Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

魔女の言葉に偽り無し

2006/06/01 10:42:52
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おーい。
こっちだ、こっち。上だ、上。
あー、こら逃げるな逃げるな。違う違う。私は人間だよ。
え、何?よく聞こえないな。
しょうがない、降りてやるか。

……よっと。
なんだよ、そんなに睨むなって。本当に人間だよ。
私か。普通の魔法使いだぜ。この格好を見ればわかるだろう。
なんだ、見たことないのか。魔法使いってのは、箒で飛んだり、水晶玉磨いたり、カボチャを馬車に変えたり、かかしやらブリキやらライオンやらの願いを叶えたりして結構忙しい仕事なんだぜ。
む、そんな目で見るなよ。全然信用してないな。
森の魔女?
違う違う。私をあんな人形相手に毎晩呟いてる温室育ちの根性曲がりと一緒にしてもらっちゃ困るぜ。
私の魔法は社会に貢献してるんだ。具体的には、吸血鬼ぶっとばしたり、幽霊ぶっとばしたり、宇宙人ぶっとばしたり。
全然、貢献してない?
騒がしいだけ?
それは見解の相違というやつだな。現象だけを見ても真実はわからないもんなのさ。もっとマクロな視点でだなぁ。
あ、え、あー何のことだ?
ああ、そうか、あいつが守ってた里の者なんだな、あんた。
いやいや、違うぞ。あの永い夜の時に騒いでたのは私じゃない。こんなにおしとやかな私がそんな事をするわけないじゃないか。あれは全部魔界の極悪人形劇団ただし団員一名の仕業に違いないぜ。この目を見ろ。これががウソをついてる目か?

う、ぐわ、酷いぜ。あんた初対面でも容赦ないな……。

あー、まあ、ほら、なんだ。
そんなことよりも、だ。 博麗神社に行くんだろう?
いや、珍しいなと思ってな。久々の参拝客だもんな。霊夢、喜びのあまりコサックダンスを踊り出すかもしれん。天狗が写真を撮ったら焼き増しを貰わないとな。
え、霊夢を知ってるかって?
知ってるも何も、あいつが寝小便してた頃からの古い付き合いだぜ。
あれは暑い夏の夜だったな。あんまり暑くて眠れなくてな。ついつい麦茶を飲み過ぎちゃったってわけさ。
え、私?
ああ、私はオネショなんかしないぜ。だって自分が作った薬を自分で試すわけにはいかないだろう?おかげで利尿作用があることがわかって、要改良だったけどな。
あー待て、冗談だ、冗談、冗談に決まってるだろう。
冗談なんだから、絶対にそのことは霊夢に言うなよ。ほら、誰だって子どもの頃の無邪気さゆえの過ちというかだな。あるだろう、そういうのが一つや二つや百や二百は。
過去に縛られて生きていくなんて、ショボい生き方じゃないか。明日をみつめて前向き前のめりでいこうぜ?


それにしても物好きな奴だな。今時、博麗神社に行こうなんてさ。
霊夢に会いに行くのか?
それは大変だな。あいつ気まぐれだからな。付き合うのは命がけだぜ。
あ、ところで、ちゃんと賽銭持ってきたか?十円玉じゃ駄目だぜ。霊夢は十里先からでも賽銭箱に投げ込まれる銭の音を聞き分ける女だからな。賽銭ケチっても、「ジャンプしてみろ」とか言われてすぐバレるぜ。
なに、博麗の巫女がそんな卑しいわけがない?
甘いな、霊夢の恐ろしさを知らなすぎる。
よしよし、ちょっとだけ霊夢について教えてやるよ。
そうだな、この前あいつが戸棚に隠してた白秋庵の酒まんじゅうを失敬したら、笑顔で針投げてきたんだ。怖い女だろ?
それは自業自得?
何を言うんだ。白秋庵の酒まんじゅうだぞ。
あのふんわりとしていながら表面はパリっと焼けてて、ほんのり香る上品な酒の風味に、とろけるような漉し餡が絶妙なんだぞ。
戸棚なんぞに隠しておいたら、すぐに固くなって空気が抜けちゃうじゃないか。酒まんじゅうだって、まだ柔らかいうちに私に食べられるのが幸せってものだろ。
あと、霊夢の巫女服はツッコミ禁止だ。
「なんで腋が見えてるんですか」とか「巫女服にしちゃフリフリが派手じゃないですか」とか「もうそろそろその大きいリボンは恥ずかしい年頃なんじゃないですか」とか絶対に言うんじゃないぞ。地獄のLunaticスペカのフルコースをノーボム一機設定ワンコインで挑むことになるぜ。
それから、あいつが機嫌が悪い時には絶対頼みごとはしない方がいいな。
例えばな、こんなことがあったぜ。いつぞや、どっかのおっさんが霊夢に頼みごとに来たんだ。私はちょうどその場にいたから知ってるんだが、霊夢の虫の居所がかなり悪くてな。凄かったぜ。おっさんが話し出した途端に、飛び蹴り一閃。当然、おっさんも面食らうわな。赤くなるやら湯気が立つやらで口をぱくぱくさせて何か言おうとしてんだけど、全然言葉にならないのな。で、霊夢が一言。

「あんたが悪い」

いやもう、理由もへったくれもなかったな。その後、おっさんの襟首つかんでどっかに飛んでったよ。なんか飛んでった先で悲鳴やら爆音やら聞こえてたんだが、そこから先は私も知らん。霊夢に夢想封印食らって身動き取れなかったからな。

え、まんじゅう食べた日?
鋭いな。確かにその日だぜ。
私が元々悪いんじゃないかって?
いやいや、それはそれ、これはこれだ。まあ、たまたまそういうタイミングで訪ねてきたおっさんが不運だったのさ。普段なら、穏便におっさんから有り金全部むしり取る程度だぜ。

おお、いつのまにか神社に着いたな。この階段を上れば目的地だぜ。残念だな、もっといろいろと為になることを教えてやるところだったのに。あいにく、私は今から野暮用なんだ。ああ、そんなに私を引き止めるなよ。別れに涙は禁物だぜ。
え、泣いてない?
むしろどっかいけ?
おいおい、素直じゃないなぁ。まあ、私への感謝は白秋庵の菓子折りでいいぜ。
霊夢に会ったらよろしく言っといてくれ。
じゃあな。がんばれよ。


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 よう、待たせたな、アリス。
「温室育ちの極悪人形劇団団員一人の根性曲がりに、何を期待してるのかしら」
 誰のことだか知らんが、本当のことってのは耳に痛いものだよな。
「いつか、あんたの口の中にアーティフルサクリファイスを詰め込んでやるわ」
 弾ける美味しさだが遠慮するぜ。ところで、そいつはどうなんだ。殺したのか。
「気絶してるだけよ。殺すんなら死体なんか残さないわ」
 なんか喋ったか?
「やっぱりあの子を狙ってたみたい。まあ、当然でしょうね。博麗の巫女に出てきてもらっちゃ困るでしょうから」
 霊夢に助けを求めようなんて、あの半獣よっぽど追い詰められてるんだな。
「ずいぶん嬉しそうねぇ、魔理沙」
 半獣に恩を売るのも悪くない。知ってるか?あいつの家は古書の山なんだぜ。
「幻想郷の歴史書らしいわね。確かに、資料としては見てみたいけど」
 だろう?そろそろ洋書にも飽きてきたところだからな。白秋庵と一番茶で竹簡を読むのが楽しみだぜ。
「そう、よかったわね。いってらっしゃい」
 なんだ、アリスは行かないのか。
「妖怪の私が人間を助ける義理なんてないでしょう。私はここでこいつを見張ってるわ」
 わざわざ守ってやるのか。優しいな。
「あんただって、わざわざあの子を守ってたじゃないの。おあいこよ」
 おいおい、妬いてるのか。もてる女はつらいぜ。
「もてる女はまんじゅうのつまみ食いなんかしないわよ」
 もてる女は過去には縛られない生き方をするもんさ。
「……はぁ、もういいからとっとと行ってきなさいよ。霊夢より先に着いた方がいいでしょう?」
 おう、そうするぜ。悪いな、アリス。
「全然悪いと思ってないでしょう、あなた。まあ、いいわよ。紅魔館に行くのは今度にしましょう。あ、そうだ。一つ訊いていいかしら」
 なんだ?
「オネショの話、本当なの?」
 嘘だぜ。
「即答するってことは本当なのね。でも、魔理沙のことだから、全部本当ってわけじゃないわね。大方、途中で気付いた霊夢がコップを摩り替えて」
 おっと時間が無いから失礼するぜ。次に会うのは七十五年後だな。
「って、ちょっと! ……もう、逃げ足だけはホントに速いわね、まったく。



 ところで、あなた、いつから気付いてるのかしら?
 魔理沙は騙せても私は騙せないわよ。どこから聞いてたのか知らないけど。
 まあ、仕方ないわね。少し頑丈すぎた自分の体を恨みなさいな。
 魔理沙の弱みをあなたみたいな小物が知るのは許せないの。
 
 大丈夫、死体なんか残さないわ」

酒まんじゅうが好きです。じゅるり。

拙作「巫女への仕事の頼み方」とちょっとだけ繋がってますが、読んでなくても大丈夫です。
多分。

2007/3/21 一部修正
deso
コメント



1.名無し妖怪削除
このオチはうまい!!と思った。キャラの会話も軽快で素敵。そしてリボンが似合わない年齢で吹いた。
2.翔菜削除
あぁ、すっげぇテンポいい。
そしてアリスステキww
3.名無し妖怪削除
黒いのに甘いアリス。かっこいいですなー
4.名前が無い程度の能力削除
魔理沙のお調子者具合がおもしろかった