Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

死の臭い

2010/06/30 12:53:55
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青々とした木々が視界を埋め尽くす。
木々に止まった蝉達が鳴き、まだ青い稲が風に揺れている。
ふと見上げると、妖怪の山の方から煙が上がってくるのが見える。

別に、焚き火をしているわけではなく、火事でもない。

火葬をしているのだ。

「なぁ、妹紅」
「なに、慧音」

煙が上がるほうをじっと見たままの慧音が、隣の妹紅に問いかけた。

亡くなったのは、慧音の寺子屋に来ている子供の親だった。
年をとっていたわけでは無いし、病を患っていたわけではない。
元気だったのに、突然亡くなったのだ。
故に、それを素直に受けとめる事が出来なかった。
とても悲しくて、辛い。

亡くなった時の子供の顔を、慧音はしっかりと見た。
必死に涙を堪えようとして、歪んだ表情。
だけど、抑えきれなくなって流れる涙。

そんな子供を見ているのは、辛かった。

「私は、今度あの子が寺子屋に来た時、なんて声をかければいいと思う?」
「そうねぇ」

難しい質問だった。
その子は、悲しさを必死に抑えて寺子屋に来るかもしれない。
そんな時に声をかけたら、悲しさを蘇らせてしまう。
でも、慧音に何か声をかけて欲しい、助けてほしいと思っているのかもしれない。
一体何を思っているかなんて、二人に分かるはずも無かった。

「その子が、慧音に声をかけてきた時は、全力でそれに答えて、受けとめてあげればいいんんじゃないかな。だけど、何も言ってこないようなら、そっとしておくか、二人きりになった時に、そっと声をかけてあげればいいと思うよ」
「そうだな」

そして二人はまた、山から漂う煙を見つめる。
風に吹かれて、二人の方までその臭いは漂ってくる。
なんとも言いがたい臭い。
それこそが、死の臭いだった。

改めて、その人物が亡くなったのだと、感じさせる臭いだった。

「ねぇ、慧音」
「なんだ、妹紅」
「この、人を焼いた時の臭いにそっくりの臭いを、私達が普段使っているものを燃やすと発生させるんだ。それがなにか分かる?」
「うむぅ」

難しい質問だった。
慧音は、時々不要なものを焼却処分する。
だけど、今まで燃やしてきたものの中で、こんな臭いを発するものなんてなかった。
考えてみる。
それでも、答えに至る事はできなかった。

「ごめん、わからない」
「でしょうね。それじゃあ、正解はね――」

二人は見つめあう。
慧音はその答えを聞くために、妹紅はその答えを言うために。
そして、妹紅は口を開いた。

「お金だよ。紙幣さ」

妹紅は、慧音の少々驚く顔を無視して、続けた。

「汗水垂らして必死に働いて得た紙幣は、その汗水が吸いこまれている。他にも、手垢だったり涙だったり、いろんなものがある。形あるものだけじゃない。悲しみや怒り、喜びとか、いろんな感情だって含まれてる。人間が生きていく上で、密に関わってきたものだからこそ、焼いた時に同じ臭いを発するのさ」
「そうなのか」

意外な答えだけど、納得のいく答えでもあった。

「死を悲しむのは当然の事。だけど、私からしたら、死はとても魅力的なものに見える。数え切れないほどの年月を生きて、たくさんの人と出会い、その人達は死んでいった。私は、その別れを悲しむことで、生を学び、私は一体何なのかと、わからなくなった」
「妹紅……」
「これからも私は存在し、そして別れる。私は生きているんじゃない、存在しているだけ。ねぇ、慧音。生きるって素晴らしいでしょう?」
「あぁ、素晴らしい。やめられないよ」

だけど、いつかは生きる事をやめなければならない。
だから、その時まで一生懸命生きなきゃいけない。

「私は最後まで妹紅の隣にいるさ」
「ありがとう。私がまた一人になるその時まで、よろしく頼むよ」
「……あぁ」


辺りは、死の臭いで満ちていた。
はいどうも、へたれ向日葵です。
テスト前日です、なにやってるんでしょうか。
朝起きて、書いてみたくなったのですぐに書きました。
即席の生と死に関してのSSです。

最後まで読んでくださった方々には、最大級の感謝を……。
へたれ向日葵
[email protected]
http://hetarehimawari.blog14.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
うーん、生と死…か。
考えさせられました
2.名前が無い程度の能力削除
創想話の方も見ましたよ!テストはいかがでしたでしょうか。
それより人とお金が同じ匂いがするとは……深い解釈だ。
しみじみと考え深いお話でした。
3.ショボーン削除
すごい奥が深い・・・
哲学かな