青々とした木々が視界を埋め尽くす。
木々に止まった蝉達が鳴き、まだ青い稲が風に揺れている。
ふと見上げると、妖怪の山の方から煙が上がってくるのが見える。
別に、焚き火をしているわけではなく、火事でもない。
火葬をしているのだ。
「なぁ、妹紅」
「なに、慧音」
煙が上がるほうをじっと見たままの慧音が、隣の妹紅に問いかけた。
亡くなったのは、慧音の寺子屋に来ている子供の親だった。
年をとっていたわけでは無いし、病を患っていたわけではない。
元気だったのに、突然亡くなったのだ。
故に、それを素直に受けとめる事が出来なかった。
とても悲しくて、辛い。
亡くなった時の子供の顔を、慧音はしっかりと見た。
必死に涙を堪えようとして、歪んだ表情。
だけど、抑えきれなくなって流れる涙。
そんな子供を見ているのは、辛かった。
「私は、今度あの子が寺子屋に来た時、なんて声をかければいいと思う?」
「そうねぇ」
難しい質問だった。
その子は、悲しさを必死に抑えて寺子屋に来るかもしれない。
そんな時に声をかけたら、悲しさを蘇らせてしまう。
でも、慧音に何か声をかけて欲しい、助けてほしいと思っているのかもしれない。
一体何を思っているかなんて、二人に分かるはずも無かった。
「その子が、慧音に声をかけてきた時は、全力でそれに答えて、受けとめてあげればいいんんじゃないかな。だけど、何も言ってこないようなら、そっとしておくか、二人きりになった時に、そっと声をかけてあげればいいと思うよ」
「そうだな」
そして二人はまた、山から漂う煙を見つめる。
風に吹かれて、二人の方までその臭いは漂ってくる。
なんとも言いがたい臭い。
それこそが、死の臭いだった。
改めて、その人物が亡くなったのだと、感じさせる臭いだった。
「ねぇ、慧音」
「なんだ、妹紅」
「この、人を焼いた時の臭いにそっくりの臭いを、私達が普段使っているものを燃やすと発生させるんだ。それがなにか分かる?」
「うむぅ」
難しい質問だった。
慧音は、時々不要なものを焼却処分する。
だけど、今まで燃やしてきたものの中で、こんな臭いを発するものなんてなかった。
考えてみる。
それでも、答えに至る事はできなかった。
「ごめん、わからない」
「でしょうね。それじゃあ、正解はね――」
二人は見つめあう。
慧音はその答えを聞くために、妹紅はその答えを言うために。
そして、妹紅は口を開いた。
「お金だよ。紙幣さ」
妹紅は、慧音の少々驚く顔を無視して、続けた。
「汗水垂らして必死に働いて得た紙幣は、その汗水が吸いこまれている。他にも、手垢だったり涙だったり、いろんなものがある。形あるものだけじゃない。悲しみや怒り、喜びとか、いろんな感情だって含まれてる。人間が生きていく上で、密に関わってきたものだからこそ、焼いた時に同じ臭いを発するのさ」
「そうなのか」
意外な答えだけど、納得のいく答えでもあった。
「死を悲しむのは当然の事。だけど、私からしたら、死はとても魅力的なものに見える。数え切れないほどの年月を生きて、たくさんの人と出会い、その人達は死んでいった。私は、その別れを悲しむことで、生を学び、私は一体何なのかと、わからなくなった」
「妹紅……」
「これからも私は存在し、そして別れる。私は生きているんじゃない、存在しているだけ。ねぇ、慧音。生きるって素晴らしいでしょう?」
「あぁ、素晴らしい。やめられないよ」
だけど、いつかは生きる事をやめなければならない。
だから、その時まで一生懸命生きなきゃいけない。
「私は最後まで妹紅の隣にいるさ」
「ありがとう。私がまた一人になるその時まで、よろしく頼むよ」
「……あぁ」
辺りは、死の臭いで満ちていた。
木々に止まった蝉達が鳴き、まだ青い稲が風に揺れている。
ふと見上げると、妖怪の山の方から煙が上がってくるのが見える。
別に、焚き火をしているわけではなく、火事でもない。
火葬をしているのだ。
「なぁ、妹紅」
「なに、慧音」
煙が上がるほうをじっと見たままの慧音が、隣の妹紅に問いかけた。
亡くなったのは、慧音の寺子屋に来ている子供の親だった。
年をとっていたわけでは無いし、病を患っていたわけではない。
元気だったのに、突然亡くなったのだ。
故に、それを素直に受けとめる事が出来なかった。
とても悲しくて、辛い。
亡くなった時の子供の顔を、慧音はしっかりと見た。
必死に涙を堪えようとして、歪んだ表情。
だけど、抑えきれなくなって流れる涙。
そんな子供を見ているのは、辛かった。
「私は、今度あの子が寺子屋に来た時、なんて声をかければいいと思う?」
「そうねぇ」
難しい質問だった。
その子は、悲しさを必死に抑えて寺子屋に来るかもしれない。
そんな時に声をかけたら、悲しさを蘇らせてしまう。
でも、慧音に何か声をかけて欲しい、助けてほしいと思っているのかもしれない。
一体何を思っているかなんて、二人に分かるはずも無かった。
「その子が、慧音に声をかけてきた時は、全力でそれに答えて、受けとめてあげればいいんんじゃないかな。だけど、何も言ってこないようなら、そっとしておくか、二人きりになった時に、そっと声をかけてあげればいいと思うよ」
「そうだな」
そして二人はまた、山から漂う煙を見つめる。
風に吹かれて、二人の方までその臭いは漂ってくる。
なんとも言いがたい臭い。
それこそが、死の臭いだった。
改めて、その人物が亡くなったのだと、感じさせる臭いだった。
「ねぇ、慧音」
「なんだ、妹紅」
「この、人を焼いた時の臭いにそっくりの臭いを、私達が普段使っているものを燃やすと発生させるんだ。それがなにか分かる?」
「うむぅ」
難しい質問だった。
慧音は、時々不要なものを焼却処分する。
だけど、今まで燃やしてきたものの中で、こんな臭いを発するものなんてなかった。
考えてみる。
それでも、答えに至る事はできなかった。
「ごめん、わからない」
「でしょうね。それじゃあ、正解はね――」
二人は見つめあう。
慧音はその答えを聞くために、妹紅はその答えを言うために。
そして、妹紅は口を開いた。
「お金だよ。紙幣さ」
妹紅は、慧音の少々驚く顔を無視して、続けた。
「汗水垂らして必死に働いて得た紙幣は、その汗水が吸いこまれている。他にも、手垢だったり涙だったり、いろんなものがある。形あるものだけじゃない。悲しみや怒り、喜びとか、いろんな感情だって含まれてる。人間が生きていく上で、密に関わってきたものだからこそ、焼いた時に同じ臭いを発するのさ」
「そうなのか」
意外な答えだけど、納得のいく答えでもあった。
「死を悲しむのは当然の事。だけど、私からしたら、死はとても魅力的なものに見える。数え切れないほどの年月を生きて、たくさんの人と出会い、その人達は死んでいった。私は、その別れを悲しむことで、生を学び、私は一体何なのかと、わからなくなった」
「妹紅……」
「これからも私は存在し、そして別れる。私は生きているんじゃない、存在しているだけ。ねぇ、慧音。生きるって素晴らしいでしょう?」
「あぁ、素晴らしい。やめられないよ」
だけど、いつかは生きる事をやめなければならない。
だから、その時まで一生懸命生きなきゃいけない。
「私は最後まで妹紅の隣にいるさ」
「ありがとう。私がまた一人になるその時まで、よろしく頼むよ」
「……あぁ」
辺りは、死の臭いで満ちていた。
考えさせられました
それより人とお金が同じ匂いがするとは……深い解釈だ。
しみじみと考え深いお話でした。
哲学かな