ある満月の夜、しつこくつけまわるハンター組織にいい加減我慢がならず単身で襲撃をかけた。
突然に乗り込んだ私にハンター達は満足に連携を執ることもできずに次々と力尽きていった。
すべて始末し、あらためて周りを見るとこの組織は対魔物用に様々な武器や薬を開発していたようだ。
「こんな物が私に効くと思ったの?愚かだね、 そう思わない?」
部屋の物陰に声をかけた
「ひぃ!」
と、情けない悲鳴とともに貧相な中年の男が立ち上がった。
「私はハンター以外に手を掛ける気は無いえわ、消えなさい」
男は口をパクパクさせ、何とか言葉を搾り出した。
「あ、あの…あの子を、連れにきたんですか?」
「あの子?」
「あ、あの子は地下に…います…から」
部屋には確かに地下に通じるらしい階段がある、男は私がその「あの子」を連れにきたと思っているらしい、
つまり「吸血鬼」が関心を持つような何かが地下にいるという事だ。
薄暗い階段を下りていくにつれ血と鉄の臭いが漂ってくる、
古く汚れた扉を開けるとそこは鉄格子の嵌った地下牢だった。
地下にある誰かを閉じ込める場所……胸が重苦しい,
嫌悪感と罪悪感の入り混じった感情が圧し掛かる気がする。
檻には簡単な止め金具が付いているだけで鍵は掛けられていない、形ばかりの檻だ。
中にそれはいた。
近づいても逃げようともしない、血で汚れた服とも言えないような襤褸を身に着けて片隅に蹲ったままだった。
「ねえ」
声をかけるとそれはゆっくりと顔をあげた、それは私より小さい少女だった。
「……誰?」
抑揚の無い声が返ってきた。
「私はレミリア・スカーレット」
「きゅうけつき?」
「あら、知っているの?」
「ここの…ハンター達が標的にしているって聞いた…」
そうよね、しつこかったものねここの連中は、それにしても吸血鬼とわかっても反応が変わらない子ね。
「で、あなたは何故こんな所にいるの?ここにいるのはあなただけなの?」
「何故って…知らない、初めからずっといるけど、ハンター達と上のおじさん以外と会うのもあなたが初めて」
ハンターとおじさん以外初めて?おじさんは上にいた使用人の事?いや、そんなことより
「初めからって?あなたいつから此処にいるの?」
「いつから?」
「何日とか、何ヶ月とか、何年とかどのくらい前からいるのかってことよ?」
「なんにち…ねん…って?」
年月の言葉の意味が分らないのか、それとも概念がないのか
「あなた、ここで何をしているの?」
「起きて、おじさんがご飯持ってくる、たまにハンター達が来る、その後はおじさんが傷の手当をしてくれる、眠くなったら寝る」
「外、出たことは無いの…?」
「そと?上のこと?檻からは偶に出してもらえるけど上は行けない、私が生きていけない世界だからって」
日付も朝も夜の時間の感覚理解していない、外も見たことが無い…
「上には行きたくないの?連れて行ってあげるわよ」
「え、でも上に行くと死んじゃうよ」
「死なないわよ、そんな運命の気配は無いから」
「?」
「とにかく大丈夫よ、あなたは上を見たくないの?」
「でも、私が勝手な事をするとおじさんがハンター達に叱られちゃう」
「その心配は要らないわよ、ハンター達はもう一人もいないわ、だから此処を出たって誰もあなたも、そのおじさんも叱られたりしないわ」
そう言って手を差し出す、この手を取るか取らないか、その運命はすでに分っていた。
階段の一歩一歩を確認するかのように登ってい行く、次の一歩で何か起こるんじゃないか?そんな事を考えている顔だ。
死ぬと思い込んでいた場所に踏み出しているのだから当然だ。
建物の外に出る、澄んだ空気と風、月はだいぶ傾き木々の陰に隠れて見えないけれど空には無数の星が見えた。
初めて見る星空に目を輝かしている姿を見ながら、この子を救ったのはあの子を閉じ込めている罪悪感を紛らわす行為なのかもしれない、という思いが浮かぶ
「ありがとう!」
「えっ?」
「こんなすごいもの見せてくれて!」
「そう、…今は見えないけれど月はもっと大きく光っているし、もうじき夜が明ければ太陽っていうムカつくくらい明るいのが出るわ」
しかし、これがきっかけで何かが変わる運命を感じてもいた、それに賭けてみよう…
「あなたはこれから沢山の事を学ばないとね、幸い私の友人に知識だけは無駄に有り余っているのがいるから大丈夫よ、
まあ、色々調べられるかもしれないけれど。ところであなたの名前は?」
「なまえ?」
「名前も無いの?じゃあ帰ったらまず名前から考えないと」
「帰るってどこへ?」
「あなたの新しい家、紅魔館へよ」
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幻想郷 紅魔館門前
「美鈴、夜勤当番ごくろうさま、お茶でもどう?」
「わあっ咲夜さん有難うございます」
「夜勤は大変じゃない?」
「いえ、そんなでも無いですよ、特にこんな空気の澄んだ夜は」
「そういえば今日は星が良く見えるわね」
「でしょう?咲夜さんは初めて空を見たときの事を憶えていますか?」
「いえ、さすがに無いわね、物心つくころには当たり前に空を見ていたし」
「私は憶えてますよ、満天の星空を見て私は「高い天井に無数のロウソクを灯しているんだ」と思ったんです」
面白かったです
美鈴かー。咲夜だと思ってたよ。