Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

現実と、妄想と

2010/07/08 21:39:35
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 ◇ ◇ ◇



「お姉様ー」

 可愛い声を上げながら私の背中に抱きついてきたのは、愛すべき私の妹・フランドール。
 私は振り返り、その小さな頭を優しく撫でてやる。

「どうしたのフラン。そんなに慌てて」
「えへへ。お姉様が見えたから飛びついちゃった」

 にっこりと、満面の笑顔で言うフラン。
 
「そうかそうか。こいつめ」
「きゃあ」
 
 私はその柔い頬に自分の頬をくっつけると、すりすりと上下に動かした。
 フランは少しくすぐったそうにしているものの、嫌がる素振りは微塵も見せない。

「……ねぇ、お姉様」
「ん?」
「……お姉様はフランのこと、好き?」

 ふいに訊ねる、その瞳は少し寂しげで。
 私は優しく微笑んだまま、その頬に軽く手を添えた。

「当たり前でしょう」
「本当?」
「神に誓って」

 悪魔だけどね。
 そう言って笑うと、フランも笑った。

「ねぇ、フラン」
「ん?」
「そういうフランは、お姉ちゃんのこと好き?」
「ふぇっ!?」
「ね、好き?」
「そ、そそっそ、それはぁ……」
「んー?」
「うぅ~……」

 フランは、みるみるうちに顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 意地悪な私は、その顔をぐぃっと覗き込むようにして、さらに訊ねる。

「ねえ、どうなのフラン?」
「う、うぅ……」
「お姉ちゃんのこと、好き? それとも……嫌い?」
「嫌いなわけない!」

 その瞬間、フランが大きな声で叫んだ。
 思わず、絶句する私。

「あ……」

 するとすぐに、また顔が赤くなっていくフラン。
 私はくすくすと笑いながら、その頭を再び撫でる。

「ありがとう、フラン」
「うー……」
「でもまだ、お姉ちゃんの質問には、答えきってないわよね」
「うぇ!?」
「だって、フランがお姉ちゃんのこと、『嫌いじゃない』っていうのは分かったけど……『好きかどうか』はまだ分からないもの」
「う、うーっ……お姉様の、イジワル……」
「ごめんね、フラン。意地悪なお姉ちゃんを許して頂戴」

 ぐすっ、と鼻をすするフランの頬にまた手を添える。
 フランは少し潤んだ大きな瞳を、ぱちくりと瞬かせた。

「……さあ、聞かせて頂戴」
「う、うん……」

 フランは小さく頷くと、私の目をまっすぐに見据えて言った。

「お、お姉様のこと……すき、です……」

 言い終えるや、フランはまたすぐに俯いてしまった。
 微かな引力を感じて下を見ると、その小さな手が、私のスカートをぎゅっとつまんでいた。

「……ありがとう、フラン」

 私はフランを優しく抱き寄せる。
 そして、その耳元で囁いた。

「愛してるわ」
「うん……私も」

 そう呟いて、私の胸に顔を埋めるフラン。
 私はその細い腰に両腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。





 ◇ ◇ ◇



「うえへへ……」
「何笑ってんのお姉様。キモイんだけど」
「あ、ごめんなさい」

 読書中の妹から侮蔑に満ちた視線で睨まれ、私は脊髄反射的に謝罪をした。
 
「何? また妄想してたの?」
「う、うん。お姉ちゃん、ちょっと妄想癖あるから」
「あっそ。しねばいいのに」
「…………」

 吐き捨てるようなその台詞に、私はふっと自嘲する。
 涙なんざとうに枯れたわ。

「あーあ。それにしてもこの椅子硬いわね。お尻が疲れちゃうじゃないの」
「じゃ、じゃあフラン、自分の部屋に戻ったら……」
「はあ? なんでお姉様にそんな指図されなきゃいけないのよ」
「あ、うん。ごめんね、フラン」
「ふんっ」

 妹は私から目を背けると、再び手元の本に視線を落とした。
 私は読書に勤しむ妹を見つめながら、そういえばこの子は昔から本が大好きだったわね、と思い出す。

 
 そう、昔から―――……。





 ◇ ◇ ◇



 遡ること数十年前。
 お盆に載せたケーキセットを片手に、私はフランの部屋を訪れた。

 ベッドの上で読書をしていたフランは、私の姿に気付くと、すぐに読んでいた本を閉じて脇に置いた。
 そして、とびっきりの笑顔で言う。

「いらっしゃい! お姉様!」
「こんにちは、フラン。今日は何の本を読んでいたの?」
「えっとね。空の写真がたくさん載った本だよ。お姉様」
「空の写真?」
「うん」
 
 覗き込む私に向けて、いそいそと本を開いて見せるフラン。

「ほら、これとか!」
「あら、綺麗ね」

 開かれたページに載っていたのは、透き通るような青空の写真だった。
 フランは、それを見ながらにこにこと満面の笑みを浮かべている。

「……フランは、空が好き?」
「うん! ……本物の空は、見たことないけど」
「…………」

 胸が、ちくりと痛む。
 するとすぐに、フランはぶんぶんと首を振った。

「……ううん。違うや」
「えっ」
「見たことないから、好きなんだ」
「……見たこと、ないから?」
「うん。本物の空を見たことがないからこそ、頭の中で色々想像できて……だから、好き」
「…………」
「もし本物の空を見ちゃったら、そういうのもできなくなっちゃうから……だから、うん。本物の空は、別に見なくてもいいかな」
「…………フラン」

 思わず、抱きしめた。

「……お、お姉様?」

 その健気な表情を、それ以上見ていられなくて。

「…………」
「お、お姉様……」

 本当は、本物の空が見たいだろうに。
 本当は、透き通るような青空の下で、心ゆくまで過ごしたいだろうに。


 なのに、この子は。


「……ごめん」
「えっ」
「ごめんね。フラン……」

 私の言葉に、フランは優しく首を振る。
 
「お姉様のせいじゃないよ」

 フランはそう言って、私の背中に両手を回した。
 私も一層強く、彼女の体を抱きしめる。 

「ありがとう。フラン……」

 時間も忘れて、ただただ、私達は、互いに互いを抱きしめあった。





 ◇ ◇ ◇



「うえへへ……」
「何笑ってんのお姉様。キモイんだけど」
「あひ、ご、ごへんなひゃい」

 妹にぎりぎりと頬をつねられ、またも私は謝罪を余儀なくされた。
 妹はびっと手を放すと、侮蔑に満ちた視線で言う。

「何? また脳内で過去捏造してたの?」
「う、うん。お姉ちゃん、ちょっと思い出を美化する傾向にあるから」
「…………キモチワルイ」

 まごころを、君に。

 うん、いいのよ別に。
 いつものことだから。


 ―――つまり、どういうことなのかというと。


 結局のところ、純情で純粋で素直で素朴な妹は、私の妄想の中にしかいないのだ。
 そして、怖くて荒んでて暴力的で嗜虐的な妹こそが、現実に存在する、私の妹なのだ。

 だから私は、妄想に逃げ込む。

 怖くて荒んでて暴力的で嗜虐的な現実の妹から逃れるために、純情で純粋で素直で素朴な妄想の中の妹に会いに行くのだ。
 私が再び、妄想の中の妹に会いに行こうと目を閉じると、現実の妹が声を発した。

「あーあ。それにしても、ホンットこの椅子硬いわね。お尻が痛くて仕方がないわ」
「……じゃ、じゃあ、フラン」
「なによ」
「……お、降りたらどうかしら。そ、その……」
「…………」

 無言で此方を睨み続ける妹に脅えながら、私は震える声で言った。































「…………私の、膝から」


 



現実は、妄想より奇なり。



                  ―――R・スカーレット
まりまりさ
http://twitter.com/mari9marisa
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
仲良し姉妹、素敵です。
なんだかんだフランちゃんも甘えっこですね。
すこぶる可愛かったです。
2.高純 透削除
現実から目を逸らしたせいで目の前のフラグに気づけないレミリア。
そりゃ、フランの機嫌も悪くなるというものですね。
3.名前が無かった程度の能力削除
まりまりささんのフラレミ!!
眼福です!眼福です!
4.奇声を発する程度の能力削除
素晴らしすぎる!
そして、後書きが上手い!
5.名前が無い程度の能力削除
どんなフランちゃんでもお嬢様は受け入れてくれる!
6.名前が無い程度の能力削除
こっrは続け…!
7.名前が無い程度の能力削除
どっちのフランも素敵じゃんか!!
>「あーあ。それにしてもこの椅子硬いわね。お尻が疲れちゃうじゃないの」
二回言うほどだ。(現実の私にも興味もってよ…!)としか聞こえない。
8.名前が無い程度の能力削除
どうみてもフラグクラッシャーです。本当にあrg
つーかフランがマジ可愛いすぎて困るんだが
9.桜田ぴよこ削除
レミフラごちそうさまです!
素直に甘えられないフランちゃんかわいいです!
10.名前が無い程度の能力削除
オチ読めたけどニヤニヤが止まりませんでした。