたに任せっきりだけど。
何でそんなことを言うのかと言われても……ただ、何となく。
「……ん? 何だ、お前ら」
「あ~、ダメだよ。このお姉ちゃんは凶暴だから。かみつかれるよ~」
普段は見ないお客さんに、ちびっこのうさちゃん達が興味津々ね。てゐちゃん、そんな風に脅かしちゃダメでしょ。
……あら、もこたん、何するの?
「人のイメージを勝手に決めるな」
ぽっ、と指先に炎をともして? それで何を……って……あら。
「わぁ……」
「すごーい」
「……おお。お見事」
炎を操る娘だけあって、炎の加工も思いのままなのね。あんなに小さな不死鳥を作り出せるなんて大したものだわ。あっという間にちびっ子達の人気者じゃない。
う~む……なかなか学ばされるところがあるわね。
「意外だね~」
「何がだ」
「ん? あんたって、近寄る相手にはかみつく狂犬みたいな奴かと思ってたけど」
「……あのな」
「意外に優しいところあるのね」
「……ふん」
おー、照れてる照れてる。かーわいいー。
昔の藍もね? ツンデレ要素があったのよ。それが今じゃ、がみがみ口うるさい姑属性に変わっちゃって。ゆかりん、ショック。
だからにらまないでよ、事実じゃない。ねぇ?
「……はぁ、疲れた」
「あら、お疲れ?」
「……何だ、あんたか」
ん~、鶏肉がほどよく柔らかくなってて美味しいわぁ。藍、そっちのおつけものちょうだい。
え? 食べる時はスキマを閉じてください、って? だって、こっちも見ていて面白いんだもの。あ、何よ、その態度。橙は真似しちゃダメだよ、って! 人を悪いものの見本みたいに言わないでちょうだい!
「我慢してちょうだいね。うちの方針は、働かざる者食うべからずなの」
「輝夜は働いてないのに食ってるぞ」
「あらあら」
さすがは八意永琳! その一言できれいにかわしたな!
「……まぁ、感謝してるよ。家なしで雨風に打たれるよりは、苦労していても屋根のあるところにいられる方が幸せだし。それに、こっちは温泉あるわ、うまい飯は黙っていても出てくるわ、おまけに布団が柔らかいと来れば」
「うふふ。ありがとう」
「……なぁ、あんた。一つ聞いていいか?」
「何かしら」
「何で、輝夜なんかに仕えてるんだ?」
「……あらあら」
お? 何々? 何やら不穏な空気?
ダメよ、ケンカしちゃ! ゆかりん怒っちゃうわよ!
あっ、こら、藍! 私のおみそ汁持って行かないでー!
「だって、おかしいだろ。どう考えても。
あんたの方が、輝夜よりも、はっきりと言えばずっとここの連中に慕われている。実質、あんたがトップみたいなもんじゃないか。それなのに、輝夜の奴にはへこへこ頭下げてるんだろ? 何で……」
「従者と主人というのは、いつだってそういうものなの。私は献身的な従者でありたいわ。同時に、優しい主人でいたいから」
「あいつが優しい……ねぇ。何勘違いしてるんだよ、あんた」
「優しいわよ」
あの引きこもり娘がねぇ……。
永遠だか何だか知らないけど、私から見れば、あの子はちょっと永琳とかに任せすぎな感じがするわよ?
……人のこと言えないでしょ、って? 何よ、私だって真面目なのよ! ぷんぷん。
「……まぁ、いいよ。
あー……そうだ」
「あらあら?」
「……礼を言ってなかったっけ。
泊めてくれてありがとう。あんた達には感謝するよ」
「あらあら」
「それなら、感謝ついでに一勝負しない?」
「げっ、輝夜!」
おお! 犬猿の仲であると同時に終生のライバルが出現よ!
BGM流して、BGM! えーっとね……どっちがいいかしら? 個人的には『えーりんえーりん』のが好きだけど。俗称で言わないでくださいと言われても、今じゃそっちの方が有名じゃない。
「何だよ、殺るか?」
「ああ、嫌だ嫌だ。俗物的な人はすぐにこれだから」
「んだと?」
「私が勝負しようと言ったのは、これよ」
「……酒? 飲み比べか?」
「そういうこと。因幡がどこかからもらってきたらしくてね。今夜は永遠亭で宴会をするはずだったのに、あなたという珍客が来てしまったから予定が狂ったの。私の楽しみを奪ったあなたをとっちめてやろうと思ってね」
「……ふん、面白い。私は強いぞ?」
「それはこちらも同じ事。
永琳、場所を変えるわ。ぐい飲みの用意を」
「はい、姫様」
そうそう、これこれ。えーりん、えーりん、たすけてえーりーん、って。
いいノリよねぇ……と、思ったら、おやぁ? いないわよ?
えーっと、どこ行った、あいつら。探せ探せ~、ゆかりんのスキマ窓~。
「……なんだよ、ここ」
「見ての通り、お月見よ」
「お前、何が……」
「ほーら、イナバー。お酒を楽しいものにするには『こんぱにおん』が必須よー」
「あらあら、ウドンゲ。かわいいわよー」
「……う~……やっぱりやらないとダメですか?」
永遠亭の中庭で……お月見?
ああ、確かに今夜はきれいな満月が出ているわね。
藍、私たちもお月見しましょ。お酒とおつまみ持ってきて。ほらほら、橙もいらっしゃい。
「何やってるんだよ、ウドンゲ」
「う~……そ、それじゃ……やります!」
「やんややんや~」
「ム、ムーンラビットパワー、メイクアーップ!」
ぶーっ!!
「つ、月のうさぎ、鈴仙・優曇華院・イナバ! 師匠に代わってお仕置きよっ!」
あっははははははは! 何あれ、何あれっ!
あーっはっはははは!
わ、笑いすぎですよって言われても! 藍、あなただって顔がにやけてるじゃないの!
「あははははは、似合う似合う!」
「ウドンゲ、いい間抜けっぷりだ!」
「うぅ~! だからやだって言ったのにー!」
「あらあらあらあら、まあまあまあまあ」
あ~、笑った笑った。
ナイスよ、うどんげちゃん! あなたの月の戦士っぷり、たっぷりと見せてもらったわ! 魔法の吸血鬼といい勝負ね、あれは!
どうかしら、藍。うちの橙も……って、本気でにらまないでくださいマジ怖いからごめんなさい。
「どうかしら? こういう余興もいいものでしょう?」
「……ふん。まぁ、不本意だけど、同意してやる」
「それならよろしい。はい、どうぞ」
「はぁ……しゃーない。いいよ、付き合ってやる。その代わり、先に潰れた奴は……そうだな、永遠亭を裸で一周ってどうだ」
「面白いわね。もこたんのストリーキング具合を天狗に撮影させてあげるわ」
「てるよのストリップショーは、見ていて愉しそうじゃないか」
「あらあら」
ああ、楽しい。
う~ん、いいお酒の肴じゃない。この風景。月を見て、一緒に面白い関係を見せてもらって。
これだから、ゆかりん、この趣味がやめられないわ~。
悪い趣味ですって? そうでもないけれど。少なくとも、私はそう思っているわ。
「永琳、あなたもどう?」
「あんたも飲め。一緒に勝負だ」
「あらあら、いいんですか?」
「ええ。あなたも裸で一周させてあげるわ」
「うふふ。それはそれは。
では、失礼して」
永遠の関係、というやつかしら。これは。
今夜の月見酒は、また格別だわ。
ちなみにこれは次の日の映像ね。
「……輝夜、お前のせいだぞ」
「……あなたが早々と潰れるのが悪いんじゃない」
「ほぼ同時だったじゃないか!」
「何ですって!?」
「あらあら、二人とも。まだ半周もしてませんよ」
飲み比べ勝負。
勝者、八意永琳。人生の負け犬、蓬莱山輝夜&藤原妹紅。
「あらあら」
……やるな、八意永琳。やはり貴様は、この八雲紫の終生のライバルよ!!
えーりんの立ち位置って独特よな
繋がらないー!!!
それより紫さん、確かに幻想郷の母、って言う表現は当たらずとも遠からずだけど盗撮はどうかt(永夜四重結界
・・・しかし、やはり最強は師匠なのか
彼女が「あらあら」と言う度に‘二次創作における'秋子さんな
イメージが付きまとって仕方ありませんです。ハイ