Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

食べられないアリス

2010/07/10 05:24:00
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※『食べてもいい魔理沙』の続きかもしれません。








「で、あんたたちは朝っぱらから何をしてるのよ」
「おお、アリス、助けてくれ~」

 ベッドの上、ルーミアにのしかかられて情けない悲鳴をあげる魔理沙に、私は思わず呆れ混じりの息を吐いた。
 はぐはぐ、とその魔理沙の頬にかじりつくルーミアに歩み寄ると、首根っこを掴まえる。
 魔理沙の頬から引きはがされて、「おー?」とルーミアはこちらを見上げた。

「アリス、おはよー」
「はいはい、おはよう。で、食べるならちゃんとした朝ご飯にしなさいってば」
「全くだぜ」

 頬にルーミアの歯形とよだれを残したまま、頭を掻いて魔理沙は身を起こす。
 元々だらしない顔がますます酷いことになっている。

「魔理沙、美味しいのに」
「だから私を食うなっての」
「そうよ、魔理沙なんか食べたら魔理沙菌が伝染って大変なことになるわよ」
「まりさきん?」
「頭にキノコが生えるわ。魔理沙の髪って実は全部細いキノコなのよ」
「そ、そーなのかー」
「人を胞子みたいに言うな! ルーミアも信じるな!」

 たじろいで魔理沙を見やるルーミアに、魔理沙が吠える。

「ともかく魔理沙、貴女は顔洗ってきなさいよ。べたべたよ?」
「ん、ああ……そうするぜ」

 頬に触れて、魔理沙はひとつ息をついて立ち上がる。
 その背中をぼんやり見送っていると、不意に「アリス」とルーミアが声をあげた。

「何よ?」
「アリスは、魔理沙たべないの?」

 純真無垢な顔で何を急に――って、ああ、意味が違うのか。
 私はひとつ咳払い。全く、何を考えているのだ自分。

「食べないわよ。そんな野蛮じゃないの」
「美味しいよ? ほっぺたむにむにだし、指とか二の腕とか」
「……貴女とは違うの。私は魔法使い。人間は食べ物じゃないのよ」

 捨食の法を身につけている私は、食事を必要とはしていない。
 だから、個人的な嗜好で食事は摂るけれども、人間を食べたいとは思わない。

「食べ物じゃないよ」

 けれど、人間を食べるはずの目の前の少女は、不意に真剣な顔でそう言った。

「魔理沙は、ともだち」

 にっ、と八重歯を見せて笑うルーミアに、私は何と答えていいか解らず、

「今、食べようとしてたじゃない」
「味わってたの。食べたら、魔理沙、いなくなっちゃうもん」
「――――」
「美味しいよ?」
「……だからって、私に何をどうしろって言うのよ」

 無垢な顔で笑うルーミアに、私はこめかみを押さえて息を吐く。

「アリスも、魔理沙のことはぐはぐすればいいのに」
「――何で私が、そんなこと」
「アリス、魔理沙のともだちでしょ?」

 ひどく直截な言葉で問いかけられて、口ごもった私に。
 ルーミアは、満面の笑みを浮かべて両手を広げる。

「魔理沙のこと、大好きなの、アリスも一緒だよね?」

 ――こんな風に、何のてらいも無く、真っ直ぐに好意を誰かに向けられたら。
 たぶん私は、こんな風に森の奥に引きこもったりはしていなかった。

「……そうでもないわよ」
「そーなのかー?」
「そうなの」

 不思議そうに、ルーミアは首を傾げる。
 そこへ、「ふぅ、さっぱりしたぜ」と魔理沙が顔を拭いながら戻ってきた。

「あ、魔理沙、おかえりー」
「おう。で、お前らはそこで何やってんだ?」
「アリスにね、魔理沙のこと一緒にはぐはぐしよーって言ったの」

 おお? と魔理沙が変な声をあげる。
 私が何か言い返そうとすると、ルーミアはひとつ首を傾げて、

「でも、アリスは魔理沙のことはぐはぐしないって」
「当たり前でしょ!」
「だからねー、魔理沙」

 と、ルーミアは両手を広げて、魔理沙にそのまま抱きつく。
 受け止めた魔理沙と一緒に、ルーミアはこちらを振り向いて。

「アリスのこと、私と魔理沙ではぐはぐしよ?」
「おー、そいつは名案だな」
「ちょっ、あんたたち何を――」

 にやりと危険な笑みを浮かべて、ルーミアと魔理沙がにじりよって来る。
 思わず後じさった私は、しかしベッドに足をぶつけてそのまま尻餅をついた。

「アリスー」
「ふふふ、逃がさんぜ?」
「ま、待っ、止め――ひゃあああああああっ!? た、助けて上海ー!」

 がばっとのしかかってくるふたつの黒い影に、私は情けない悲鳴をあげた。
 あるいは、そんな幸せな光景。
浅木原忍
[email protected]
http://r-f21.jugem.jp/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
そのはぐはぐに私も参加したい
2.名前が無い程度の能力削除
おっと、私も忘れてもらっては困るなあ
3.名前が無い程度の能力削除
「汝、アリスの右をはぐはぐしたら、左の頬にも向き直れ」
4.名前が無い程度の能力削除
本編ではありえない光景だと思うと、ほのぼのなのにどこか悲しくなります。
5.mthy削除
あとがきの「あるいは、そんな幸せな光景」ってのがもう…。
「流れ星」や「天の川」を読んだあとだと、ほほえましいと同時に切なくなります…。
もし間に合ってたら、こんな光景もあったのかなぁ。
なにはともあれ、ありがとうございました。
6.名前が無い程度の能力削除
によによ
7.名前が無い程度の能力削除
せつねえ…
8.名前が無い程度の能力削除
後書きでキました
9.名前が無い程度の能力削除
にやにやが止まりません!