ずしりと、急にお腹が重たくなった。
もちろん急に肥ったというわけではなく、どうやら春眠を貪っていた私のお腹に、誰かが乗ったようだ。
この冬から春に変わった時期に、私に乗ってくるといえば、式の式である橙しかいない。
藍にいわれて、冬眠にしぶとくしがみつく私を起こすようにでも言われたのだろう。
しかし、そうはいかない。
私はまだ眠いのだ。猛烈に。
いくら冬が明け、冬眠から目覚める季節になったとはいえ、そこにあるのは春眠の季節なのである。
そうなればわたしの矜持的に寝ないわけにはいかない。
寝ぼすけは、幻想郷において、紅魔館の門番と彼岸の船頭、そして私に与えられた、他にはない称号なのだ。
そうと決まればやることはひとつ。私の腹に乗る可愛い式の式を、かわいそうながらも引っぺがし、更なる睡眠の深みに行くだけだ。
そう思って体を動かし橙をお腹の上から落とそうとしたとき、私の中を違和感が通り抜けた。
(橙ってこんなに重かったかしら?)
橙の体形は、冬眠に入る前の記憶を頼りにすれば、長年見慣れた通りの、人間の子どもぐらいの大きさしかなかったはずだ。
もちろん、何度も抱っこやおんぶをしてやったりもしたので、その重みも私の体にインプット済みである。
(年々大きくなっていってて、起きるときの楽しみでもあるのよね)
しかし、今私の上に乗っている重みは、橙の体重よりもはるかに重く感じ、人間で言うと大人の女性くらいのものだろうか。
ずっしりろした重みに、直接接している太ももと思われるところは、布団越しでもその柔らかさが伝わってくる。
(だ、誰? 敵襲!? それにしては攻撃してこないけれど)
さっきまでの眠気はどこへやら。内心焦りまっくた私は、正体不明の人物に馬乗りにされたままどうすることができない。
と、その時。馬乗りになっていた人物が、ゆさゆさと私を揺さぶりながら話しかけてきた。
「紫様ぁ。起きてくださいよぅ」
その声は、私にとって最も聞き覚えがあり、冬眠に入る直前に聞いたそれだった。
「藍!? あなた、なにしてるの!?」
「あ、紫様起きたぁ!」
私の開けたばかりの目に飛び込んできたは、もちろん私に馬乗りになっている藍だった。
主の上に乗っかっているのに、申し訳ないそぶりを一切見せていないのには若干の苛立ちを感じたが、
それよりも藍のとても嬉しそうで、そしてしまりのないにやけ顔に面食らってしまう。
「いや、藍? 私の上に乗って何してるの?」
「決まってるじゃないですか。紫様を起こしに来たんですよ」
「いや、でもそれ私に乗っていい理由にはならないわよね」
「細かいことはいいじゃないですか。えへへ、紫様おきたぁ」
「いやいや、主の上に乗っかるのって結構あれだと思うんだけどね」
「気にしないでくださいよぅ。紫様が起きて嬉しいってことで」
「それは私も嬉しいけど、口調もいつもと違うんじゃない?」
そう、しまりのないのはその表情だけでなく、口にする言葉も同様だった。
語尾を伸ばしたり、甘えたような声を出したり。いつもの藍とはかけ離れたその姿。
そして、ほんのり頬を朱に染めているのが、一番の気がかりだった。
「じゃ、じゃあ藍。とりあえず起きないといけないから、どいてくれない?」
「……」
「ら、藍?」
うるうるとした瞳で私を見おろしてくる藍。
そして、黙ったままそっと自分の胸元に手を伸ばして、いつもの着ている馴染みの導師服をぬぎぬぎし始めた。
(って! ちょっ、おまっ!)
まずは露わになるのはその胸元。私にもひけを取らない大きさのそれが、ちらりと覗くぐらいまではだけて、呼吸をするたびに揺れているのが見える。
「まって、藍! なに? どうしちゃったの?」
じたばたと抗う私に意を介さず、藍はぬぎぬぎを進めていく。
足は太ももがばっちり見えるくらいに服をたくしあげたり、パチンと前のボタンをはずしておへそがばっちり見えたり、
いろいろとんでもない事になってしまっている。私のお腹の上で。
「ちょっと藍! もう私はしっかり起きたから、驚かさなくてもいいのよ!」
「いやぁ、そういうことじゃなくってですねぇ」
「なに!?」
「久しぶりに紫様がお起きになられたんですから、存分に甘えちゃおうって。色々な意味で」
「いやいや! 脱がなくてもいいじゃない!」
「できれば直接。肌と肌でということで、いいですよね」
そう言ってほほ笑む藍。
くすりともニコッとも違う、形容しがたいその笑顔は、いつもの落ち着いた藍ではなく、妖艶さがあふれ出るもので、
はるか昔、噂でしか聞いたことのない、傾国の美女とまで呼ばれ、数々の国を潰していった、九尾の狐のまさにそれだった。
その笑顔を見た瞬間に、クラっとしてしまう。
もうこのまま、藍に身を委ねてもいいんじゃないかって。
(って! 何考えてるの私!)
すんでのところで踏みとどまる。
「待って、タイム! タイム!」
「おあずけは聞きませんよ~。三か月もまったんですからね」
「ああ、そう言いながら脱いでいかないでっ! もう結構やばいから!」
「それに」
「……それに?」
「寝るときは下着一枚だなんて、紫様が眠っている間、誘っているとしか思えませんでした!」
「何考えてるのよ!」
「という訳で、ゆかりさま~!」
もう色々あられもない姿の藍が、私が包まっていた布団を思い切りはいだ。
はいだ拍子に藍のが揺れる。すごく揺れる。
もちろん、さっき藍がいった通りに私は下着一枚。寝やすさを追求した故の姿で、それ以上の意味はないっていうのに。
「ああ、もうダメ。我慢できない」
よだれまで垂らしている目の前の九尾は、そうは取ってくれてはいない様だった。
「お願いだから言うことを聞いて藍。今なら許してあげる」
「いやもう止まれません、色んな意味で!」
鼻息を荒げ、目をぎらつかせながら藍は、勢いよく私の胸元に飛び込んで来ようとしていた。
外の世界風に言うと、ルパンダイブで。
(ああっ。そういえば狐の発情期って、冬から春にかけて、かつ女の子だけだったっけ)
「ゆっかりっさま~!」
そんなことを思いながら、私は藍を受けとめるか、それとも殴り返すかを考えたすえ、
ルパンダイブで飛び込んでくるそのにやけたその顔に、渾身の右ストレートを叩きこんでやった。
=========================================================
橙「はっ! ドリームかっ!!」
もちろん急に肥ったというわけではなく、どうやら春眠を貪っていた私のお腹に、誰かが乗ったようだ。
この冬から春に変わった時期に、私に乗ってくるといえば、式の式である橙しかいない。
藍にいわれて、冬眠にしぶとくしがみつく私を起こすようにでも言われたのだろう。
しかし、そうはいかない。
私はまだ眠いのだ。猛烈に。
いくら冬が明け、冬眠から目覚める季節になったとはいえ、そこにあるのは春眠の季節なのである。
そうなればわたしの矜持的に寝ないわけにはいかない。
寝ぼすけは、幻想郷において、紅魔館の門番と彼岸の船頭、そして私に与えられた、他にはない称号なのだ。
そうと決まればやることはひとつ。私の腹に乗る可愛い式の式を、かわいそうながらも引っぺがし、更なる睡眠の深みに行くだけだ。
そう思って体を動かし橙をお腹の上から落とそうとしたとき、私の中を違和感が通り抜けた。
(橙ってこんなに重かったかしら?)
橙の体形は、冬眠に入る前の記憶を頼りにすれば、長年見慣れた通りの、人間の子どもぐらいの大きさしかなかったはずだ。
もちろん、何度も抱っこやおんぶをしてやったりもしたので、その重みも私の体にインプット済みである。
(年々大きくなっていってて、起きるときの楽しみでもあるのよね)
しかし、今私の上に乗っている重みは、橙の体重よりもはるかに重く感じ、人間で言うと大人の女性くらいのものだろうか。
ずっしりろした重みに、直接接している太ももと思われるところは、布団越しでもその柔らかさが伝わってくる。
(だ、誰? 敵襲!? それにしては攻撃してこないけれど)
さっきまでの眠気はどこへやら。内心焦りまっくた私は、正体不明の人物に馬乗りにされたままどうすることができない。
と、その時。馬乗りになっていた人物が、ゆさゆさと私を揺さぶりながら話しかけてきた。
「紫様ぁ。起きてくださいよぅ」
その声は、私にとって最も聞き覚えがあり、冬眠に入る直前に聞いたそれだった。
「藍!? あなた、なにしてるの!?」
「あ、紫様起きたぁ!」
私の開けたばかりの目に飛び込んできたは、もちろん私に馬乗りになっている藍だった。
主の上に乗っかっているのに、申し訳ないそぶりを一切見せていないのには若干の苛立ちを感じたが、
それよりも藍のとても嬉しそうで、そしてしまりのないにやけ顔に面食らってしまう。
「いや、藍? 私の上に乗って何してるの?」
「決まってるじゃないですか。紫様を起こしに来たんですよ」
「いや、でもそれ私に乗っていい理由にはならないわよね」
「細かいことはいいじゃないですか。えへへ、紫様おきたぁ」
「いやいや、主の上に乗っかるのって結構あれだと思うんだけどね」
「気にしないでくださいよぅ。紫様が起きて嬉しいってことで」
「それは私も嬉しいけど、口調もいつもと違うんじゃない?」
そう、しまりのないのはその表情だけでなく、口にする言葉も同様だった。
語尾を伸ばしたり、甘えたような声を出したり。いつもの藍とはかけ離れたその姿。
そして、ほんのり頬を朱に染めているのが、一番の気がかりだった。
「じゃ、じゃあ藍。とりあえず起きないといけないから、どいてくれない?」
「……」
「ら、藍?」
うるうるとした瞳で私を見おろしてくる藍。
そして、黙ったままそっと自分の胸元に手を伸ばして、いつもの着ている馴染みの導師服をぬぎぬぎし始めた。
(って! ちょっ、おまっ!)
まずは露わになるのはその胸元。私にもひけを取らない大きさのそれが、ちらりと覗くぐらいまではだけて、呼吸をするたびに揺れているのが見える。
「まって、藍! なに? どうしちゃったの?」
じたばたと抗う私に意を介さず、藍はぬぎぬぎを進めていく。
足は太ももがばっちり見えるくらいに服をたくしあげたり、パチンと前のボタンをはずしておへそがばっちり見えたり、
いろいろとんでもない事になってしまっている。私のお腹の上で。
「ちょっと藍! もう私はしっかり起きたから、驚かさなくてもいいのよ!」
「いやぁ、そういうことじゃなくってですねぇ」
「なに!?」
「久しぶりに紫様がお起きになられたんですから、存分に甘えちゃおうって。色々な意味で」
「いやいや! 脱がなくてもいいじゃない!」
「できれば直接。肌と肌でということで、いいですよね」
そう言ってほほ笑む藍。
くすりともニコッとも違う、形容しがたいその笑顔は、いつもの落ち着いた藍ではなく、妖艶さがあふれ出るもので、
はるか昔、噂でしか聞いたことのない、傾国の美女とまで呼ばれ、数々の国を潰していった、九尾の狐のまさにそれだった。
その笑顔を見た瞬間に、クラっとしてしまう。
もうこのまま、藍に身を委ねてもいいんじゃないかって。
(って! 何考えてるの私!)
すんでのところで踏みとどまる。
「待って、タイム! タイム!」
「おあずけは聞きませんよ~。三か月もまったんですからね」
「ああ、そう言いながら脱いでいかないでっ! もう結構やばいから!」
「それに」
「……それに?」
「寝るときは下着一枚だなんて、紫様が眠っている間、誘っているとしか思えませんでした!」
「何考えてるのよ!」
「という訳で、ゆかりさま~!」
もう色々あられもない姿の藍が、私が包まっていた布団を思い切りはいだ。
はいだ拍子に藍のが揺れる。すごく揺れる。
もちろん、さっき藍がいった通りに私は下着一枚。寝やすさを追求した故の姿で、それ以上の意味はないっていうのに。
「ああ、もうダメ。我慢できない」
よだれまで垂らしている目の前の九尾は、そうは取ってくれてはいない様だった。
「お願いだから言うことを聞いて藍。今なら許してあげる」
「いやもう止まれません、色んな意味で!」
鼻息を荒げ、目をぎらつかせながら藍は、勢いよく私の胸元に飛び込んで来ようとしていた。
外の世界風に言うと、ルパンダイブで。
(ああっ。そういえば狐の発情期って、冬から春にかけて、かつ女の子だけだったっけ)
「ゆっかりっさま~!」
そんなことを思いながら、私は藍を受けとめるか、それとも殴り返すかを考えたすえ、
ルパンダイブで飛び込んでくるそのにやけたその顔に、渾身の右ストレートを叩きこんでやった。
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橙「はっ! ドリームかっ!!」