「うわあああああああああああああああああああああああああ」
幻想郷――生命の神秘シリーズ⑤ 春を告げる妖精・リリーホワイト
「あああああああああああああああああああああああああああ」
風に乗り幻想郷に広がるリリーホワイトの雛たちです。
「だれかああああああああああああああああああああああああ」
「とめあああああああああああああああああああああああああ」
楽しそうですね。
土の中で夏・秋を越したリリーホワイトは、冬になると雛に戻り、一斉に空へ解き放たれます。
ふわふわと飛び春を告げるリリーホワイトは、春の幻想郷の風物詩として知られていますが、雛の頃はまだ羽を持たず、体長15cmほどの彼女たちは風に乗れるほど軽くもありません。
「あああああああああああああああああああああああああああ」
なので目覚めたばかりのリリーホワイトたちは、自分の意志とは関係なく割と綺麗な放物線を描いて飛ばされていきます。
どこから、どうやって、なぜ飛ばされているのかは、現在学会でも議論の中心となっています。
やがて無事地面に着地できたリリーホワイトたちは、身を守るために巣を作り始めます。
危険な動物は冬眠しているものも多いですが、冬眠をしない肉食動物や妖怪たちにとって、リリーホワイトは冬の間の貴重な獲物です。
森の木の幹をくり貫いたり、民家の床下に潜んだり。巣の作り方は様々です。
「おやかたーくぎがたりませーん」
「くぎつかわないだろ」
妖精は食べ物を必要としません。リリーホワイトたちは作った巣の中でUNOなどをしながら、一人で巣を作ったリリーホワイトは一人神経衰弱をしながら冬が明けるのを待ち、生体となって春の訪れを告げるのです。
ちなみに無事着地できなかったリリーホワイトがどうなるのかは、現在学会でも議論の中心となっています。
「人類は食べちゃ駄目だけど妖精は大体食べても大丈夫って巫女が言ってた」
「うわあああああああああばらまきだんばらまきだん」
「低速移動」
サバンナは弱肉強食の世界です。
巣を作らずにひとりぼっちで歩いているリリーホワイトの雛は、厳しい野生の洗礼を受けることになるでしょう。
冬の寒さに動物たちの動きは鈍りますが、お腹を空かせた妖怪たちは季節に関わらず機敏な動きでリリーホワイトに襲いかかります。
「大分お腹くちくなった」
誰もが一度は見たことがあるあの美しい弾幕も、雛のリリーホワイトにはその半分も展開することはできません。
飛ぶことができず、自衛手段も無い状態で外敵に出くわしてしまったリリーホワイトの運命は、一つです。
巣に隠れているリリーホワイトも絶対に安全とはいかず、危機が迫ることがあります。
「キーノッコきっのこー冬ーのきっのこー♪ えっのきっにしーいたっけシモフリヌメリガサァァァ」
森へキノコ狩りにやってくる人間です。白黒です。
リリーホワイトが巣を作る地中や木などは、キノコ採集の際によくチェックされてしまうポイントです。
リリーホワイトを探している訳ではありませんが、見つかってしまえば末路は同じ。鍋で煮られることになります。
「恐怖!キノコ怪人シモフリヌメリガサ! 多分エロい! ヌメリの辺りとか特に……おや、この不自然な木のうろは」
白黒がリリーホワイトたちの巣に気付きました。危ない!
「ちょうどいいのぜ、一匹捕まえてキノコ怪人の素体に……」
「かかれー!」「あるふぁちーむとつげき!」「ごーごーごー!!」「きしゅうせいこう!きしゅうせいこう!」「あしをつぶせ!」
「ぶらぼー、ちゃーりーちーむもちくじせんせんにとうにゅう!」「かばー!」「たいしょうのてんとうをかくにん!」「うてうてー!」
「うぎゃーッ!?」
リリーホワイトたちの中には稀に、非常に指揮能力に長けた個体がいます。
指揮リリーは狭い範囲に大きな巣を複数作って沢山のリリーホワイトたちを集め、周囲に哨戒リリーを潜ませるなどして防御網を築きます。
雛とはいえ妖精の中でも比較的強力な力を持つリリーホワイトたちは、組織化することで外敵に対応しうる戦闘力を持つのです。
「……かったな」
「ああ」
副指揮リリーは椅子に座らせてもらえません。
リリーホワイトは春の妖精、寒さに弱い生き物です。
ちょうど春になる頃に成長していなくてはいけないリリーホワイトたちは、最も力の弱い時期に最も苦手な季節を越さなければならないのです。
土の中で冬を越すなんて器用なことはできません。
「がたがた」
「ぶるぶる」
身を寄せあって寒さを凌ぐリリーホワイトたち。四季の変化が激しい幻想郷では、時には吹雪さえも起こります。
服こそ着ていますが、中には寒さで命を落としてしまうリリーホワイトもいます。
「なんだかとってもねむいんだ……」
「ねるな」
雪が融け、下から緑色が顔を出します。木々は芽を付け動物たちは眠りから覚める。春の訪れです。
吹雪を越え、妖怪の手を逃れ、リリーホワイトは大きく成長しました。あれほどいたリリーホワイトたちは、春になると何故か必ず一匹にまで減っています。
生えたばかりの半透明な羽を広げ、リリーホワイトはいよいよ自分の力で空へ飛び立ちます。通る先々に満開の春をもたらすその姿は、春告精の名に相応しい神秘的な光景です。
「春ですよー!」
幸せそうに空を飛ぶリリーホワイト。しかしそこに至るまでに、彼女たちは私たちの知らない大自然の試練を潜り抜けてきたのです。
もし、春先に一足早く花を付けた桜を見かけたら、リリーホワイトたちのことを思い浮かべてみてください。
そうすれば、彼女の咲かせた花は、より一層美しくなって私たちの目に映るかもしれません。
「春ですよー!」
パンッ
おわり 川
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|EX|
 ̄
頼む、来年こそせめて十匹は生き残ってくれ。
そうすれば、きっと香霖堂にも春が!
餌とる必要ないなら、ばらばらに散開せずにまとまって冬をやり過ごした方がいいというのは禁句だ。
最初に生まれたヒナが他の卵を落として割るとかそういう話ですね