「それじゃあ霊夢、先においとまさせて貰うわね」
夜も更け、既に日にちは替わってしまっただろうという頃。まだまだ光も灯り騒がしい神社から去ろうとしているのは、金髪に赤いヘアバンドをつけた少女、アリス・マーガトロイド。彼女が霊夢と呼んだのは唯今宴会真っ只中の神社住み、神を奉っている(おそらく)紅白巫女衣装に包まれた少女、博麗霊夢の事だ。
「ん、それじゃあね、アリス。……それ宜しく」
と霊夢が指差したのはアリスの背中。黒と白の服を着た一人の少女が担がれていた。
「面倒くさいわ、このゴキブリ」
「おーい、、アリス、最強魔法使いの霧雨魔理沙様に対してゴキブリとは何だゴキブリとは」
「最強と書いて⑨と読む、っと……」
「わたしを馬鹿氷精と同じにするな」
彼女の名前は霧雨魔理沙。 アリスとは魔法の森の隣人であり、永夜異変を共に解決しようと手を組み合った相手でもある。
「……って、そんなことはどうでもいい。アリスー、頼むから降ろしてくれ」
「アンタさっきまで酔っぱらって地べたに寝ころんでた癖に。人の親切は素直に受け取るものよ」
「うー………」
魔理沙は頭を掻きながら少し恥ずかしそうに唸る。 アリスは気付かれないようにクスッと笑い、そして魔理沙を背中に担いだまま、神社を後にし一路魔法の森へと向かった。
「アリスー、もう大丈夫だってばー」
「うるさい。黙って担がれなさい」
薄暗い、月明かりだけが照らしている魔法の森を二人はまだ先程までと同じような体勢で歩いていた。
「…………なんか、不思議だな」
魔理沙がそう、一言呟いた。
「何が?」
「だって、昔は絶対こんな風に帰ることなんて無かったからさ。毎回毎回吐くほど酔いつぶれてあのボロ神社によく泊まってたもんだ」
「へー、そーなのかー」
「お前人が話してるのにちゃんと聴けよ…」
二人はクスクスと笑い合う。その声が静かな森に響き渡る。
「ちゃんと聴いてるわよ。それで何が不思議なの?」
アリスが話を元に戻す。それを聴いた魔理沙はそうそう、と思い出したように話を再び始めた。
「ん、なんというか……。今みたいに人間と妖怪とが混ざって宴会してる事が。いや、妖怪が宴会に来ること自体は珍しくないんだ、今思うと慧音や紫なんかは昔から居たような気がするし」
「でも霊夢は紫の事、春雪異変の後日で始めて見たって……」
「んー……。あいつは博麗と干渉を避けてる、って私のクソジジイが言ってた気がするなぁ。霊夢にはよくちょっかいかけてるから私には想像つかないが」
それにあの巫女さんは人の顔や名前なんて覚えるようなたまでもないからな、と魔理沙が皮肉な笑いをしながら言う。アリスも確かにね、と同意したように言って笑った。
「それにしても、今じゃ人間よりも妖怪の方がよく宴会に来るし。私は昔から宴会がある度に来てたんだが、妖怪なんて数える程しかいなかったぜ。」
「ふーん……、ま、霊夢は早苗みたいに布教とか信仰活動してないのも関係あるかもしれないけど」
「そうだな、まずあの神社には神様がいるのかどうかも不思議だな」
「ま、わたしゃいつでもいるけどね。神様じゃなく悪霊だが。うふ、うふふふふ」
ばっ、と魔理沙が振り向く。 辺りには誰の姿も気配も無い。
「なぁアリス、今なんか……」
「? どうかしたの、魔理沙?」
「…………いや、なんでもない。なんでもないんだ。何でもない、何でも無い…」
そうブツブツと呟きながら、人の黒歴史を平気で掘り返すなよ師匠、と魔理沙はアリスにも聞こえないような小声で呟いた。
「でも確かに、不思議かも」
アリスがそう口に出して、そのまま続けた。
「妖怪と人間って、食い食われの関係だったのに。今じゃよく見る光景になってるし」
「そうだなぁ。……そういやアリスも一応妖怪側なんだよな」
「元人間様だから違和感ないんだけどね、食事も睡眠もとってるし。というか私は人間なんて食わないわよ」
「きゃー、悪い魔法使いに食べられるー、怖いんだぜー」
「食わないけど煮込もうかしら」
「ごめんなさい」
「はい魔理沙、着いたわよ」
「んー…? 私、寝てたのか…」
いつの間にか、目の前には自分自身の家。魔理沙はアリスの背中から降り、眠っていた身体を起こそうと「んー」という声と共に身体をのばした。
「大丈夫? 歩ける?」
「おう、平気だぜ。サンキュー」
そう言って魔理沙はアリスに親指を立てた。
「…………なあ、アリス」
魔理沙がそう声をかけた。
「ん、何かしら?」
アリスはそう言いながら魔理沙の方を向いた。
「私はさ、私は…、」
魔理沙はアリスから目線を外し、帽子の鍔を深く被りながら空を見上げた。一つの月が、数多の星が輝いている。
「魔法使いになろうと、思うんだ」
魔理沙の決心だった。 人間であることを止め、アリスと同じ魔法使いになろうという、魔理沙の決心だった。
「これ言うの、お前が始めてなんだぜ? ……アリスを信用して言うんだからな、他言無用だ」
アリスは何も言わなかった。
「……正直、最近まで迷ってたんだ。人間でいたいし、でも魔法の研究だって続けたい。だからと言って、魔法使いになったら今みたいに皆で騒げなくなるんじゃないか、って思ってた」
魔理沙が、言葉を続ける。
「だけど下手な意地張ってるからさ、私って。誰にも言えなくて、な。」
「……馬鹿ね」
アリスが、言葉を漏らす。
「ああ、馬鹿だよ。私のクソオヤジ譲りの大馬鹿だ」
アリスは思う。ああ、彼女はきっと今涙を流して空を見上げて居るんだろう、と。そしていつものように不敵な笑みを浮かべているに違いない、と。
「……でも、今日の宴会見てて思ったんだ。今みたいに、人間と妖怪が共存出来るなら、私が魔法使いになっても…って」
「なっても?」
「ああ。魔法使いになっても、今みたいに皆で騒げるんじゃないか、ってな。やっぱり私、今が一番楽しいからさ」
魔理沙は思う。自らが魔法使いになっても今と同じように苦悩し、馬鹿をやり、笑いながら人生を過ごしているに違いない、と。
「……ああ、でもやっぱり止めようかな。魔法使いになるんだったらクソオヤジの所にも話付けに行かないといけないし」
「そんな事で止めるような薄っぺらい決心だったら初めから考えないでしょうに」
「確かに、……そうだな」
魔理沙は袖で顔を拭き、アリスの方を再び向く。ニッ、とした、不敵な笑みを浮かべた霧雨魔理沙の表情だ。
「そうよ、それそれ。それでこそ最強魔法使い霧雨魔理沙の顔ね」
「やっぱりそうだろ、これでこそ私だよな」
二人で顔を見合わせ笑い合った。 静かな森の空気が、少し響いた気がした。
「……それで、いつ魔法使いになるつもりなの? まさか今からすぐとか言うんじゃあないでしょうね」
「あー、それは無いぜ。そうだなぁ……、アリスよりも背が高くなって胸が大きくなったらにするぜ」
「残念ね。あなた一生人間のままだわ」
アリスは残念そうな顔をしながらそう言う。
「私はまだまだこれから伸びるんだよっ! アリスこそ半端な時期に魔法使いになって可哀想だなぁ……」
魔理沙もお返しだ、と言わんばかりに言い返してやる。
「あ、言ったわねこの白黒チビ」
「何だよ、お前が先に言ったんじゃないかこのっ……」
「ほら見ろ 私には欠点が無かった 完 全 論 破 」
アリスはそう勝ち誇った顔で言い返す。魔理沙は少し顔を赤らめながら、
「……そうだよ、アリスは、可愛いよ」
とアリスと目線を外しながら聞き取れるか聞き取れないか位の小さな声で言う。
「……魔理沙だって十分可愛いと、思う…けど……」
ちょうど今到着し、息切れをしながら喘息を必死にこらえたパチュリーが木陰からハンカチを噛みながら、
「キーッ!! あの人形遣い、私の魔理沙になんて事を……」
とわなわなしながら呟き、泣きながら走り去っていった事を他の誰も知る由は無かった。
「さて、そんじゃあな、アリス」
「ほんと、いい加減疲れたわよ。酔っぱらいの戯れ言は聞き飽きたわ。寝て綺麗さっぱり全部忘れないと、ね」
そう言いながらアリスは手を振り、自分の家へと向かっていった。
「……ありがとう」
小さな声で一言そう言い放ち、魔理沙は自らの家へと入っていった。
「牛乳って、背も伸びるし胸も大きくなるんだったっけ……? 明日調べてみるか」
なんて、小さな一歩を踏み出しながら。
パッチェさんwwww良いマリアリでした!
マリアリはジャスティス!
アリスと魔理沙の軽い掛け合いがテンポよく読めて面白かったです。
付かず離れずの距離をとりながら、だけど心は繋がってるという
そんな関係が一番あっていると思う
>お身体に触ります
それはセクハラです
→お身体に障ります