* * *
【何百年も昔の出会い】
ふわりと、横たわったまま縦穴の底へ、ぼんやりと光る少女が舞い降りてくる。私はそれを呆然と見届けていた。
ボロボロの海兵服から覗く細くて真っ白な肌が、切り傷や擦り傷で紅く滲んでいる。気絶しているのか、眠っているだけなのか、それとも死んでいるのか、宙に横たわったまま目を開かなかった。
彼女の背中に、そっと手を伸ばす。恐る恐る触れた指先がじわりと冷たくなって、ほとんど反射的に身を縮ませた。
こわい。だけど、とても綺麗だった。
彼女は地底の新入りに違いなかった。私の百年後に現れた、呪われた妖。彼女は私の、初めての後輩に当たる。百年ぶりに嫉妬以外で心が高ぶるのを二つの緑眼で感じ取りながら、私は彼女を抱き上げる。やはり、冷たい。
そこで、少女は目を開いた。焦点の合っていない無機質な瞳だった。思わず竦む私の手から、彼女は重力に反してふんわり浮き上がり、目の前の地面にこれまたふんわり降り立った。
「地上に帰らなきゃ」
予想と違い中性的な声で、彼女は言った。出会うなりえらく嫌われたものだと思った。
「できるわけないじゃない。あなたひとりで」
私は答える。否、本当は、見惚れるほどの神秘的な姿から、彼女ならできるのではないかと少々疑っていた。強力な人間の結界を、鬼が復路だけさらに強固にしてしまった、この地底の封印を解いてしまうのではないかと。
だが、彼女は美しい見た目に反して普通の妖怪だった。この無数の傷は、地底に降りたときにできた傷だ。私が降りてきたときと同じ切り口をしている。降りるときでさえこれだけ傷を負う程度の実力では、より強固な帰り道を飛び上がることなどできないだろう。
「でも……」
そう言いかけて、彼女がふと悲しそうな顔をした、
直後、突如として背後にでかい船が、強烈な破壊音を轟かせながら降ってきたのだった。
* * *
【奴が帰ってきた】
雲居一輪と私は、旧友と呼ぶのが一番当てはまる。地底に船があった頃、一番言葉を交わすことが多かったのが、今考えると彼女であったように思う。
地底と地上が繋がったとき、彼女はムラサを連れて旅立った。願ってもみなかった転機に、彼女らは舞い上がっていた。「聖を助けてくる!」と躍起になって、挨拶もそこそこ地上の光の中へ消えていき、それっきり姿を現すことはなかった。船が停まっていたはずの橋のすぐ下の空間は、今ではがらんどうに空いている。
こんなどうでもいい回想を今更しているのは、それから一年以上も経った夏の日、一輪が突然ひとりで帰ってきたからだった。まるでこの世の終わりでも見たかのように悲壮な顔をして、私にすがりついてきたのだった。
いつものように洞窟の隅っこで蹲って座る私。その左肩に凭れかかって彼女は涙を拭いこう言った。
「みつにおこられたー!」
要するに、ムラサと痴話喧嘩でもして住処を飛び出してきたとかいうことなんだと思う。妬もうと思えばいくらでも妬めた。
「……久々の再会だってのに」
開口一番がそれか。
わざと突っぱねる。尤も、相手も私が愛想のない生き物であることは分かっているので、動じることはない。
「そう言わないでよ。水蜜があんなに怒るなんて思わなかったんだもん」
一輪は私の肩で泣くことをやめない。嘘っぽい泣き方だった。
特に一輪と鵺だ。口を開けば水蜜ムラサみつみっちゃん、橋姫の前で惚気話をする神経の図太いのは。どうやらその癖は地底に住んでいる頃から何も変わっちゃいないようだった。
アレのどこがいいんだか。
私にはアレが自分と同類の気がしていた。特に面白みなく、縛られて生きるだけの妖怪。全くつまらなくて妬む気持すら起こらない。……とか何とか言って突き放してもよかったが、それは建前というものだった。橋姫になってからというもの、嘘や誇張が多くなっていけない。
「泊めて」
その言葉が聞こえるやいなや、いきなりおちゃらけた笑顔が目の前に迫ってきた。やっぱり嘘泣きだった。少し腹が立ったが、しかし私とて鬼ではない、彼女は家に帰られないほどには大喧嘩したそうだし、それなら別に一泊させる程度構わないとも感じた。もともと彼女とそれほど仲が悪いわけでもない。
「嫌よ。痴話喧嘩で家出するような奴の惚気話を一夜漬けで聞かされるなんてさ」
とか何とか色々考えたところで、橋姫は嘘ばかり吐くのだった。
「そんなぁ。聞いてくれよ私の水蜜の可愛さを」
「……あんたね」
私は冗談を振ったわけでも、調子づかせようとしたわけでもない。わざと凍りつくような視線を作って向けてやる。こういう演技ばかり得意だった。頭のいい一輪は空気が読めるので、それ以上くだらないことを言うことはなかった。
* * *
【はじめのムラサ】
この洞窟の底、旧都までの短い道を、私は"橋"と呼ぶ。現世と地獄の境であり、私の守るべき場所である。ムラサと名乗った幽霊少女は地底の仲間入りを果たしてから、この橋の下に置かれた船をひたすらボロ布で磨くようになった。
そんなわけで、彼女と初めて出会ってからというもの毎日顔を合わせることになったのだが、彼女はムラサと名乗っただけで、私とほとんど言葉を交わさなかった。どころか、地底の誰とも交わろうとしなかったらしい。尤も私にとってはそのほうが楽でいいし、おそらくは彼女も同じように考えていた。
暇な私はずっとムラサを上から眺めていた。ぼんやり光る船を全く表情を変えず一心不乱に甲板を磨き続ける姿は、何か異様で不思議な光景に思えた。
そこまで馬鹿でかい船ではないにしろ、地底にこの船が浮かぶような水辺はない。故に船底の下半分は土に埋まっている。ムラサは船底の傍に降り立つと、今度はそれを丹念に磨き始めた。剥き出しの部分を時間をかけてひとしきり磨いた後、土に埋まっている部分を磨きたいのか、ちょっとだけ土を掘ろうとして、やめた。
一生懸命な掃除もこれで終わりかと思いきや、何が物足りないのか再び甲板へ飛び上がり、船尾から船首に向かって磨き始める。一通り甲板を磨き終わると、また船底の傍らに飛び降り……同じことを繰り返していた。
「一体いつまでやってるつもりよ、それ」
煩いわけでもなし気にしないこともできたが、他に見るものがない私は、彼女の行動に対して覚えるモヤモヤした気分を何とかしたくて仕方がなかった。
「あ? さあ……?」
ムラサは何を馬鹿なことを、とでも言いたげな返事をして、やはり船底を磨き続けた。
本当に、馬鹿馬鹿しくなってそっぽを向く。地底に封印された妖怪なんて、どいつもこいつもこんなものなのか。ひどく面白くない。
私の期待した後輩は、ある意味予想通りの性格らしかった。
* * *
百年待って一人しか通行人のなかった"橋"を、私は毎日見守っている。務めている私が言うのもおかしな話だが、まったく閻魔は現場の調査が足りないというか、こんなところに見張りを置くこと自体どうかしている。だから一人しかいなかったというよりむしろ、一人現れたことが大したものだと思う。封印されたこの橋を渡ることは、二度と引き返せないことを意味するのだ。鬼が自らそう作り変えてしまった。簡単に渡られても困る。
「今日も来てるのね」
そのくせそこまで仕事熱心でもない私は、いつも昼前になってからゆっくり出てくる。ムラサが現れてから一週間、橋の下では今日も私より早く彼女は橋に来て、そのたびひたすら船を磨いていた。
「……もう昼時かぁ」
人の話を聞いているんだか聞いていないんだか、ムラサの呟きが溜め息とともに宙を舞い、行き場をなくして消えた。
「早くから、仕事熱心なことで」
返事はもうなかった。意図的に無視しているのかもしれない。愛想の悪さがまるで私のようだ。
坂上に座り込み、私はまたムラサの仕事を黙って見る仕事を始めることにした。……というよりは、他にすることがない。
こうしている間にも、ムラサは船首を丹念に磨いている。元よりぼんやり光っている船をピカピカにしようと、その手は止まらない。
一体なぜこんなことを繰り返すのだろう。何か妬ましい理由でもあるのだろうか。少し、興味を持った。
「ねえ」
人のことを散々無視するくせに、自分から声をかけるときは随分ぶっきらぼうな言い方をするのが気に食わない。私がやるのはいいが、他人にやられると腹が立つ。
「なに?」
しかし私も私で、穏やかに返事をする辺り律儀だった。
二人の目線だけがぴったり合っている。
「水辺とか、ないの?」
私はますます苛立った。ぱっと見て分からないのか。橋姫が乾いた地面に腰屈めている時点で気付いてほしいものだ。
「ない。井戸に頭でも突っ込んでろ」
「うえー。そんなに首長くないですー」
と毒づくつもりが、変な返しが飛んできて思わず吹き出してしまった。ムラサは意外そうな顔をして、それから少し嬉しそうな顔をした。
* * *
【寂しいのに】
ムラサは水辺を探して地底じゅうを闊歩するようになったらしい。私の想像に反して社交的らしく、旧都の鬼たちとすぐに打ち解けたそうだ。少し妬ましかった。
しかし彼女にとって肝心である水辺(しかも船が浮かべられる広さのある)は見つからなかったらしい。結局橋まで戻ってきて、再びそこに居着いたのだった。
橋の下にある船は空間を切り裂いたように突然現れた。それまで壁だった場所に大きな空洞が出来て、ボロくさい船がぼんやり光りながら神々しく登場したのだった。……というよりは、やかましく落下したというか。
船自体はボロくさかったとはいえ、これが船幽霊ごときの所業なのかと、そのときの私は随分驚かされた。柄にもなく褒めてみようかと思った。当の本人はあっという間に、かつまったく無感情にすたすたと船へ入っていったから、叶わなかったが。
「あんたは、いつもここで何してるの?」
そんな無愛想なムラサがある日突然こう言い出した。何があったのか、私に興味を持ち始めたらしい。星熊の鬼にでも誑かされたか。考えながら、しかしちょっとだけ嬉しかった。
「番人だわよ。あんたみたいに、まかり間違って地底に入っちゃった奴を追い返したり追い返さなかったりするの」
「ふーん」
そうして饒舌になった私を、こいつは突き落とすかのように何か忌々しい顔をして、一蹴するのだった。もはや興味がなくなって、いつものように船底の側面を磨きだす。こうなったら、彼女はもう何も聞こえなくなる。
「……」
悔しいやら恥ずかしいやらで、私はしばらく固まっていた。何か罵倒してやりたかったが、その言葉も見つからなかった。
自覚のあるぶんよりもかなりショックを受けているのかもしれなかった。この間微笑んでくれたのは何だったのか。あれは虚像だったのか。そもそもムラサに対してそう接近する理由もないのだが、私は何をやっているんだ。
ひとしきり苛立っているうちに、終わりなきムラサの船磨きは進んだ。それを見ているとふと、私の中で糸がぷっつり切れたような音がして、瞬間、彼女がひどくどうでもいい存在のように思えた。
「……はぁ」
長い溜息が漏れる。ムラサがちらりとこちらを見た気がしたが、それももうどうでもよかった。
* * *
【私以外の前では】
ムラサが地底に現れて十日ほど経った頃だった。地底の入り口で物音がして、私は慌てて駆け寄った。まさか、と心は期待と不安を背負った。そして、その予想はだいたい的中することになる。
女の子が落ちてきた。ムラサのときとは対照的に文字通り自由落下してきて、頭から地面に激突するのが一瞬だけ見えた。冗談みたいな落ち方だったが、実際やられると洒落にならない。妖怪なら平気だと思うが。
朦々と土煙が上がり視界は暗転し、少々の沈黙のあと、うっすらと突っ伏す人影が見えた。
「一輪?」
いつの間にか後ろに立っていたムラサが呟いた。土煙が収まると一目散に、一輪と呼んだ少女の元へ走った。膝が汚れるのも気にせず座り込んで、彼女は一輪のかぶっていた頭巾らしきものを剥ぎ取る。中では色素の薄い髪が、血と土で汚れていた。
「やっぱり一輪だ。こんな怪我して……」
まるでムラサのときと同じように、一輪もまた地底に封印された。こんなに何度も地底の扉が叩かれることなど、まず起こり得なかったことだ。地上で一体何が起こったのか。
ムラサは発起したように一輪を背負う。しかし身体がかなりの華奢ゆえか、背丈の違う女の子を背負うにはなかなか辛そうだった。私が言うのも難だが、ちょっと妖怪とは思えなかった。
「ちょっとパルスィ、ボーッとしてないで―――――わわっ」
珍しくムラサが声を張り上げようとしたところで、刹那、一輪の頭巾の中から白い煙のようなものが勢いよく吹き出した。煙は何か男の上半身のような形へと変わっていき、腕らしきものが伸びて、一輪の体を覆い抱き上げる。
「ちょっ何これ」
もはや私には何が何だか分からなかった。もうほとんど無意識に逃げ出す体勢を作っていた。ただ、やけにムラサは落ち着いていて、煙のほうを向いて一言、優しい物言いで告げた。
「なんだ、よかった、雲山も一緒だったのね。一輪をそこの船まで運んでくれる?」
* * *
次の日の午前、心配になって早くに橋を訪れた私を待っていたのは、すこぶる元気になった一輪とムラサの喧嘩だった。船の甲板の上で何やら言い争いをしているふうだった。雲山(という雲入道らしい)はふわふわと落ち着きなく飛び回っている。
三人とも私にはまだ気付いていない。いきなり入り込むと気まずくなりそうだった。あまり隠れるところのない洞窟だが、私はなんとか曲がり角の死角に入るようにしてこっそり様子を覗き見ることにする。
「だから、今すぐ船を出そうって言ってるのよ!」
荒げたような声は、よくよく聞けばムラサのものだった。こんな怒鳴り声を出したところは初めて見るから、すぐに分からなかった。音が反響する洞窟内だから、まるで耳元で叫ばれているようでちょっと怖い。
「出られないって何度も言ってんじゃない」
一方の一輪はムラサに比べれば冷静らしく、宥めるように答えていた。
「地底の封印は、妖怪程度の力じゃ開かないの」
「絶対?」
「絶対よ、実質的に。下手すりゃ私たち全員死ぬわね」
元よりあまり相手にしていないのかもしれない。ほとんど囁くような声だった。
ムラサはその後も、地底を出たいというようなことをしきりに訴えた。乗り気でないらしい一輪はもう聞いてすらいないかのように寝転がって、私からは見えなくなった。
「出られないって、じゃあ聖が……」
強情なムラサもこれにはかなり応えたらしい。糸が切れたように急速に、彼女の肩ががっくりうなだれたのが印象的だった。
「……聖が、助けられないじゃん」
やけに震えて、かすれたムラサの声が反響してここまで届いた。
無理矢理絞り出したようなそれは、話の流れなんて全然分かっていない私の心さえ打つ悲痛さがあって―――――力もないのに、同情するような、力を貸したいような気持を生んだ。
ムラサは、こんなに感情を剥き出しにするような性格をしていたのか。奴はこんなに力いっぱい生きていたのか。
私はいつもの憮然として素っ気ないムラサを思い返し、そして、やはり自分が彼女に心を開いてもらえていなかったのだと知り、少々寂しく思った。
「今は、どうにもできないのよ。……今は」
一輪はそこで、幼子に言い聞かせるような声で、ムラサを優しく諭した。
* * *
【そして私たちはそれぞれの現在に降り立つ】
落ち着いた距離感で話しているのが分かって、心地よい。一輪は話上手だった。何かの拍子にそれを感じるたびに私の心は嫉妬に高ぶるわけで、相対する彼女はさぞ面倒くさいことに違いなかった。それでも私の元を離れるつもりはないらしく、いつまで経っても隣に座っていて、肩を擦り寄せられたままだった。
彼女が来てから、もう一刻経つ。一輪たち一家の近況なんかを適当に聞いていたら、あっという間に帰宅の時刻だった。
一輪とムラサにとってここ数年は、まさに激動の時期だった。人間側が作った結界が老朽化していたことがそもそものきっかけで、時間を停滞させていた壁が突如として文字通り決壊し、あらゆることが次々と進んだ。古明地家の火焔猫による地底の開放、その後幻想郷との交流による地底社会の変革を経て、彼女たちはかつての仲間たちを探すため、そして命の恩人を救うため、幻想郷の大結界をも越え外の世界を旅した。幾多の難局を乗り越えかつての寺院と盟友寅丸星を見つけ出し、そうして最後には魔界から聖を連れて幻想郷に再び降り立った。それがほんの一ヶ月くらい前のことだ。キャプテン・ムラサと名乗った船幽霊とその愉快な仲間たちの大冒険は、幻想郷の人里近くに明蓮寺という寺を建てることで一応の幕を閉じる。現在はその冒険譚の編纂を一輪とムラサの二人でこなしながら、ついでに寺の宣伝のために人里で仕事をしたり遊んだりして、ゆったりと暮らしているのだそうだ。
胡散臭い話だった。
「あぁー、ケツ痛くなってきた。よくそんなに、ずっと座ってられるねえ」
ケツの話と同列に話すから、尚更。全部が嘘ではないにしろ、かなりの誇張が入っているように思える。
一輪は、楽な格好を探るように色々姿勢を変えた。最終的にはなぜか正座に落ち着いた。ずっとくっ付いていた私の左肩が涼しくなっていた。
「あんたたちが冒険している間、私はひたすら尻の皮を厚くしていたわけよ」
「……なるほど」
一拍遅れににっこり笑う一輪。何がなるほどだ。私はいっそう不機嫌になる。
逞しく冒険を経た彼女らが妬ましい。大志を抱き栄光を手にした彼女らが妬ましい。何より、彼女らにそれだけ愛された聖とやらが妬ましい。不機嫌な理由はいくらでも作れた。
「あいつが、そんなにしっかりした奴には見えなかったけど」
ムラサは地底にいる間、結局最後まで人見知りが治らなかった。毎日顔を合わせていた私にだって、ほとんどなびくことはなかった。そのくせ意外と寂しがり屋で、一輪にはよく甘えるようにくっ付いていた。思い出しただけでも妬ましい。あれのどこがキャプテンでどこがヒーロイズムなのかと、私の疑いは晴れずにいた。
「まぁ、あのときは、ね。あいつも色々あったからさ」
拳に思わず力が入る。
「ここに閉じ込められたときは、辛かったんだと思うよ。あんなに鬱ぎ込んで―――って、なんで怒ってるの!?」
「うっさいハゲ」
「ハゲてないから! この頭巾、ハゲ隠しじゃないから!」
嫉妬嫉妬嫉妬……自分でもやつ当たりだと思う。昔から一輪とムラサは仲がよかった、それが面白くない。
「あのう、水橋さーん? ……よく分かんないけど、ごめんね」
すっかり拗ねた私は、丸まるように膝を抱いて小さくなった。こうすると一輪は優しくなる。そして、私が不貞腐れたと分かるや否や、どういう気持の表現なのか知らないが同じように丸くなってみたりしていた。たまごが二つ並んでいるみたいになった。
「ごめんねー」
言いながらころんと転がるように擦り寄ってくる一輪を、鬱陶しいふりでもして手で押し返してやると、彼女はそのままあっさり転がっていってしまい戻ってこなくなってしまった。私の真横で寝転がって、すすり泣くふりをした。
「しくしく、悲しい。パルスィに嫌われちゃったわー」
なぜ、そう、私が悪いかのような構図を作るんだ。
一輪は普段、私の前では大人しかった。ただ何かの拍子にタガが外れるんだか何なんだか、ときどきからかうように悪戯っぽく遊ぶ。私はこのときの彼女が一番好きだった。口元が緩むのを、なんとか我慢する。
「いいじゃないの。あんたにはムラサがいるんでしょ」
それとは関係なく言葉が口を衝いて出る私は橋姫なのであった。
「あっ嫉妬してる」
「してない」
「してるじゃん」
それと同時に一輪の察しがいいものだから、ただでさえ分かりやすい私の心はますます読まれていく。さとりでもない奴に事情を見透かされるのは恥ずかしい。しかし、理由もなく嫉妬する心が静まらなくて、それを隠すことも、私が不器用すぎるせいでできない。
してるしてないという不毛な問答を繰り返しているうち、痺れを切らした一輪が、仕切りなおしというふうに手を一拍叩いて起き上がる。
「だからさ、そのムラサを怒らせちゃったからさー」
助けてよう、と不毛な話の延長線上で、特に何でもないことのように言いやがった。妬ましかった。
「ざまあないわね」
「あっ、ひどい。これでも傷ついてるんだよ私」
それからまた私に肩を擦り付けてくる。私はまん丸になっていたから、重みで転がりそうになる。慌てて手を地面に伸ばすことでなんとか耐える。
あの胸が重たいのだ。妬ましい。
「だったら尚更、ね。相談する相手を間違えてる。もっと適任がいるでしょうよ、ほら早く私を通り過ぎなさいな」
私にできないことができる妬ましい奴は、地底の中でもごろごろいるわけだし。手に付いた土を払いながら毒づいてやる。
「やだーパルスィがいい」
「なんでよ!?」
ところが一輪の奴は、相当の物好きらしかった。
「パルスィって慰め上手だもん。パルスィってば優しい。むしろ可愛い。抱きしめたい」
「待てい。おかしいでしょ、特に後半」
体重のほとんどを委ねるように、彼女の肩がもたれかかってくる。妬ましくなるくらい、私の心を揺るがす言葉をまき散らしながら。そうして私は一輪に抱き付かれた。しらふでよく、こんなことができると思った。
* * *
【罪と地底】
「ムラサ」
こいつが地底に降り立って十四日、今日は珍しく名前を呼んでみた。案の定彼女は無視をして、いつものように甲板を磨いている。妬ましい。構ってもらえる船、妬ましい。
一輪と雲山は二人で旧都まで挨拶に伺っている。地底の皆さんとは今生の仲になるかもしれないから、と言って彼女は私の服を着て行ってしまった。いくら自分で持ってきた服がボロボロになってしまったからとはいえ、数少ない余所行きの黒のオシャレワンピを持っていかれるのは少々癪であった。いいって言ったのは私だけれども。どうせ持ってても着ないって言ったのも私だけれども。
頭巾は被らないで、リボンで髪を後ろで束ね、とても僧侶とは思えない可愛らしい洋服で着飾って。そんな格好で旧都を闊歩すれば、たぶん星熊辺りの鬼に絡まれるだろうから、酒を強要されて彼女は明日まで帰ってこないことだろう。ざまあ。
ゆえに久方ぶりにムラサと二人きりであった。別に嬉しくはないにしろ、せっかくなので何か話したいと思った。橋姫とはいえ元は人間であるし、あんまり構ってもらえないのも寂しいのだった。
「ねえムラサ。地上で何が起こっているの」
だから私は、ムラサが一番反応しそうな話題を振った。予想通り彼女は船を磨く手を止めて、屈んだ姿勢のまま私のほうを見る。
立て続けに二人も地底へと送られるなんて、たぶんここが地獄でなくなったとき以来初めてのことだ。彼女らは何か秘密を持っている気がした。
「聖、って奴と何か関係があるのかしら?」
ムラサは押し黙った。予想通りである。こやつら純朴そうな顔をして、さぞ大きな罪を犯したに違いない。久しぶりに人を嫉妬させて遊べるかもしれないと思うと、私の心が躍るのを感じた。
ふんわり宙に浮いて、船の上に降り立つ。そのままムラサの目の前まで歩いていって、彼女と目線を合わせるように屈む。ムラサは目を合わせようとしなかった。
「……いんや、違うわね。『貴方は何をしてしまった』の?」
ムラサは焦ったように一瞬目だけをこちらに向け、それからきょろきょろさせる。明らかに狼狽していた。
いい。楽しい。気持ちいい。私今サイコーに妖怪やってる。とってもモンスター。この緑眼は生き生きと船幽霊を睨みつけ、視線を離さない。こいつの罪なんて本当はどうでもいいが、こいつの被虐心に興味がある。もっと虐めてみたくなって、私はますます調子に乗り出す。
「私の眼からは逃れられないわ。貴方はもう真実を話すよりない」
ハッタリである。
「聖が妬ましくて、殺してしまったのかしら。それとも貴方が妬まれてしまった? もしくは、恋人でも取り合った?」
「違う!」
ムラサは思った以上にあっさり怒ってくれた。
そこで私の機嫌は最高潮に達して、いよいよ唇を思いっきり吊り上げてニヤニヤ笑った。この表情が見たかったのだ。感情を剥き出しにした、青臭い表情を。
「怖がらなくても平気よ、私は嫉妬する女の子の味方。貴方はただ、心に潜む汚くどす黒いその嫉妬をぶちまければいい。私がぜーんぶ受け止めてあげるから」
ウフフフと笑い、できる限り妖艶なお姉さんっぽさを演出しつつ、私はすこぶるいい加減なことを思いつくままに喋った。調子に乗って顔を近づけすぎたせいで少し恥ずかしくなってきたが、ここまできてやめるわけにはいかない。
ムラサは少し心配そうな顔をした。それから少ししょんぼりしたように肩を落として、最後にすがるような上目遣いで私を見た。ときに当たるように強く言ってみたり、かと思えばときに小動物みたいに縮こまってしまったり、なかなか面白い。ちょっとづつ彼女が可愛く思えてきた頃、彼女はおもむろに、ぼそぼそとこう話しだした。
「あんたはさ、自分に価値がないだとか、自分がたまらなく卑しく思うことってあんのかな」
きた。
私の予想は的中し、ついにムラサちゃんの嫉妬タイムが到来した。ますますテンションが上がって私の顔はどんどん無駄に近づいていく。鼓動は高鳴り頬は紅潮し、頭の中がてんやわんやする。
「あるある。私橋姫だからよく分かるわよ」
なるべく平静を装って、話を聞いてやるというふうに答えた。事実、もともと橋姫なんて劣等感で構成されているような生き物だ、ムラサが言うような気持は痛いほど分かる。
私はムラサの帽子をそっと奪い取り、髪を撫でた。少し、不機嫌そうな顔をされたが、抵抗はされなかった。しばらくされるがままに撫でられ続けたあと、彼女は不意に顔を上げこう言った。
「私、聖を助けたい」
至近距離で見つめ合う格好になった。だんだん恥ずかしさがテンションに勝るようになってくる。
「私が不甲斐ないせいで、聖が魔界に封印されてしまった。私が油断しなければ、みんなに誤解を与えなくて済んだはずなのに。私のせいで、一輪と雲山まで―――」
ムラサはそこまで一気に捲し立てると、俯いて黙り込んでしまった。
泣いているようだった。
* * *
事情はなかなか複雑らしかった。単純な私はすっかり心奪われて、泣きじゃくるムラサを抱きしめながら、ゆっくり彼女の話を聞いた。そのうち、演じていた妖艶で優しいお姉さん役がいつの間にか染み付いて、嫉妬心を煽る本来の目的もすっかり忘れていた。
聖白蓮は、妖怪から人間を守る僧侶だった。しかし彼女は人間の信頼を裏切り、敵対するはずの妖怪を助けていたらしい。ムラサしかり、一輪しかり、その他たくさんの妖怪たちを、退治するふりをして逃がしていた。
ムラサが言うには、彼女は極端に死を恐れていた。恐怖のあまり禁呪の魔法に手を出してしまうほどであった。その理由はムラサにも分からないそうだが、ひとつだけ言えることは、その力の源が、元来人間が持ってはいけない類のものだということだった。
それが妖の力だった。
つまり、彼女は多くの人間を救うと同時に、自らの生を伸ばすために妖力を手にしたのだが、ところが妖怪たちは人間たちの敵でありながら聖の使う妖力の源であったから、聖は彼らを退治することができないというおかしな状態になってしまったのだ。
あるとき、敵であるはずの妖怪を救っていることが人間たちに感づかれてしまった。そこで聖の命運は突如として尽きることになり―――――彼女と妖怪たちは引き裂かれた。
そのときまでムラサと一輪は、聖の寺で出自と雲山を隠し人間の僧として生きていた。だがこうして寺院が混乱してしまえば、正体を暴かれるのはもう時間の問題であった。ここから先は私も知っての通りで、彼女らは聖を助け出すことなく追い立てられ、封印されてしまったのだった。聖とは別の場所、すなわちこの、まず脱出不可能な旧地獄へと。
事情は分かった。なかなか凄絶な記憶、と私は思う。ムラサが鬱ぎ込んでしまうのも仕方のないことなのかもしれない。一輪といるときのような、表情のコロコロ変わる彼女がおそらく本来の彼女なのだろうと思う。今激情に泣いている彼女を見るに、私はついにそれを引き出すことができたのだろうか。そうであればとても嬉しい。たとえ引き出したのが嫉妬でなくとも、私は少しだけ救われた気持になる。
しかるに私は答えに迷っていた。私がどれだけ彼女に同情したとて、地底から出られない情況が好転するわけではなかった。私は頭の中で答えになりそうな言葉を選びながら、ムラサの髪を撫でてあげる。思っていたよりずっとしなやかだった。妬ましい。
『地底の封印は、妖怪程度の力じゃ開かないの』
『出られないって、じゃあ聖が、助けられないじゃん』
私は偶然聞いた二人の会話を思い出していた。絶望的な状況に置かれた二人の、刺々しくも痛ましい会話だった。
『今は、どうにもできないのよ。……今は』
一輪が、噛み締めるようにそう言っていた。
「――――妬ましいわね」
そうしてやっと絞り出した言葉は、いつもの文句だった。ムラサが腕の中で顔を上げて覗き見る。
「妬ましいわ。想い合う主と従。いや、それすら超えて結ばれる強い絆」
「……」
「一輪は聖を信じているわ」
ここまでだけ告げると、彼女は唇を噛み締めるようにして顔をしかめた。
一輪はきっと、地底に落とされたときから、己がもう無力であることに気付いていた。今できることといえば精々、祈ることと信じることぐらいのものである。ゆえに彼女は信じていた。聖が自分たちを忘れず、諦めずに孤独と戦ってくれることを、どれだけ時が経っても、自分たちが助けに来ると信じてくれることを、今は信じ祈ることしかできないゆえに。
それは裏を返せば、時さえ来れば必ず聖を助けに行くという決意だった。言い方はぶっきらぼうではあったが、彼女の意志は一貫していた。たぶんきっと一輪は、ムラサと喧嘩した日、暗にその意志を伝えようとしていたのではないか。
「さて、貴方はどうする? 無理やり封印を破ろうとして、死ぬ? 聖を助けられないまま無様に、いっぺん死んでみる?」
「それは」
なおかつ、それはムラサも薄々分かっていたのだった。だから、私のたった一言の後押しで彼女は感情を取り戻した。
妬ましかった。しかし、嬉しい。
「……分かった。そうだよね。今は耐えるしかないよね」
言って、ムラサは私の腕から離れて、微笑み、
「ありがと」
素直で可愛らしい言葉をもうひとつ、おまけにくれた。
私の顔がいきなり熱くなった。
何やってるんだろう私、と思った。
* * *
【おかえりてめえら、ただいま地底】
たかだか一日のお泊り会なんてあっという間に終わる。このくそ暑い夏狭いベッドで二人くっついて寝るのはなかなか馬鹿らしく、面白かった。
もし相手がムラサだったらどうなっていたかな、なんてふと考えたりもした。馬鹿馬鹿しすぎる妄想なのですぐにやめた。
「ぱるすぃ~」
朝からふたり仲良く並んで橋に辿り着いた頃、ふいに一輪が立ち止まった。
「やっぱりもう一泊」
「ざっけんな」
私はいつもの隅に腰を落として言い捨てる。馬鹿らしかった。あれだけ何百年も仲よく一緒に暮らしてたくせ、少々の喧嘩ごときが何だというのか。
それとも私に妬んでほしい理由でもあるんだろうか。いや、そんなわけないが。
「いいから行ってきなさいよ。あんたたちには千年間培った信頼と実績があるでしょうに」
そう言うと驚かれた。口元に手を当て多少わざとらしく。
「おおっ。パルスィがいいこと言ってる。社長みたい」
「いいこと言うわよ? 私だって伊達に耳が長いわけじゃないもの」
「耳は関係ないと思うけど、分かった。ちょっと行って水蜜抱き締めてくる」
「おい待て抱き締めはしなくていい」
思わず立ち上がって、さっさと立ち去ろうとする一輪を止めに入ろうとしたところで、彼女は不意にまた立ち止まり、なぜかぼんやり上を見上げた。
上に見えるのは地上の光ぐらいのはずだ。それも、まだ太陽が低いから、角度が浅くてここまで届かない。特に面白くも何ともない景色。何をぼーっと見ているのかと私も地上を見上げてみれば、一目瞭然、逆光の中で徐々に大きくなる人影があった。
来客らしい。最近多くなって嬉しい限りだ。人影が誰か視認できるほど大きくなると、すぐ横で足を滑らせた音がした。反射的にそちらを見れば、一輪が慌てたように私の陰に隠れようとしているところだった。
とりあえず蹴り飛ばしておくと、倒れて動かなくなった。
「何? SMプレイ?」
地底に降り立つ足音とともに、ムラサが明るく登場した。
一年ぶりの邂逅だというに、開口一番がそれか。一輪のときよりもひどい。
「昨夜はおたのしみでしたね!」
「うっさい黙れ」
ムラサはスカッとした快晴のように眩しい笑顔を見せてくれた。言っていることはとても下品だが。
一輪がようやく起き上がる。土まみれになっていた。そしてまた私の後ろに隠れた。照れているのか、嫌がっているのか……。ともかく、役者は意外にも橋で集まったのだった。
「なんだかよく分かんないんだけどさ。一輪が、昨日はゴメンって」
当の本人が使いものにならないので、やむなく私が仲介役を買って出ることにした。……が、背後から後頭部を引っぱたかれた。
「痛! 何すんのよ!?」
そのまま両肩に固くしがみ付かれたので、振り返ることすらままならなかった。ぬふう、この橋姫から完璧に後ろを取るとは、なかなかやりおるではないかー。
「……恥ずい」
そこで彼女は無駄に可愛いことをのたまうのだった。
「だからさあ……昨日今日会った仲でもなかろうに、何をそんなに恥ずかしがることがあるのよ」
思わず小さな溜息が出て、もう何度思ったか分からないことをついに口に出してしまった。そこへムラサがすかさず助け舟を出す。
「あー、いいよいいよ。私も仲直りしに来たんだしね」
ムラサは腰に手を当てて、にひひと快活に笑った。
まだ顔を合わせただけだが、一輪の言う通り、確かに地底にいたときと随分印象が違って見えた。以前はこんなふうに笑う妖怪ではなかったように思う。聖を助け出すという大きな目標を達したことで、彼女を縛っていた枷が一気に全て外れたのかもしれない。人生何もかも順調なようで、妬ましいったらない。
「ごめんねイチ、私も怒りすぎたよ」
私の陰で尚も縮こまる一輪に、ムラサは明るい笑顔のままで語りかけた。地底時代とはまるで立場が逆転しているように、私には思えた。一輪の返事はなんだか「うーん」といった感じで、いまいちぱっとしない。
「ふーん……仲よしイチャイチャラブラブのあんたたちが喧嘩だなんてちゃんちゃらおかしいけどー。一輪、あなた一体何をしたのよ」
半分以上呆れて問いかける私へ、さらにムラサが割って入る。
「私の柄杓を直した」
「……はぁ?」
壊したんじゃなく、直したのか。
「そしたら、水が溢れて止まらなくなったのね。おかげでみっちゃんのおうちがビショビショになっちゃったのぉ」
「……はぁ」
なぜかくねくねしながらの話だったが、まあ一応納得しておいた。つまり一輪が知らずに船幽霊の底なし柄杓の底を埋めてしまい、するとそれが勝手にムラサの家を沈めてしまった、ということなんだと思う。家って寺じゃなかっただろうか。大丈夫なのか?
「だって」、不意に一輪が、私の首筋に向かってぼそぼそと呟いた。「台所にあったんだもん」。
どうやら、そんなところにあったらムラサのものだと気付くわけないじゃんということを言いたいらしい。頭のいい一輪にしては苦しい言い分だった。
その場にいた誰もが沈黙した。どうにも言葉に困る。頭がよくて気が利く人ほど、なぜか時々変な失敗をする。たぶんきっとその類。しかも普段がなまじ優秀なだけに、その失敗を不要なまでに恥じ入ることも多い。
「あー、まあ、いいじゃないのよ。ムラサも許すって言ってんだから」
なんとか頑張ってフォローしようとする私。ムラサも追従するように頷く。
「そうそう。抱き締めてあげるからこっちおいで」
「抱き締めはせんでいい」
さてはさっきの会話を聞いていたな。
私の肩を掴む一輪の指が、分かりやすく「抱き締めてあげ」辺りでぴくりと反応した。抱き締められたいらしい。次いで、ささっと何か小動物のように私の背後から飛び出て、恥ずかしそうに俯きながら「ごめん」、さらに「ありがと」と呟いた。抱き締められたいらしい。
「寺のみんなにも言っておくんだよー。心配してたんだから」
ムラサは変わらない笑顔で答えた。一輪もやっと素直に笑った。
なんだか凄まじく妬ましくなってきたのは気のせいではあるまい。しかし、その様子に気付いたのか気付いていないのか、ムラサは続けて、
「それから、パルスィにもね」
私に微笑みかけた。今度はニヤリとしていた。おかげでちょっとだけ嫉妬心が和らいだのがとんでもなく悔しい。
一輪がこちらを見る。私は目を合わせられなかった。悔しすぎて、また妬ましくなってきた。
「うん。ありがとうね」
なぜかは全然分からない、これっぽっちも分からないのだが、心臓がきゅんと縮こまるのが分かった。いや本当全然分からないけど。とにもかくにも妬ましいと思いながら、私はそっぽを向いて、髪を掻き乱し吐き捨てる。
「ああもう、仲睦まじくてよござんしたねえ! 礼も謝罪もいらないから、さっさと帰りなさいよ」
背後からくすくすという笑い声が二つ聞こえた。
妬ましかった。けれどまあ、仕方ないなと、一緒になって笑った。
しかしいよいよ二人が抱き合い始めたので、二人ともぶん殴っておいた。
でも、きっと。
いいえ、絶対に。
私はこれを待っていた!
最高でした!
パルスィ以外の他の地底メンバーとの交流も気になるかも。
ムラサと一輪とパルスィがそれぞれ可愛かったです。
パルスィさんマジいい人
あとケンカの理由も良い意味で完全に予想外でしたw
この三角? 関係は味わい深いですね。ニヤニヤしてしまいます。
これを思いついた作者様が妬ましいわw
村パルもムライチもパルイチもどのCPも文章からうかがえるけど決定打がないからニヤニヤ
しっぱなしでしたw
パルスィと封印組のSSはもっと流行るべき
もっとこの組み合わせは流行れ!
いやあんた純正ではないが鬼だろw
そういえば水蜜と一輪は地底出身だったな
ついつい忘れていた事実をこの話はごく自然に思い出させてくれました
煩いわけでもなし気にしなけいこともできたが
→気にしないこともできたが?
ともあれ、村紗と一輪とパルスィがイイ!特に、村一に対して微妙にお姉さんぽいパルスィがイイ!
この組み合わせの良さに開眼したので、ぜひもっと書いてくださいお願いします。
3人とも可愛くてにやにやしてしまいました。