マリアリ。いやアリマリ…か?
咲夜さんが瀟洒じゃないね。出番少ないけど。
「ねえ魔理沙」
「んあ?どうした霊夢」
博麗神社。幻想郷の隅にある参拝者が全く来ないことで有名な神社。
現在私はそこで友人である博麗霊夢とお茶を飲みながらぐだーっとしている最中である。
「最近アリスとはどうなの?」
「へ?う、うん。順調にお付き合いしてるぜ?
この前なんかさ…」
「あー、いやいやそうじゃなくて」
お付き合い。
そう、私、霧雨魔理沙はこの一ヶ月前にアリス・マーガトロイドに一世一代の大告白をして恋人どうしになったのだ。
今でも告白したときの彼女の顔が忘れられない。はぐらかされて我慢できず、答えを求めたときの彼女の顔といったらもう可愛くて可愛くて。ああ…アリスと恋人なんだよな…えへへへ。
「魔理沙顔」
「おっといけねぇ。
それでなんだよ」
「いやさあ…単刀直入に聞くけど…」
「うん」
「あんたたちもうヤッたの?」
「やったって…何をだ?」
「あんた鈍いわね。つまりもうアリスを抱いたかってこと」
「ああそれなら昨日もいっぱい抱き締めたぜ?」
なかなか恥ずかしいんだが、アリスの腕の中は凄く安心して落ち着くからやめれないんだなこれが。
「…本当鈍いわね。」
「なんだよ言いたいことはっきり言えって…ずずず」
しかし、このお茶やはりとても薄い。出がらしもここまで来ると節約を通り越して何かの修行なんじゃないかって思えてくる。
「だからぶっちゃけもうアリスとエッチしたかってこと!」
「ぶほぅ!!」
盛大にお茶噴いた。
「いや、そんな驚かないでよ。聞いた私が恥ずかしくなる」
「ああ、ごめん。…ってなにいってんだ!え、ぇっちだなんて…」
「その様子じゃまだみたいね。…あんたにはまだ早いか」
「な!?ばっ、馬鹿にすんな!!」
全くいきなりなんてこというんだこの紅白莫迦は。そんなのふじゅんっていうんだぜ頭ピンク色しすぎだぜ全くどうしようもないなこいつそんなんだからいつも
「うっさい」
「ぐは。しまったつい声に…」
いやいや落ち着け自分。落ち着くために再びお茶を飲もうとして…。
「じゃあキスは?」
「ぶはえぇ!?」
また盛大にお茶噴いた。
「…ちょっと魔理沙、あんたアリスと恋人になって一ヶ月たつけど、まだキスすらしてないの?」
「いやそのほら…そういうのは…もっとこう……親密になってからというか…なんというか…うぅ」
いやだってキスだぜ?アリスの顔を間近にだぜ?…とてもじゃないが耐えられないと思う。主に私の羞恥心が。下手すりゃ意識が翔ぶぞ。いやマジで。
「そっ、そう言う霊夢はどうなんだよ?咲夜との関係は」
「うーん、あいつ何時も大人ぶってるくせにかなりの初心でねぇ。あんまりヤらせてくれないのよ…この前なんかちょっとキス中に舌入れただけで顔真っ赤にして…」
そりゃあいきなり舌入れられたら誰だって赤くなるだろう。
「普通よ。」
いや普通じゃない。
「ふ~ん」
霊夢は何を考えているのかニヤニヤと嫌な笑い方をしている。…お茶は飲まないでおこう。
「ま、あんたにはバードキスすらまだ早いか」
「んな!?」
お茶飲んでなくてよかったぜ…じゃなくて!!
「ディープなキッスなんてもっての他かしら~?」
なんて言ってきやがる。
うわ~これ絶対巫女の顔じゃないぞ。しかし。
「ば、馬鹿にすんな!!
キスぐらいできるわ!!」
アリスとは恋人同士なんだしできるはずだ。…たぶん。
しかし霊夢は相変わらず意地悪なにやけ顔をしながらこちらを見てくる。くそ、零距離ファイルスパークかますぞ。
「え~本当かな~?あんたへたれだし。
…あら、もう帰るの?」
「急に用事を思い出した!帰る!!あと私はへたれじゃない!!」
帽子を深く被り箒を持ち、勢い良く飛び乗る。そのまま足元にイラつきを叩き付けるようにして一気に最大戦速で飛び出した。
後ろから「頑張ってねー。ま、期待はしてないけど」なんて聞こえてきた。うるせぃ。
………
勢い良く出てきたのはいいが、素直にアリスの家に行くとなんかあいつの思い通りな気がして嫌だな。…決して今アリスに会ったら、確実に恥ずかしくて顔が見れなくなるとか自分からキスする自信がないとかじゃないからな。
そんなこんなで私は魔法の森上空をぐるぐると旋回していた。
「うー」
いや、でも恋人に会いに行くのにそんなの関係ないか。
「うー」
いやでも今まともに話せる自信ないなぁ。
「うー」
ああ、さっきから唸ってばかりだ。はぁ、私ってこんなにもヘタレだったのか。霊夢に言い返すことができないな。
…仕方ないか。いい加減諦めて、自分の家に帰ろうとして…。
「ん?、魔理沙?奇遇ね」
「うん?」
「どうも。これから帰るとこ?」
悪魔の犬こと紅魔館のメイド長、そして霊夢の恋人である十六夜咲夜に出会った。
「あ、そうそうあんたいい加減本返しなさい?こっちも大変なんだから。主にパチュリー様の小言聞くのにね」
「死ぬまで借りるって言ったぜ?それにお話の相手をするのもメイドの立派な仕事だろ?」
「自分に責の無いお説教は聴かない主義なの。大体あんたね…」
「…ああ」
なんだか咲夜のよく動く唇を見ているとさっきの霊夢の言葉を思い出してしまう。
『バードキスすら……舌入れただけで……』
何だろうか、無性に気になってしまい恥ずかしくも思わず聞いてしまった。
「なあ、咲夜」
「ん?なによ」
「キスするって、…どんな感じだ?」
「はぃィ!?…キ、キス…?」
キスという単語だけで顔を赤くするなんて…こいつ本当にメイド長か?
まぁ私も人のこと言えんがな。
「えっと…なんでそんな急に…」
「教えてくれ」
理由なんて特にない。ただ、
どんなものなのか知れたなら、アリスにキスできるかもしれないから。
「そ、そうね、キスの感じよね…」
そうしてしばらく恥ずかしがった後、顔を赤くしながらも咲夜は語り始めた。
「そう…そう、ね。キスされると、相手の気持ちが…伝わってくるんじゃないかしら」
「気持ちが伝わってくる…?」
「ええ」
ちょっと惚気かもしれないけど、と言いながら彼女は話を続ける。
「霊夢はよく私に迫って来るわ。私たちは人間。一生が短く、常時生殖可能な種族だから仕方ないし、好きでもない相手とそういう事する訳無いってわかってるんだけど…。たまに不安になるの。私のことが好きなんじゃ無くて私の体が好きなんじゃないかって」
「咲夜…」
咲夜はそこで少し複雑そうな顔をしていたが。
でも直ぐにその表情は消え失せて、
「でも…ね、キスをされる度にわかるのよ、愛を囁かれずとも。自惚れかもしれないけど、
ああ、やっぱり愛されてるなぁって。…伝わるの。そう、感じるの」
「…」
そう言う咲夜の横顔が、なんだかとても幸せそうなものに見えて。
「…サンキュー咲夜!
じゃ、私は今から行く所があるから!」
「あ、ええ。今度ちゃんと本返しに来なさいよ?」
今は霊夢の嫌味なんか気にならない。キスのことはともかく今はただ早くアリスに会いたかった。足早にアリスの家に向かい、その扉をノックする。
「お~い、アリス~」
「あ、魔理沙。いま開けるわね」
「や、アリス」
さっきまでお菓子でも焼いていたのか、奥から甘い香りが漂っている。
アリスをよく見ると可愛らしいフリルの付いた純白のエプロンを着けていた。…か、かわいい。
「いらっしゃい魔理沙。まぁ上がって」
「ああ、お邪魔するぜ」
アリスの家は私と違って非常に片付いていて、女の子っぽい。私の乱雑な家とは大違いだ。それでいてどこか大人っぽい雰囲気が漂っているのが不思議だ。ほんとは私より年下のくせに…。
「ちょっとまってね、いまお茶を入れるわ」
「お、サンキュー」
机を挟んで向かい合わせ。美味しい紅茶に舌鼓。他愛のない話に華を咲かせて笑い合う。まあ、優雅なティータイムってやつだ。
「でね、サラの下らない冗談にみんなしんとしたときに、誰のでもない声が聞こえたの」
「魔界にも幽霊の類がいたのか?それでなんて聞こえたんだ」
「それがね、『たくましいな』だって」
暖かな陽光。穏やかな会話。優しい雰囲気。ああ、幸せだぜ。…しかし困った。さっきは勢いに任せてただアリスに会いたいって思ってただけだったけど…いざとなるとなかなか言いだせない。
「なんだそりゃ。まるで誰かの髪の毛じゃないか」
「ふふ、まったくね」
会話が一段落し、間ができる。言うなら今しかないが…どうするんだ私。いやいやへたれなんて私のキャラじゃないぜ。無いはずだぜ?
私が静かに、しかし盛大に葛藤しているとふいにアリスが口を開いた。
「ところで魔理沙」
「へ?」
「何か話があるんでしょ?」
「え…?なんで…」
いつも用もなく押し掛けてたから、言わないとわからないと思ったのに…以心伝心ってやつ?恋心がなせる技か?そうなのか?
「うん、さっき霊夢が来てね、後で魔理沙が来て大事な話を私にするだろうって」
「ああなんだ…それでかなるほど霊夢がね…はぁ」
「?」
霊夢が根回ししてたのか。通りでね…。全く余計なことしてくれるぜ。お前は私の保護者じゃないだろうに。しょうがないやつだぜ。
…ん?
…って霊夢か、
…じゃなくて!!
なんだと!?
霊夢の奴め…!人の恋路ほど見てて面白いものはないってか?
くそっ、あいつのニヤニヤ顔が目に浮かぶぜ…。こんなことなら迷わずさっさとアリスの家に行っとくんだったぜ…。
「どうしたの?食らいボム失敗したときみたいな顔して」
「私は食らう前にマスパ使うのぜ」
いけないいけない。落ち着け私。平常心だ。よし円周率を数えるんだ…産医師異国に向こう……?…もうπでいいじゃないか…。
「魔理沙?さっきから黙っちゃって…どこか具合悪いの?」
「うわぁ!」
まずい。アリスの顔が近い。霊夢の言葉がちらついて、思考がうまく作動しない。
「あの…その、えっと…」
さっきまで純粋にアリスにこの想いを伝えたいと思っていたのに。言葉が空気となって口から次々と抜けていく。
「ア…アリス、その…」
何か言わないと。
でもその何かが頭から逃げていく様に何も言えない。なんだよ、大好きって、キスしようって言えばいいだけじゃないか。告白だってできたんだ。簡単じゃないか。
だけど…、
「アリス…く、うぅ」
「ま、魔理沙!?」
情けない。実に情けない。ただ気持ちを伝えて、その唇に…。
気持ち?…そう言えば、何か…。
…いや違う、な。その前に気にすべきことがあっただろう。今まではあまり考えていなかったが、これはとても重要なことだと思う。
「あ、ありすはっ」
「…うん」
今私は彼女とキスがしたいと思っている。だが彼女は果たしてそう思っているだろうか。私とキスがしたい、と。
…思えば今までどうだった?
抱き合うとき。何時も何時も私が抱いてから彼女も抱き返してきていた。
好きだと告白したとき。あれも私が答えをせがむまで返事をくれなかった。
日常のたわいない会話のとき。今日はともかく、何時も私が会話を始めないと互いに黙ったままだった。
恥ずかしがっている。そう言ってしまえばそこまでだが、やっぱり不安になってしまう。
もしかして、アリスは私に本気でないんじゃないかって。適当に、手ごろな私を選んだのでは、いや手に取ってみただけなのでは、と。
「わ、わたしのことどうおもってっ…わ!」
「まりさ」
気づけば、私はアリスの腕の中にいた。…彼女から抱きついてくれたのはこれが始めてだ。
後ろに回された右腕は背中をぽんぽんと、まるであやすかのように叩き、左腕は私の頭を撫でてくれていた。
そして彼女は私の肩に顔を埋めた。横目に見える彼女の耳は、赤い。
「ごめんね、魔理沙」
「え?」
「ホントはね、私から告白したかったし、私から抱きしめてあげたかったし、もっと一杯たわいの無いお話を振ってあげたかった」
「そう、なのか」
「でもね、何でかな。とても恥ずかしくて、なかなか言い出せなかった。どうしてもお姉さんぶって余裕を振り撒いて誤魔化してしまっていた。貴方の方がよっぽど恥ずかしかったのに…ごめんね」
「ありす…」
「でもそれじゃいけないよね。貴方を不安になんかさせたくない」
アリスが私の瞳を覗き込んでくる。顔真っ赤だ。多分私も。
「だからね」
「うん」
「私の想い、感じてください」
顎に手を沿え、目を瞑り、ゆっくりと近づいてくる。
…ちぇ。アリスはずるいぜ。今の今まで散々後手に回ってきたくせに、こんなときだけ先手に回るだなんて。
…でも、こんなときだからこそ、うれしい。
「魔理沙」
「アリス」
…
当初の予定とは大分違っていたが。
なるほど、確かに咲夜の言った通りだ。想いが伝わり、伝わってくる。愛を囁く必要もないし、自惚れる必要もない。
ああ。やっぱり愛されてるなぁ。解る。
つまりそれはアリスにも同じことが言えるわけで。
大好き、愛してる。
ああ、伝わる。そう、感じる。
おまけ
「ほー、やればできるじゃないの。っていっても行動したのはやっぱアリスからか」
「霊夢。駄目よ覗きなんか。それに、そんな熱心に…」
「んー?はは~ん。妬かない妬かない」
「だ、誰が妬いてなんか…!」
「ああ、静かにしないとばれるでしょうが。ええい黙らないならこうよ!」
「ん!んん、あっ…」
「ぷはっ。心配しないの。貴方以外眼中なし。解るでしょ?それとも…もっとキスしないと伝わらないかしら?」
「あ…霊夢…大好き」
「私もよ。さて、これ以上見るのも流石にかわいそうだし。帰りましょう?」
「ええ…」
「ふふふ、心配せずとも帰ったら続きしたげるから」
「…ばかね」
咲夜さんが瀟洒じゃないね。出番少ないけど。
「ねえ魔理沙」
「んあ?どうした霊夢」
博麗神社。幻想郷の隅にある参拝者が全く来ないことで有名な神社。
現在私はそこで友人である博麗霊夢とお茶を飲みながらぐだーっとしている最中である。
「最近アリスとはどうなの?」
「へ?う、うん。順調にお付き合いしてるぜ?
この前なんかさ…」
「あー、いやいやそうじゃなくて」
お付き合い。
そう、私、霧雨魔理沙はこの一ヶ月前にアリス・マーガトロイドに一世一代の大告白をして恋人どうしになったのだ。
今でも告白したときの彼女の顔が忘れられない。はぐらかされて我慢できず、答えを求めたときの彼女の顔といったらもう可愛くて可愛くて。ああ…アリスと恋人なんだよな…えへへへ。
「魔理沙顔」
「おっといけねぇ。
それでなんだよ」
「いやさあ…単刀直入に聞くけど…」
「うん」
「あんたたちもうヤッたの?」
「やったって…何をだ?」
「あんた鈍いわね。つまりもうアリスを抱いたかってこと」
「ああそれなら昨日もいっぱい抱き締めたぜ?」
なかなか恥ずかしいんだが、アリスの腕の中は凄く安心して落ち着くからやめれないんだなこれが。
「…本当鈍いわね。」
「なんだよ言いたいことはっきり言えって…ずずず」
しかし、このお茶やはりとても薄い。出がらしもここまで来ると節約を通り越して何かの修行なんじゃないかって思えてくる。
「だからぶっちゃけもうアリスとエッチしたかってこと!」
「ぶほぅ!!」
盛大にお茶噴いた。
「いや、そんな驚かないでよ。聞いた私が恥ずかしくなる」
「ああ、ごめん。…ってなにいってんだ!え、ぇっちだなんて…」
「その様子じゃまだみたいね。…あんたにはまだ早いか」
「な!?ばっ、馬鹿にすんな!!」
全くいきなりなんてこというんだこの紅白莫迦は。そんなのふじゅんっていうんだぜ頭ピンク色しすぎだぜ全くどうしようもないなこいつそんなんだからいつも
「うっさい」
「ぐは。しまったつい声に…」
いやいや落ち着け自分。落ち着くために再びお茶を飲もうとして…。
「じゃあキスは?」
「ぶはえぇ!?」
また盛大にお茶噴いた。
「…ちょっと魔理沙、あんたアリスと恋人になって一ヶ月たつけど、まだキスすらしてないの?」
「いやそのほら…そういうのは…もっとこう……親密になってからというか…なんというか…うぅ」
いやだってキスだぜ?アリスの顔を間近にだぜ?…とてもじゃないが耐えられないと思う。主に私の羞恥心が。下手すりゃ意識が翔ぶぞ。いやマジで。
「そっ、そう言う霊夢はどうなんだよ?咲夜との関係は」
「うーん、あいつ何時も大人ぶってるくせにかなりの初心でねぇ。あんまりヤらせてくれないのよ…この前なんかちょっとキス中に舌入れただけで顔真っ赤にして…」
そりゃあいきなり舌入れられたら誰だって赤くなるだろう。
「普通よ。」
いや普通じゃない。
「ふ~ん」
霊夢は何を考えているのかニヤニヤと嫌な笑い方をしている。…お茶は飲まないでおこう。
「ま、あんたにはバードキスすらまだ早いか」
「んな!?」
お茶飲んでなくてよかったぜ…じゃなくて!!
「ディープなキッスなんてもっての他かしら~?」
なんて言ってきやがる。
うわ~これ絶対巫女の顔じゃないぞ。しかし。
「ば、馬鹿にすんな!!
キスぐらいできるわ!!」
アリスとは恋人同士なんだしできるはずだ。…たぶん。
しかし霊夢は相変わらず意地悪なにやけ顔をしながらこちらを見てくる。くそ、零距離ファイルスパークかますぞ。
「え~本当かな~?あんたへたれだし。
…あら、もう帰るの?」
「急に用事を思い出した!帰る!!あと私はへたれじゃない!!」
帽子を深く被り箒を持ち、勢い良く飛び乗る。そのまま足元にイラつきを叩き付けるようにして一気に最大戦速で飛び出した。
後ろから「頑張ってねー。ま、期待はしてないけど」なんて聞こえてきた。うるせぃ。
………
勢い良く出てきたのはいいが、素直にアリスの家に行くとなんかあいつの思い通りな気がして嫌だな。…決して今アリスに会ったら、確実に恥ずかしくて顔が見れなくなるとか自分からキスする自信がないとかじゃないからな。
そんなこんなで私は魔法の森上空をぐるぐると旋回していた。
「うー」
いや、でも恋人に会いに行くのにそんなの関係ないか。
「うー」
いやでも今まともに話せる自信ないなぁ。
「うー」
ああ、さっきから唸ってばかりだ。はぁ、私ってこんなにもヘタレだったのか。霊夢に言い返すことができないな。
…仕方ないか。いい加減諦めて、自分の家に帰ろうとして…。
「ん?、魔理沙?奇遇ね」
「うん?」
「どうも。これから帰るとこ?」
悪魔の犬こと紅魔館のメイド長、そして霊夢の恋人である十六夜咲夜に出会った。
「あ、そうそうあんたいい加減本返しなさい?こっちも大変なんだから。主にパチュリー様の小言聞くのにね」
「死ぬまで借りるって言ったぜ?それにお話の相手をするのもメイドの立派な仕事だろ?」
「自分に責の無いお説教は聴かない主義なの。大体あんたね…」
「…ああ」
なんだか咲夜のよく動く唇を見ているとさっきの霊夢の言葉を思い出してしまう。
『バードキスすら……舌入れただけで……』
何だろうか、無性に気になってしまい恥ずかしくも思わず聞いてしまった。
「なあ、咲夜」
「ん?なによ」
「キスするって、…どんな感じだ?」
「はぃィ!?…キ、キス…?」
キスという単語だけで顔を赤くするなんて…こいつ本当にメイド長か?
まぁ私も人のこと言えんがな。
「えっと…なんでそんな急に…」
「教えてくれ」
理由なんて特にない。ただ、
どんなものなのか知れたなら、アリスにキスできるかもしれないから。
「そ、そうね、キスの感じよね…」
そうしてしばらく恥ずかしがった後、顔を赤くしながらも咲夜は語り始めた。
「そう…そう、ね。キスされると、相手の気持ちが…伝わってくるんじゃないかしら」
「気持ちが伝わってくる…?」
「ええ」
ちょっと惚気かもしれないけど、と言いながら彼女は話を続ける。
「霊夢はよく私に迫って来るわ。私たちは人間。一生が短く、常時生殖可能な種族だから仕方ないし、好きでもない相手とそういう事する訳無いってわかってるんだけど…。たまに不安になるの。私のことが好きなんじゃ無くて私の体が好きなんじゃないかって」
「咲夜…」
咲夜はそこで少し複雑そうな顔をしていたが。
でも直ぐにその表情は消え失せて、
「でも…ね、キスをされる度にわかるのよ、愛を囁かれずとも。自惚れかもしれないけど、
ああ、やっぱり愛されてるなぁって。…伝わるの。そう、感じるの」
「…」
そう言う咲夜の横顔が、なんだかとても幸せそうなものに見えて。
「…サンキュー咲夜!
じゃ、私は今から行く所があるから!」
「あ、ええ。今度ちゃんと本返しに来なさいよ?」
今は霊夢の嫌味なんか気にならない。キスのことはともかく今はただ早くアリスに会いたかった。足早にアリスの家に向かい、その扉をノックする。
「お~い、アリス~」
「あ、魔理沙。いま開けるわね」
「や、アリス」
さっきまでお菓子でも焼いていたのか、奥から甘い香りが漂っている。
アリスをよく見ると可愛らしいフリルの付いた純白のエプロンを着けていた。…か、かわいい。
「いらっしゃい魔理沙。まぁ上がって」
「ああ、お邪魔するぜ」
アリスの家は私と違って非常に片付いていて、女の子っぽい。私の乱雑な家とは大違いだ。それでいてどこか大人っぽい雰囲気が漂っているのが不思議だ。ほんとは私より年下のくせに…。
「ちょっとまってね、いまお茶を入れるわ」
「お、サンキュー」
机を挟んで向かい合わせ。美味しい紅茶に舌鼓。他愛のない話に華を咲かせて笑い合う。まあ、優雅なティータイムってやつだ。
「でね、サラの下らない冗談にみんなしんとしたときに、誰のでもない声が聞こえたの」
「魔界にも幽霊の類がいたのか?それでなんて聞こえたんだ」
「それがね、『たくましいな』だって」
暖かな陽光。穏やかな会話。優しい雰囲気。ああ、幸せだぜ。…しかし困った。さっきは勢いに任せてただアリスに会いたいって思ってただけだったけど…いざとなるとなかなか言いだせない。
「なんだそりゃ。まるで誰かの髪の毛じゃないか」
「ふふ、まったくね」
会話が一段落し、間ができる。言うなら今しかないが…どうするんだ私。いやいやへたれなんて私のキャラじゃないぜ。無いはずだぜ?
私が静かに、しかし盛大に葛藤しているとふいにアリスが口を開いた。
「ところで魔理沙」
「へ?」
「何か話があるんでしょ?」
「え…?なんで…」
いつも用もなく押し掛けてたから、言わないとわからないと思ったのに…以心伝心ってやつ?恋心がなせる技か?そうなのか?
「うん、さっき霊夢が来てね、後で魔理沙が来て大事な話を私にするだろうって」
「ああなんだ…それでかなるほど霊夢がね…はぁ」
「?」
霊夢が根回ししてたのか。通りでね…。全く余計なことしてくれるぜ。お前は私の保護者じゃないだろうに。しょうがないやつだぜ。
…ん?
…って霊夢か、
…じゃなくて!!
なんだと!?
霊夢の奴め…!人の恋路ほど見てて面白いものはないってか?
くそっ、あいつのニヤニヤ顔が目に浮かぶぜ…。こんなことなら迷わずさっさとアリスの家に行っとくんだったぜ…。
「どうしたの?食らいボム失敗したときみたいな顔して」
「私は食らう前にマスパ使うのぜ」
いけないいけない。落ち着け私。平常心だ。よし円周率を数えるんだ…産医師異国に向こう……?…もうπでいいじゃないか…。
「魔理沙?さっきから黙っちゃって…どこか具合悪いの?」
「うわぁ!」
まずい。アリスの顔が近い。霊夢の言葉がちらついて、思考がうまく作動しない。
「あの…その、えっと…」
さっきまで純粋にアリスにこの想いを伝えたいと思っていたのに。言葉が空気となって口から次々と抜けていく。
「ア…アリス、その…」
何か言わないと。
でもその何かが頭から逃げていく様に何も言えない。なんだよ、大好きって、キスしようって言えばいいだけじゃないか。告白だってできたんだ。簡単じゃないか。
だけど…、
「アリス…く、うぅ」
「ま、魔理沙!?」
情けない。実に情けない。ただ気持ちを伝えて、その唇に…。
気持ち?…そう言えば、何か…。
…いや違う、な。その前に気にすべきことがあっただろう。今まではあまり考えていなかったが、これはとても重要なことだと思う。
「あ、ありすはっ」
「…うん」
今私は彼女とキスがしたいと思っている。だが彼女は果たしてそう思っているだろうか。私とキスがしたい、と。
…思えば今までどうだった?
抱き合うとき。何時も何時も私が抱いてから彼女も抱き返してきていた。
好きだと告白したとき。あれも私が答えをせがむまで返事をくれなかった。
日常のたわいない会話のとき。今日はともかく、何時も私が会話を始めないと互いに黙ったままだった。
恥ずかしがっている。そう言ってしまえばそこまでだが、やっぱり不安になってしまう。
もしかして、アリスは私に本気でないんじゃないかって。適当に、手ごろな私を選んだのでは、いや手に取ってみただけなのでは、と。
「わ、わたしのことどうおもってっ…わ!」
「まりさ」
気づけば、私はアリスの腕の中にいた。…彼女から抱きついてくれたのはこれが始めてだ。
後ろに回された右腕は背中をぽんぽんと、まるであやすかのように叩き、左腕は私の頭を撫でてくれていた。
そして彼女は私の肩に顔を埋めた。横目に見える彼女の耳は、赤い。
「ごめんね、魔理沙」
「え?」
「ホントはね、私から告白したかったし、私から抱きしめてあげたかったし、もっと一杯たわいの無いお話を振ってあげたかった」
「そう、なのか」
「でもね、何でかな。とても恥ずかしくて、なかなか言い出せなかった。どうしてもお姉さんぶって余裕を振り撒いて誤魔化してしまっていた。貴方の方がよっぽど恥ずかしかったのに…ごめんね」
「ありす…」
「でもそれじゃいけないよね。貴方を不安になんかさせたくない」
アリスが私の瞳を覗き込んでくる。顔真っ赤だ。多分私も。
「だからね」
「うん」
「私の想い、感じてください」
顎に手を沿え、目を瞑り、ゆっくりと近づいてくる。
…ちぇ。アリスはずるいぜ。今の今まで散々後手に回ってきたくせに、こんなときだけ先手に回るだなんて。
…でも、こんなときだからこそ、うれしい。
「魔理沙」
「アリス」
…
当初の予定とは大分違っていたが。
なるほど、確かに咲夜の言った通りだ。想いが伝わり、伝わってくる。愛を囁く必要もないし、自惚れる必要もない。
ああ。やっぱり愛されてるなぁ。解る。
つまりそれはアリスにも同じことが言えるわけで。
大好き、愛してる。
ああ、伝わる。そう、感じる。
おまけ
「ほー、やればできるじゃないの。っていっても行動したのはやっぱアリスからか」
「霊夢。駄目よ覗きなんか。それに、そんな熱心に…」
「んー?はは~ん。妬かない妬かない」
「だ、誰が妬いてなんか…!」
「ああ、静かにしないとばれるでしょうが。ええい黙らないならこうよ!」
「ん!んん、あっ…」
「ぷはっ。心配しないの。貴方以外眼中なし。解るでしょ?それとも…もっとキスしないと伝わらないかしら?」
「あ…霊夢…大好き」
「私もよ。さて、これ以上見るのも流石にかわいそうだし。帰りましょう?」
「ええ…」
「ふふふ、心配せずとも帰ったら続きしたげるから」
「…ばかね」