Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ヒマワリとキノコ3

2010/07/09 18:02:34
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幽香は、いつもより遅く目を覚ました。
目をこすり体を起こす。まだ目が開かない。幽香は意識がはっきりす

るまで座り込んでいた。
しばらく待っても目が覚めないので、顔を洗うために部屋を出た。
リビングを通る時、ある臭いが鼻をついた。
何事かと目を向けてみると、テーブルの上にコーヒーが置いてあった

。それも二つ。

「え……?」

奥には、白黒の魔法使いが座っていた。

「よぉ、遅い目覚めだな」
「どうして、ここにいるのよ……」

幽香は魔理沙を視認すると扉の影に隠れた。
「今さら隠れてもな、もう寝顔は見ちまったよ」
「レディの家に勝手に押し入るなんて良い度胸ね」
「私もレディだぜ」
「よく言うわよ、まだガキじゃない」
「眠そうな顔したレディにガキなんて言われたくないな」
「ふん」

幽香は扉から隠れたまま顔を洗いに行った。

いつもより時間をかけ、現状を確認しながら冷たい水で頬を冷ました



リビングに戻ると、コーヒーだけでなくトーストも用意されていた。
「遅かったな」
不機嫌そうな幽香は無言のまま席に着いた
「で、なんの用なの?」
「別に用ってほどでもないんだがな」
「よっぽど暇なのね」
「あー忙しい忙しい。忙しすぎて他人の朝食まで作っちまったぜ」
「材料は現地調達って、サバイバルね」
「うん、我ながら良い出来だ!」
「まあいいわ」
幽香は目の前に置かれたコーヒーを一口含む。
……苦い。
決して顔には出さないが、舌からの情報は正確に脳で分析された。

「ところで」
「なによ」
「アリスの事なんだが……」
幽香の手が一瞬止まった。
さっき味わった苦味は、より一層濃いものとなった。
「アリス?」
「あぁ。昨日お前が帰った後な、あいつんちに行ってみたんだがいな

かったんだ」
「……」
「それで何か知らないかな~って……」
「あなたが人の家に勝手に押し入ったのは、そんな話をするため?」
「なっ……」
「不愉快だわ。さっさと片付けて帰って頂戴」
「おいおい、ちょっとぐらい話聞いてくれてもいいんじゃないか?」
幽香はまだ暖かいカップを乱暴に置き、席を立った。

残された魔理沙はしばらく呆けた。
話を聞くぐらいいいじゃないか。
そう思いながら、残された飲みかけのカップを眺めていた。

バタン、と扉の閉まった音の直後、幽香の後を追って部屋へと向かっ

た。


ノックをしても返事はない。ノブに手を伸ばし開けようとしても中か

ら鍵がかかっていて開かない。

「……部屋にこもるなんて乙女みたいだな」

――幽香は、部屋に入るとベッドに座り込んでいた。魔理沙のノック

、声をそのまま聞いていた。
やがて魔理沙の足音が遠のくと、幽香は全身から力を抜いた。

足を伸ばし、ため息一つ。
浅はかであったか、話を聞くぐらいしてもよかったんじゃないか。
そう自問しながらベッドに倒れこんだ刹那、扉が砕け散った。


幽香は、突然の事態に思考が一瞬停止した。目の前に舞うのは見るも

無残な扉の破片。
破片が床に落ちる音の後に聞こえてきたのは、さっきよりもクリアな

足音だった。

「いやぁ、悪い悪い。扉が言うこと聞かなくてさ、ちょっと無理言っ

て開いてもらったぜ」
幽香は、まだ状況を完全に把握しておらずぼぅっとしている。
「可愛い部屋だな。大妖怪でも女の子か」
幽香は部屋に入ってきた魔理沙をようやく認識した。
同時に、怒りが込み上げてきた。

「あんたは……人の家に勝手に押し入るだけでなく部屋まで壊すのね

……」
「まあそんな気にするなって」
じゃりじゃりと音を立てながら魔理沙は部屋へ侵入し、幽香が横たわ

るベッドに腰かけた。
「話を、聞いてくれ」
顔を近づけ、目を見つめる。
体勢としては、魔理沙が上から覆いかぶさるような形だ。
幽香は気圧され、真剣な眼差しから目をそむける事が出来なかった。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて魔理沙を突き飛ばす。
両手で押し飛ばされた魔理沙はそのまま床へ落ちた。

「いてて……何も突き落とすことないだろ」
不満げな顔をしながらぶつけたであろう肘をさする。
「扉を壊してるのに突き落とされただけで済んだなら良いと思いなさ

い」
立ちあがった幽香は、激しく動く心臓の音が聞かてやしないか不安に

なった。
接していないのだから聞こえるはずがないという冷静な判断は、今の

幽香には無理な話だった。


――
「つまり、私に人形使いの娘を探すのを手伝えって事?」
「簡単に言うとそうなるな」
くだらない。言いかけた口が止まる。
これは、探すという名目で一緒にいられるのではないだろうか。

「……そうね、良いわ、手伝っても」
「本当か!」
「有無を言わさず朝食を作ってもらった借りもあるし」
意地の悪そうな目で魔理沙を見つめる。
「う……私なりの誠意だったんだぜ」
「昨日いなかったのなら、どこかに出かけてただけじゃないの?あの

子だっていつも家にいるわけでもないでしょうに」
「じゃあもう家にいるかもしれないってことか?」
「そういうこと。行ってみましょう」
そう言うなり、幽香は身支度を始めた。
アリスを探す間はごく短く、一時の幸せの後には、確実な不幸が待っ

ていると知っているのに……


アリスは家にいた。
昨晩は博麗神社に用事があったが、家を空けていたのはごく僅かな時

間だったらしい。
「それじゃ、私はここまでね」
「あぁ、ありがとうな、幽香!」
満面の笑みを向ける魔理沙が、ふと自分の畑に咲き誇る向日葵と被っ

た。

「そうそう、一つ言い忘れてたわ」
「なんだ?」
「今度でいいけど私の部屋の扉、修理しに来なさいよ」
「げ……やっぱり?」
「本当なら明日までかかろうと、今からでもしてもらいたいんだけど

。か弱い女の子が襲われたらどうするのよ」
「幽香を襲えるような妖怪がいるなら見てみたいぜ」
「……バカ」
幽香は小さく言って、去っていった。


その夜、ノックの音が響いた。
すでに寝間着に着換え、あとは床に就くだけだった幽香は突然の来訪

者に驚いた。
「どちらさま?」
「あ、開けてくれ!」
扉の向こうからは苦しそうな声が聞こえてくる。

まさか人間?
私の家に逃げ込むだなんて、運の悪い事。
つり上がる口角を押さえながら扉をあけると、

「魔理沙……」
「よぉ、か弱い乙女を魔の手から守りに来たぜ」
背中には大きな板を背負い、両手には様々な大工道具を持った魔理沙

が立っていた。
「早く中に入れてくれればうれしいんだがな……」
「は、早く入りなさい」
魔理沙を招き入れ、扉を再び閉じた。

「まさか本当に今日来るなんて」
「私が壊したのに家でぐぅぐぅ寝てるなんて、夢見が悪いだろ?」
できることなら、数日に分けて来てくれればよかったのに。
決して口に出せない心の声。
「まぁ当然よね。さっさと直してちょうだい」
「はいはい」

魔法を使えると言っても、やはり元は人間の少女。魔理沙の作業はな

かなか進まず、このままだと夜が明けてしまいそうだった。
「そろそろ寝たら?」
「いや、完成するまで寝れないな。寝といてくれよ」
「……同じ部屋でカンカンやられて寝られると思って?」
「あー、そうだな」
手を休め、幽香の方へ向き直る魔理沙。その顔には疲労の色が見て取

れた。

「じゃあ、続きは明日やろうかな。どこか寝床ない?」
汗を拭いて一息ついた魔理沙は、きょろきょろと辺りを見回す。
「ないわ」
「え?」
「ないと言っているのよ。そもそもここに客人が来るなんて事がない

のだから、必要ないじゃない」
あぁ、肥料を入れる倉庫ならあるわよ、と幽香。
「さすがに倉庫は嫌だぜ……」
「まぁそうよね」
ふと、自分の部屋を見渡す幽香。
そこで一つの案が浮かんだが、これを言ってしまったら魔理沙に嫌わ

れてしまうかもしれないという不安がよぎる。
「じゃあ、一緒に寝る?」
不安はあった。はっきり言って賭けにならないぐらいのリスクはあっ

た。
断られたらどうしよう。幽香の心臓は再び高鳴った。
「お、いいのか?」
そんな幽香の心配をよそに、魔理沙は二つ返事で承諾した。



同じベッドで寄り添う二人。
最初魔理沙は作業の進行具合を話していたが、眠くなってきたのか口

数が少なくなり、やがて黙ってしまった。
「……魔理沙?」
返事はない。
すぅすぅと、可愛らしい寝息だけが聞こえてきた。

ゆっくりと、決して魔理沙を起こさないように体の向きを変える幽香


180度向きを変えると、目の前に魔理沙の寝顔が見えた。
魔理沙は、幽香の方を向いて寝ていたのだ。
「~~~~ッ」
声にならない叫びが幽香の喉から漏れる。
また高鳴る鼓動。
10分ほどたっただろうか、幽香はだんだんと落ち着いてきた。
そして魔理沙の頬を軽く撫でた。
柔らかく、吸いつくような頬。
「魔理沙……」
語りかけるように呟く。

「幽香も趣味が悪いな、朝の仕返しか?」
片目を開け、幽香を見る魔理沙。
流石の幽香もこれには驚きを隠せず、体が反射的に伸びた。
「あ、朝のって?」
「私が寝顔を見た事だよ」
朝の会話を思い出す幽香。あぁ、そんな話もしたな。

「そうね、見られっぱなしじゃ嫌だから」
「負けず嫌いななんだな」

くすくすと笑う二人。
一瞬の間をおいて、幽香はある一つの質問を魔理沙に投げかけた。
「ねぇ魔理沙」
「なんだ?私は寝言なんて言わないぞ」
「あなた、魔法使いにはならないの?」
魔理沙は人間だ。妖怪や魔法使い、吸血鬼とは比べ物にならないほど

短い寿命。別れの日は、あっという間にやってくる。
そう、アリスとの別れもだ。
「ならない」
言いきった魔理沙の目には、微塵も迷いはなかった。
「どうして?」
幽香の言葉は、途中で止まった。魔法を研究するなら時間は長い方が

いい。そう言おうとする口先だけの言葉と、アリスと長くいられない

じゃない。という本心がせめぎ合い、続かなかった。
「魔法使いになったら、間違いなく時間は多くなる」
「けどさ、私は人間のままでやりたいんだ」
「幽香やアリスみたいに寿命が長いとさ、時間をかけたら何でもでき

るかもしれない」
「けど私は決められた人間の命で、寿命を目いっぱい使ってどれだけ

できるか挑戦してみたいんだ」
そう断言した魔理沙は、幽香にとって輝いて見えた。
誰にも言った事無いんだけどな……と、頬をかく魔理沙。
「そう」
幽香は一言言って、体を反対に向けた。眩しくて直視できなかったわ

けではない。
ただ、魔理沙が魔法使いにならないのならば、別れの時があっという

間に来てしまうという事実から目をそむけたかった。
ズキン、とした痛みが胸を刺す。
魔理沙がいなくなった世界。
人のいなくなった、寂れた霧雨邸。
勝手に押し入って朝食を作ったり、扉を壊す自己中心的な人物がいな

くなる。

幽香は、たまらなく不安になった。
背中に感じる命の鼓動、上下する体は今、ここにある。
けれども別れるときは、来る。それも幽香にとってはあっという間に



嗚呼、私は一人の人間に執着しすぎてしまったのか。
もっと距離を取っておけばよかったのか。
嫌、それも嫌だ。
零れてくる涙を抑えきれず、幽香は再び、枕を濡らした。





カンカンカン
翌朝、幽香は甲高い音に起こされた。何だというのだろう。
「お、起きたか」
魔理沙が扉の修理を再開していた。
昨晩見たものよりずっと進んでいて、ずいぶん早起きしたのだと気が

付く。
「精が出るわね」
涙の跡を見られないように顔をこすりながらの、朝の挨拶。
「あぁ、あともう少しだぜ」
「そう、じゃ頑張って。私は朝食の準備をしておくから」
「あ、私トースト派だから!」
厚顔無恥なリクエストを聞き流し、顔を洗う。

「朝、誰かがいるという生活も悪くないわね」
そう呟き、朝食の準備へ取りかかった。
朝食は、トーストとスクランブルエッグだ。

「ごちそうさまでした」
ペロリと平らげた魔理沙が手を合わせている。
「おそまつさま。もう扉は直ったのね?」
「ああ、完璧だぜ!」
「そう、お疲れ」
「それじゃ、帰って寝なおすかな」
魔理沙はちゃっちゃと外へ出て、箒を手に持つ。
「あら、寝られなかったの?」
「あぁ……あんまりな」
「じゃあゆっくり休んで」
「言われなくてもそのつもりさ」
「あ、そうそう」
「何?」
もう準備は完全に済み、後は帰るだけのように見える魔理沙が一言。
「また、来ても良いか?」
幽香は一瞬目を見開き、柔らかく微笑んだ。
「ちゃんとノックをしてからなら歓迎するわ」
「そうか、よし」
「手土産も忘れずにね」
「わかってるぜ」
魔理沙は一気に上昇して、朝日の中へ消えていった。

ふと、幽香は向日葵畑を見回し、気が付いた。
幽香と向日葵は、同じ方向を向いている事に。

「そうね、あの子は太陽みたいなものね」
長すぎる寿命を持てあます幽香とは違い、短い寿命を精いっぱい生き

る魔理沙の輝きが、世界中を照らす太陽に似ていた。
アリスも、きっとあの輝きに心を奪われたのだろう。
一人納得し、微笑みながら魔理沙が行った方角をしばらくの間眺めて

いた。


また、太陽はやってくるだろう。それまで向日葵たちと待っていよう




1年以上も間が空いてしまいましたが、ヒマワリとキノコの続編です。っていうか、これでおしまいです。
1年前に3を書いていたのですが、途中でうまく書けなくて放置し、最近見つけたので書き直したという感じです。
待ってらっしゃる方はいないと思いますが、自分の不甲斐なさにちょっと自己嫌悪……
3を読む前にできれば1と2を読んでいただきたいです。
自分で読み返すと赤面してしまいそうなほど拙い文章(今も)ですが、どうかよろしくお願いします。

それでは、また投稿する際はどうか見てやってください。
あ、幽香が魔理沙に抱いてるのは恋愛感情ではないです。ちょっとそれっぽく書きましたが。恋愛と友情の間?みたいな感じで受け取ってもらえたら嬉しいです。
それと名前つけてみました。依田(よだ)でお願いします。前のも変えておきました。

長々と失礼。
依田
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
幽マリはいいものだ
2.奇声を発する程度の能力削除
幽マリ!幽マリ!
3.名前が無い程度の能力削除
幽マリって少ないよね。なによりもそれが悲しい。