「ねえねえ、あんた寂しさが積もりに積もって、ついに家を建てちゃったって本当なの?」
「出し抜けに何言ってるんだ?」
「いやねえ、ちょっと小耳に挟んだのよ。てゐの言うことだから私もあんまり信じていないけどさ、どうにもねえ、あり得そうな話じゃない」
「もう一度殺すぞ」
「生き返ったらまた、同じこと言うわ」
「ならまた殺せばいい」
「それならまた生き返った後に言えばいいだけじゃない」
「ふーん……。それじゃ、輝夜が死んでる間に私が帰ったらどうするつもり? 独り言でもはじめるのか?」
「まさか、妹紅じゃあるまいし。それに貴女は帰らないわ。私と話すのが楽しいんでしょ? 寂しがり屋さん」
「鬱陶しいな」
「で、話戻すけど、実際のところどうなのよ。建てちゃったの? 小さい馬小屋みたいなの建設しちゃったの? ――あ、ちょっと妹紅、待って。待って! 待ってたら! もうっ」
「そろそろ妹紅の家かしら」
「触んな」
「あらごめんなさい。わざとじゃないのよ。それにしても竹林ってこんなに広かったのねえ。もう随分歩いた気がするけど、あんた、もしかして人気のない場所まで私を連れて行って……」
「……」
「釣れないねえ」
「そろそろ帰ったらどうだ、お姫様ちゃん。迷子になって、ご自慢の大きな屋敷に戻れなくなっても知らないぞ」
「ご心配なく。ご飯粒をまきながら歩いているから。帰りはそれを辿って戻るの」
「ご飯粒って、お前、目がいいんだな」
「いや、そこは本当に迷子になるのかよ! っていうのが本来の返しじゃないの?」
「迷子なのは知ってるからさ。でも本当に知らないぞ? あとから、家まで送っていって、とか駄々こねても聞こえないふりするから」
「足が痛い~。ちょっと休憩しましょうよ」
「勝手についてきて、どの口がほざくんだろう」
「じゃあ、おんぶして」
「はあ?」
「いいじゃない。お姫さま背負う機会なんて、そうそうないわよ」
「断る」
「それじゃ、何か食べ物を頂戴よ。お腹空いて動けないの」
「そこで餓死でもしたら?」
「ああ、待ってよ。置いて行かないで! ちょっと! 私、本当にここどこだか分からないのよ。妹紅!」
「貸しにしとくからな」
「オッケー」
「月の言葉やめろよ」
「ナウなヤングに流行ってるのよ」
「ホント、調子良いよなお前。――ああ、それにしても重いんだけど。もうちょっと運動したらどう? これじゃ豚を背負ってる気分だ」
「失礼ね。服が重いのよ。今日は重ね着してるし」
「見苦しい言い訳だな」
「それにしてもあんたの家、遠すぎるんだけど。ここどこよ」
「竹林の中に決まってるだろ。眼科に行った方がいいんじゃない?」
「そうね、私って最近目が悪いのよ。もしかすると妹紅の家が小さすぎて見えないかもしれないけど、その時はちゃんと私にまるで見えているかのように説明よろしく」
「お、見えてきた見えてきた。あらあら、立派に塀なんて作っちゃって。って、結構大きそうじゃない」
「……」
「ふむふむ。大きい家屋と、あら、あれは倉庫かしら。こぢんまりとしてる家っぽいのがあるけど」
「いや、そのちっさいのが私の家」
「へえ、こっちがあんたの家? 向こうの大きな家は倉庫か何かなの? ちょっと変な感じね。私なら、ていうか、誰もが向こうの大きい方を住居にすると思うんだけど。何よ。もしかして今まで財宝的なものを溜め込んでたのかしら? で、倉庫の方が家より大きくなったとか。ちょっとした笑い話みたいね。財宝を売って、もっと大きな家を建てればいいのに~とか」
「勝手に話を進めるのもいいんだけど、とりあえず、おりてくれない?」
「そうね。一応お礼言っとくわ。ありがとさん」
「なんか腹立つな」
「それにしては笑ってるじゃない」
「いや、というか本当に気づいてないのか? それともお得意のとぼけたふりか」
「何言ってるの妹紅?」
「だってここ、永遠亭だぞ」
「え……?」
「永遠亭の裏口側だよ。なんだ、その顔見るに、本当に分かってなかったのかよ」
「え、え? じゃあ、あれ、私の倉庫?」
「うん」
「でも、ちょっと待ってよ。前、ていうか、結構前だけど、その時ここに来たときは、あんな扉とか窓なんてなかったわよ。なんでよ」
「私がもらった」
「?」
「塀の修理を頼まれた時に、ついでにこの倉庫の掃除もやったんだけど、何にも中になかったからさ、ちょっと使わせてもらっていいかって銀髪の薬師に聞いたんだよ。そしたら、ご自由にオッケーとか言われてさ、ま、そんなわけで、今はあすこが私の家というわけだ」
「話がよく分からないんだけど、いや、この中に溜め込んでた私のコレクションはどうなったのよ!?」
「だから何もなかったって。私も変に思ったから聞いてみたけど、どうにもお前の生活費は全部、そのコレクションとやらを売ったお金から出てたらしいぞ。引き籠もってばかりだから、良い薬になるって、薬師が言ってた」
「そ、そんな……。じゃあ、てゐが言っていた妹紅の家って、ここのことだったの」
「一応中、見てみるか?」
「……」
「ほら、行くぞ」
「そんなに塞ぎ込むなよ。なんか可哀想になってきたわ」
「だって、だって、私何も知らなかったのよ。ひどいじゃない。ひどいじゃない。見てよこれ、タンスとかちゃぶ台とか、隅っこには布団まで畳んであるじゃないの! しかもいつ持ってきたのかしら、これ、昔私が使っていた鏡台なんだけど!」
「今は私の家だからな。何かお菓子持ってくる」
「そりゃ、確かに私は部屋からほとんど出なかったわよ。ご飯だって運ばせてたし、トイレだって部屋の隣に作らせたし、扇風機やコタツも用意させたし、布団はずっと引きっぱなしで、下着でずっと過ごしていたけど、でも、あんまりじゃないの。私のコレクションはお金に変えられるものじゃないのに! それに、なんでよりによって、妹紅に住居を貸してんのよ! 信じられない!」
「お茶飲む?」
「いらない!」
「質屋に行くか?」
「いや、屋敷に抗議してくる。主をあんまりにもないがしろにしすぎなのよ。ちょっと行ってくるわ」
「泣くなよ。なあ、そんな悲鳴みたいな声出すなって」
「だ、だって、私、どうした、どうしたらいいの、よ」
「でもまさかなあ、部屋まで追い出されて、お前、今からどうするの? 家なき子じゃん」
「私って、嫌われてたのかしら……」
「いや、そうじゃなくて、ちゃんとしてほしいからじゃないの? さすがにずっと追い出したままにしておくのは向こうの奴らも考えてないだろうし……」
「死にたい……。恥よ。一生の」
「良い経験できたじゃないか」
「……?」
「いやな、お姫さまとして、毎日悠々自適に暮らしてきたんだろう? 他人ばかり見下してさ」
「そ、そんなことないわ」
「ふーん。で、今からどうするわけ?」
「ここにいる」
「いや、ここ私の家だから」
「そんなこと言わないでよ! 元々私の倉庫じゃない!」
「そうだけど、今は私の家だもん」
「人でなし!」
「一度竹林で野ざらしの生活でも体験してくればいい」
「そんなの無理よ、死んじゃう」
「いや、生き返るだろ。何度でも」
「……死にたい」
「そうだなあ、なら、女中としてなら雇ってやってもいいぞ」
「召使いになれって言うの?」
「そういうこと。むしろ感謝してほしいよ。何もできないお前を雇ってくれるところなんて、まずないと思うし」
「そこまで分かってるなら、私に何をやらせようっていうのよ」
「いや、いきなり悲劇の女みたいに服を正すなよ。別にお前自身に何かしようとかないから。ないから」
「じゃあ、何が目的よ」
「そうだな、今まで姫君っていう生まれながらの身分にかまかけて調子に乗ってたろくでなしの、落ちぶれたところが見たいってこところかな」
「ひどい女……。あんたは、ひとでなしじゃない」
「ははは、次そんな口きいたら、追い出すからな」
「ご、ごめんなさい」
「冗談だよ。そんなに怯えるなんて、情けないな」
「だって、私もうどうしたらいいのか分からないんだもの」
「単純な話じゃないか。お前があんまりにも部屋に引き籠もって、何もしないから、愛想尽かされたってことだろ。まず、謝るのが先決だな。それから、今までの感謝の言葉なり、何か行動で、今までと違うところ見せたらいいんじゃないかな。屋敷の連中に散々迷惑かけてきたんだろう? それも相当な年月」
「うん……」
「さっきも意気込んで屋敷に行ったけど、どうせ高圧的に罵っただけなんだろう? 謝っていれば、また、違ったと思うんだけどなあ」
「そういうものなのかしら」
「そういうもんだぞ。その様子じゃ、屋敷の連中も相当苦労してたんだろうと、思わず涙が出てくるな」
「でも、今更謝りに行くなんてできないわよ。どんな顔して会えばいいのか分からないもの。みんなに会うのが恐いわ。だって、これって反乱じゃない。謀反よ。謀反。まさか主人に弓を引くような裏切り者たちだなんて、次は殺される」
「いや、お前不死身じゃん」
「心のダメージが大きすぎるのよ」
「ははは、お姫さまの心情を思うにさ、馬小屋みたいな家に、しかもその家主の女中として仕えるよりは、謝ったほうがいいじゃないの? そうしたらまた大きな屋敷の中でふんぞり返れるかもしれないぞ」
「嫌みはよしてよ。本当に、今……吐きそう」
「おいおい、ここでやらかすなよ。外に行け、外に」
「ああ、良い天気だな。風も涼しいし――なんだ、服ひっぱるなよ」
「ついてきてよ」
「屋敷まで?」
「うん」
「決心ついたの?」
「うん。ちゃんと謝ってくる。私、妹紅の言うとおり、好き勝手に振る舞いすぎていたのかもしれない」
「でも屋敷は目と鼻の先だぞ、一人で行けるだろうに」
「お願いだから一緒に来てよ」
「はあ、やっぱり情けないな」
「お願い」
「米粒まきながら来たんだろ。辿って戻ればいいだけじゃないか」
「だから、今嫌みはよしてよ!」
「悪かったよ。そうだな、姫様が倉庫暮らしじゃあんまりだものな」
「あ、ありがとう妹紅。私変わるわ。今日から、ちゃんとするの。お部屋の掃除もするし、みんなと一緒にご飯も食べる。それに、今までのお礼もちゃんと言わないと……。その倉庫も妹紅にあげる。馬小屋なんてからかってごめんなさい。素適な家になるといいわね」
「やれやれ、希望が見えてくると、調子良くなるのは相変わらずだなあ。ま、塞ぎ込んでいる輝夜を見るよりは、いいけどな。ほら、その決意したままの顔で、さっさと行こう。また泣きそうな顔になって、口から泣き言しかでなくなる前にさ」
「出し抜けに何言ってるんだ?」
「いやねえ、ちょっと小耳に挟んだのよ。てゐの言うことだから私もあんまり信じていないけどさ、どうにもねえ、あり得そうな話じゃない」
「もう一度殺すぞ」
「生き返ったらまた、同じこと言うわ」
「ならまた殺せばいい」
「それならまた生き返った後に言えばいいだけじゃない」
「ふーん……。それじゃ、輝夜が死んでる間に私が帰ったらどうするつもり? 独り言でもはじめるのか?」
「まさか、妹紅じゃあるまいし。それに貴女は帰らないわ。私と話すのが楽しいんでしょ? 寂しがり屋さん」
「鬱陶しいな」
「で、話戻すけど、実際のところどうなのよ。建てちゃったの? 小さい馬小屋みたいなの建設しちゃったの? ――あ、ちょっと妹紅、待って。待って! 待ってたら! もうっ」
「そろそろ妹紅の家かしら」
「触んな」
「あらごめんなさい。わざとじゃないのよ。それにしても竹林ってこんなに広かったのねえ。もう随分歩いた気がするけど、あんた、もしかして人気のない場所まで私を連れて行って……」
「……」
「釣れないねえ」
「そろそろ帰ったらどうだ、お姫様ちゃん。迷子になって、ご自慢の大きな屋敷に戻れなくなっても知らないぞ」
「ご心配なく。ご飯粒をまきながら歩いているから。帰りはそれを辿って戻るの」
「ご飯粒って、お前、目がいいんだな」
「いや、そこは本当に迷子になるのかよ! っていうのが本来の返しじゃないの?」
「迷子なのは知ってるからさ。でも本当に知らないぞ? あとから、家まで送っていって、とか駄々こねても聞こえないふりするから」
「足が痛い~。ちょっと休憩しましょうよ」
「勝手についてきて、どの口がほざくんだろう」
「じゃあ、おんぶして」
「はあ?」
「いいじゃない。お姫さま背負う機会なんて、そうそうないわよ」
「断る」
「それじゃ、何か食べ物を頂戴よ。お腹空いて動けないの」
「そこで餓死でもしたら?」
「ああ、待ってよ。置いて行かないで! ちょっと! 私、本当にここどこだか分からないのよ。妹紅!」
「貸しにしとくからな」
「オッケー」
「月の言葉やめろよ」
「ナウなヤングに流行ってるのよ」
「ホント、調子良いよなお前。――ああ、それにしても重いんだけど。もうちょっと運動したらどう? これじゃ豚を背負ってる気分だ」
「失礼ね。服が重いのよ。今日は重ね着してるし」
「見苦しい言い訳だな」
「それにしてもあんたの家、遠すぎるんだけど。ここどこよ」
「竹林の中に決まってるだろ。眼科に行った方がいいんじゃない?」
「そうね、私って最近目が悪いのよ。もしかすると妹紅の家が小さすぎて見えないかもしれないけど、その時はちゃんと私にまるで見えているかのように説明よろしく」
「お、見えてきた見えてきた。あらあら、立派に塀なんて作っちゃって。って、結構大きそうじゃない」
「……」
「ふむふむ。大きい家屋と、あら、あれは倉庫かしら。こぢんまりとしてる家っぽいのがあるけど」
「いや、そのちっさいのが私の家」
「へえ、こっちがあんたの家? 向こうの大きな家は倉庫か何かなの? ちょっと変な感じね。私なら、ていうか、誰もが向こうの大きい方を住居にすると思うんだけど。何よ。もしかして今まで財宝的なものを溜め込んでたのかしら? で、倉庫の方が家より大きくなったとか。ちょっとした笑い話みたいね。財宝を売って、もっと大きな家を建てればいいのに~とか」
「勝手に話を進めるのもいいんだけど、とりあえず、おりてくれない?」
「そうね。一応お礼言っとくわ。ありがとさん」
「なんか腹立つな」
「それにしては笑ってるじゃない」
「いや、というか本当に気づいてないのか? それともお得意のとぼけたふりか」
「何言ってるの妹紅?」
「だってここ、永遠亭だぞ」
「え……?」
「永遠亭の裏口側だよ。なんだ、その顔見るに、本当に分かってなかったのかよ」
「え、え? じゃあ、あれ、私の倉庫?」
「うん」
「でも、ちょっと待ってよ。前、ていうか、結構前だけど、その時ここに来たときは、あんな扉とか窓なんてなかったわよ。なんでよ」
「私がもらった」
「?」
「塀の修理を頼まれた時に、ついでにこの倉庫の掃除もやったんだけど、何にも中になかったからさ、ちょっと使わせてもらっていいかって銀髪の薬師に聞いたんだよ。そしたら、ご自由にオッケーとか言われてさ、ま、そんなわけで、今はあすこが私の家というわけだ」
「話がよく分からないんだけど、いや、この中に溜め込んでた私のコレクションはどうなったのよ!?」
「だから何もなかったって。私も変に思ったから聞いてみたけど、どうにもお前の生活費は全部、そのコレクションとやらを売ったお金から出てたらしいぞ。引き籠もってばかりだから、良い薬になるって、薬師が言ってた」
「そ、そんな……。じゃあ、てゐが言っていた妹紅の家って、ここのことだったの」
「一応中、見てみるか?」
「……」
「ほら、行くぞ」
「そんなに塞ぎ込むなよ。なんか可哀想になってきたわ」
「だって、だって、私何も知らなかったのよ。ひどいじゃない。ひどいじゃない。見てよこれ、タンスとかちゃぶ台とか、隅っこには布団まで畳んであるじゃないの! しかもいつ持ってきたのかしら、これ、昔私が使っていた鏡台なんだけど!」
「今は私の家だからな。何かお菓子持ってくる」
「そりゃ、確かに私は部屋からほとんど出なかったわよ。ご飯だって運ばせてたし、トイレだって部屋の隣に作らせたし、扇風機やコタツも用意させたし、布団はずっと引きっぱなしで、下着でずっと過ごしていたけど、でも、あんまりじゃないの。私のコレクションはお金に変えられるものじゃないのに! それに、なんでよりによって、妹紅に住居を貸してんのよ! 信じられない!」
「お茶飲む?」
「いらない!」
「質屋に行くか?」
「いや、屋敷に抗議してくる。主をあんまりにもないがしろにしすぎなのよ。ちょっと行ってくるわ」
「泣くなよ。なあ、そんな悲鳴みたいな声出すなって」
「だ、だって、私、どうした、どうしたらいいの、よ」
「でもまさかなあ、部屋まで追い出されて、お前、今からどうするの? 家なき子じゃん」
「私って、嫌われてたのかしら……」
「いや、そうじゃなくて、ちゃんとしてほしいからじゃないの? さすがにずっと追い出したままにしておくのは向こうの奴らも考えてないだろうし……」
「死にたい……。恥よ。一生の」
「良い経験できたじゃないか」
「……?」
「いやな、お姫さまとして、毎日悠々自適に暮らしてきたんだろう? 他人ばかり見下してさ」
「そ、そんなことないわ」
「ふーん。で、今からどうするわけ?」
「ここにいる」
「いや、ここ私の家だから」
「そんなこと言わないでよ! 元々私の倉庫じゃない!」
「そうだけど、今は私の家だもん」
「人でなし!」
「一度竹林で野ざらしの生活でも体験してくればいい」
「そんなの無理よ、死んじゃう」
「いや、生き返るだろ。何度でも」
「……死にたい」
「そうだなあ、なら、女中としてなら雇ってやってもいいぞ」
「召使いになれって言うの?」
「そういうこと。むしろ感謝してほしいよ。何もできないお前を雇ってくれるところなんて、まずないと思うし」
「そこまで分かってるなら、私に何をやらせようっていうのよ」
「いや、いきなり悲劇の女みたいに服を正すなよ。別にお前自身に何かしようとかないから。ないから」
「じゃあ、何が目的よ」
「そうだな、今まで姫君っていう生まれながらの身分にかまかけて調子に乗ってたろくでなしの、落ちぶれたところが見たいってこところかな」
「ひどい女……。あんたは、ひとでなしじゃない」
「ははは、次そんな口きいたら、追い出すからな」
「ご、ごめんなさい」
「冗談だよ。そんなに怯えるなんて、情けないな」
「だって、私もうどうしたらいいのか分からないんだもの」
「単純な話じゃないか。お前があんまりにも部屋に引き籠もって、何もしないから、愛想尽かされたってことだろ。まず、謝るのが先決だな。それから、今までの感謝の言葉なり、何か行動で、今までと違うところ見せたらいいんじゃないかな。屋敷の連中に散々迷惑かけてきたんだろう? それも相当な年月」
「うん……」
「さっきも意気込んで屋敷に行ったけど、どうせ高圧的に罵っただけなんだろう? 謝っていれば、また、違ったと思うんだけどなあ」
「そういうものなのかしら」
「そういうもんだぞ。その様子じゃ、屋敷の連中も相当苦労してたんだろうと、思わず涙が出てくるな」
「でも、今更謝りに行くなんてできないわよ。どんな顔して会えばいいのか分からないもの。みんなに会うのが恐いわ。だって、これって反乱じゃない。謀反よ。謀反。まさか主人に弓を引くような裏切り者たちだなんて、次は殺される」
「いや、お前不死身じゃん」
「心のダメージが大きすぎるのよ」
「ははは、お姫さまの心情を思うにさ、馬小屋みたいな家に、しかもその家主の女中として仕えるよりは、謝ったほうがいいじゃないの? そうしたらまた大きな屋敷の中でふんぞり返れるかもしれないぞ」
「嫌みはよしてよ。本当に、今……吐きそう」
「おいおい、ここでやらかすなよ。外に行け、外に」
「ああ、良い天気だな。風も涼しいし――なんだ、服ひっぱるなよ」
「ついてきてよ」
「屋敷まで?」
「うん」
「決心ついたの?」
「うん。ちゃんと謝ってくる。私、妹紅の言うとおり、好き勝手に振る舞いすぎていたのかもしれない」
「でも屋敷は目と鼻の先だぞ、一人で行けるだろうに」
「お願いだから一緒に来てよ」
「はあ、やっぱり情けないな」
「お願い」
「米粒まきながら来たんだろ。辿って戻ればいいだけじゃないか」
「だから、今嫌みはよしてよ!」
「悪かったよ。そうだな、姫様が倉庫暮らしじゃあんまりだものな」
「あ、ありがとう妹紅。私変わるわ。今日から、ちゃんとするの。お部屋の掃除もするし、みんなと一緒にご飯も食べる。それに、今までのお礼もちゃんと言わないと……。その倉庫も妹紅にあげる。馬小屋なんてからかってごめんなさい。素適な家になるといいわね」
「やれやれ、希望が見えてくると、調子良くなるのは相変わらずだなあ。ま、塞ぎ込んでいる輝夜を見るよりは、いいけどな。ほら、その決意したままの顔で、さっさと行こう。また泣きそうな顔になって、口から泣き言しかでなくなる前にさ」