いつでも勇儀はおいしいそうにお酒を飲んでいる。
片時も離す事の無いその真っ赤な杯に嫉妬した回数なんてもう数えるのも飽きてしまった程に。
だけどお酒のどこに彼女を離さない魅力があると言うのだろうか?
私にはそれが分からない。
そもそも私はお酒を飲まない。
いつもおいしそうに飲んでいる彼女の隣で私はただ見ているだけだ。
コポコポコポ。
…………お酌をするのは嫌いじゃないけど。
「酒のどこが良いのかって?」
分からないのだから聞いてみる事にした。
私の質問に、初めは不思議そうにしていた勇儀だったけど直ぐに何時もの豪快な笑みを浮かべて答えてくれた。
「こんな別嬪さんにお酌をされたら、どんな泥水でも美酒に早変わりってもんさ!」
「それはもう分かったからっ……///」
割と本気で言っているのが分かっているから余計に恥ずかしい……。
何時だって勇儀は褒めてくれるから、私はお酌をするのが好きなのかもしれない。
ぐびっ
こぽこぽこぽ
勇儀が杯を空にしたらすぐさま私はお酌をする。
日がな一日、用意したとっくりが無くなるまで私達はこの行為を繰り返す。
本当に静かで…………だけど満ち足りた日々。
妬ましいくらい愛しいこの人の傍にずっと居られるのは確かに幸せで。
だから別に不満があって知りたいわけじゃないの。
「…………そんなに知りたいのかい、パルスィ?」
私の視線をどう受け止めたのか、勇儀はちょっと困り顔で言葉を紡いだ。
だけど知りたいものは知りたいのだから仕方ない。
迷わず大きく頷いて見せた私に、さて困ったと勇儀はポリポリと頭を掻いた。
「そうさね…………うん、そうだ!」
何か名案が浮かんだようで、ポンと手を叩く勇儀。
そして、それを傍観していた私に構わず勇儀は再び杯を傾ける。
──なんだ、何時もと変わらないじゃない。
落胆に私は顔を俯かせた。
試しに私も飲んで見たらいいだけの事かと、手元にあったとっくりを見て私は思った。
そしてそのとっくりに手を伸ばそうとした、その時──
ぐいっ!
「……え?」
──不意に勇儀の手が私の顎を捉え、俯いていた顔を無理やり上げさせられた。
ちゅ……。
「んんっ……!」
キスと共に唇を割って流れ込んできた流水に、一瞬息が止まるかと私は思った。
(なにこれ……お酒……?)
喉を通る液体の妙な熱さに、飲み込んでからそれがお酒であると私は気が付いた。
だけど熱いのは喉だけじゃなくて……。
顔全体が火を噴いたように熱くなってしまった。
「どうだった?」
ニカッと笑う勇儀に、だけど私は恥ずかしさからまともに顔も上げられなかった。
…………キスをするのだって別に初めてじゃないのに……どうしても胸のドキドキが収まってくれない。
勇儀……! 貴女なんて妬ましい顔で笑うのよ……!
膝を叩いて笑う勇儀の姿が妬ましいやら、愛おしいやらで……もう頭の中がパニックを起こしてしまっていた。
「…………不意打ちはダメだって、いつも言ってるじゃないっ……///」
「そうだったかい? 酒を飲んでいるとどうも記憶があやふやでね。」
悪い悪いと口では言って見せるものの、全く反省の色を見せない勇儀。
どうやら私をからかうのが楽しくて仕方ないと見える。
だけど──
「もうっ……! 次やったら承知しないんだからっ……///」
──結局のところ一番喜んでいるのは私の方だってこと……勇儀にはとっくに見抜かれているから……。
「なにを承知しないんだい?」
「……っ! し、知らないっ!」
紅くなっていく顔を誤魔化そうと、手にあったとっくりに口を付ける私。
勇儀がやるように、豪快に──
ごくっ……ごくっ……ごくっ……
「おおっ! 良い飲みっぷりだねぇ! やるじゃないか、パルスィ!」
……たまにはお酒も良いかしら?
ちょっとでも私にそう思わせた勇儀の手腕が妬ましい……。
「…………キスをするのだって別に初めてじゃないのに……」ええー!初めては誰なのー!!って思ったら勇儀姐さんとのキスのことか。ああ、びっくりした。ていうかいつもやってるのかww
パルスィさんに和服着てもらってお酌されたら最高だろうな……
とっても良かったです