Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

「霊烏路空の抱える痛み」

2010/06/29 07:27:29
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大きな力を手に入れるには、相応の代償が必要だ。
岩を砂にするような長い時間か、血のにじむような努力か、もしくは身を焼き尽くすような痛みが。


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どんどんどん。
力いっぱい扉をたたく。あたいの苛立ちに合わせてその音も大きくなる。

「おくう! おくうってば! もう……とっくに朝だよ!」

しばらくしてからようやく、がちゃりと扉が開く。

「……うにゅ?」

そうして床を這うようにしてベッドから出てきた親友の姿を見て、あたいは今日もため息をつく。

「おくう、またそんなだらしない格好して今まで寝てたんだね……あたい5分くらい扉たたいてたよ」

親友は気だるそうに壁に身体をもたれかけて、焦点の合わない目であたいを見つめる。またぼーっとしてる。

「ああもう!」

あたいはいらいらして、ばちん、と目の前で思いっきり両手を打ち鳴らした。

「わわっ!……び、びっくりしたぁ……ええっと、その、あの……」

おくうは何かを言いかける。だけど待ってもそれは言葉にならなかった。
つい最近までは必ず笑顔で『おはよう、おりん』って言ってくれてたのに。
あたいに戸惑うような態度が悲しくて、あたいはつい声を荒げてしまう。

「また寝ぼけてんのね!どうやったら目が醒めるのおくうは!」

「えっと、その、もう大丈夫だから……起こしに来てくれてありがとう」

えへへ、と笑いながら親友が答える。ああもう、ほうっておけないじゃないか。






「――――ねぇ、おくう。本当に大丈夫なの?」

ぴくり、とおくうの身体が跳ねる。

「あたいはおくうのことが心配なんだよ。最近なんだか様子がおかしいじゃないか」

ばつの悪そうな顔をして、おくうがえへへ、と答える。
それがなんだかとても切なくて、あたいを落ち込ませる。
最近おくうがあたいに対してよそよそしくなったような気がする。
何故だか物忘れがひどくなったし、時々何かに怯えるような表情をするようになった。

大事な親友を怖がらせるものなんて、あたいが全部やっつけてやれたらいのに。

「あたいじゃ頼りないかもしれないけど、何かあったならちゃんと言ってね。親友じゃないか」

「うん、そうだね……ありがとう……」

「じゃああたいは戻るから。ちゃんと目ぇ醒ますんだよ!」

去り際にちらりと壁に目をやる。
床にナイフが転がっていて、壁に『おりんはともだち』と下手な字で刻んであった。
なんだかバカらしくて笑っちゃったけど、それでもあたいは軽い足取りで引き返していった。



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力を手に入れるには代償が必要だったのだ。
それが神の力ともなれば、一体どれだけのものが求められるのだろう。



そいつは毎晩やってくる。真っ暗な私の部屋にやってくる。

「(―――――っ!!)」

それはいつも突然始まる。その瞬間を待ち伏せていたかのように、急激に。
背骨の芯から足の爪先まで、私の神経を焼き尽くすような激痛が走る。

「(また……きちゃったのか……)」

どんなに悟ってみせても、格好つけてみせても、その痛みは痛みであることをやめてくれなかった。
耐え切れず、両手で塞いだ口から醜い叫び声が漏れる。だけどこんなの私の声じゃない。

「むぐ……っうああああ!!」

嫌だ。こんなの私の身体じゃない。だけど焼き尽くすような痛みは私にのしかかり、私の中を暴れる。
これからもっと痛いのが来てしまう。そう思うと底無しの恐怖が私を襲ってきた。

「ひっ!―――いやぁああああ!!」

その痛みは脳細胞まで焼き尽くして、私は頭が真っ白になる。
白くて、とても真っ白で、私の部屋はどこまでも苦痛の白に塗りかえられていく。

 わたしのだいじなへやなのに。

やめてよ、どうして全部白くしてしまうの?

壁に掛けておいた大事な思い出も、大切なともだちの顔も、真っ白になって私から消えてしまう。
痛みで頭が割れてしまう。痛みで全てが消えてしまう。
……いやだ。
私は歯をくいしばって立ち向かう。
痛みなんかに負けるもんか。


「――――――――!!」


もう決して泣くもんか――――


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懐かしい音がする。
真っ白になって消えてしまった私を、それでも誰かが必死に呼び止めてくれている。

誰かが一生懸命に私の部屋の扉をたたいている。その音で私は目を覚ます。
気絶して、バラバラになった意識を、その扉をたたく音とともに組み立てなおす。

どんどんどん。かちりかちりかちり。

バラバラの私を何とかひとつずつ組み上げるのだけど、やがて何かが足りないことに気づく。
大事なピースがひとつ欠けているような感覚。だけどそれが何なのかは分からない。
誰かが扉をたたいている……そうだ扉を開けないと。




がちゃり、と扉を開くと、そこにはひとりの少女が怒った顔をして立っていた。

「もう! おくうったら! 今日はあたい10分間くらい扉たたいてたんだからね!」

おくう?……そうだ、私はおくうだった。まだ頭が白くかすんでいる。

「また寝ぼけてる! ぼーっとしてないでよ! まったくおくうは――――」

何故だか私は起きた途端にこの少女に怒鳴られている。だけど嫌な感じはしなかった。
目の前の少女が私のために一生懸命になっているのがわかった。
とても懐かしい気持ちで、私はその少女の綺麗な瞳を見つめていた。



「――――もう、ちゃんと話聞いてる?」

うん、聞いてたよ、ごめん、起こしてくれてありがとう。あたりさわりの無いように答える。
だけどその言葉を聞いた少女はどこか寂しそうな顔をした。
その顔を見てなんだか私も悲しくなった。どうしてこんな気持ちになるんだろう?





引き返してゆく少女の背中を眺めたあと、中に入って扉を閉め、鍵をかけた。
私は自分の部屋を眺め回す。狭くて少し薄暗い、私の大事な部屋。
ふと壁に目をやると、そこには刃物で何かを刻んだ跡があった。

『おりんはともだち』


……そうか、あの少女は『おりん』だったんだ。


そう気づいたとき、かちり、と最後のピースがはまる音がした。

そうして私は自分を取り戻す。ようやく自分を思い出す。
自分の部屋が失われてゆく夢を見たこと、忘却に怯えてナイフで壁を刻んだあの日のこと。

去り際におりんが見せた寂しげな顔が私の頭をよぎった。
絶対に忘れないと決めた友達のこと、うっかり忘れてたじゃないか、私。あはは。
だけど昨夜は痛くても泣かなかったもんね、きっと強くなってるよ、大丈夫。



「――――おはよう、おりん。えへへ」

笑顔を作ってそう口にしてみたけど、もう部屋には誰もいなかった。

自分でも気づかないうちに、涙が頬を流れてぽたりと床に落ちた。

朝にやってくるこの静かな胸の痛みが、私には一番ひどくこたえた。
 全部夢ならよかったのに。




ここまでお読みいただきありがとうございました!
jomo
コメント



1.奇声を発する程度の能力 in 携帯削除
何だかとても切なかったです…
2.名前が無い程度の能力削除
これはきつい…
3.  削除
悲しい・・・・