場所は冥界、白玉楼。
とてつもなく広い庭から聞こえる声は八雲藍の式、橙の声と白玉楼の半人庭師の魂魄妖夢の声。
「あぁ!橙さん、その木はいけません!」
「あははっ、よっと!」
橙が飛び乗った桜の木の枝、それも橙の軽い体重でも支えれるかギリギリのラインの枝。
その枝に飛び乗った瞬間!
ミシミシミシ……ベキッ!
折れる枝、落ちる橙、悲壮な顔をした妖夢。
くるくるくる……ととん!
華麗に着地、満面の笑み、泣き崩れる妖夢。
「10点!」 「あぁぁぁぁ!」
走り去る橙、泣き崩れた妖夢が目線を送る先は白玉楼の縁側。何事もなければ橙の主であり保護者の八雲藍とお茶と桜餅を楽しんでいる西行寺幽々子の姿が見えるはずだった。
「どうか桜餅に夢中でこっちを見ていませんように!」
祈りを込めてチラリと縁側を見やると次々と桜餅を頬張りつつこちらを睨みつける幽々子の姿が見えた。
「よーむぅー、その桜の木は私のお気に入りの桜ナンバー28よね?」
幽々子は何も桜の木々の美しさでナンバーを付けている訳ではない、塩漬けにしたときの葉の味でナンバーを付けているのだ!
「えぇと、ですね、幽々子様、これはあの猫が……」
あの猫が、と言った瞬間藍の目が怖くなったので止めた。
「……みょん」
「罰として今日の晩御飯のオカズを増やしなさぁい」
「そ、それが罰なんですか幽々子様ぁ~」
「いやいや妖夢、私は品数まではいってないわ、私が満足するだろう数と品を自分で考えて増やすのよ~」
「うぅ、また買出しに行かなくちゃ」
「それとね、妖夢。あっちの方で大きな黒い猫が私のお気に入りの桜ナンバー176で爪を研いでいるわよ?早く行かないと明日の晩御飯も豪勢になるわよ~」
幽々子が言うないなや、妖夢は音が出るほど素早く幽々子のお気に入りの桜ナンバー176の元へと走って行った。
「すまんな幽々子殿、橙が色々と迷惑をかけているようだ、主にあの庭師にな」
「いやいや、なんだかんだ言って妖夢も楽しんでるんじゃない?」
「……あれは間違い無く楽しんでないと思うが」
2人の瞳には楽しそうに枝から枝に飛び移る橙と半泣きになりながら必死に追いかける妖夢が映っている。
「あらあら妖夢ったら、泣き虫ねぇ。猫にいぢめられて泣くだなんて」
「あの涙は間違いなく幽々子殿が流させた物だと思うんだが……」
「そんな事よりも、そろそろ帰らなくて大丈夫なの?紫が起きるんじゃなくて?」
噂をすればなんとやら、スッと宙に切れ目が入ったかと思ったら中からひらひらと紙が落ちてきた。
「「☆ゆかりん☆は寂しいと死んじゃうんだゾ☆」って書いてあるわよ?」
幽々子は手紙の部分だけ白玉楼全部に届くのでは無いかというような声の大きさで藍に言いつつ紙を渡す。
藍が顔を真っ赤に染めつつ手紙を受け取り目を通していると、先ほどの幽々子の声につられたのか、橙が戻ってきた。
「橙、そろそろマヨヒガに帰るぞ」
「えぇ~、藍様、もう少し遊んで行きたいよ~」
橙の対藍最終兵器の潤んだ瞳上目遣い!
くっ、ガッツが足りない。
「そんな目をしてもダメだ、紫様が心配、そう心配してるんだ!」
「むぅ~、じゃあ、また今度来てもいい?」
「幽々子殿が良いと言ったら、な?」
幽々子の方を振り向く橙、幽々子はすかさず
「マヨヒガの美味しい物持って来てくれたらフリーパスよ~」
橙は元気に答えます。
「わかった!持ってくる!」
そんなこんなで藍と橙はマヨヒガに帰っていった。
式神の2人が帰り、一旦は静かになった白玉楼に間延びした声が響く。
「よ~む、よ~む~」
?
いつもならすぐにでも聞こえて来る返事が聞こえない。
「よ~む、よ~お~む~。まったくどこに行ったのかしら」
幽々子は妖夢がボロボロになった桜の後始末(隠蔽)を必死にやっている事を知らない。
「ナンバー176の葉の塩漬けが食べれなくなるのは悲しいわぁ~」
……やっぱり知ってるみたい。
「☆ゆゆこ☆はお腹がへると死んじゃうんだゾ☆」