人の生活を覗き見する。それは、それ相応のスキルと、それに応じた存在を持ったもののみに許される、いわば至高のたしなみ。つまり、それを行えると言うことは、この幻想郷においてトップクラスに力があると言うことの証明に他ならない!
――という理論を構成してみたんだけど、どうかしら?
え? 穴だらけ?
何でよー。
……そもそも前提からして間違ってる、って? いいじゃない、前提なんてものは、いわば、理論を構成するに当たっての屁理屈に近いんだから。
要は、その理論が正しいと言うことを、後付で説明しちゃえばこっちのものなのよ。つまるところ、『私の言うことが間違っているというのなら、間違っているという証明をしてみせろ』というところね。
え? 国会じゃないんですから、って?
何よ、国会って。
日々、あちこちにスキマを開いては、あの子のあんな秘密、この子のこんな素顔なんかを覗き見している、素敵な素敵なスキマ妖怪のゆかりん☆ だけど。
え? 十八歳はどうした、って?
あー……まぁ、ね。何というか……さすがに、周りから指さして笑われたら、ゆかりんもちょっと考えちゃうわ。見た目やら年齢なんて私には関係ないに等しいものだけど……あそこまでやられたら、ねぇ?
ちなみに、笑った奴らには問答無用の全力弾幕結界展開して撃墜しておいたからさておいてとして。
そう言うわけで、今日のゆかりんは、ちょっぴり危険なストーカー♪ あの子の大切な秘密を残らず覗き見しちゃいましょう、ということで、どんな子がいいか、現在品定め中。
何て言うか、幻想郷って、ある意味では平和だから、誰も彼もが常日頃、やっていることは同じなのよね。これが常なる日――日常ってことかしら? けれど、そんな刺激のない人生を見ても面白くないわ。霊夢とか、あの辺りは観察してると面白いけど。希に賽銭が入った時の、あの子の嬉しそうな顔ときたら……思わず、同情してもらい泣きしちゃうわ。
ま、それはともあれ。
んー……誰がいいかしらねぇ~……。
……っと。
あら?
「うふふふ~、これがいいかな~、こっちがいいかな~」
……おやおや? 何やら楽しそうにしている妖怪を発見しましたよ?
あれは……えーっと……ん~……。
……ねぇ、藍。誰だっけ?
え? 萃夢想で戦ったじゃないですか、って? いたかしら……あんな子……。思い出せないわ……えっと……ああ、いたいた、追加パッチの子ね。
……ちょっと、藍? 何で泣いてるの?
「きょ~お~はさっくやさんと~、でっ、えっ、と~♪」
……ゆかりんイヤーは地獄耳。
なるほどなるほどそういうことですか!
それはそうよね! 女の子が鏡の前で浮かれながら、あっちを試したりこっちを試したりの試着モードに入っている時は、デート以外の何物でもないわね!
ああ……デート……。いい響きだわ……。たとえるなら、燃えたぎる、若き日の熱情の爆発というか……。
こっ、これは覗き見しなくちゃだわ! 藍! カメラよ! カメラの用意!
え? さすがにこれはやめましょうよ、って? 何言ってるの! デートよ、デート! きっと、くんずほぐれつな展開がこの先に待ちかまえているに違いないわ! 若者達を祝福するのは、この幻想郷のお母さん、八雲ゆかりんの大切な役目の一つ! わかったらカメラ持ってこーい!
「め、美鈴さまー!」
「はぅっ!? な、何ですか!?」
「た、大変ですぅ! またあの魔法使いがー!」
「な、何ですってー!? こ、こんな大事な日にぃぃぃぃっ!」
おお……燃えている……。
……えっと……めーりん? そう、そうね、美鈴ちゃんが燃えてるわよ! 背中に日輪を背負っているわ!
でも、その格好で戦うの? また可愛らしい乙女チックな格好で……。
ただ、格好と戦闘力は別物よねぇ……。どれどれ、スキマスカウターで弾幕力の計測……っと。
なっ!? わ、私のスキマスカウターが壊れた!? バカな……これ、この前、買い換えたばっかりよ!?
あの女の弾幕力……ただ者じゃない……!
「魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁっ! ……さん」
「おー、中国。何か用かー……っと。どうした、お前。その間抜けな格好」
「間抜けだとかそんなのはどうでもいいんです! 今すぐ回れ右して帰りなさい! さもなくば!」
「さもなくば……なんだ?」
出たわね、不敵な泥棒猫第一号、っていうかこの子以外に、図書館に強盗かますような奴はそうそういないとは思うけど。
けれど、美鈴ちゃん、燃えてるわねー。何だか、背中に『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』って書き文字がたれ込めてるわよ?
「……ふん」
おっ、魔理沙も美鈴ちゃんの様子を感じ取ったようね! わずかに帽子のつばを下げて、不敵な笑みからニヒルな笑みに! これは凄まじい弾幕バトルの予感よ!
「悪いが、私にも目的があるんでね。そこをどいてもらうぜ!」
「侵入者なんて入ったらお仕事が増えて、せっかくの一日が潰れてしまう! 負けるわけにはいかない!」
おおー! か、かっこいい!
「マスタースパーク」
「っきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
……そして弱い。
……いや、わかってたの。わかってたのよ? この結末は。
だけど、あんまりにも予想通りだと……って……何よ、藍。え? よく見てみろ、って?
どれどれ……。
「なっ……!?」
「くっ……!」
おおっ!? た、耐えた!? 魔理沙のマスタースパークに耐えたわよ!? と言うか、オーラでかき消した!? 一体どうやって!?
「ば、バカな……お前、本当に中国か!?」
「この勝負……私は、絶対に負けない!」
「しまっ……!」
速い!? 一足飛びに魔理沙の懐に潜り込んだ!? 私にも捉えられないこの動き……美鈴、恐ろしい子!
「私の恋路を邪魔する奴はぁっ! 私に蹴られて地獄に堕ちろぉっ!」
「くっ……!?」
「ひっさぁぁぁぁぁぁつっ!」
燃えた!? 美鈴ちゃんの右手が燃えた!? 美鈴ちゃんの小宇宙がビッグバン寸前!
一体どういう理論なの、これは!? 魔理沙も回避不可能よ!? グレイズ不可の強烈な一撃がってそもそも弾幕使ってないけど!
「奥義! 竜符・○山昇○○ぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ふ、伏せ字が多すぎてどんな技がわからないぃぃぃぃっ!?
だ、だけど、あの強烈な一撃……まるで、大いなる大瀑布の一撃すら押し返す竜の咆哮のようだぁぁぁぁぁっ!?
「ぐはぁっ!」
……ま、魔理沙に……勝った……。
上空に吹っ飛んでいった魔理沙が、そのまま地面に落下してダウンしたぞーっ!?
……って、何よ、藍。何でそんな説明ゼリフなのですか、って?
そりゃ、ルールだからよ。掟だからよ。
「ぐ……ぐぅっ……! ……ふっ……ふふふ……やるじゃないか……中国……!」
「私は……中国では……ありません!」
「ふっ……ふふっ……。
くっ……! お前に……免じて、今日の所は……大人しく帰ってやるぜ……! 次こそ……私が勝つ……!」
何この強者達の語り合い!?
「何度来ても同じ事です。私は負けません」
「へっ……次も同じセリフが言えるか……見物だな……」
ちょっと!? 誰よ、夕日作ったの! 今、朝よ!? 何で魔理沙が夕日に向かって去っていくのよ! 私はちなみに何もしてないからね。
「……ふぅ」
「何か、外が騒がしいから何かと思えば……。美鈴、どうしたの?」
「ええ……今、ちょっと魔理沙さんが……」
「……勝ったの?」
「はい」
「…………………………………………………」
あの咲夜が沈黙してる……。
……それはそうよね。私の記憶が正しければ、美鈴が魔理沙に勝てたことなんて、大体百回に三回程度らしいし。
「ま、まぁ、いいわ。ご苦労様、美鈴。
勤務外のお仕事、疲れるでしょ? ゆっくり休んで……」
「な、何言ってるんですか。今日は、咲夜さんの買い出しに付き合うって言ったじゃないですか。いつもいつも重いものを大変そうに運んでくるから……」
「だ、だけど、いいわよ。そんな、何か全身ぼろぼろで言われても……」
「いいえ、絶対ついて行きます。ちょっと待っていてください、着替えてきますから」
「あ、ちょっと……」
……ふーん。
なるほどなるほど……これはこれは……。
だから、藍、うるさいってば。幸せにしているのを邪魔しないようにしましょうよ、じゃないの。これは単なる知的好奇心を超えた、いわば、真実の探求よ。だから邪魔しないでね♪
「お、お待たせしましたー!」
「……全くもう。
じゃ、行きましょうか。言っておくけれど、私は容赦ないからね?」
「はい」
おーおー、幸せそうに笑っちゃってまぁ。
いやー、これはなかなか楽しみな展開になってきましたねー、解説の藍さん。勝手に解説にしないでくださいとか言わないの。
さあ、先回りよっ!
「うぅ……お、重たい~……」
「ついてくるって言ったんだから、しっかり役に立ちなさいね」
「うぐ~……い、いつもより買うもの多くありませんかー?」
「そうかしら?」
はぁ……幸せそうねぇ。
咲夜は顔には出さないけど、心は常に笑顔だし、美鈴も、辛そうにしてるけど笑ってるし。いいわねぇ。
っていうか、紅魔館の人間が、人間の里に買い出しに来ていいのかしら?
「ん?
……今日は二人で来たのか?」
「あら、慧音」
「こ、こんにちはぁ~……」
「ははは、大変そうだな、美鈴さん。咲夜、あなたもちょっとは持ってあげたらどうだ?」
「いいのよ。この子が、自分から荷物持ちになるって言い出したんだから」
「そうかそうか」
あら、慧音もいた。何か珍しい組み合わせね。
「しかし……」
「な、何よ」
「いや、何。ずいぶん嬉しそうだなと思ってな」
「なっ……! だ、誰が嬉しそうだって言うのよ! そ、そりゃ、重たい荷物を持たなくていいのは嬉しいけどっ……!」
「わかったわかった。
――顔が真っ赤だぞ」
うーむ……さすがは知識と歴史を持つもの……。初々しい若人のからかい方は、この私に勝るとも劣らないわね……。
あ、らーん。お茶とお菓子持ってきてー。
「ばっ……!
い、行くわよ、美鈴! まだ買わないといけないもの、たくさんあるんだからね!」
「ふ、ふぁ~い……」
「あははは。大変だな。
どれ、私も、里にいる間だが、手伝うことにするか」
「あ、ど、どうも……」
「それとも。
二人きりを邪魔されるのは嫌かな?」
「うるさいわねっ! 好きになさいよ!」
うーむ……これまた徹底したツンデレっぷりねぇ。
あれかしら。つり目、強気……というか、普段クール系のキャラはツンデレじゃなくてはならないというルールが幻想郷にあったかしら。ねぇ、藍。ちょっと説明書持ってきて、説明書。
「なかなか大変だろう」
「へ?」
「いや。彼女と一緒にいるのがだよ。見たところ、相当の恥ずかしがりのようだ」
「あはは……。
でも、咲夜さん、付き合っていて疲れるけど楽しいですし」
「なるほどね」
そりゃ疲れるわよねぇ。
一般的なツンデレは、恥ずかしがって怒鳴るだけだけど、あのツンデレは、恥ずかしがってナイフ投げてくるし。なまじ、色々な道を模索してしまっただけに、この恋は忙しいものになってしまったのね。ゆかりんも納得。
……はぁ~、お茶が美味しい。
「咲夜さーん。慧音さんが、お茶をごちそうしてくれるって言ってますけどー」
「……お茶?」
「ああ。そろそろ、買うものもなくなってきたんじゃないかなと思ってね」
あら、買い物はもうおしまい?
……まぁ、両手がどっさりとふさがるくらいにものを買えば、それも当然ね。
ねぇ、藍。そう言えば、うちの買い物もあんな感じなの? 食料だけはあんな感じですよ、ねぇ。……にしては、近頃、私の食卓に並ぶ料理が貧相なような……。
……逃げるな、こら。
「あ、このお茶、美味しい……」
「……あら、これはなかなか」
「そうだろう?
……おっと。すまない、ちょっと呼ばれたようだ」
ああっ! 藍をお仕置きしている間に、また時間が過ぎてるじゃないの!
どれどれ?
ほほう、道ばたの休憩所で休憩しつつ……あら、あのお茶、いいお茶ねぇ。スキマから、素敵な香りが漂ってきてるわ。
にしても、慧音。その立ち去り方は、いかにもアレよ。
「……全く、失礼千万ね」
「何がですか?」
「人のことをからかって。何が楽しいのよ」
「人をからかうと言うより、咲夜さんをからかうと楽しいんだと思いますよ」
「何で?」
「それは……その~……」
「何よ。はっきり、言いたいことがあるなら言いなさい」
「……反応が」
あら! まぁまぁ、かわいいわねぇ。
咲夜ちゃん、お顔が真っ赤でちゅよ~。
「……ほっときなさいよ」
「でも、咲夜さんはそのままでいいと思います」
「……ふんっ」
「かわいいですよ?」
「う、うるさいわねっ」
「きゃーっ!? 照れ隠しに殺人ドールはやめてぇーっ!」
あらあら……。
もう、ほんと、見ていて微笑ましいわぁ。
こんな初々しい恋愛、私はしたことあったかしら……。ああ、ダメね。記憶が忘却の海の彼方だわ。
……だから、藍、何よ、その目は。
失礼ね! 私だって恋の一つや二つ、したことあったわよ! 私だって……その……若かりし少女の頃、あったんだからね!
……ったく、もう。
失礼しちゃうわね。
「すっかり、遅くなっちゃったわね。
もう。美鈴、あなたのせいよ」
「うぅ~……人のこと、蜂の巣にしておいて~……」
「……悪かったってば。
ほら、あそこの屋台で、軽くお酒でも飲んでいきましょ。私がおごるわ」
「って、あれ、ミスティアさんの屋台じゃないですか」
暗い夜道を歩いていて、ふと見える赤提灯。
誘蛾灯に誘われるように、ふらふらと。
……ああ、いいわねぇ。昭和の風景だわ~。ねぇ、藍。ちょっと歌いなさい、ギター貸してあげるから。
「こんばんは~」
「こんばんは~……っと。
おや、美鈴さんじゃないですかー。おっと、こちらは咲夜さんも。どうしたんですか、こんな夜中に二人して。まさか、真夜中の逢瀬の最中ですか? でしたら、スッポンの生き血なんてのも用意しますけど」
「誰がよっ!」
「そ、そうじゃなくて、ただ、ちょっと買い物に出てまして。それで帰りが遅くなったんですよ」
「あや、そうだったんですか。そいつぁ残念。
まぁ、座ってくださいよ。今、ちょうどものが焼け始めた頃ですから。
えーっと、酒は何がいいですかね。この前、里の方の蔵本からいいのを仕入れましてね。これがまたうまいんだ。こいつを燗しましょうか」
「私は冷酒でいいわ」
「じゃ、私は熱燗で」
「あいよ」
うーむ、ミスティアもいい経営者よねぇ。何か、昭和のオヤジみたいな感じで。
あそこの屋台ってさ、経営、黒字なの? 行ったことないからわからない、って? ふーん……。何か、妖怪達の交流場、みたいな感じって聞いたわよ。霊夢から。
「最初の一本は、うちのおごりです。ま、どんと行ってくださいや」
「ありがとうございます~」
「にしても、珍しいんじゃないですかね?」
「何が?」
「いや、あんた達、紅魔館の人間がさ。こんな風に時間にルーズってのは」
「別に、ルーズなわけじゃないわ。ただ、予定がずれただけ」
「時間に関しちゃ、人一倍、きっかりしてる咲夜さんがですか。それはそれは」
「……何が言いたいの」
「いいえー、べっつにー。
あ、山菜のおひたしなんてどうですか。この季節は、野山のがうまいんですよねー」
話のはぐらかし方も、また一級品ね……。
……あの子、弾幕勝負なんてやめて、こっちの道で食っていけるんじゃないかしら。いや、妖怪の経営する屋台だから、人間が来ることなんて少ないのかもしれないけど……。
「そういや、美鈴さん」
「はい?」
「どうですか。その後は」
「その後……ですか?」
「あれ? お互い、キスの一つもしてないんですか?」
おーっと、直球ストレートが来たわよー。しかも、時速160キロオーバーの超剛速球が。
「げほっ! げほっ! げほっ!」
完全で瀟洒なメイドが酒を吹き出す光景……。しまった~……カメラで撮影しておけば、あの子をからかうネタに使えたのに~……。
藍、カメラはどうしてないの!?
……そもそもマヨヒガにそんなものがあると思ってますか、って? ……なかったっけ?
「だっ、誰と誰がキスしないといけないのよ!?」
「あー、そーかそーか。つまりは、そこのステップ吹っ飛ばして、次に進んだと。そういうわけですね?」
「ちっ、違うわよっ! そ、そんな……その……えっと……」
「その~……う~ん……。
まぁ……えへへ……」
「おおっ! これは何か興味深い反応!
何があったんですか? 聞かせてくださいよ。あ、ほら、この串焼き、うちのおごりにしますんで」
「じっ、冗談じゃない! わ、私は別に……!」
「まぁ……腕を組む、くらいなら……」
おおーっ!
ここで美鈴が積極的に攻勢に出たぁぁぁぁぁっ! 受けに回った咲夜、顔が赤いぞ! ガードの数値が削られていく! グレイズ不可、回避できません! 自機狙いに押しつぶされそうだぁぁぁぁぁっ!
「ち、ちょっと……!」
「……咲夜さん、ひどいんですよ。聞いてください、ミスティアさん」
「はいはい」
「もう、いつだってこんな感じなんです。
そりゃ、確かに咲夜さんは恥ずかしがりだし、私の押しが弱いのもありますけど……。だからって、こんな風におねだりしても逃げるなんて。
据え膳食わぬは何とやらだと思いませんか?」
瞳を閉じて、頬を赤らめ、少しアングルは上目遣い……。
……っかぁーっ! きたぁーっ!
キスしろ、キス! いけーっ! 十六夜咲夜ぁーっ! 突っ走れーっ! おっしたっおせっ! おっしたっおせっ!
「ち、ちょっと……!」
「その他にも、色々あるんです。メイドの皆さんとか、門番隊のみんなとか。お嬢様に話しても『それは咲夜が根性なしだ』で一致してるんです」
「ははぁ……それはそれは。いや、苦労してますねぇ。
いや、うちもね? ここに来る連中の話を聞いてると、咲くに咲けない恋話とかさ、色々聞いたりするわけですよ。そう言う経験を踏まえて言うとですね?
やっぱさー、恋人に恥かかせちゃいけないと思うんですよ」
「うぐっ……」
そうよ! その通り!
そこまで来たら、やるべき事はただ一つ! お布団にレッツゴーでしょ!? 何でそれがわからないかなぁ!
もう、求められたら応える! 心も体もさらけ出して、二人で新たな世界に旅立つのが……って、ちょっと、藍! 何で逃げるのよ! 私の話を聞きなさいよーっ!
「まあ、そう言う初々しいところも、またいいって言っちゃいいんですけどねー。
というか、そうでしょ? 美鈴さん」
「そうですねー。
ちょっとからかったら、すぐに顔を赤くしちゃうところとか。咲夜さん、かわいいですよー」
「う、うるさいわねっ!」
「恋愛に奥手なのは必要なことですよ。
ただねぇ、それも度が過ぎると無粋なんですよ。わかります? たまにゃ、自分から押してみるのもありじゃないですかねぇ」
「くぅ……」
「もっと言ってやってくださいよー」
「あっはっは。
どれ、このお酒はうちのおごりですから、今日はとことん腹を割って話し合いましょうや。ねぇ? 咲夜さん」
「い、いやよ! ほ、ほら、帰るわよ、美鈴!」
「だ~め」
「何やってるの! 酔ってるの!?」
「酔ってなんていませんよ~。ほら、咲夜さん、座って座って。
はい、どうぞ」
「……はぁ」
あはははは。
普段と立場が逆転しちゃってるわー。これは見ていて愉しいわねー。
よーし、もうちょっと、スキマの精度を上げて……。
「……あ」
「もうやめましょうよ、紫さま。これ以上のデバガメは、彼女たちにかわいそうです」
「うー、ケチくさいわねー」
と、思った矢先に、藍に引っ張り戻された。
あっ、と思った時にはスキマも閉じちゃって、やれやれ、というところ。
「それに、彼女も言ってたでしょ。彼女の恋路を邪魔したら蹴り殺されますよ」
「それは勘弁願いたいわね」
「まぁ、後日、風の噂を頼りにするのがいいんじゃないですか?」
「はいはい。
……にしても、藍。あなた、何か思うところがあるみたいね」
「デバガメが趣味の主人を持っていることが知られては、幻想郷中の恥部になってしまいますから」
そうきたか。
まぁ、かわいいかわいい藍の頼みだし、今日の所はここまでにしといてあげましょうか。
けど、ねぇ。
「恋愛ねぇ」
「何ですか、紫さま」
「ん?
命短し恋せよ乙女。ちゃんと恋をして、女らしく女になっていく連中は、私の知っている連中のどれくらいなのかしら」
「そうですねぇ。
……まぁ、人に限らず、女心は秋の空。きっと、誰もが恋をして、誰もがその恋を忘れて。そうして女になっていくんじゃないですか?」
ねぇ、紫さま。
と言う顔をして、かわいい式は襖の向こうへと。
……ふーん。なかなかわかってくれてるわね。
「だから、私はあなたが好きよ。藍」
外から、「ただいまー」という声。どうやら、橙が帰ってきたようね。
……それに、あらあら。気がつけば、辺りに漂ういい匂い。
ほんと、藍はよくできた子ね。あとでえらいえらいしてあげないと。
「命短し、か」
命が長くても、恋をする子は大勢いるのにね。
ちなみに、後日の風の噂。
「ねぇ、咲夜」
「はい?」
「ファーストキスはレモンの味がしたかしら?」
「……………………内緒です」
ゆかりんのスキマイヤーは漏らさずちぇーっく!
――という理論を構成してみたんだけど、どうかしら?
え? 穴だらけ?
何でよー。
……そもそも前提からして間違ってる、って? いいじゃない、前提なんてものは、いわば、理論を構成するに当たっての屁理屈に近いんだから。
要は、その理論が正しいと言うことを、後付で説明しちゃえばこっちのものなのよ。つまるところ、『私の言うことが間違っているというのなら、間違っているという証明をしてみせろ』というところね。
え? 国会じゃないんですから、って?
何よ、国会って。
日々、あちこちにスキマを開いては、あの子のあんな秘密、この子のこんな素顔なんかを覗き見している、素敵な素敵なスキマ妖怪のゆかりん☆ だけど。
え? 十八歳はどうした、って?
あー……まぁ、ね。何というか……さすがに、周りから指さして笑われたら、ゆかりんもちょっと考えちゃうわ。見た目やら年齢なんて私には関係ないに等しいものだけど……あそこまでやられたら、ねぇ?
ちなみに、笑った奴らには問答無用の全力弾幕結界展開して撃墜しておいたからさておいてとして。
そう言うわけで、今日のゆかりんは、ちょっぴり危険なストーカー♪ あの子の大切な秘密を残らず覗き見しちゃいましょう、ということで、どんな子がいいか、現在品定め中。
何て言うか、幻想郷って、ある意味では平和だから、誰も彼もが常日頃、やっていることは同じなのよね。これが常なる日――日常ってことかしら? けれど、そんな刺激のない人生を見ても面白くないわ。霊夢とか、あの辺りは観察してると面白いけど。希に賽銭が入った時の、あの子の嬉しそうな顔ときたら……思わず、同情してもらい泣きしちゃうわ。
ま、それはともあれ。
んー……誰がいいかしらねぇ~……。
……っと。
あら?
「うふふふ~、これがいいかな~、こっちがいいかな~」
……おやおや? 何やら楽しそうにしている妖怪を発見しましたよ?
あれは……えーっと……ん~……。
……ねぇ、藍。誰だっけ?
え? 萃夢想で戦ったじゃないですか、って? いたかしら……あんな子……。思い出せないわ……えっと……ああ、いたいた、追加パッチの子ね。
……ちょっと、藍? 何で泣いてるの?
「きょ~お~はさっくやさんと~、でっ、えっ、と~♪」
……ゆかりんイヤーは地獄耳。
なるほどなるほどそういうことですか!
それはそうよね! 女の子が鏡の前で浮かれながら、あっちを試したりこっちを試したりの試着モードに入っている時は、デート以外の何物でもないわね!
ああ……デート……。いい響きだわ……。たとえるなら、燃えたぎる、若き日の熱情の爆発というか……。
こっ、これは覗き見しなくちゃだわ! 藍! カメラよ! カメラの用意!
え? さすがにこれはやめましょうよ、って? 何言ってるの! デートよ、デート! きっと、くんずほぐれつな展開がこの先に待ちかまえているに違いないわ! 若者達を祝福するのは、この幻想郷のお母さん、八雲ゆかりんの大切な役目の一つ! わかったらカメラ持ってこーい!
「め、美鈴さまー!」
「はぅっ!? な、何ですか!?」
「た、大変ですぅ! またあの魔法使いがー!」
「な、何ですってー!? こ、こんな大事な日にぃぃぃぃっ!」
おお……燃えている……。
……えっと……めーりん? そう、そうね、美鈴ちゃんが燃えてるわよ! 背中に日輪を背負っているわ!
でも、その格好で戦うの? また可愛らしい乙女チックな格好で……。
ただ、格好と戦闘力は別物よねぇ……。どれどれ、スキマスカウターで弾幕力の計測……っと。
なっ!? わ、私のスキマスカウターが壊れた!? バカな……これ、この前、買い換えたばっかりよ!?
あの女の弾幕力……ただ者じゃない……!
「魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁっ! ……さん」
「おー、中国。何か用かー……っと。どうした、お前。その間抜けな格好」
「間抜けだとかそんなのはどうでもいいんです! 今すぐ回れ右して帰りなさい! さもなくば!」
「さもなくば……なんだ?」
出たわね、不敵な泥棒猫第一号、っていうかこの子以外に、図書館に強盗かますような奴はそうそういないとは思うけど。
けれど、美鈴ちゃん、燃えてるわねー。何だか、背中に『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』って書き文字がたれ込めてるわよ?
「……ふん」
おっ、魔理沙も美鈴ちゃんの様子を感じ取ったようね! わずかに帽子のつばを下げて、不敵な笑みからニヒルな笑みに! これは凄まじい弾幕バトルの予感よ!
「悪いが、私にも目的があるんでね。そこをどいてもらうぜ!」
「侵入者なんて入ったらお仕事が増えて、せっかくの一日が潰れてしまう! 負けるわけにはいかない!」
おおー! か、かっこいい!
「マスタースパーク」
「っきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
……そして弱い。
……いや、わかってたの。わかってたのよ? この結末は。
だけど、あんまりにも予想通りだと……って……何よ、藍。え? よく見てみろ、って?
どれどれ……。
「なっ……!?」
「くっ……!」
おおっ!? た、耐えた!? 魔理沙のマスタースパークに耐えたわよ!? と言うか、オーラでかき消した!? 一体どうやって!?
「ば、バカな……お前、本当に中国か!?」
「この勝負……私は、絶対に負けない!」
「しまっ……!」
速い!? 一足飛びに魔理沙の懐に潜り込んだ!? 私にも捉えられないこの動き……美鈴、恐ろしい子!
「私の恋路を邪魔する奴はぁっ! 私に蹴られて地獄に堕ちろぉっ!」
「くっ……!?」
「ひっさぁぁぁぁぁぁつっ!」
燃えた!? 美鈴ちゃんの右手が燃えた!? 美鈴ちゃんの小宇宙がビッグバン寸前!
一体どういう理論なの、これは!? 魔理沙も回避不可能よ!? グレイズ不可の強烈な一撃がってそもそも弾幕使ってないけど!
「奥義! 竜符・○山昇○○ぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ふ、伏せ字が多すぎてどんな技がわからないぃぃぃぃっ!?
だ、だけど、あの強烈な一撃……まるで、大いなる大瀑布の一撃すら押し返す竜の咆哮のようだぁぁぁぁぁっ!?
「ぐはぁっ!」
……ま、魔理沙に……勝った……。
上空に吹っ飛んでいった魔理沙が、そのまま地面に落下してダウンしたぞーっ!?
……って、何よ、藍。何でそんな説明ゼリフなのですか、って?
そりゃ、ルールだからよ。掟だからよ。
「ぐ……ぐぅっ……! ……ふっ……ふふふ……やるじゃないか……中国……!」
「私は……中国では……ありません!」
「ふっ……ふふっ……。
くっ……! お前に……免じて、今日の所は……大人しく帰ってやるぜ……! 次こそ……私が勝つ……!」
何この強者達の語り合い!?
「何度来ても同じ事です。私は負けません」
「へっ……次も同じセリフが言えるか……見物だな……」
ちょっと!? 誰よ、夕日作ったの! 今、朝よ!? 何で魔理沙が夕日に向かって去っていくのよ! 私はちなみに何もしてないからね。
「……ふぅ」
「何か、外が騒がしいから何かと思えば……。美鈴、どうしたの?」
「ええ……今、ちょっと魔理沙さんが……」
「……勝ったの?」
「はい」
「…………………………………………………」
あの咲夜が沈黙してる……。
……それはそうよね。私の記憶が正しければ、美鈴が魔理沙に勝てたことなんて、大体百回に三回程度らしいし。
「ま、まぁ、いいわ。ご苦労様、美鈴。
勤務外のお仕事、疲れるでしょ? ゆっくり休んで……」
「な、何言ってるんですか。今日は、咲夜さんの買い出しに付き合うって言ったじゃないですか。いつもいつも重いものを大変そうに運んでくるから……」
「だ、だけど、いいわよ。そんな、何か全身ぼろぼろで言われても……」
「いいえ、絶対ついて行きます。ちょっと待っていてください、着替えてきますから」
「あ、ちょっと……」
……ふーん。
なるほどなるほど……これはこれは……。
だから、藍、うるさいってば。幸せにしているのを邪魔しないようにしましょうよ、じゃないの。これは単なる知的好奇心を超えた、いわば、真実の探求よ。だから邪魔しないでね♪
「お、お待たせしましたー!」
「……全くもう。
じゃ、行きましょうか。言っておくけれど、私は容赦ないからね?」
「はい」
おーおー、幸せそうに笑っちゃってまぁ。
いやー、これはなかなか楽しみな展開になってきましたねー、解説の藍さん。勝手に解説にしないでくださいとか言わないの。
さあ、先回りよっ!
「うぅ……お、重たい~……」
「ついてくるって言ったんだから、しっかり役に立ちなさいね」
「うぐ~……い、いつもより買うもの多くありませんかー?」
「そうかしら?」
はぁ……幸せそうねぇ。
咲夜は顔には出さないけど、心は常に笑顔だし、美鈴も、辛そうにしてるけど笑ってるし。いいわねぇ。
っていうか、紅魔館の人間が、人間の里に買い出しに来ていいのかしら?
「ん?
……今日は二人で来たのか?」
「あら、慧音」
「こ、こんにちはぁ~……」
「ははは、大変そうだな、美鈴さん。咲夜、あなたもちょっとは持ってあげたらどうだ?」
「いいのよ。この子が、自分から荷物持ちになるって言い出したんだから」
「そうかそうか」
あら、慧音もいた。何か珍しい組み合わせね。
「しかし……」
「な、何よ」
「いや、何。ずいぶん嬉しそうだなと思ってな」
「なっ……! だ、誰が嬉しそうだって言うのよ! そ、そりゃ、重たい荷物を持たなくていいのは嬉しいけどっ……!」
「わかったわかった。
――顔が真っ赤だぞ」
うーむ……さすがは知識と歴史を持つもの……。初々しい若人のからかい方は、この私に勝るとも劣らないわね……。
あ、らーん。お茶とお菓子持ってきてー。
「ばっ……!
い、行くわよ、美鈴! まだ買わないといけないもの、たくさんあるんだからね!」
「ふ、ふぁ~い……」
「あははは。大変だな。
どれ、私も、里にいる間だが、手伝うことにするか」
「あ、ど、どうも……」
「それとも。
二人きりを邪魔されるのは嫌かな?」
「うるさいわねっ! 好きになさいよ!」
うーむ……これまた徹底したツンデレっぷりねぇ。
あれかしら。つり目、強気……というか、普段クール系のキャラはツンデレじゃなくてはならないというルールが幻想郷にあったかしら。ねぇ、藍。ちょっと説明書持ってきて、説明書。
「なかなか大変だろう」
「へ?」
「いや。彼女と一緒にいるのがだよ。見たところ、相当の恥ずかしがりのようだ」
「あはは……。
でも、咲夜さん、付き合っていて疲れるけど楽しいですし」
「なるほどね」
そりゃ疲れるわよねぇ。
一般的なツンデレは、恥ずかしがって怒鳴るだけだけど、あのツンデレは、恥ずかしがってナイフ投げてくるし。なまじ、色々な道を模索してしまっただけに、この恋は忙しいものになってしまったのね。ゆかりんも納得。
……はぁ~、お茶が美味しい。
「咲夜さーん。慧音さんが、お茶をごちそうしてくれるって言ってますけどー」
「……お茶?」
「ああ。そろそろ、買うものもなくなってきたんじゃないかなと思ってね」
あら、買い物はもうおしまい?
……まぁ、両手がどっさりとふさがるくらいにものを買えば、それも当然ね。
ねぇ、藍。そう言えば、うちの買い物もあんな感じなの? 食料だけはあんな感じですよ、ねぇ。……にしては、近頃、私の食卓に並ぶ料理が貧相なような……。
……逃げるな、こら。
「あ、このお茶、美味しい……」
「……あら、これはなかなか」
「そうだろう?
……おっと。すまない、ちょっと呼ばれたようだ」
ああっ! 藍をお仕置きしている間に、また時間が過ぎてるじゃないの!
どれどれ?
ほほう、道ばたの休憩所で休憩しつつ……あら、あのお茶、いいお茶ねぇ。スキマから、素敵な香りが漂ってきてるわ。
にしても、慧音。その立ち去り方は、いかにもアレよ。
「……全く、失礼千万ね」
「何がですか?」
「人のことをからかって。何が楽しいのよ」
「人をからかうと言うより、咲夜さんをからかうと楽しいんだと思いますよ」
「何で?」
「それは……その~……」
「何よ。はっきり、言いたいことがあるなら言いなさい」
「……反応が」
あら! まぁまぁ、かわいいわねぇ。
咲夜ちゃん、お顔が真っ赤でちゅよ~。
「……ほっときなさいよ」
「でも、咲夜さんはそのままでいいと思います」
「……ふんっ」
「かわいいですよ?」
「う、うるさいわねっ」
「きゃーっ!? 照れ隠しに殺人ドールはやめてぇーっ!」
あらあら……。
もう、ほんと、見ていて微笑ましいわぁ。
こんな初々しい恋愛、私はしたことあったかしら……。ああ、ダメね。記憶が忘却の海の彼方だわ。
……だから、藍、何よ、その目は。
失礼ね! 私だって恋の一つや二つ、したことあったわよ! 私だって……その……若かりし少女の頃、あったんだからね!
……ったく、もう。
失礼しちゃうわね。
「すっかり、遅くなっちゃったわね。
もう。美鈴、あなたのせいよ」
「うぅ~……人のこと、蜂の巣にしておいて~……」
「……悪かったってば。
ほら、あそこの屋台で、軽くお酒でも飲んでいきましょ。私がおごるわ」
「って、あれ、ミスティアさんの屋台じゃないですか」
暗い夜道を歩いていて、ふと見える赤提灯。
誘蛾灯に誘われるように、ふらふらと。
……ああ、いいわねぇ。昭和の風景だわ~。ねぇ、藍。ちょっと歌いなさい、ギター貸してあげるから。
「こんばんは~」
「こんばんは~……っと。
おや、美鈴さんじゃないですかー。おっと、こちらは咲夜さんも。どうしたんですか、こんな夜中に二人して。まさか、真夜中の逢瀬の最中ですか? でしたら、スッポンの生き血なんてのも用意しますけど」
「誰がよっ!」
「そ、そうじゃなくて、ただ、ちょっと買い物に出てまして。それで帰りが遅くなったんですよ」
「あや、そうだったんですか。そいつぁ残念。
まぁ、座ってくださいよ。今、ちょうどものが焼け始めた頃ですから。
えーっと、酒は何がいいですかね。この前、里の方の蔵本からいいのを仕入れましてね。これがまたうまいんだ。こいつを燗しましょうか」
「私は冷酒でいいわ」
「じゃ、私は熱燗で」
「あいよ」
うーむ、ミスティアもいい経営者よねぇ。何か、昭和のオヤジみたいな感じで。
あそこの屋台ってさ、経営、黒字なの? 行ったことないからわからない、って? ふーん……。何か、妖怪達の交流場、みたいな感じって聞いたわよ。霊夢から。
「最初の一本は、うちのおごりです。ま、どんと行ってくださいや」
「ありがとうございます~」
「にしても、珍しいんじゃないですかね?」
「何が?」
「いや、あんた達、紅魔館の人間がさ。こんな風に時間にルーズってのは」
「別に、ルーズなわけじゃないわ。ただ、予定がずれただけ」
「時間に関しちゃ、人一倍、きっかりしてる咲夜さんがですか。それはそれは」
「……何が言いたいの」
「いいえー、べっつにー。
あ、山菜のおひたしなんてどうですか。この季節は、野山のがうまいんですよねー」
話のはぐらかし方も、また一級品ね……。
……あの子、弾幕勝負なんてやめて、こっちの道で食っていけるんじゃないかしら。いや、妖怪の経営する屋台だから、人間が来ることなんて少ないのかもしれないけど……。
「そういや、美鈴さん」
「はい?」
「どうですか。その後は」
「その後……ですか?」
「あれ? お互い、キスの一つもしてないんですか?」
おーっと、直球ストレートが来たわよー。しかも、時速160キロオーバーの超剛速球が。
「げほっ! げほっ! げほっ!」
完全で瀟洒なメイドが酒を吹き出す光景……。しまった~……カメラで撮影しておけば、あの子をからかうネタに使えたのに~……。
藍、カメラはどうしてないの!?
……そもそもマヨヒガにそんなものがあると思ってますか、って? ……なかったっけ?
「だっ、誰と誰がキスしないといけないのよ!?」
「あー、そーかそーか。つまりは、そこのステップ吹っ飛ばして、次に進んだと。そういうわけですね?」
「ちっ、違うわよっ! そ、そんな……その……えっと……」
「その~……う~ん……。
まぁ……えへへ……」
「おおっ! これは何か興味深い反応!
何があったんですか? 聞かせてくださいよ。あ、ほら、この串焼き、うちのおごりにしますんで」
「じっ、冗談じゃない! わ、私は別に……!」
「まぁ……腕を組む、くらいなら……」
おおーっ!
ここで美鈴が積極的に攻勢に出たぁぁぁぁぁっ! 受けに回った咲夜、顔が赤いぞ! ガードの数値が削られていく! グレイズ不可、回避できません! 自機狙いに押しつぶされそうだぁぁぁぁぁっ!
「ち、ちょっと……!」
「……咲夜さん、ひどいんですよ。聞いてください、ミスティアさん」
「はいはい」
「もう、いつだってこんな感じなんです。
そりゃ、確かに咲夜さんは恥ずかしがりだし、私の押しが弱いのもありますけど……。だからって、こんな風におねだりしても逃げるなんて。
据え膳食わぬは何とやらだと思いませんか?」
瞳を閉じて、頬を赤らめ、少しアングルは上目遣い……。
……っかぁーっ! きたぁーっ!
キスしろ、キス! いけーっ! 十六夜咲夜ぁーっ! 突っ走れーっ! おっしたっおせっ! おっしたっおせっ!
「ち、ちょっと……!」
「その他にも、色々あるんです。メイドの皆さんとか、門番隊のみんなとか。お嬢様に話しても『それは咲夜が根性なしだ』で一致してるんです」
「ははぁ……それはそれは。いや、苦労してますねぇ。
いや、うちもね? ここに来る連中の話を聞いてると、咲くに咲けない恋話とかさ、色々聞いたりするわけですよ。そう言う経験を踏まえて言うとですね?
やっぱさー、恋人に恥かかせちゃいけないと思うんですよ」
「うぐっ……」
そうよ! その通り!
そこまで来たら、やるべき事はただ一つ! お布団にレッツゴーでしょ!? 何でそれがわからないかなぁ!
もう、求められたら応える! 心も体もさらけ出して、二人で新たな世界に旅立つのが……って、ちょっと、藍! 何で逃げるのよ! 私の話を聞きなさいよーっ!
「まあ、そう言う初々しいところも、またいいって言っちゃいいんですけどねー。
というか、そうでしょ? 美鈴さん」
「そうですねー。
ちょっとからかったら、すぐに顔を赤くしちゃうところとか。咲夜さん、かわいいですよー」
「う、うるさいわねっ!」
「恋愛に奥手なのは必要なことですよ。
ただねぇ、それも度が過ぎると無粋なんですよ。わかります? たまにゃ、自分から押してみるのもありじゃないですかねぇ」
「くぅ……」
「もっと言ってやってくださいよー」
「あっはっは。
どれ、このお酒はうちのおごりですから、今日はとことん腹を割って話し合いましょうや。ねぇ? 咲夜さん」
「い、いやよ! ほ、ほら、帰るわよ、美鈴!」
「だ~め」
「何やってるの! 酔ってるの!?」
「酔ってなんていませんよ~。ほら、咲夜さん、座って座って。
はい、どうぞ」
「……はぁ」
あはははは。
普段と立場が逆転しちゃってるわー。これは見ていて愉しいわねー。
よーし、もうちょっと、スキマの精度を上げて……。
「……あ」
「もうやめましょうよ、紫さま。これ以上のデバガメは、彼女たちにかわいそうです」
「うー、ケチくさいわねー」
と、思った矢先に、藍に引っ張り戻された。
あっ、と思った時にはスキマも閉じちゃって、やれやれ、というところ。
「それに、彼女も言ってたでしょ。彼女の恋路を邪魔したら蹴り殺されますよ」
「それは勘弁願いたいわね」
「まぁ、後日、風の噂を頼りにするのがいいんじゃないですか?」
「はいはい。
……にしても、藍。あなた、何か思うところがあるみたいね」
「デバガメが趣味の主人を持っていることが知られては、幻想郷中の恥部になってしまいますから」
そうきたか。
まぁ、かわいいかわいい藍の頼みだし、今日の所はここまでにしといてあげましょうか。
けど、ねぇ。
「恋愛ねぇ」
「何ですか、紫さま」
「ん?
命短し恋せよ乙女。ちゃんと恋をして、女らしく女になっていく連中は、私の知っている連中のどれくらいなのかしら」
「そうですねぇ。
……まぁ、人に限らず、女心は秋の空。きっと、誰もが恋をして、誰もがその恋を忘れて。そうして女になっていくんじゃないですか?」
ねぇ、紫さま。
と言う顔をして、かわいい式は襖の向こうへと。
……ふーん。なかなかわかってくれてるわね。
「だから、私はあなたが好きよ。藍」
外から、「ただいまー」という声。どうやら、橙が帰ってきたようね。
……それに、あらあら。気がつけば、辺りに漂ういい匂い。
ほんと、藍はよくできた子ね。あとでえらいえらいしてあげないと。
「命短し、か」
命が長くても、恋をする子は大勢いるのにね。
ちなみに、後日の風の噂。
「ねぇ、咲夜」
「はい?」
「ファーストキスはレモンの味がしたかしら?」
「……………………内緒です」
ゆかりんのスキマイヤーは漏らさずちぇーっく!
紫様やはり霊夢ですか?・・気に成りますね♪
ゆかりんの旦那さんは幻想郷なんですね、とあえて真面目に言ってみる。
激しく吹いたwww あそこまで解説されたら分かるよゆかりん!!
そしてツンデレ咲夜さんですか……うむ良し!!
ツンデレは伝染するのかー!?
幻想郷のお母さんだものね!頑張ってゆかりnうわなにをす(弾幕結界
某手刀に進化してからはどうも地味で地味で…。
みすちーも地味にいい味出してるなぁ。