「今日のおやつはショートケーキですわ。」
そう言って咲夜がテーブルに置いたのは、二人分の紅茶とショートケーキだった。
しかしショートケーキとは……咲夜にしては割とシンプルね。
「わぁ~い! ショートケーキだぁ~!」
だけど妹のフランには大好評のようだ。
手放しで喜ぶその無邪気な姿は我が妹ながら実に微笑ましい。
「フランは甘い物に目がないな。」
つい口から出た私の言葉に、何故かキョトンとした表情を見せるフラン。
私、何かおかしなことを言ったかしら?
「そんな事言ってお姉さま? わたしより先にケーキ食べてるじゃん。」
「うっ……。」
「くっ……! くくくっ……!」
悪気のない妹の指摘を受けて、フォークをケーキに刺したまま私は固まるしか無かった。
て言うか、咲夜! 瀟洒なメイドなら笑うんじゃないっ!
そんな私の視線に気付いてか、一言「失礼しました。」とだけ呟くと咲夜は逃げるようにして消えて行った。
全く……後で覚えておきなさいっ……!
「こほんっ……ところでフランは甘い物の中で何が一番好きなのかしら?」
話題を変えるつもりで、咄嗟に思い付いた質問をフランに振ってみる。
するとフランは声を弾ませて答えてくれた。
「お姉さま!」
少しは悩むのかと思いきや、即答してみせたフラン。
しかし知らなかったわ。フランにそんな好物が有ったなんて────えっ! 私?
「フラン……? 私の質問、理解してる?」
間違っても、『好きな人』なんて聞いたつもりは無いのだけれど。
いやまあ、それはそれで嬉しいけど……。
「うん? 甘い物、だよね?」
「ええ……そうよ。でも残念だけどお姉様は食べ物では無くてよ?」
「でも甘いよ?」
甘い? この私が?……これはあれか?
フランは私に甘やかされていると思っているのか?
いやいや、そんなつもりは決してないのだが……だとしたらこれは姉としての沽券に関わる問題だ。
ここは姉の厳しさを、そして偉大さを一度示してやらねばならないか?
しかしそんな私の考えを嘲笑うかのように、又しても我が妹は難解な事を言い放った。
「お姉さまが知らないだけだよ。お姉さまはすっごく甘い味がするんだぁ~。」
言いながらうっとりとした表情を浮かべるフラン。
まるで食べた事が有るようなその言い方に、私は更に混乱してしまった。
そもそも吸血鬼である私たちの主食は人間の血……。
このケーキにだって当然混ざってるし、それに互いの血を舐め合った事なんて無かった筈だけど……。
……駄目ね。
考えたところで無駄みたい。
気付けばとっくにこの話題から興味を失い、美味しそうにケーキを頬張るフランの姿に考える気力を削がれた私は早々に諦めることにしたのだった。
それから数時間後──
ガチャ。
「……お姉さま~?」
そう言ってわたしはノックもしないでお姉さまの部屋のドアを開けた。
そして中を覗いて部屋が真っ暗なのを確認。よしよし。
後はお姉さまを起こさないように、差し足忍び足で、そぉ~と。
案の定、お姉さまからはなんの反応もない。
(うんうん。よく眠っているみたい♪)
一度眠ってしまうとお姉さまは梃子でも動かない。
もちろんわたしはそれを承知でここへやってきた。
「おじゃましま~す。」
その目的とは……ずばり『ヨバイ』だ。
『ヨバイ』は愛ある尊き行為だって、ずっと前に魔理沙が言ってた。
でも言ってた本人はパチュリーにビンタをおみまいされてたけど……あれはどうしてだろう?
魔理沙の事はともかく、わたしは今日も『ヨバイ』をする。
広いお部屋のとっても広いベッドに一人で横たわるお姉さまの隣にわたしは心を躍らせながら身を滑り込ませた。
ぴとっ。
「へへへっ。お姉さま、あったかい♪」
横を向いて眠っているお姉さまの背中にくっ付いて私は顔をすりすりした。
そしたらお姉さまのとっても甘いにおいが、すぐに鼻いっぱいに広がってきた。
つい嬉しくて調子にのってしまったわたしは、小さく折りたたんだお姉さまの羽を両手で掴むと、しがみ付くように抱きしめた。
頬を挟むようにしてぎゅっと……こうするとよりお姉さまの香りが強くなった。
「う…………んっ。」
するとわずかにお姉さまが身じろぎをした。
いけない、いけない。
ちょっと悪ふざけが過ぎたかな?
そっとお布団から顔を出して、お姉さまの顔を覗き込む。
寝返りをうって仰向けになったお姉さまは、変わらず穏やかな寝息をたてていた。
「すーすー。」
「ふふふっ。お姉さま……かわいい♪」
眺めてるだけで何だかポカポカした気分になってくる……どうしてかな?
不思議だけど気にしない。
今がしあわせだから気にならない。
それともいつか分かるのかな?
このポカポカの理由も、この胸のドキドキも──
「おやすみなさい……お姉さま。」
チュッ
お姉さまの頬におやすみなさいのキスを。
これがわたしの最近の日課。
これだって一度も気付かれた事がない。
別にそれはそれで構わないし、そしてきっとお姉さまはずっと気付かない──
「おはようございます。お嬢様。」
「……おはよう、咲夜。」
「頬を気になされて……どうかなさいましたか?」
「いや……何だかここのところ起きると頬に温もりを感じて……。」
「温もり……ですか?」
「きっと気のせいね。忘れてちょうだい。」
──お姉さまの頬はとっても甘いんだってことに。
いつものように、フランがヨバイしていたら、途中でレミリアが起きちゃった。というシーンを3秒で夢想した。
実は寝たふりだった。というシーンを2秒で夢想した。
内緒(?)で甘える妹に、鈍い姉…これは可愛らしい二人と言わざるを得ない。
そしてパチュリーは単なるツンデレだと思うんだ。
本当はお嬢様気づいていて、突然反撃に出られてうろたえるふらんちゃんも妄想するといいな!!
私も先週ちゅっちゅ書いてしまいました。あんなちゅっちゅでよろしかったでしょうか。ちゅっちゅ師匠!
ほっぺチューはいいもんだ!二人に良く似合う