「はいよ、はっちゃん。最新号だよ」
「あ! いつもありがとうねー」
はたては今日も玄関先で客を迎え、にっこり笑って新聞を受け取る。
そしてさっそく1面を見ては、ふんふんと頷きだしたりする。客の目の前で。そんなはたての様子を見て、来客人は小さくため息をついた。
「……あのさ。はっちゃんももう聞き飽きたかもしれないけど」
「あいつから直接貰うのは、絶対に、嫌。好きで読んでるなんて思われたら悔しいじゃない」
「いや知る限り、はっちゃんほどの愛読者はいないけど実際」
「なんでよ!? 勘違いしないで! ライバル紙の研究をするのは当然でしょう。それだけよ!」
「いいけどね、別に。あたしも仕事で配達やってるし。ただ、こんな近所で配達代行頼んでるのはっちゃんだけだよ……」
「仕方ないじゃない。私がこんな四流紙読んでるなんて噂になったら死んじゃうわ」
「……みんな知って……まあいいや」
来客人、すなわち配達人は、やれやれと軽く肩をすくめる。
呆れた様子に気付いているのかいないのか、はたては新聞を読みながら、ああ、ほらやっぱり酷い、などど眉をひそめながら言う。
「ほら見てよこの文章。『やはりこの世界は転ばぬ先の巫女である』って。この表現、第122号の3面謎の飛行物体特集の結びにも使っていたわよ。いえその前には第89号のコラムで近頃の異常気象に触れたときにも使っていたわ。最初は「である、といえよう」だったけど。一度受けがよかったからってワンパターンすぎると思わない? いっつもの憶測だけの記事よりはましだけどさ。知ってる? 創刊号で文がどんなこと書いてたか。『この新聞は、皆さんに数々の驚きの真相を素早く届けることを目的に創刊された』だって。真相? 妄想の間違いじゃなくて? 笑わせるわね。第110号の新参神様特集なんて過去最高のペテンだったわ。憶測に憶測を重ねて完全に文の脳内ストーリーを小説にしただけの内容。『少なくとも彼女らが登場してからお菓子は美味しくなった。それでよしとしよう』……なによそれ! 最後に投げっぱなしじゃない! 文はお菓子好きだから結局そこだけなのよね。特にふわふわした軽いのに弱すぎるのよ。第39号の『今日の人』のインタビューでも明らかにお菓子に釣られてたのバレバレだったし。あ、今日のも、これ、ちょっと――」
「あーはいはいはいはい。ちょっと黙れ」
「む」
「あたしはあんたと違ってあややマニアじゃないからついていけん」
「誰がマニアよ!? こんな五流紙なんて読む時間ももったいないくらいだわ」
「ん。じゃあ配達は今日までで終了?」
「……」
ぐ。
はたての握りこぶしが、ぷるぷると震える。
「……ふ、ふん。腐っていてもライバル紙だってことは事実だからね。目を離してはいけないわ。そうでしょう!?」
「はいはい。ソウデスネー」
「わかればいいのよ。それよりちょっと聞いてよ。あいつ記者としてまったく態度がなっていないわ。今回のコラムの」
「帰る」
「えっ……あ、うん。忙しいよね。ごめんね」
はあああ……。
配達人は、また大きくため息をついた。
「まあ、また来るよ。それまでそいつでしっかり楽しんでくれ」
「うん。いつもありがとうね――って、ああっ!! 文だ!」
「んあ?」
はたてが急に叫んだので、配達人もその視線の先を追う。
はるか遠くに、小さな影が見えた。
「……」
しばらくその影を眺めたあと、ぽつりと言う。
「はっちゃんは千里眼持ちだったか?」
「何言ってるのよ! あんなふらふらと節操なく周囲を伺うような特徴のある飛び方するの、文に決まってるじゃない!」
「……」
「ちょっと今回の記事について文句言ってくる! あ、ごめんね配達ありがとう今後もよろしくね!」
「……あ、ああ。……その、お幸せに」
びゅーん、とはたては飛び去っていく。
少しして、叫び声が聞こえてきた。
(ちょっと! 文! 今回のコラム何なのよ! あっ……別に読んでるわけじゃないんだからね! ゴミ箱に捨ててあったのがたまたま見えただけよ! それより聞きなさないよこの文体ごまかせると思ったんじゃないでしょうね、第117号の『今日の人』で時間がないからって宴会の後酔っ払ったまま書いたって自分で言ってた記事と文体がそっくりじゃない! また酔っ払って書いたのがバレバレなんだからねまったく記者としての態度がなってないっていうかジャーナリズムを冒涜してるっていうか、自分が第100号記念号で書いた宣言を思い出しなさいよ! そもそも……あ、ちょっと待ちなさいどこ行くのよっ)
「……」
そんな後姿を眺めながら、配達人の烏天狗は思うのだった。
あそこまで熱中してくれるファンがいてくれてうらやま……
……
やっぱいいや。
「あ! いつもありがとうねー」
はたては今日も玄関先で客を迎え、にっこり笑って新聞を受け取る。
そしてさっそく1面を見ては、ふんふんと頷きだしたりする。客の目の前で。そんなはたての様子を見て、来客人は小さくため息をついた。
「……あのさ。はっちゃんももう聞き飽きたかもしれないけど」
「あいつから直接貰うのは、絶対に、嫌。好きで読んでるなんて思われたら悔しいじゃない」
「いや知る限り、はっちゃんほどの愛読者はいないけど実際」
「なんでよ!? 勘違いしないで! ライバル紙の研究をするのは当然でしょう。それだけよ!」
「いいけどね、別に。あたしも仕事で配達やってるし。ただ、こんな近所で配達代行頼んでるのはっちゃんだけだよ……」
「仕方ないじゃない。私がこんな四流紙読んでるなんて噂になったら死んじゃうわ」
「……みんな知って……まあいいや」
来客人、すなわち配達人は、やれやれと軽く肩をすくめる。
呆れた様子に気付いているのかいないのか、はたては新聞を読みながら、ああ、ほらやっぱり酷い、などど眉をひそめながら言う。
「ほら見てよこの文章。『やはりこの世界は転ばぬ先の巫女である』って。この表現、第122号の3面謎の飛行物体特集の結びにも使っていたわよ。いえその前には第89号のコラムで近頃の異常気象に触れたときにも使っていたわ。最初は「である、といえよう」だったけど。一度受けがよかったからってワンパターンすぎると思わない? いっつもの憶測だけの記事よりはましだけどさ。知ってる? 創刊号で文がどんなこと書いてたか。『この新聞は、皆さんに数々の驚きの真相を素早く届けることを目的に創刊された』だって。真相? 妄想の間違いじゃなくて? 笑わせるわね。第110号の新参神様特集なんて過去最高のペテンだったわ。憶測に憶測を重ねて完全に文の脳内ストーリーを小説にしただけの内容。『少なくとも彼女らが登場してからお菓子は美味しくなった。それでよしとしよう』……なによそれ! 最後に投げっぱなしじゃない! 文はお菓子好きだから結局そこだけなのよね。特にふわふわした軽いのに弱すぎるのよ。第39号の『今日の人』のインタビューでも明らかにお菓子に釣られてたのバレバレだったし。あ、今日のも、これ、ちょっと――」
「あーはいはいはいはい。ちょっと黙れ」
「む」
「あたしはあんたと違ってあややマニアじゃないからついていけん」
「誰がマニアよ!? こんな五流紙なんて読む時間ももったいないくらいだわ」
「ん。じゃあ配達は今日までで終了?」
「……」
ぐ。
はたての握りこぶしが、ぷるぷると震える。
「……ふ、ふん。腐っていてもライバル紙だってことは事実だからね。目を離してはいけないわ。そうでしょう!?」
「はいはい。ソウデスネー」
「わかればいいのよ。それよりちょっと聞いてよ。あいつ記者としてまったく態度がなっていないわ。今回のコラムの」
「帰る」
「えっ……あ、うん。忙しいよね。ごめんね」
はあああ……。
配達人は、また大きくため息をついた。
「まあ、また来るよ。それまでそいつでしっかり楽しんでくれ」
「うん。いつもありがとうね――って、ああっ!! 文だ!」
「んあ?」
はたてが急に叫んだので、配達人もその視線の先を追う。
はるか遠くに、小さな影が見えた。
「……」
しばらくその影を眺めたあと、ぽつりと言う。
「はっちゃんは千里眼持ちだったか?」
「何言ってるのよ! あんなふらふらと節操なく周囲を伺うような特徴のある飛び方するの、文に決まってるじゃない!」
「……」
「ちょっと今回の記事について文句言ってくる! あ、ごめんね配達ありがとう今後もよろしくね!」
「……あ、ああ。……その、お幸せに」
びゅーん、とはたては飛び去っていく。
少しして、叫び声が聞こえてきた。
(ちょっと! 文! 今回のコラム何なのよ! あっ……別に読んでるわけじゃないんだからね! ゴミ箱に捨ててあったのがたまたま見えただけよ! それより聞きなさないよこの文体ごまかせると思ったんじゃないでしょうね、第117号の『今日の人』で時間がないからって宴会の後酔っ払ったまま書いたって自分で言ってた記事と文体がそっくりじゃない! また酔っ払って書いたのがバレバレなんだからねまったく記者としての態度がなってないっていうかジャーナリズムを冒涜してるっていうか、自分が第100号記念号で書いた宣言を思い出しなさいよ! そもそも……あ、ちょっと待ちなさいどこ行くのよっ)
「……」
そんな後姿を眺めながら、配達人の烏天狗は思うのだった。
あそこまで熱中してくれるファンがいてくれてうらやま……
……
やっぱいいや。
ていうか涎垂らして初めてキモい顔してたのに気づいた。
ツンデレはっちゃんいいわー。
文が分かってる感じなのがまたよかったです。